こんにちは。福岡県在住ライターの大塚拓馬です。
僕はうどんが大好きなのですが、福岡のうどん文化は独特です。
ふわっとした麺の上に乗ったシャキシャキのごぼう天。やさしい味のスープも魅力的。ほかの地域では食べられない味わいです。
そんな「福岡うどん」が全国放送のテレビ番組や、ネットの記事で取り上げられる機会が多くなりました。
「福岡のうどんはやわらかくてコシがない」
「麺がスープをどんどん吸うんです」
「福岡人ってラーメンはカタ麺だけど、箸で切れるようなやわ麺が好き」
こんなフレーズと一緒に紹介されており、福岡うどんと言えば「コシがなくてやわらかいうどん」というイメージだけがひとり歩きしているような気がします。
「福岡うどんのおいしさって、ちゃんと伝わってる?」
なんか「福岡の人って、コシのないやわらかいうどんが好きなんだ~。わかってないね~。」という視線を他都道府県の人から感じる気が……。
……いや、気にしすぎかもしれません。でも、福岡のうどん大好きなんですよ僕。
もっと福岡うどんのおいしさを、正しく伝えたいのです。
- 「福岡うどん三傑」とは
- すっきりスープの「ウエスト」
- ガツンとした味わい「資さんうどん」
- モチモチ麺の「牧のうどん」
- 麺を比べれば一目瞭然!
- 三大チェーン分析①安定感抜群の「ウエスト」
- 福岡県民にとって「ウエスト」ってどんなお店?
- 「ウエストのうどん」が定着したのはこの20年
- 手打ちよりもおいしい「冷凍麺」
- 雑味のないスープへのこだわり
- 2大定番、ごぼ天&かき揚げ
- 地域に根ざした「地縁店」になるために
- ウエストが大切にしているのは「安心感」
- 三大チェーン分析②北九州生まれ「資さんうどん」
- 福岡県民にとって「資さんうどん」ってどんなお店?
- 資さんうどんのルーツは北九州の労働者
- 他の福岡うどんより若干細めのモチモチ麺
- 旨味の濃いパンチの効いたスープ
- 何を注文してもおいしい資さんうどん
- 「北九州の資さん」から「九州の資さん」へ
- 「独自の味」で選択肢を増やす存在に
- 三大チェーン分析③唯一無二の麺「牧のうどん」
- 福岡県民にとって「牧のうどん」ってどんなお店?
- 本店から1時間半以内で移動可能な場所にしか出店しない
- 製麺工場に潜入! できたて・ゆでたての生麺にこだわる
- 「麺がスープを吸う謎」に迫る
- 本部長直伝! 牧のうどんの麺の楽しみ方
- 大量の利尻だし昆布を使ったスープ
- うどんだけでお腹いっぱいになってほしい
- 福岡だからこそ成り立つ牧のうどん
- 独自路線を追求し続ける牧のうどん
- 【結論】福岡うどんはコシよりも「モチモチ感」が重要
- スープ大好きな福岡人の食文化
- 福岡うどんの魅力はフワモチ麺とやさしいスープのハーモニー
「福岡うどん三傑」とは
当たり前に食べていた、福岡のおいしいうどん。そこまで真剣に向き合うことはなかったかもしれません。
福岡うどんには「福岡うどん三傑」とも呼ばれるチェーン店があります。それは「ウエスト」「釜揚げ 牧のうどん(以下、牧のうどん)」「資(すけ)さんうどん」です。
これらのお店はチェーン店ですが、味も良く、バカにできません。福岡うどんを代表するお店で、どれも福岡県民に愛されているソウルフードです。
しかし、僕は思うのです。
「ウエスト、資さんうどん、牧のうどんって、一括りにされるけど、ぜんっっぜん違うよね……?」と。
実際に食べて確認しましょう。お店でバラバラに食べてもよくわからないので、お持ち帰りのうどん麺とスープを購入し、自宅で調理しました。
おお、壮観。思った以上に最高です。福岡うどんの三傑ここに揃い踏み。
「ウエスト」「資さんうどん」「牧のうどん」です。
私物の白い丼に入っているのですが、福岡県民なら麺とスープのビジュアルだけで、どのお店のうどんなのか分かると思います。福岡の方、クイズだと思ってちょっと考えてみてください。
答えはこちらです。
資さんうどんはとろろ昆布と「資」マークの入ったかまぼこと平たい麺、牧のうどんは太い麺と麺に吸われて減ったスープがヒントになります。最後に残ったスープの中に泳ぐ麺の姿が印象的なのがウエストです。
すっきりスープの「ウエスト」
同じ福岡うどんの代表チェーンなのに、ビジュアルの個性もかなり違う各店のうどん。それぞれ食べ比べていきましょう。
まずはウエスト。
店舗数が多く、福岡うどんの代表格として語られることも多いウエスト。
雑味のないスッキリしたスープと麺の相性は抜群。
しかし、ウエストのうどんの「麺」は正直、あまり福岡うどんっぽくはないような気がします。確かに讃岐うどんと比べると柔らかめですが、ウエストのうどん麺にはコシがあると思うのです。
「とってもおいしいうどん」であることは間違いないのですが、これが「福岡うどん」と言われると、違和感があります。
ガツンとした味わい「資さんうどん」
次に資さんうどんです。
※写真の天かすはお土産専用のもので、店舗のものとは異なります
資さんうどんはスープの旨味が「ガツン」と効いていて、他のうどんと比べるとパンチのある味わいです。その旨味の効いたスープに少し細めの平たい麺がよく絡んでいます。
ただ、これも「福岡うどん」と言われると疑問が残ります。
麺の食感に関してはやわらかくフワフワでモチモチしていて、福岡うどんっぽいと思います。ただ、太めの麺が特徴の福岡うどんの中で、麺が少し細めで平べったいのはユニークです。
優しい味わいのスープが多い中、これほどパンチの強いスープもあまりありません。
無料の「とろろ昆布」を加えて、お客さん自身の手でさらに旨味を増せるスタイルは他の福岡うどん店にはない独自のものです。
モチモチ麺の「牧のうどん」
最後に牧のうどんです。
とってもやわらかくてフワフワとした、食べ応えのある太い麺と昆布や様々な魚節の旨味が効いたスープが特徴です。
面白いのはうどんの麺がスープをどんどん吸って膨張していくこと。膨張したうどんは伸びているわけではなく、フワフワ感が増しているだけです。中のモチモチ感はしっかりと残っています。
ふわふわでモチモチな麺と旨味の強いスープは絶品で、福岡うどんの特徴をばっちり押さえているうどんです。
しかし、牧のうどんも「典型的な福岡うどん」と言われると違う気がします。
なぜなら、こんなに麺が太く、スープをぐんぐん吸収する麺を出すお店は、福岡には「牧のうどん」以外ないからです。
麺を比べれば一目瞭然!
