旅館で見かける青い固形燃料。アレって何でできてるの?調べてみた

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修学旅行や温泉旅行で、誰もが一度は目にするこれ。青い固形燃料

 

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見覚えあるでしょう?

 

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ひとり用鍋を音もなく温め、人間が飲んでしゃべっているうちに静かにその仕事を完遂、気がつけばぐつぐつアツアツの鍋が完成するという、あれです。今では旅館だけなく、居酒屋さんなどの飲食店でも普通に見られるようになりました。

この固形燃料、いつの間にか「そこにあるのが当たり前」的な存在になっていましたが、じっくり観察したことありますか? ろうそくじゃないですよ、芯ないし。サイズによって燃焼時間が変わりますよ、アルミ箔(はく)が巻かれていないものもありますよ。

……知らないですよね。見たことあるのに、固形燃料のこと、「自然に消える青いの」程度しか知らないですよね。

 

そこで行ってきました。固形燃料でトップクラスのシェアを誇る株式会社ニチネンを訪れ、固形燃料にまつわるお話をたっぷり聞かせていただきました! いざひも解こうぞ、固形燃料のABCを!

 

※本記事はライター、編集部の疑問から生まれた通常の編集記事であり、株式会社ニチネンさんの広告記事ではありません。

 

固形燃料の作り方は石けんとほぼ同じ!

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インタビューに応じてくださったのは2代目社長の小林裕一郎さん。

「会社が最寄駅からちょっと離れているので」と、わざわざ駅まで社長自ら車で迎えに来てくださいました。ありがとうございます!

 

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ニチネンは昭和59年創業。業務用固形燃料の製造から始まり、保冷剤の製造、カセットガスコンロの製造、ガスボンベの充填(じゅうてん)、保温用液体燃料の製造、業務用洗剤の製造など、ものづくりを得意とする会社です。

本社に一歩足を踏み入れれば、おおお、すごいよ勢ぞろい!

 

では早速、小林さんに教えていただきましょう。

 

Q 固形燃料の歴史を教えてください。

A 現在の形の固形燃料が登場したのは35年ほど前になります。昭和59年に当社が創立、この画期的な固形燃料の製造を始めました。同業他社もほとんど似たような時期です。この画期的な形の固形燃料が出る以前は、野外で使うような丸缶に入ったものでした。今のように個別に分かれておらず、一斗缶に流し込んだ燃料を使う分だけスプーンですくって銀皿で燃やしていた時期もあります。いずれも火力はばらばらで品質もいいとは言えませんが、それよりさらに前は生のアルコールを使っていたり、ホースでガスを引いたりするスタイルもありましたが、危険を伴うし、そこそこ大がかりな設備が必要でした。

 

ありましたね、鍋を食べるためにコンロのガス栓からガスを引いている食卓。生のアルコールにいたっては危なすぎ! おそらく事故もあったんじゃないでしょうか。そう考えると現在の固形燃料って画期的ですよ。

 

Q 固形燃料の生産量は増加、あるいは減少しているのですか?

A 大型旅館に団体旅行客が何台ものバスで訪れる時代が終わり、一時はかなり生産量が落ちました。当社の場合、新たに外食産業に活路を見出しました。具体的には、外食チェーンに固形燃料のみを販売するのではなく、固形燃料を使ったメニューを提案したのです。それで再び生産量を伸ばすことができ、現在は平均すると1日15万個ほど生産しています。

 

飲食店側としてはお客さんが調理してくれるので助かるし、お客さんも楽しみながら作れるので、まさにウィンウィンです。小林さん、「外食に固形燃料を普及させたのは当社と自負しています」と胸を張りました。素晴らしい!

 

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これは家庭でも使いやすそう。20個入り整列コンパクト包装で、1つ約19分30秒燃焼。使用後はしっかり封をして冷蔵庫か冷暗所で保管を。

 

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こちらはアルミ箔がついているので火皿不要の業務用固形燃料。左のは24分、右は19分30秒燃焼します。

 

Q 固形燃料は何でできていて、どうやって作るのですか?

A 固形燃料の主成分はメタノール、アルコールの一種です。作り方は石けんとほぼ同じで、脂肪酸やアルカリ分などで固めます。製造方法はどの会社も似たようなものです。差が出るのは主原料で、動物性の油脂などで固めると燃焼時に若干においがありますね。質のいい原料を使っているとにおいが出ません

 

Q 固形燃料を開発する過程で、どんな点に苦労しましたか?

A どろどろに溶けたりせず形を維持したまま安定した炎を出し続け、燃焼時間きっちりに燃え尽きるようにするのは大変でした。特に、「炎が終始一定」というのは難しいんです。一気に燃えてしまったり、どんどん弱くなってしまったり。アジアでは鍋を食べる国がほかにもありますが、日本の固形燃料ほど火力が安定しているものはないので、ほかの国のレストランや日本料理店などでも日本の固形燃料が使われています。

当社の場合は韓国とマレーシアに輸出しています。逆に日本には韓国製の固形燃料が入ってきたこともありましたが、価格は安いものの日本製のクオリティーにかなわず、あっという間に撤退しました。

 

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▲この安定した炎が難しいのだそう

 

Q 固形燃料の特徴や特性は何でしょう?

