いきなりですが、ぼくは結局「ほっともっとのから揚」がおいしいなぁって思うんです。
昔から「ほっともっとといえばから揚」で、それは今も変わりません。あなたはどうでしょうか?
でも「ほっともっとのから揚って、どんな味ですか?」と言われると、なんだかどう答えていいかわからないですよね。特別に醤油が強いわけでも、にんにくが強いわけでもない……。ただ、口から出てくるのは「おいしい」という言葉だけ。
ぼくは「おいしい」としか言えない食リポって、主観だけで伝わりにくいので、ライターとしては絶対避けたいと思っています。でも、ほっともっとのから揚は「おいしい」としか言いようがない。
そこで、ほっともっと商品開発部の田中さん(仮名)にお話を伺うことに。ほっともっとのから揚を食リポできるライターに、俺はなる。
「お弁当のから揚」を追求するほっともっと
──ほっともっとのから揚を一言で表現すると、どんな特徴がありますか?
田中さん:ほっともっとは長年お弁当屋さんとしてやってますので、「お弁当として、おいしいから揚」というのが最大の特徴です。
──「お弁当としておいしいから揚」とは、どんなものでしょうか?
田中さん:まず第一に、持ち帰りになるので、食べるタイミングに関わらずおいしいから揚になるように作っています。
──ほっともっとのから揚って、時間がたっても衣がモッタリしなくて、サクサク感が残っていますよね。
田中さん:サクサク感を残すには、小麦粉の種類や配合するでんぷんの種類の選定や割合が重要です。
──そういったところまで、細かな配慮がされているんですね。
田中さん:また、少し冷めてもおいしくなるように味付けを調整しています。
──味付けの指針としては、どういったことを目標にされていますか。
田中さん:まず、ご飯に合うことですね。
──たしかに……。から揚って、お酒を飲みたくなるタイプと、ご飯をかっ込みたくなるタイプのものがありますよね。圧倒的にほっともっとはご飯です。
田中さん:その上で鶏肉のうま味を最大限に引き出す味付けを考えています。この「鶏肉のうま味重視のから揚」は現在のから揚のトレンドでもあります。
──鶏肉のうま味を引き出す味付けのポイントとは、どんなことなのでしょうか?
田中さん:ただうま味を引き出すだけだと、ご飯に合わなくなってしまうので、「ご飯に合う」という点は守ります。から揚の味付けの要素である、にんにく、生姜、醤油の調整が重要です。
──なるほど。ほっともっとのから揚って、バランスがいいと思っています。にんにく、生姜、醤油のどれもが強すぎないですよね。
田中さん:なるべく好みが分かれないようなバランスにはしていますね。
──ポジショニングマップのど真ん中という感じはするんですよね。から揚の真ん中。
田中さん:家庭では出せないけど、外さない味。老若男女の皆さまに愛されるから揚をこれからも守っていきたいです。
──だから飽きないし、「おいしい」以外の食リポもしにくかったんですね……。
時代に合わせた変化でから揚の味の伝統を守る
──から揚の味付けは時代に合わせて、マイナーチェンジはされているのでしょうか。
田中さん:はい、2〜3年に1回のペースでブラッシュアップしています。
──そんな頻繁に変えていたんですね。ただ食べている身からすると、昔から変わらない味だな〜と思うんですけど……。
田中さん:既存のお客様がいらっしゃるので、あまり大幅な変更はしません。ベースは変えないけれども、トレンドを踏まえた、微修正といった感じです。
──から揚のトレンドって、あまり考えたことがないですね。時代に応じて、どのようなトレンドがあるんでしょうか。
田中さん:意外とトレンドに変化があるんですよ。衣がザクザクしたものがはやったり、にんにくが強いものがはやったり。
──から揚のトレンドって、どうやって情報収集しているものなんでしょう?
田中さん:たくさんの店舗を展開しているお店のから揚を食べてみたり、新商品や話題になっているから揚を食べてみたり。さまざまですね。そういったことは、から揚に限らず、他のメニューでもやっていますよ。
──そうやって得たトレンド情報を、味のブラッシュアップ計画に活用するわけですね。
田中さん:トレンドをどこまでほっともっとのから揚に取り入れるのかを細かく調整しています。
──そのあたりの調整は難しそうですね。
田中さん:トレンドを取り入れたとしても、ほっともっととしてのベースを崩さないようにしています。味を大きく変えすぎると、既存のお客様をがっかりさせてしまうので。あまり大幅に変えないようにしつつも、変えています。にんにくを強めにしたり、醤油を強めにしたり。
──試食を社員の方にお願いすることはありますか?
田中さん:社員に試食をお願いすることも多いですね。
──そんなに微修正の試食で意見を求めるのって、なかなか難しくないですか?
田中さん:もともとのから揚の味と比較するような考え方で答えてもらいます。どんな変更をしたかを伝えずに「現行のものと比べてどうですか」と。
──たしかに、現行のものと比較して感想を言うならできるかも。リニューアルって、結構大変ですね。最近だと、いつリニューアルされました?
田中さん:最近だと、から揚は2023年6月にリニューアルしました。
──最近じゃないですか! 全然気づかなかったです……。から揚はどのようにリニューアルされたのでしょうか。
田中さん:現在のトレンドである「鶏肉のうま味を最大限に引き出すから揚」になっています。そのために、醤油やにんにくの割合を調整しました。
──そうなんですね。「これこれこの味!」と思って食べたんですが、わずかに変わっていたんですね。あとはレモン果汁が復活しましたよね。
田中さん:そうなんです。今回のリニューアルでレモン果汁が復活しました! 復活を熱望する声が多かったので、お応えした形です。
──しばらく、から揚スパイスだけでしたもんね。ちなみに、から揚スパイスって、やたらおいしいですけど、単なる塩コショウではないですよね。
田中さん:そうですね。から揚と相性がいいローズマリーやナツメグを使用しています。から揚のうま味を引き出すために作られた、ほっともっとオリジナルの配合です。
──やはり、ただものじゃなかった……。魔法の粉ですね。
田中さん:裏技なんですけど、から揚スパイスの小袋は1袋10円で販売していますので、よかったら追加購入してみてください。ご飯にかけるだけでもおいしいですよ。
──そんな裏技があったんですね。ぜひ今度やってみます!