このように福岡三大チェーンのうどんはどれも独特で、特徴がかなり異なります。とくに違いがわかりやすいのは麺。
左側の資さんうどんが平たい麺で、右側の牧のうどんは太い麺であることが分かります。
真ん中のウエストは資さんうどん程度の平たさですが、横幅はそこまでありません。
資さんうどんと牧のうどんは麺の表面の凹凸が多く、これが麺の食感のふわふわ感に影響していると思われます。一方でウエストの麺は凹凸が少ない点が特徴です。
このように同じ福岡うどんでも共通点を見つけるのが難しいほど違いがあります。しかも、それぞれ福岡うどんの大きな流れからは少し外れた独自のうどんを提供しているのです。
「福岡うどんって、結局何なんだろう……?」
よけいに分からなくなった僕は、この福岡うどん三大チェーンをもっと調べてみることにしました。
三大チェーン分析①安定感抜群の「ウエスト」
店舗数の多さが特徴の「ウエスト」。
ウエストはうどんだけでなく、焼き肉や中華料理、カフェなどあらゆるジャンルの飲食店を同じブランド名で展開する他に類を見ない飲食チェーンです。福岡市内だけで35店舗ほど展開(うどんの扱いがある店舗のみ)しています。
中でもうどんは福岡県民からの支持が高く、福岡のうどんと言えば真っ先に名前が上がるような存在になっています。
福岡県民にとって「ウエスト」ってどんなお店?
SNSを利用して「ウエストのうどんのいちばん好きなところ」というアンケートを福岡県民に行ったところ、以下のような結果になりました。
ウエストの好きなところでもっとも多く挙げられたのは「安くておいしい」という点です。メニューの豊富さや、ダシのおいしさを喜ぶ声もありました。
どれも低価格で財布に優しいのに、味はしっかり美味しくてコスパが良い。(20代女性)
期間限定やコラボ商品やおでんなどもあり、楽しめるから。(20代女性)
ダシと麺がしっかり絡まっておりとてもおいしく汁まで飲み干してしまう。(20代男性)
そんなコスパの良いウエストのうどんの、おいしさの秘訣はどこにあるのかを探るため、ウエストの本社へインタビューにうかがいました。
常務の萩さんに、ウエストのうどんのおいしさについて教えていただきました。
「ウエストのうどん」が定着したのはこの20年
──ウエストは店舗数が多く、「福岡のうどんといえばウエスト」という印象が年々強くなってきていますね。
萩常務:ありがたいことに福岡の皆様に浸透してきたかと思います。でも、実はウエストのうどんが広まってきたのはここ20年くらいの話なんですよ。
──あれ、そうでした? 「ウエスト味の街」って、かなり昔からありませんでした?
▲同じ敷地にウエストのあらゆる料理店が並ぶ「味の街」
萩常務:はい。「味の街」という大きな店を作っていた時期があり、その後、90年代は焼肉の単独店をたくさん増やしました。「うどんがいけるぞ」となったのは、99年くらいで本格的に増やし始めたのはその頃からですね。
──確かに言われてみれば、自分が子どもの頃は今ほど代名詞的存在ではなかった気がします。焼肉のイメージの方が強かったかも……。
萩常務:今でこそ九州に100店舗くらいありますが、実はあまり老舗というわけではありません。福岡のうどんって、地元ごとに愛されている老舗のお店がありますもんね。どのお店にも個性があって、どこかが一人勝ちしているわけではないと思います。
手打ちよりもおいしい「冷凍麺」
──福岡うどんの特徴と言えば「やわらかくてコシがない」と言われます。その観点から言うと、ウエストの麺はやわらかいというよりはけっこう弾力があって、「福岡うどん」らしくないのかな、と思うのですが……。
萩常務:福岡のうどんは「やわらかい」「コシがない」と言われますけど、大事なのはそこじゃないと思うんです。福岡のうどんは「モチモチ感」が大事なんですよ。
──たしかにウエストのうどんはとってもモチモチしていますね。
萩常務:うちの麺は特注の冷凍麺を使っています。冷凍麺の前は手打ちもやっていました。確かに手打ちで試すとおいしいんですよ。でも、しばらく時間が経ってからお店で食べてみると、おいしくなくなっているんです。
──えっ、それはどうしてですか?
