スイカが好きすぎてラッパー、エンジニアを経て専門サイトを立ち上げた男の挑戦

ブランドスイカ専門のECサイト「あまいスイカ」を立ち上げたのは、大のスイカマニア。「流通でスイカ農家の未来を変えたい」と語る、代表の佐藤タケルさんにお話を聞きました。

夏の風物詩として多くの人から愛されるスイカ。

しかし生産者の高齢化や、こだわりが儲けにつながらない仕組みなどが理由で、スイカ農家さんは減少の一途をたどっています。どれだけおいしいスイカを作っていても、スイカだけで生計を立てられる農家さんはほんのわずかなのだとか。

そんな現状を変えるべく立ち上がったのが、大のスイカ好きである佐藤タケルさんです。

佐藤さんは、2020年にブランドスイカ専門のECサイト「あまいスイカ」をオープン。スイカ業界を変えるため日本中を飛びまわる他、スイカマニアとして多数のメディアに出演しています。そんな佐藤さんの願いと軌跡に迫りました。

「あまいスイカ」は生産者と消費者のマッチングサービス?

──「あまいスイカ」とは、具体的にはどんなサービスなのでしょうか?

佐藤タケルさん(以下、佐藤):サイト上でスイカを購入すると、農家さんから新鮮なスイカが発送される産直ECサイトです。ECサイトなんですが、お客様と農家さんがサイト上でやりとりできるなど、マッチング的な役割もあります。

▲あまいスイカのトップページ

──「おいしいスイカを探している人」と「作っている人」が出会える場なんですね。

佐藤:「あまいスイカ」は品質保証を付けていて、ブランドスイカ(=本当においしいスイカ)しか販売していません。販売するスイカはすべて僕が実際に食べて、厳しく審査しています。

農家さんのほうから「『あまいスイカ』で販売したい」とお声かけをいただくこともあるんですが、残念ながら9割以上は審査で不合格になってしまいますね。なので、最初から「うちは9割は落とします。すみません」と謝っています。

──そんなに厳しいんですか!? もう少し優しくしてもいいのでは……。

佐藤:それはできません。なぜなら、僕は「本当においしいスイカ」を届けたいからです。というのも、僕はもともとスイカマニアで、全国のスイカを取り寄せて食べていたんです。

──全国のスイカをですか!?

佐藤:はい。いろいろな産地や農家さんのスイカを食べていくなかで、自分が心から「おいしい」と思った農家さんのリストを作っていました。

サイトの立ち上げ時にはそのリストをもとに、北海道から沖縄まで、30軒ほどの農家さんを回って、出店の交渉をしてきました。だから、時には「審査が厳しすぎる」って言われることもありますが、スイカの味に対しては一切妥協はしたくありません。

17歳のとき、あるきっかけでスイカマニアの道へ

──本当にスイカがお好きなんだなというのが伝わってきました。佐藤さんがスイカ好きになったきっかけは何なんですか?

佐藤:僕はスイカの名産地である熊本県出身なので、小さい頃からスイカが身近にありました。だけど、火がついたのは高校2年生のとき。母の知り合いのスイカ農家さんから大玉スイカをいただいて、家族で食べたんです。そのスイカが激烈にあまくてうまくて、衝撃を受けました。それまでもたくさんスイカは食べていたんですが、まったくの別物だったんです。

大学生になって、福岡でひとり暮らしをするようになってからは、全国のスイカを取り寄せて食べ比べするようになりました。

佐藤:大学では臨床検査技師になるための勉強をしていたんですが、在学中にNGOによる地球一周の旅に参加したんです。旅のなかで「自分のやりたいことって何だろう」と突き詰めて考えたら、今やってる勉強は違うんじゃないかと。そこで、本当に自分のやりたいことを叶えるために、大学を中退して東京に来ました。

──すごい行動力!

佐藤:はい。僕には3つの軸があって、1つはスイカの専門店を立ち上げること。2つめはラッパーになること。3つめは海外に移住すること。この3つの目標を目指して生きていこうって決めたんです。

──えっ、ラッパーですか!?

佐藤:はい。僕、最初は東京に出てきてラッパーになりたかったんですよ。今はスイカ事業がメインの仕事なんですけど、副業でラッパーも続けています。レコード会社で育成中のアイドルにラップを教えていたり。

スイカのECサイトを作るためエンジニアに転職!

──ラッパーを志していた佐藤さんが、どうして「あまいスイカ」を立ち上げることになったんですか?