各店舗で同じから揚を提供するために
──ほっともっとのから揚って、どこで食べても同じ味ですごいなと思うんですけど、どのように作っているんでしょうか?
(写真提供:株式会社プレナス)
田中さん:埼玉にあるCENTOSという自社工場で加工を行っています。から揚弁当で計算して、年間約3500万食分を製造しています。
──すごい。まさにほっともっとの心臓……。から揚を加工する時のこだわりを教えてください。
田中さん:鶏肉に対して、下味が均等に染み込むように、調味液の量を細かく調整しています。毎日味がブレないように、管理を徹底しています。
──工場で、から揚はどのぐらいまで加工するんですか?
田中さん:あとは揚げるだけの状態まで仕上げて、冷凍の状態で各店舗に発送します。
──なるほど、だから全国の店舗で味が保たれているわけですね。
(写真提供:株式会社プレナス)
田中さん:それだけじゃないですね。揚げ方もフライヤーの温度設定、揚げ時間、から揚の形の整え方まで、細やかなマニュアルが存在します。
──おお、そこまでされてるんですね。ちなみに、ほっともっとって、から揚以外にもたくさんメニューがあるじゃないですか。それらもお店によって味に差がなくて、すごいな〜と思ってるんですけど……。
田中さん:から揚以外のメニューも全て、細やかな調理方法のマニュアルがあって、味にブレが出ないように徹底しています。各店舗でカットしなければならない野菜に関しては「何センチに切りましょう」という部分までマニュアル化しています。
──感覚に頼らず、マニュアルありきなんですね。
田中さん:マニュアルが体に染み付いているというスタッフはいますけどね。そうではないスタッフは、常にマニュアルを見ながら調理しています。誰でもほっともっとの味が作れるように整備してます。
味付けを変えて全国の味に対応するほっともっと
(写真提供:株式会社プレナス)
──ちなみにほっともっとは全国にあるじゃないですか。各地域の味覚の違いにはどのように対応しているんでしょうか?
田中さん:西日本と東日本で味付けの違う商品が存在します。例えば、カツ丼のタレは違いますね。西日本の方が甘めになっています。
──そんなに細やかに対応されていたんですね。
田中さん:特に違うのはチキン南蛮ですね。九州のチキン南蛮は味が異なり、他の地域では「九州チキン南蛮」として販売されています。
(写真提供:株式会社プレナス)
──えっ、そうなんですか。どのように違うんでしょうか?
田中さん:通常のチキン南蛮は甘酢ソースの上に、タルタルソースなんです。一方、九州のチキン南蛮には甘酢ソースの上に、南蛮ソースがかかっています。
──なるほど。ぼくが九州に住んでいるからわからなかったんですが、チキン南蛮に南蛮ソースがかかっているのが九州仕様だったのか……。
田中さん:さらに言えば、宮崎のチキン南蛮は甘酢ソース+手作りタルタルソースの仕様になっています。ゆで卵から作る、店舗仕込みの手作りタルタルソースです。
──宮崎のチキン南蛮はそうですもんね。つまりまとめるとこんな感じか……。
──チキン南蛮のこだわり強ぉ……。
田中さん:そのあたりは、ほっともっとの運営会社である株式会社プレナス創業の地が九州・福岡だったことが大きいとは思います。
全社員の支え合いで価格とおいしさを守り続ける
(写真提供:株式会社プレナス)
──現在、さまざまなものが値上げされていて、大変な状況かと察するのですが、どのような工夫をされていますか。
(写真提供:株式会社プレナス)
田中さん:自社工場で作って、配送センターから直で店舗に届ける点は、価格面に大きな影響を与えていると思います。あとは、食事の満足度を下げないというところですね。
──「食事の満足度」というと?
田中さん:どうしても、お肉や小麦粉の値段が上がって、これまで通りの原料の使い方ができないことは生じます。そこで諦めず、食事の満足度を向上させる工夫を行っています。品質や価値観、調理の工夫によるおいしさなどですね。
──なるほど。単に原料を変更するだけでなく、リニューアルという形でポジティブに昇華しているんですね。
田中さん:あとはやっぱり、店舗で手作りしているところも、コスト削減になっていますね。なんでも工場ではなく、店舗でできることは対応する柔軟性がありますので。
──店舗で作業できるから、加工の工程を省けている部分もあると。社内全体の支え合いがあって、この価格を守っているということなんですね。これからも、期待しています。ありがとうございました!
お弁当のから揚としてのおいしさを守るほっともっと
いつ食べてもサクサクで、味付けのバランスがよく、老若男女に愛されるご飯に合うから揚……。一口かじると、鶏肉のうま味がジュワッと広がり、次から次に食べたくなる。これで、ぼくもほっともっとのから揚を食リポできるようになりました。
インタビュー取材後、明らかにほっともっとのお弁当で昼食をとる回数が増えました。今日もから揚弁当、食べちゃおうかな……。
書いた人:大塚たくま
福岡に住む九州を愛するライターで二児の父。グルメ、旅行、子育てに関する記事を多数執筆。便利で心を動かす記事を書きたい。取材が大好きで、情報量の多い記事を目指しています。