萩常務:手打ちでやると、いつでも打ちたてのおいしいものが出てくるわけではなくて、タイミングによって、どうしても順繰りにずれて質の落ちたものが出てきてしまいます。時間とか日によって味が違うわけです。苦労して手打ちをしても、そのせいで悪いものを提供してしまっては意味がないだろうということになりました。
──なるほど。それで味が安定する冷凍麺に切り替えたわけですね。
萩常務:粉から徹底的にこだわって開発しました。その特注冷凍麺のおかげで、今では全国どこであろうと、深夜でも朝でも安定しておいしいうどんが提供できるようになりましたね。
雑味のないスープへのこだわり
──ウエストのスープはバランスがちょうどよくて、なんだかホッとするおいしさです。こだわっているポイントをお聞かせください。
萩常務:雑味のなさ、後味の良さにはこだわっています。大量生産だからといって、人工的な調味料を使ったり、雑味が残ったりするのには抵抗があるんですよね。味がガーンと落ちるので。「大量生産でも自然の味を保つ」というところが勝負です。
──大量生産でも自然の味を保つ、というのは大変そうですね。
萩常務:昔はあじこやいりこを手で剥いていたんですよ。店で全部やっていたんですけど、味はブレるし、人手も足りなくなりました。そこで、材料を砕いたものを使って、鍋にそのまま入れればスープがとれるティーパック形式のものに切り替えました。
──味に違いはありましたか?
萩常務:手でやっていた時と比べて「香りが多少落ちるかな?」とは思いましたが、味にブレがなくなりました。どこでも同じ味が出せるようになったんです。
──麺もそうでしたが「安定した味」を大切にされているんですね。
萩常務:チェーン店なので1店舗でおいしく作れる方法があったとしても、どこの店でも同じ味が出ていなければ無意味です。努力を積み重ねることで、お客様に安心感が提供できると思っています。
2大定番、ごぼ天&かき揚げ
──メニューではなんといっても、かけうどんの安さが目を引きますね。
萩常務:かけうどんは全メニューの値段のベースになるので、できることなら上げたくないですね。かけうどんの値段を少し上げると、がっかりする人がとても多いので……。
──ウエストは天かすとネギが入れ放題なので、かけうどんでもかなり満足できちゃうんですよね。
萩常務:ネギはかなりコストがかかります。テレビで「ネギは入れ放題!」と言って、ガバーッとうどんに乗せる様子が放送されて、全店舗でネギの消費量が急激に増えたことがありました。みなさん大好きなので、これはもうやめられませんね。
──ネギはいつもフレッシュでおいしいと思います。
萩常務:ネギの鮮度管理が難しいんですよ。特殊な通気性のある袋に入れて、温度管理をしています。
──よくお客様に選ばれているメニューは何ですか?
萩常務:やっぱり福岡なので、ごぼう天うどん(390円)の注文は多いと思います。また、ウエストの場合、かき揚げうどん(490円)も支持を集めていますね。
──ウエストのかき揚げうどん、ボリュームあるしおいしいですよね……。
▲大きなかき揚げは別皿で提供される
萩常務:ウエストの天ぷらなどの揚げ物は、注文が入ってから揚げているのでかなりおいしいと思います。また、丸天うどん(480円)※の丸天も注文してから揚げていますよ。
※丸天うどんは福岡独特のうどんメニューで、薩摩揚げのよう練り物が乗ったうどんのこと
──え! ウエストで丸天うどんは注文したことがありませんでした。普通、うどん屋さんの丸天うどんって、すでに揚がっているものを乗せるだけですよね?
萩常務:そうですね。でも、ウエストの丸天は揚げたてを提供しているので、アツアツです。熱くて食べにくいので、丸天はカットして提供しています。
▲丸天はカットした後で揚げるため切り口も茶色い
──安いのにおいしさにもかなりこだわっているのがよくわかりました。
萩常務:福岡の人たちは「安くてもおいしいのが当たり前」という感じで、安いものに対してもおいしさを求める感覚がとても強い。福岡ではいくら安くても、おいしくないとお客様には選んでもらえないと思います。
──それが福岡の食文化なんでしょうね。
萩常務:そうだと思います。私は東京出身ですが、東京ではおいしいものを食べようと思うと、やっぱり高いお金を出さないといけないな、という印象があります。福岡は安くても「本当においしい」と思えるものがたくさんありますよね。
地域に根ざした「地縁店」になるために
──なぜこの20年で福岡にウエストのうどんがここまで浸透したと思いますか?