佐藤:上京してからはずっとラップに打ち込んでいたんですが、音楽だけで生活するのはやっぱり難しくて、別の仕事もしていました。スイカは相変わらず好きで、「いつかはこれも仕事にしたいな」と夢を抱きながら、取り寄せては食べていました。

そんなあるとき、熊本の実家に帰省した際に「高校時代に食べたあのスイカをもう一度食べたいなぁ」と思って、母に頼んだんですね。ところが、「あんた何言ってんの。あの農家さん、去年でスイカ作り辞めちゃったよ」と言われて……。ものすごくショックを受けました。

──そんなにおいしいスイカが、もう食べられなくなってしまったんですもんね。

佐藤:それもあるんですけど、なぜスイカ作りを辞めたかというと、手間の割に儲からないからですよね。だから、「僕が毎年そのスイカを注文していたら、あの農家さんはスイカ作りを辞めなくてもよかったのかもしれない」と思ったんです。

それまでも、スイカを電話で注文するとき、「今年からスイカを辞めて他の作物に変えたんです」と言う農家さんがけっこう多かったんですよ。本当においしいスイカを作れる農家さんってすごく少ないのに、その農家さんがどんどんスイカ作りを辞めている。それが悲しくて悲しくて、スイカ業界のために何かをしたいと思いました。

──それでスイカのECサイトを?

佐藤:はい。だけど、構想はあってもお金はないし、そもそもどうやって実現していいかわからない。とりあえず、できることから発信しようと思い、Twitterでスイカのレビューを始めました。そしたら反応が良くて、スイカに興味のある方がたくさんフォローしてくださるようになったんです。

佐藤:それで、いよいよECサイトを作ろうと思ったんですが、システムを作るのってめちゃくちゃお金がかかるんですね。それなら自分で作ろうと思い、プログラミングスクールに通ってエンジニアになりました。働きながらシステムのイロハを学ぼうという作戦です。

──本当に行動力がすごすぎます……!

佐藤:1年ほどエンジニアとして働いて、ある程度の技術を習得したところで会社を辞めました。そして自分でサイトを作ったんですが……。僕、すさまじくデザインのセンスがなくて。

──えっ!?

佐藤:結局、サイトは外注することになりました(笑)。でも、仕様の相談や金額の交渉がスムーズにいったのは、エンジニアの経験があったからだと思います。

──そして、スイカ農家さんを訪ねて回ることになったんですね。

佐藤:はい。協力してくれる農家さんのあてもないのに、ずっとTwitterで「スイカのECサイトをやりたい」と言いつづけていたんですが、熊本の「つのだふぁ~む」さんが僕のツイートを見つけてくれて。

「うちのスイカおいしいよ。一度会いに来ない?」と誘っていただき、実際に会いに行きました。そこでスイカECサイトの構想を話したら共感してくれて。そこから、実際にスイカ農家さんに会いに行くことにしました。

──電話じゃなく、直接会いに行ったんですね。

佐藤:それが一番、思いが伝わりますから。それに、たとえいいスイカを作る方でも、向いている方向が違うとミスマッチが起きると思うんです。だから実際にお会いして、「なぜスイカを作っているんですか?」と聞いて回りました。

スイカ以外にも作物はいくらでもあるじゃないですか。そのなかで、どうしてスイカを選んだのか。その答えを実際に聞いてみたかったんです。

──味だけでなく、向いている方向も確かめて出店を依頼したんですね。どのくらいの農家さんが賛同してくれたのでしょう?

佐藤:30軒ほどの農家さんにお会いして、そのうち13軒の農家さんが協力してくれることになりました。そして、2020年の4月に「あまいスイカ」を無事オープンすることができました。

▲「あまいスイカ」には現在は15軒の農家が出品している

おいしいスイカを作っている農家が、スイカだけで生活できるように

──スイカ作りを辞めてしまう農家さんも多いんですね。

佐藤:スイカの作付面積が30年前と比べると約60%減っているんですよ。今も毎年3%ずつ減っています。このままだと10年後は30%減るし、いつかはスイカがなくなってしまうという危機感がありますね。

──スイカ農家さんが減少している理由は何でしょう?

佐藤:理由は2つあると思います。1つめは、農家さんの身体的な理由。ご高齢だったり、腰や膝を痛めてしまったりです。

──確かに……。スイカは重いですもんね。

佐藤:2つめは、スイカが「こだわったぶん儲かる」仕組みになっていないからです。

佐藤:一般的なスイカ農家さんは農協や生産部会にスイカを出しています。そこで、いろんな農家さんが持ってきたスイカをまとめて、ランク付けしているんですね。たとえば熊本なら「糖度10.5度以上」が基準で、それをクリアしているスイカをサイズによってランク付けします。

──なるほど。

佐藤:ただこの仕組みだと、基準さえ超えていれば、糖度14度のスイカも、10.5度のスイカも、サイズが同じであれば同じ価格です。最近は「糖度が高ければ何百円か上乗せ」というシステムもあるみたいですが、それも微々たるレベルです。

