愛されて100年以上!福岡の郷土の味、東筑軒の「かしわめし」って知ってる?

福岡・折尾の駅弁、かしわめしを製造する東筑軒に取材しました。地元で愛されるかしわめしの製造工程や、おすすめの食べ方などは必見ですよ。

こんにちは。メシ通編集部です。

皆さんは、かしわめしという料理をご存じでしょうか。九州地方では鶏肉のことを「かしわ」と呼び、特に福岡では炊いたごはんに、かしわや具材を煮詰めたものを混ぜたかしわめしが郷土料理として、ご家庭はもちろん、学校給食などにも登場するほどなじみ深いものになっています。

 

そんな福岡の定番料理のかしわめしですが、中でも県内・県外を問わず多くのファンに支持されるのが、福岡・折尾駅の駅弁である東筑軒のかしわめし。今回は、こちらにスポットを当ててみたいと思います!

かしわめしは九州各地でポピュラーな郷土料理のため、東筑軒だけではなく、幾つかのメーカーが製造をしていますが、中でも抜群の知名度を誇るのが東筑軒のかしわめし弁当。1921年(大正10年)に発売が開始されて以来、なんと100年以上にわたって愛されるその魅力は、いったいどんなところにあるのでしょうか?

東筑軒のかしわめしの歴史

▲昔のパッケージデザインがこちら。名前を見れば分かる通り、最初は筑紫軒という名前で創業されました(画像提供:株式会社東筑軒)

 

東筑軒の広報である浅田夏枝さんによると、東筑軒の創業者は、国鉄の門司運転事務所所長を務めていた、本庄巌水(いわみ)さんという方だそうです。

各地を旅した時、駅弁はどこも似たようなものばかりで面白くないと感じた本庄さん。福岡は鶏肉をおもてなしに使うという食文化に目をつけ、鶏のスープで炊いたごはんに、鶏肉と錦糸卵、刻み海苔をあしらったかしわめしを考案したんだそうです。駅弁でご当地感を醸し出す先駆けとなった、大変歴史のある駅弁なのが分かります。

 

また、かしわめしを一躍有名にしたのは、力士だったという話も。九州場所中に「かしわめし弁当」を食べたある力士が、あまりのおいしさに周囲にすすめたことがきっかけとなり、福岡で愛される駅弁へと成長していったんだそうです。

かしわめしはどんなふうに作られているの? 工場に潜入!

▲遠賀工場(写真提供:株式会社東筑軒)

そんなかしわめしが作られている工場は、福岡県東部の遠賀町にあります。今回、特別に内部を見せていただけることに! 遠賀工場で主任を務められている新生和彦さんにお話を伺いました。

まず見せていただいたのは、鶏ガラでとったスープで鶏むね肉、鶏もも肉などを煮込んだ特製のスープ。鶏だけで大変深みのあるスープを作り出しているんだそうです。

スープを作る際に出てきた鶏油はいったん取り出し、ごはんを炊く時に適切な量を加え炊き上げます。かしわめしは、鶏油を感じられるオイリーなごはんも特徴のひとつなんですが、丁寧に鶏油の量をコントロールされているそうです。

そして、スープに投入するのが、紙袋に入った門外不出の調味料!

この調味料の配合は、完全なる企業秘密。創業者の本庄巌水さんの妻であるスヨさんが開発したもので、その後も代々限られた方のみに受け継がれています。この調味料で鶏のうま味がよりいっそう引き出され、東筑軒ならではの味わいが生まれるんだそう。

ごはんが炊けたら、かしわめしの土台が完成。東筑軒のかしわめしは、なんと言ってもこのごはんがうまい! のですが、実際の製造工程を見せていただいて、たくさんの手間をかけ、丁寧に作られていることが分かりました。

続いては、ごはんの上にのせる鶏肉の製造工程。

具材となる鶏肉は、ひな鶏と親鶏の中間が使用されています。かみ応えがしっかりあり、鶏本来のうま味が詰まっていて、かしわめしに最適だそう。

この鶏肉を細かくカットして、醤油などの調味料を加え、水分がなくなるまで煮込むと、具材のかしわが完成!

出来たてのごはんとかしわは、いったいどんな味なのでしょうか? 試食させていただくと、食べた瞬間に鶏肉の香りがふわっと立つ感じが初体験。こんなに芳醇(ほうじゅん)な甘い香りがするんだと思いました。

ごはんの食感もモッチリとしていて、最高。いつも食べるかしわめしのごはんは、弁当だから冷めているんですが、それでも温めようと思わないくらいおいしいんです。でも、やっぱり炊きたてもおいしい。貴重な味を堪能しました。

ちなみにこの炊きたてに近い味は、レンジでチンしても味わえます。香りのいいホカホカのかしわめし、ぜひ一度食べてみてください。

東筑軒は「売り方」にもこだわりあり

さて、東筑軒のかしわめしのおいしさへのこだわりが分かったところで、もうひとつのこだわりをご紹介しましょう。それは、かしわめしの販売方法です。

 

東筑軒が駅弁を売り出した折尾駅は、鹿児島本線と筑豊線の交差駅。そのため電車の停車時間が長く、駅弁が売りやすい駅だったんだそうです。その環境を活かし、折尾駅では現在も駅弁の「立ち売り」が行われています。これは、全国的に見ても極めてまれ。そこで、この「立ち売り」のレジェンドとも呼べる方にお話を伺ってみました!