萩常務:どこでもおいしいうどんが食べられるという安心感が理由だと思います。うどんって、日常の食べ物なので、普通の人はいくらおいしくても「車で遠くまで」という気持ちにはなりにくいですよね。自分の生活エリア内にあるのが、第一条件になります。
──ウエストは福岡に根付いているイメージが強くあります。
萩常務:創業者(故・境豊作会長)の考え方の中に「チェーン店ではなく地域に根差した地縁店(ちえんてん)になろう」というものがあります。ウエストの各店舗は地域に根差し、その土地に育ててもらっているんだという考え方ですね。
──地域貢献活動にも積極的ですよね。
萩常務:あまり大々的には言ってないのですが、さまざまな地域貢献活動を行っています。アビスパ福岡のスポンサーもそのひとつです。スポンサーになったことで、福岡のサポーターからとても感謝されて、アビスパを応援するようにウエストも応援してくれる。ありがたいことです。
▲アビスパ福岡のホームスタジアムでもうどんを提供
──これからのウエストについて、どんな存在でありたいと考えてらっしゃいますか。
萩常務:これからも当たり前の存在として、日常に溶け込んでいられるかが勝負です。ウエストは「おいしい」「まずい」というよりも、安心してしょっちゅう来てもらえる食卓のようなイメージを守っていきたいですね。
──本日は貴重なお話をありがとうございました!
ウエストが大切にしているのは「安心感」
▲筆者お気に入りの肉ごぼう天うどん(690円)
ウエストのうどんを調査してわかった特徴は以下の通りです。
- 麺は特注の冷凍麺でモチモチ感を重要視
- スープは自然の味を追求し、雑味のない味に
- 全国どの店も安定して同じ味を提供する
- ウエストのうどんが福岡に根付いたのは1999年以降
- おすすめメニューはごぼう天、かき揚げ、丸天
ウエストのうどん麺にはコシがあり、福岡うどんの中で一線を画しているのは事実ですが、企業のマインドは福岡の食文化そのものでした。
ウエストのうどんがなぜ、この短期間で福岡に浸透したのかがよく分かるお話だったと思います。
※なお、記事中で紹介したメニューの価格は、増税後に変更される場合があります。
三大チェーン分析②北九州生まれ「資さんうどん」
北九州市を中心に店舗を展開している「資(すけ)さんうどん」。
元々は北九州市にしか店舗がありませんでしたが、福岡市やその周辺にも進出するようになり、現在では福岡県外にも店舗を拡大させています。
北九州市民から絶大な支持を集めているうどん屋さんです。
福岡県民にとって「資さんうどん」ってどんなお店?
SNSを利用して「資さんうどんのいちばん好きなところ」というアンケートを福岡県民に行ったところ、以下のような結果になりました。
資さんうどんの好きなところでもっとも多く挙げられたのは「メニューが豊富」という点でした。資さんうどんには、うどん以外にも丼ものやカレー、朝定食など様々なメニューがあります。
それに次いで、特徴的なスープのおいしさや、麺のおいしさを選ぶ声がありました。
うどんだけではなく、丼やサイドメニューが豊富なのが魅力。店舗にいってその時の気分でうどん以外のものも食べられるのが嬉しい。(20代女性)
うどんスープがどんなトッピングのうどんにもマッチする味で飲み干しても良いくらい美味しいから。(40代女性)
パンチが効いてるけど優しいお出汁、好きです。(40代女性)
やみつきになるあのうどん、そして何を頼んでもおいしい豊富なメニュー……。
そんな資さんうどんの魅力を探るため、今度は株式会社資さんの本社がある北九州市に足を運びました。
資さんうどんの本社には店舗が併設されており、うどんのおいしいダシの香りが漂っています。
……と思いきや、ぼた餅の香りが漂ってきたり、カレーの香りを感じることも。たくさんのメニューのある、資さんうどんならではですね。
営業本部長の村田さんに、資さんうどんについていろいろとうかがいました。
資さんうどんのルーツは北九州の労働者
──資さんうどんはもともと、北九州市内で根付いていて、そこから市外に広がっていきましたね。
村田本部長:10年くらい前から北九州市以外にも出店を始めました。今後もお客様からのご要望が多く利便性の高い場所に、出店を続けていきたいと思っています。
──24時間営業の店舗が多い点と、うどん以外のメニューが豊富な点が特徴的です。
村田本部長:資さんうどんの創業時の主なお客様は、北九州の労働者の皆さんでした。コンビニよりも早く24時間営業を開始していた資さんうどんは、北九州の労働者の皆さんから愛されるお店だったわけです。とはいえ、毎日毎日うどんだと飽きますよね。
──それでメニューを増やしていったと。
村田本部長:創業者(故・大西章資創業会長)がお客様の要望にお応えするかたちで、ひとつひとつゼロからレシピを開発していきました。その結果が今の豊富なメニューに繋がっています。
──最近では、お子様メニューもできて、さらに家族で行きやすくなりました。
村田本部長:メニューの豊富さは創業者から連綿と受け継がれる「お客様を喜ばせたい」という気持ちの表れで、今後もそのマインドは守りたいと思っています。「とにかく資さんうどんに行けば、何かおいしいものが食べられる」と思ってもらいたいですね。
他の福岡うどんより若干細めのモチモチ麺
──資さんうどんの麺はモチモチしている印象があります。
村田本部長:資さんうどんの麺の食感は、讃岐うどんと福岡うどんの真ん中くらいの食感だと思います。やわらかすぎることはなく、なめらかな歯ごたえがあって、モチモチしているのが特徴ですね。本社併設の工場でつくっています。
──創業当時から、その麺の食感は変わっていないのでしょうか。
村田本部長:基本的には変わっていません。もともと創業者が讃岐製法でつくっていたのですが、讃岐うどんのように硬めだと北九州の人には合わないだろうということで、今のような麺が開発されました。
──ほかの福岡うどんと比べて、すこし細めですよね。
村田本部長:あまり太いと麺が硬めに仕上がり、モチモチ食感が守れなくなってしまうので、すこし細めになっています。太いとゆでるのに時間がかかってしまうのも理由のひとつです。すこし細めだけど、歯ごたえのあるうどんを目指しています。
旨味の濃いパンチの効いたスープ
▲筆者の息子も夢中ですするやみつきスープ
──資さんうどんはスープがおいしいですよね。他の福岡うどんにない味わいです。
村田本部長:そもそも資さんうどんは「福岡うどんをつくる」と思ってつくったわけではないので、ほかの福岡うどんと呼ばれるうどんとはかなり違うと思います。とくに出汁は決定的に違いますね。
──他と違って、旨味がガツンと来る感じで、パンチが効いていると思います。いちばん違うのはどこなのでしょうか。
村田本部長:さば節を多く使うことで、濃い旨味の出汁をつくり出しています。また、出汁は工場でつくらず、各店舗でつくっています。
──え! 各店舗でつくっていると手間がかかりますし、味にブレが出ないようにするのも大変ですよね。
村田本部長:大変ですね。でも、出汁は作りたてがいちばんおいしいのは間違いありません。1日に7回出汁をとる店舗もあります。各店舗の出汁の味は、管理者がチェックしてブレがないようにしています。
何を注文してもおいしい資さんうどん
──資さんうどんで一番売れているうどんのメニューは何ですか?
