どんなお肉も絶品にしてしまう魔法のスパイス
スパイスがはやっています。最初はスパイスをふんだんに使ったスパイスカレーブームがその始まりだと思うのですが、気がつけば普段の暮らしにスパイスを取り入れるのが当たり前の時代がやってきました。
料理好きを自負する人は、自分のキッチンにさまざまなスパイスをそろえることが多いようです。わが家もそうですが、やがてスパイスを使うことに慣れてくると、使わないスパイスの瓶がたくさん埃(ほこり)をかぶるようになります。
こしょう、シナモン、クミン(写真・下)などの使い勝手がいいスパイスを重宝するようになり、気がつけば「あれ、やっぱりカレー粉って、すごく便利なんだよな」というある意味で真理に到達します。私がそうです。
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スパイスって楽しいけれど、面倒でもある。
最近、アウトドアでバーベキューをする時に使うためのオリジナルスパイスがブームになっていました。
スパイスってなんのためにあるのでしょうか。極論を言えば、お肉をうまく食べるためにあると思うんです。昔から既製の調味料はありました。バーベキューなんかで使う、フレーバー付きの塩こしょうなんか、そのいい例でしょう。
だけど、そういうありきたりなものだけではなく、自分だけのスパイスが欲しい。ブームになった例のスパイスは、そういうニーズにはまったのだと思います。
自分しか知らないオリジナルスパイスが、誰だって欲しいのです。
ということで、私はオリジナルスパイスを作る旅に出るのでした。今回はお肉に合わせることを前提として、工程を簡潔にして誰でもトライできるようにしています。
【第1段階】シンプルイズベスト「塩こしょう」からブレンドしてみる
まずは塩とこしょうを用意します。塩こしょうはどんなお肉にだって合う、無敵の組み合わせだと思います。余談ですが、わが家では目玉焼きを塩こしょうでいただきます。
塩は市販の天然塩を用意しました。にがり成分が豊富に含まれているので、お肉をさらにうまくしてくれることでしょう。
黒こしょうはホールのものをミルでひいて使おうと思います。
こしょうにはお肉の臭みを消す役割があるのは有名ですね。スパイスの王様という異名も持っています。ちなみに、粒状のこしょうを白米と一緒に炊くと、食欲がない夏にぴったりのさっぱりスパイシーご飯になります。
スパイスを振りかけるお肉ですが、せっかくなのでいいものを用意しました。
肩ロースのあばら骨側にある部位で通称「ザブトン」。焼き肉屋さんでは「特上ロース」「特上カルビ」として提供されることも多い、まあとにかくおいしいお肉です。
この子に、スパイスをまとってもらおうと思います。
【第2段階】安定のうまさ「塩こしょう+ニンニク」
さて、基本は塩こしょうで味わうのですが、もう1種類、塩こしょう+ニンニクを用意します。ニンニクはお肉の持つ臭みを消してくれますし、火が入ったニンニクの香ばしさはお肉のうまさをさらに引き出します。乾燥したニンニクチップを買ってきて粉末にしました。
炭火で焼きたいと思ってしまったのは、きっと夏のいたずらでしょう。いそいそと自宅にある小さな七輪を用意して、炭をおこして、炭火焼き肉の準備は完了です。右が塩こしょう(1)、左がニンニクを追加したもの(2)です。
だんだん煙が上がってきました。おいしそうなにおいがします。お肉に焼き色が付いたらひっくり返して、同じようにスパイスを軽く振ります。比率としては表7:裏3のイメージでしょうか。
ちなみに、今回は室内でやったので、家中が煙だらけに。窓を開けても排気が追いつかず、学校の宿題をやっていた長男と次男は盛大にむせていました。空気清浄機は真っ赤なランプを点灯させてフル稼働しています。
白いご飯にのせて実食。というか、これはおいしいに決まっているので、多くのコメントは記しません。ただ、個人的な好みかとは思うのですが、(1)はあっさりとしたうまさで、(2)はニンニクが味に深みを与えていて、個人的には(2)の方がおいしいし、ご飯に合うと感じました。もちろんどちらもおいしいです。
【第3段階】うま味を重ねていく
コクとうまさを与えるものを重ねたらもっとおいしくなるだろう、という確信が生まれました。最初に選んだのは、フライドオニオンです。スーパーなどでも売っていますから、こちらをスパイスに入れたらうまそうじゃないですか。香ばしい風味、熱が入った玉ねぎの甘み、そしてうま味と、とにかく多才ですね。こちらの食材を、細かく砕いて投入します。