A 長期間保存するとアルコール分が抜け、痩せてきてしまうという特性があります。ただ、保存方法や保管場所に気をつければそれも防げます。かつては一斗缶に何百個もまとめて入っているような状態だったのでそのような現象も見られましたが、現在、当社の場合は小分けでパックして使う分だけ取り出せる包装のものや、一口サイズのゼリーのように1個ずつカップの容器に入れて密封度を高めたものを用意しています。それだと品質を保った状態で保存できます。また、保管場所のおすすめは冷蔵庫。直射日光やあたたかい場所は苦手なので、冷蔵庫に入らない場合は日の当たらない場所での保管が、品質を維持するコツです。

 

Q 燃焼時間ってどれくらいですか?

A 固形燃料のサイズによって異なります。当社ではアルミ箔(はく)が付いているタイプの固形燃料が燃焼時間15分30秒から25分まで、付いていないタイプのもので9分から18分30秒まで、各7種類ずつそろえています。固形燃料1つで釜飯も炊けますよ。いちばんの売れ筋は25gアルミ箔付き、燃焼時間20分のタイプです。ちなみにアルミ箔が付いているタイプのものは、燃えカスごと捨てられるという利便性があります。アルミ箔が付いていないものは、繰り返し使える火皿の上に固形燃料を置きますが、アルミ箔付きのほうが圧倒的に売れますね。

 

Q 固形燃料の使用上の注意は? うっかり食べてしまったら?

A 2個同時に燃やすと鍋底から火がはみ出して危険です。また、煮こぼれて固形燃料に塩分を含む汁がかかると、火が乱れるので気をつけてください。さらに鍋底と固形燃料の隙間が狭すぎると不完全燃焼の危険があるので、3~4cmは空けるようにします。もしも誤って食べてしまった場合は、すぐに多量の牛乳か水を飲んで吐き出し、すぐに病院に行ってください。ただ、固形燃料には万一のために固形燃料の中に苦み剤を入れているので、普通ならとても飲み込める味ではないと思います。

 

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▲燃焼器具が高温になるので、固形燃料を使用する際はかならず木製の敷板を敷きます(固形燃料を置く燃焼器具とセットで売られています)。

 

Q 固形燃料の使い方の応用編はありますか?

A 着火剤としても使えます。野外でのBBQなどで重宝しますよ。また、応用とはちょっと違いますが、固形燃料は災害時にも威力を発揮します。インフラがやられているときでもこれさえあえれば煮炊きができますから。うちも地震などの災害が起きた地域には、支援物資としてかなりの量を送るようにしています。

 

Q 固形燃料はどこで買えますか?

A ホームセンターで買えるほか、当社では通販も行っています。業務用の大量パックではなく、一般のご家庭用のパックもそろえています。

 

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▲こんな箱に入って売られています。鍋類のところに置かれていることが多いですね

 

Q 自宅で固形燃料を使う場合はどうすればいいですか?

A 固形燃料専用の燃焼器具が必要ですが、ホームセンターや食器も売っているようなスーパーでも購入できます。一度買えば鍋や食器同様、何度でも使えますし、固形燃料ならカセットコンロのように保管の場所も取りません。テーブルで気軽に鍋や焼き肉を楽しめますから、ご家庭でもどんどん活用していただきたいですね。

 

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▲いろんな種類があります。お店で見かけたことがあるものも……

 

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なお、これまでは和食に用いられることが多かった固形燃料ですが、最近はチーズフォンデュやチョコフォンデュもはやっているそう。なるほど、そういう使い方もありですね。

自宅で鍋をするならカセットコンロにボンベの組み合わせが一般的でしたが、確かにコンロの保管に場所は取るし、ガスボンベも消耗品ですから買わなくてはいけません。けれど固形燃料だったら、これだけ。ちっちゃなこの固形燃料だけ。あとは専用の鍋なりプレートなりを買えばいいって、かなりの優れものじゃないですか!? しかも炎が終始安定というジャパンクオリティー、さすがだ……!

 

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そんなわけで、自宅でやってみましたひとり焼肉

用意したのはこれ、天然素材調理器、水晶焼肉プレートです。ニチネンのパンフレットによれば「遠赤外線効果の焼き上がり。プレート越しに炎が見えるので演出効果抜群。煙やにおいの発生が少なく金たわしで洗っても傷知らず」。

 

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確かに炎、きれいですね。固形燃料のにおいなし、炎一定。

こういう繊細な美しさが料理の中に取り入れられることは、日本の「食」の豊かさを象徴しているいい例だと思います。ほんと、食材も調理方法も料理も器も豊かな国で、そしてそれを受け入れ味わえる舌を持つ日本人でよかった。

 

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肉を置いて……。

 

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火の通り、早いです。固形燃料の火力ってあなどれません。そりゃ釜飯も炊けるんですからね、当然です。肉は当然ながらおいしく、水晶プレートは簡単に汚れが落ち、後片付けも簡単でした。

 

そして思いがけない発見もありました。テーブルの上で、自分で焼いて食べるという行為は、純粋に「食べる」ことに集中できます。焼き加減を見ていないといけないので、「ながら食い」がないのです。

さらに、音もなく静かに焼けていく肉を見ていたら、なんだかすごく平和な気持ちになりました。

まさか固形燃料が食と自分に向きあうひとときまで作ってくれるとは……。すごい発見でした。みなさん、ぜひ試してみてください。

 

安心、安全、快適に使用できる固形燃料。旅館や飲食店ではすっかり定着しているこのすぐれもの、これからは家庭でもどんどん活用したいものです。外国人の友人を自宅に招く機会があったら、ぜひぜひ使ってみてください。この和食の演出、外国人にもすごく喜ばれますよ。

 

書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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