村田本部長:圧倒的に肉ごぼ天うどん(700円)ですね。その次に多いのが、肉うどんとごぼ天うどんなので、この2つのトッピングを注文されるお客様は多いですね。
▲肉ごぼ天うどんは圧倒的な支持を集める
──やっぱりそうですか。甘辛く煮込んだお肉が出汁の旨味をさらに引き立ててくれますよね。僕は細いごぼ天のサクサクッとした軽い食感が好きです。
村田本部長:ごぼ天は出汁につかった部分がフワフワになり、出汁につかっていないサクサクの部分と合わせてふたつの食感が楽しめます。
──ほかに注文の多いうどんはありますか? 僕はかしわうどん(550円)が好きなんですけど……。
※注:福岡では鶏肉をかしわと呼ぶことがある。かしわうどんは鶏肉を甘辛く煮た具材を乗せたうどん。
▲筆者が大好きなかしわうどん
村田本部長:かしわうどんは肉ごぼ天うどんに次いで注文が多い商品です。あとは北九州で多いのが、焼うどん(720円)ですね。モチモチした麺が活きていて、専用のソースも少しスパイシーでコクがあって独特の風味です。甘みのあるソースの小倉名物の焼うどんとは違う、資さんならではの焼うどんです。
──うどん以外のメニューでは、どんなメニューの注文が多いのでしょうか。
村田本部長:カツとじ丼(700円・みそ汁付)ですね。実は肉ごぼ天うどんとあまり変わらないくらい注文が多い商品です。
──そんなに売れているんですか!
▲実は肉ごぼ天うどんレベルにファンが多いカツとじ丼
村田本部長:カツとじ丼のとんかつは生パン粉を使っているので、サクサクしていて味が染みこみやすいのが特徴です。少し味は濃いめですが、ふとした時に無性に食べたくなるようなやみつきになる一品です。
──あと、うどん以外のメニューで言えば、資さん名物のぼた餅(130円)は外せません。お菓子という感じではなく塩気が効いてて甘さ控えめでおいしいんですよね。
▲なぜか定番メニューのぼた餅
村田本部長:ぼた餅は各店で手作りしています。北海道産あずきを100%使っており、餡子ともち米のバランスが絶妙でとても好評ですね。
▲店舗に貼られた求人募集。もはやぼた餅がメイン
──どうしてうどん屋さんなのに、ぼた餅が売っているんでしょう。突拍子もないメニューのような気がするのですが……。
村田本部長:実は北九州・小倉の屋台文化がルーツなんですよ。屋台のメニューでぼた餅を売る文化があったようです。
──そうだったんですね! 知りませんでした。
村田本部長:創業者がその文化を取り入れて、ある店舗でぼた餅を売り出したのがきっかけです。それが好評だったので、全店舗に広がっていったわけです。
「北九州の資さん」から「九州の資さん」へ
──資さんうどんは今後も店舗展開を続けていくのでしょうか。
村田本部長:まずは九州一円に広げていきたいですね。「北九州の資さん」から、「九
州の資さん」になるのが当面の目標ですね。
──関東方面に出店の予定はあるのでしょうか。
村田本部長:タイミング次第ですね。
──お話をうかがって、これからももっと広がっていくだろうなと思いました。
村田本部長:福岡市内に出店してから「福岡3大うどんチェーン」として、比較していただける機会も増えました。資さんうどんは、ほかのうどん屋さんとは違うおいしさのうどんを提供し、お客様の選択肢を増やす存在になりたいと思っています。競争ではなく共存し、九州のうどんを盛り上げられればいいなと思いますね。
──本日は貴重なお話をありがとうございました!