もう一つは昆布です。昆布にはグルタミン酸といううま味成分がたくさん含まれていて、お肉に含まれるうま味であるイノシン酸との相性が抜群なのです。こちらも粉末にして投入します。
うま味トリオの最後を飾るのはきなこです。こちらは乾燥させた大豆を炒(い)ってから粉にしたもので、こちらにもグルタミン酸が含まれています。秘伝のスパイスを使った串焼きが有名な居酒屋がありますが、そのスパイスにも実はきなこが使われているとか。
ということで、塩こしょう+ニンニク+うま味トリオ(フライドオニオン・昆布・きなこ)を使ったスパイスを作ります。
こちらをお肉に振りかけて同じように焼いていきましょう。
焼き上がったお肉をひと口食べると、しっかりとしたうまさがやってくるのでおいしいのは間違いないのですが、今度はうま味が前面に出ようとしているのを感じます。
肉のうま味に真っ向勝負できるポテンシャルを持ったうま味トリオを召喚してしまったばかりに、横綱相手に正面から立ち向かってしまったようです。
味がケンカしているとは言いませんが、もう少し、お肉に対するリスペクトがあってもいいのではと思いました。
オリジナルスパイス作り、なかなか難しいけれど、楽しいです。
【第4段階】お肉にぴったりのスパイスを足していく
スパイスの大枠が完成したので、今度は豊かな香りと風味を持つスパイスを足して、さらに味わいを重ねていきます。
左がシナモン、右がナツメグです。シナモンは独特の香りと鼻から抜ける爽やかな感じが特徴。甘さとの相性がいいのですが、うま味が前面に出過ぎているオリジナルスパイスの清涼剤として合わせたいと思いました。
ナツメグはほんのりとした甘さがあり、肉料理の臭み消しとして有名ですが、お肉のうま味を引き出す効果もあると言われています。この両者を合わせて完成、と言いたいところで、最後に私が一番好きなスパイスを追加します。
それがクローブです。ミルなどを使って粉末にして使います。
丁子とも呼ばれ、漢方の胃薬のような香りが特徴です。私が大好きな東京・神保町のカレーの名店では、しっかりとクローブが効いていて、とてもおいしいんです。
甘い香りと、口の中で強烈に香る個性。使い方を間違えると、あっという間にクローブ一色になってしまうほど個性の強いスパイスですが、上手に使うと最高の料理に仕上がることを歴史が証明しています。ということで、こちらを追加したら、マイオリジナルスパイスの完成です。ぱちぱち(拍手)。
というわけで、こちらが私なりの「例のスパイス」のレシピとなります。
【材料】
- 天然塩 10g
- 黒こしょう(粒状) 5g ※ミルでひいて粉末にする
- ニンニクチップ 大さじ1 ※細かく砕いて投入する
- フライドオニオン 小さじ1 ※細かく砕いて投入する
- 昆布(粉末) 小さじ1
- きなこ 小さじ1
- ナツメグ 小さじ1/2
- シナモン 小さじ1/2
- クローブ 小さじ1/2〜小さじ1 ※ミルでひいて粉末にする
試食してみましょう
完成したオリジナルスパイスをかけて、お肉を焼きます。じっくりと焼きます。
スパイスは火を通した方が香りが立ちますし、甘さやほろ苦さなどもさらに引き立ちます。
裏返したら、またスパイスを振って、しっかりと焼きましょう。
そして、ご飯と一緒にいただきます。
うまい! うまい!
お肉の持つ甘さも感じますし、さらにオリジナルスパイスの香ばしさがお肉のうま味を引き出していると感じました。これが完成系かはわからないけれど、自分の好きな味になりました。ビールやハイボールなんかと合わせても、確実に優勝です。
そう、オリジナルスパイスの楽しさは、自分の好きなゴールに向けてカスタマイズできること。仕上がりが不満だったら、何を追加したらもっとうまくなるのか頭をひねるのは楽しいですよ。万が一失敗だと感じたら、お家で作るカレーに放り込んで、また一から作り直せばいいでしょう。
ということで、こちらが完成したもの。豆腐にかけてもおいしかったです。これが家にある毎日は最高だと思いました。もちろん、アウトドアでバーベキューをする際にも必需品となることでしょう。
さらにもうちょっとアレンジするとしたら、こんな感じでしょうか。
- エスニックさを演出したいならクミン
- 爽やかさを前面に出したいならカルダモン
- 辛さをアップさせたいならチリペッパー
ぜひ皆さんもオリジナルスパイス作りに挑戦してみてください。
書いた人:キンマサタカ
編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)