▲かしわめしの立ち売り担当・小南英之さん

━━どうぞよろしくお願いします。小南さんは、普段どんなふうにかしわめしを駅で販売しているんですか?

小南さん:そうですね。じゃあ、ちょっとやってみます。そんな、難しいことはしてませんよ。

━━はい、お願いします。

 

▲突然舞い始めた小南さん

小南さん:みなあああ〜〜〜さま!! おつかれ〜〜〜〜さまぁ〜〜〜〜〜です!! おりいいいいいおの♪♪ かしいいいいいいわめしぃぃいいいいいベんとぉおおおおおおおーーーー♪♪♪

━━いやいやいやいや、ちょっと待って。ちょっと待ってください。

小南さん:どうしました?

━━それはぼくのセリフですよ。歌いながら、踊ってませんでした?

小南さん:はい、皆さまに呼びかけております。

━━両腕を前後に動かしていましたけど、その動きは何ですか?

小南さん:何だと思います?

━━えっ、いや全然分からないです……。機関車の車輪とかですか?

小南さん:違いますよ〜〜〜〜! かしわですよ、かしわ!! 鶏の羽ですよ〜〜!

━━あ、ああ〜。なるほど……。小南さんはどうしてこの接客スタイルでかしわめしを販売しているんですか?

小南さん:自分を広告だと思っていますので。少しでもお客さまの目に留まってくれたら、次の機会に買ってくれるかもしれないでしょう。

━━なるほど! 小南さん自身が歩く看板といったところですね。ちなみに、小南さん以外で立ち売りのスタッフさんはいらっしゃるんですか。

小南さん:いえ、私だけです。もともと私が引き継ぐ前も山口さんという方がお一人でやられていました。その山口さんが辞められて、2年半ほど立ち売りの人がいない時期があったんです。その頃、私は東筑軒で配送のお仕事をしていて、ある日上司に「立ち売りの人を探してるらしいけど、どうかな?」と相談を受けまして。

━━それは何年くらい前のお話なんですか?

小南さん:もう11年くらい前になります。私はもともと東筑軒の採用試験にも一度落ちてるんです。営業マンになりたかったんですけど、なれなくて。がっかりしながらハローワークに行ったら、面接してくれた東筑軒の社員さんにバッタリ会って。そんな縁もあって配送の仕事を紹介してもらい、東筑軒に入社したんです。

━━配送担当から立ち売り担当って、すごいキャリアチェンジですもんね。最初は大変だったんじゃないですか?

小南さん:最初に声を出した時のことを覚えています。声を出すと、みんなが一斉に振り向くんですよ。変なオヤジがおると。

━━まあ、そうですよね。いきなり駅弁売りが現れたら驚くかもしれません。

小南さん:その時に思ったんです。これは古くて新しい仕事だと。だからこそ、残していくべきだと思いました。立ち売りという仕事は、いろんなお客さまに出会います。観光案内をする時もあれば、ベビーカーを階段で運ぶことも。ホームから線路に落ちてしまったお客さまを助けて感謝状をもらったことだってあります。

━━そんなこともあるんですか。ちなみに、買ってもらうコツはどんなことですか?

小南さん:やっぱり少しでも親しみを持っていただけることです。常連のお客さまから「あなたを見たら元気がもらえる」と言ってもらえることがあって。そういった声をいただくと、とてもうれしいんですね。

━━なるほど。今では珍しい「立ち売り」のスタイルを東筑軒が続けているのは、お客さまとのふれあいを持ち続けるためでもあるんですね! これからも皆さまに愛される存在であり続けてください。貴重なお話をありがとうございました!

東筑軒さんのおすすめ! かしわめしのおいしい食べ方

今回、せっかくかしわめしの工場見学にお伺いできたので、東筑軒さんおすすめの食べ方も聞いてみました! かしわめしの特徴と言えばこのキレイな盛り付け。それだけに、崩して食べるのはもったいないと思っていたのですが、実はおすすめは……。

混ぜることだったんです。

マジかよ、いいのかよ東筑軒さん。混ぜちゃってよかったのかよ。

食べてみると……。もう、どこをとっても最高にうまい! これなら、最初はそれぞれ食べて、最後に混ぜちゃうなんて食べ方もいいですよね。そして「混ぜかしわめし」の進化系としてさらにおすすめいただいたのが……。

チャーハン!

ちょっと待って。いいのか、そんなことして……。これ、罪深すぎません?

▲かしわめしに入っている紅生姜と奈良漬をトッピング

フライパンで3分程度炒めれば完成! で、このチャーハンがまた信じられないほどおいしい! もともとごはんが鶏油でオイリーなので、炒める時も油いらず。熱が入るとすぐにいい香りがしてきます。

ごはんももう一度火を通したことで、食感がさらにパラッとします。確かにこれは抜群! 新たなかしわめしの魅力に気づきたい方はお試しあれ。

東筑軒のかしわめしはこれからもソウルフードであり続ける

今回は、かしわめしの製造工程や珍しい販売方法など、いろいろな角度から取材させていただきました。

出来たてのかしわめしのおいしさに感動したり、立ち売りの小南さんのお話から、かしわめしと東筑軒への深い愛を感じたり……。かしわめしの魅力に改めて気づくことができました。

こういったお話を知ってから食べると、かしわめしはさらに味わい深くなるのでは? 九州に来たら、お好みの食べ方でかしわめしを味わってみてくださいね。なお、東筑軒のかしわめしはネット通販でも購入できます! 気になった方はぜひ購入してみてください。それでは。

 

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書いた人:メシ通編集部

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