「独自の味」で選択肢を増やす存在に
▲資さんうどん独自サービスのとろろ昆布
資さんうどんを調査してわかった特徴は以下の通りです。
- 麺はなめらかな口あたりとモチモチ感を重要視
- 出汁は旨味の強いさば節などを使いパンチのある味わい
- 各店舗で出汁を取っている
- 北九州の労働者を喜ばせたいという想いがルーツ
- おすすめメニューは肉ごぼ天うどんに加え、カツとじ丼とぼた餅
資さんうどんのうどんが、やみつきになるようなおいしさを持っている理由は、さば節を使用した新鮮な出汁と、モチモチ感のある麺にありました。
パンチの効いた出汁は福岡うどんとは一線を画す存在ですが、今後も北九州に本社を置き、福岡、九州に広がっていくのでしょう。
※記事中で紹介したメニューの価格は、増税後もそのままの予定です。
三大チェーン分析③唯一無二の麺「牧のうどん」
「牧のうどん」は最近多くのメディアで「福岡うどん」として取り上げられ、全国の福岡うどんのイメージをつくるきっかけとなったお店です。
「麺がスープを吸う」「食べても食べても減らない」と言われるうどんは、実際のところ福岡では「牧のうどん」以外にはほぼ存在しておらず、「福岡うどん」の中でもかなり個性の強いうどんです。
唯一無二のうどんを提供することから、福岡には多くの熱狂的なファンが存在します。
福岡県民にとって「牧のうどん」ってどんなお店?
こちらもSNSを利用してアンケートを集計。「牧のうどんのいちばん好きなところ」として、もっとも多かったのは「麺がおいしい」という点でした。
それとかなり近い数で「スープがおいしい」という声も多く、うどんの独特なおいしさが支持を集めているのが分かります。
麺がやわらかい。時間が経つとスープを吸って膨張するくらいの柔らかさがクセになる。(20代女性)
牧のうどんのもっちりとした麺に、旨味の濃いダシがよくあい、より食欲を増進させてくれるから。(20代女性)
柔らかなうどんなのに弾力がある不思議(40代男性)
「麺がスープを吸う」「やわらかいのに弾力がある」など、牧のうどんの謎を解き明かすため、福岡市のすぐお隣、糸島市にある本社へ調査にうかがいました。
齋藤本部長に牧のうどんのおいしさの理由について、詳しくうかがっていきます。
本店から1時間半以内で移動可能な場所にしか出店しない
──牧のうどんは糸島をはじめ、福岡の南西部を中心に展開されていますね。
齋藤本部長:本店から1時間半以内で移動できる場所に絞って出店しています。本店からスープを運ぶときに、長時間車に揺られてしまうと風味やうまみが損なわれるんですよ。それで1時間半圏内に出店しているんです。
──本店から材料を運ぶということは、本店が一番おいしいのでしょうか?
齋藤本部長:いえいえ、生地もスープもいっしょですし、物理的には何の変化もありません。スープも影響が出ない範囲ということで1時間半以内の移動に留めていますので。どこの店もまったく同じ味です。
──これから北九州エリアなど、ほかの場所にお店を出したいと思うことはありませんか。
齋藤本部長:もう一つスープを作る拠点をつくればできないこともないですが、拠点を増やそうという気持ちはありませんね。
製麺工場に潜入! できたて・ゆでたての生麺にこだわる
──福岡のうどんは「コシがなくてやわらかい」と言われます。牧のうどんの麺も確かにやわらかいのですが、それだけじゃないような気がします。独特の食感というか、弾力がありますよね。
齋藤本部長:福岡のうどんが「コシがなくてやわらかい」と言われるのは、すでにゆでて水で締めたゆで置きの麺を提供する店が大半だったからです。ゆで置きの麺は、どんなに硬くゆでても数十分すれば歯応えがなくなります。
──麺が伸びた状態になるということですね。
齋藤本部長:そうです。牧のうどんでは全店舗で生の生地をゆでて、そのまま提供しています。通常これはありえません。やるなら、かなり細い麺でなければお客様を長くお待たせすることになります。
──えっ! でも、牧のうどんの麺はかなり太いですし、注文してから提供までの時間がかなり早いですよね。
齋藤本部長:牧のうどんの麺の太さなら、提供するのに20~30分はかかると思います。しかし、お客様の多さに関わらず、常に麺をゆで続けることで短い提供時間を実現させています。
──生麺を常にゆで続ける工夫によって、いつでもゆでたての生麺を食べることができるわけですね。
齋藤本部長:そうですね。こんなことをしているのは、日本中でも牧のうどん以外はあるかどうか……。
──生麺はどこで製造していらっしゃるんでしょうか。
齋藤本部長:工場で製造していますが、全ての工程を機械で行うのではなく、必ず一度は生地を手でもんでいます。これは外せません。
──機械だけでなく手作業も入るんですか!?
齋藤本部長:はい、そうですよ。ご覧になりますか?
▲製麺工場では本当に生地を必ず一度手でもんでいた
──すごい。こちらの方々は、今日ずっと全店舗分の生地を、一度手でもんでいるということですか。
齋藤本部長:そうですね。一度生地を手もみしてから、そのままの状態で各店舗に出荷します。
▲各店舗にはこの状態で出荷される
──なるほど。その出荷された生地を各店舗で製麺するわけですか。
齋藤本部長:そうですね。手打ちにできるだけ近い仕上がりになるように、仕入れた生地は各店舗のローラーで圧力をかけて、生地をのばした後にカットします。
▲各店舗には生地を伸ばして麺をカットする機械がある
──つまり、各店ではゆでたて、かつ製麺したてのおいしいうどんが食べられるのですね。
▲麺が切られ、そのまま釜へ入れられる
齋藤本部長:もともと製麺会社なので、製麺したて、ゆでたてのうどんが一番だと思って、こだわっているんです。
「麺がスープを吸う謎」に迫る
▲うどんと一緒に提供されるやかん。中にはスープが入っている
──やかんにスープを入れて提供されていますよね。あれは、牧のうどんの麺はスープを吸うという特徴があるので、それを補うためだと察しますが、そもそもなぜ麺がスープを吸うなんてことが起こるんでしょうか?
齋藤本部長:ゆでた麺を水で締めないまま提供するからですね。普通のうどんはゆでた後で水に浸けて、麺の水分を均一化させて「締める」んですよ。牧のうどんの麺は締めておらず、ゆであがった時はまだ麺の水分が足りていないので、スープを吸うわけです。
▲ゆでた麺は直接丼に入れられる
──スープを吸いきる前に、早めに食べた方がいいんですよね。
齋藤本部長:そうですね。麺が完全にスープを吸ってしまう前の、生きた状態の麺を楽しんでほしいと思います。早く食べた方がおいしいですよ。
──お話をうかがいながら、水で締めた状態の牧のうどんも食べてみたいな、と少し思いました。
齋藤本部長:締めたうどんを食べたい場合は、ざるうどん(420円)を食べるといいですよ。水で締めていますので。温かいうどんとはまた違うモチモチ感が楽しめます。
▲牧のうどんのざるうどんは、通常のかけうどんとは食感が違う
──そもそも、なぜ水で締めない状態で提供されているんですか?
齋藤本部長:牧のうどんはもともと製麺所だったんですが、従業員のまかない用に麺をゆでていたんですよ。製麺所の人たちはみんな麺を締めずに、ゆでたてを丼に入れて、そのまま食べていたんです。
──「できたての締めない麺を素早く食べるのが美味い」ということですね。
齋藤本部長:そうです。昔、常連の人で丼を持って「ゆでたてを入れてくれ」という人がいたそうです。そして「やっぱり、これが一番おいしい」とおっしゃる。「じゃあ、それでやってみようか」というのが始まりです。
本部長直伝! 牧のうどんの麺の楽しみ方
──牧のうどんは「やわ・中・かた」の中から麺の硬さが選べますよね。もっとも牧のうどんらしいモチモチ感が味わえる硬さはどれですか?
齋藤本部長:やわ麺はやわ麺のモチモチ感、かた麺はかた麺のモチモチ感があって、それぞれの良さがあるんですよ。どれが一番とかはないですね。
──そうなんですね。やわ麺のモチモチ感とかた麺のモチモチ感って、どんな違いがあるんでしょうか。
齋藤本部長:かた麺はコシがある中のモチモチ感、やわ麺は歯応えがないモチモチ感を味わえます。やわ麺は40分ほどゆでてますからね、普通は40分もゆでるとモチモチ感は残りませんよ。
▲左側へ進むほどやわ麺。常にゆでておりやわ麺も即提供される
──どうして牧のうどんの麺は、40分ゆでてもモチモチ感が残るんですか?
齋藤本部長:それはやっぱり生の生地をそのままゆでて、すぐに提供しているからですね。もっともこだわっている部分です。
──なるほど。ちなみに牧のうどんのおいしい食べ方があればぜひご教示いただきたく……。
齋藤本部長:牧のうどんの麺は、提供直後に一番スープを吸います。提供時はスープがひたひただと運べないので、少し少なめで出しています。注文したうどんがきたら、すぐにやかんでスープを足すといいですよ。
──やかんのスープはさっそく足しちゃっていいんですね。食べるのが遅い人用かと思っていました。
齋藤本部長:最初がよく吸うので、早めに入れた方がいいでしょうね。とくにやわ麺はスープを吸うスピードが早いので、すぐに入れてください。ちなみにスープを入れるときに、自分でトッピングしたネギ※の上からかけると、ネギがみずみずしくなっておいしくなるのでおすすめです。
※牧のうどんはテーブルの上に、無料のネギが置かれている
大量の利尻だし昆布を使ったスープ
──スープの特徴やこだわりを教えてください。
齋藤本部長:スープは利尻だし昆布のだしに加え、かつお節やうるめいわし節、サバ節がたっぷり入っています。本店の工場で炊いて、1日2回持って各店舗へ持っていきます。朝炊いたものは昼に、夜炊いたものは朝に。
▲スープを各店舗に運ぶためのボトル
──全店舗、スープのために毎日2回も本店を往復しているんですか! 大変ですね。
齋藤本部長:スープは鮮度が命なので、風味を落とさないために必要なことです。
──スープは昆布の味わいが強くて、おいしいですね。
齋藤本部長:利尻だし昆布は年間30数トンつかっており、日本の利尻だし昆布の約7%は牧のうどんが使っている計算になります。
──え、国内の利尻だし昆布の約7%は牧のうどんなんですか! それは驚きです……。
▲スープ工場でも一度に大量に利尻だし昆布が使われているのを確認
齋藤本部長:牧のうどんはスープが命です。たとえできたてだと言っても麺だけじゃだめで、麺とスープのハーモニーがあってこそだと思います。
うどんだけでお腹いっぱいになってほしい
──牧のうどんでよく売れているメニューは何ですか。
齋藤本部長:肉ごぼううどん(670円)と、ごぼう天うどん(430円)ですね。
▲肉ごぼううどん
──ごぼう天がおいしいのはもちろんですが、具材のお肉は特徴的ですよね。
齋藤本部長:ネギも加えて、すき焼き風のしっかりした味付けのお肉にしていますね。
──うどんは並盛でもかなりボリュームがありますよね。何グラムの麺が入っているんですか?
齋藤本部長:並盛でも麺は約500gありますので、普通のお店の倍くらいあるんじゃないですか。大盛だと約850gです。でも、けっこう女性でもペロリと食べて行かれますよ。うちはうどん一本の店なので、うどんだけでお腹いっぱいになってほしいという想いがあります。
福岡だからこそ成り立つ牧のうどん
──お話をうかがって、牧のうどんがなぜ福岡の人たちに愛され続けてきたのかが分かりました。
齋藤本部長:福岡の人がやわ麺が好きだから成り立っています。牧のうどんはやわ麺のファンが多いので「ゆですぎたから廃棄」ということがなく、ロスが少ないのです。食品ロスが出ないのは、うどん屋を続けていくうえで非常に重要です。
──それで、うどんづくりにこだわったり、ボリュームを多くしても成り立っているわけですか。福岡の食文化と絶妙にマッチしたお店なんですね。
齋藤本部長:そうですね。うちは四国では売れないでしょうからね。福岡で根付くことができてよかったな、と思います。
──本日は貴重なお話をありがとうございました!
独自路線を追求し続ける牧のうどん
牧のうどんを調査してわかった特徴は以下の通りです。
- 麺はゆでたての太い生麺でモチモチ感を重要視
- ゆでた後に水で締めないことで麺がスープを吸い、独特の食感を生み出す
- スープは利尻だし昆布と魚の削り節を使用し、本店で製造
- スープ運搬のために本店近郊にしか出店しない徹底ぶり
- おすすめメニューは肉ごぼう、ごぼう天
製麺工場でつくられた生地はそのまま出荷されるので、全店舗に麺を裁断する機械があり、できたてのうどんが食べられます。
牧のうどんの独特な麺の秘密は、太麺でありながら、生の生地をそのままゆでていることでした。通常なら20~30分以上待たなければできない味を、常に麺をゆで続けることで実現させているのです。このような仕込み方を実施しているチェーン店は、ほとんどないでしょう。
やわ麺好きな福岡だからこそ、おいしいうどんが素早く提供できる「牧のうどん」。これからも福岡の地で食べ続けられていくでしょう。
※記事中で紹介したメニューの値段は、増税後に変更される場合があります。
【結論】福岡うどんはコシよりも「モチモチ感」が重要
福岡には、各地域に老舗のうどん屋さんがあり、たくさんの店舗があります。その中で自然に福岡のうどん文化は形成されていきました。
「福岡うどん」と括られる大きな流れの中で、福岡うどんの三大チェーンと呼ばれる「ウエスト」「資さんうどん」「牧のうどん」はどれもその大きな流れとは少し違った、独自の味を提供するお店であることは間違いありません。
しかしながら、この3社ともうどんでこだわっている部分で一致しているものがありました。それは「モチモチ感」です。
よく比較される香川の讃岐うどんと、福岡うどんの特徴をまとめると以下のようになります。
福岡うどんは「やわらかい」「コシがない」と言われますが、単に「やわらかい」「コシがない」うどんは、福岡でも「麺がイマイチ」と言われてしまいます。
やわらかくて、表面がふわふわしているのに、モチモチ感がしっかりある。
これがおいしい福岡うどんの条件なのです。
讃岐うどんも「モチモチ感」は重要とされているものの一つですよね。
スープ大好きな福岡人の食文化
福岡人はスープが大好きです。
豚骨ラーメンやもつ鍋に水炊き、どれもスープのおいしい店が流行ります。
うどんも例外ではありません。
麺が主役の讃岐うどんとは違い、うどんは麺とスープのハーモニーが大切であり、福岡人はうどんのスープも同時に楽しみたいのです。
コシの強い硬めのうどん麺では、やさしいスープの味わいが目立たなくなってしまいます。
そのため、福岡ではふんわりした食感のやわらかいうどんが愛される傾向にあるのでしょう。
福岡うどんの魅力はフワモチ麺とやさしいスープのハーモニー
福岡うどんはけっして、単に「やわらかくてコシがない」というわけではありません。
表面がフワフワで中がモチモチした麺とやさしい味わいのスープとのハーモニーこそが、福岡うどんの魅力なのです。
それぞれで違った特徴のある三大チェーンを食べ比べるだけでも面白いと思いますが、福岡には他にもたくさんのおいしいうどん店があります。
福岡を訪れた際は、ぜひおいしい福岡うどんを味わってみてくださいね。
【参考文献】
サカキシンイチロウ「博多うどんはなぜ関門海峡を超えなかったのか」(ぴあ)
山田祐一郎「福岡 うどんのはなし」(誠光社)テーブルマーク株式会社公式サイト「国際うどん大学」
書いた人:大塚たくま
福岡に住む九州を愛するライターで二児の父。グルメ、旅行、子育てに関する記事を多数執筆。便利で心を動かす記事を書きたい。取材が大好きで、情報量の多い記事を目指しています。