──「おいしいスイカを作ったらそのぶんお金が入ってくる」という仕組みがないんですね。

佐藤:糖度の高いスイカを作るのには手間がかかります。それならみんな、「10.5度のスイカをたくさん作ったほうが儲かる」と思ってしまうじゃないですか。実際、その考えでやってきた産地も多い。僕はそこを変えていきたいんです。

▲さらに、経由先が多くなると、農家の手取りが低くなってしまうという問題も

佐藤:また、スイカ農家といえど、スイカだけを作っている農家さんはごく少数です。夏はスイカ、冬は白菜やキャベツなど、他の作物も作ってようやく生活が成り立っているんですね。

でも、それだとスイカを育てながら、他の作物のことも考えないといけませんよね。だから僕は、「おいしいスイカを作るスイカ農家が、スイカだけで生活できるようにする」というのを目標に掲げています。

──まさにスイカ業界の未来を変える目標ですね。「あまいスイカ」の売り上げで、スイカだけで生活できるようになった農家さんはいらっしゃるのでしょうか?

佐藤:はい。また、「冬に作っている別の作物は赤字だったけど、スイカの売り上げがアップしたから補填(ほてん)できた」という農家さんもいます。そういう農家さんをどんどん増やしていきたいです。

コタツでスイカを楽しめる! 秋スイカ・冬スイカとは

──立ち上げてから2年ちょっとで、スイカ好きに認知された「あまいスイカ」ですが、どうやって集客しているんですか?

佐藤:集客は基本Webです。エンジニアをしていたとき、SEO(検索エンジン最適化)について知る機会があったんですね。検索したときに表示される順番が違うだけで、売り上げに大きな差が出る。なので、検索ボリュームがある「スイカ あまい」で検索したときトップに表示されるよう、サイト名を「あまいスイカ」にしました。

──前職の経験が生きているんですね。

佐藤:ただ、認知が広がったという面では、テレビの力が非常に大きかったですね。いろいろ出演させていただきましたが、もっとも反響が大きかったのは『マツコの知らない世界』(TBS)。番組が始まってすぐに同時接続が14万件になりました。

──すごい! 売り上げにもつながったのでしょうか?

佐藤:はい。放送日が8月だったので、すでにその年のスイカは売り切っていて。だから翌年の予約販売をしていたんですが、それがあっという間に売り切れました。

──えっ、8月中なのに、すでに売り切れていたんですか!?

佐藤:スイカには8月のイメージがあると思うんですが、実はお盆くらいまでなんですよ。

──知りませんでした。じゃあ、お盆を過ぎたら来年まで待たなきゃいけないんですね。

佐藤:いやいや、そんなことはありません。あまり知られていませんが、秋スイカ・冬スイカもあります。

▲「あまいスイカ」には11月からの予約商品も。これが秋スイカだ

──えっ、秋や冬にスイカが食べられるんですか!?

佐藤:はい、ハウスで作っている農家さんがいます。うちで取り扱っている高知の農家さんは秋冬をメインに作っていますし、沖縄でも11月・12月から収穫が始まります。

──秋スイカ・冬スイカならではの魅力はありますか?

佐藤:秋や冬にしか食べられない品種があります。味も夏スイカとは違いますし、秋冬スイカのほうが果肉がちょっと柔らかめな印象ですね。

なにより珍しいので、秋や冬にスイカを贈るとめちゃくちゃ喜ばれますよ。夏のスイカもおいしいですが、秋冬のスイカはまた違う楽しみがあるので、ぜひコタツでスイカを食べてみてください!

おいしいスイカの見分け方

──スイカマニアの佐藤さんに、ぜひおいしいスイカの見分け方を教わりたいんですが……。

佐藤:玉で買う場合はツルの色を見ます。スイカは追熟しない作物なので、収穫してから日が経つごとに品質が劣化してしまうんですね。ツルが茶色くなっていたら、収穫してから日数が経っています。

また、ツルの根元がくぼんでいて、その周囲がモリっとしているものや、お尻の部分がへこんでいて自立するもの。黒と緑の縞模様がくっきりしていて、触ると凹凸を感じるものがしっかり肥大していておいしいです。

──よく「叩いて音を聞く」と言いますが……。

佐藤:あれは、中の空洞を音で聞き分けているんです。ひびや空洞があるスイカは音でわかります。

でも、必ずしも空洞が悪いというわけではなくて。僕のおすすめは、種の周りにちょっと空洞ができはじめて、真ん中に少しだけ亀裂が入ったスイカ。そのくらいが完熟で一番好みです。

──少しだけ亀裂が入ったものがいいんですか? 今度からカットスイカは亀裂が入ったものを買うようにします!

佐藤:カットスイカを選ぶコツはもうひとつあって、皮と果肉の境目がくっきりしているものを選ぶといいでしょう。境目がぼや~としているものは、ちょっと収穫期が早いんですよ。

──すごい……。次はそこに注目してみます!

「スイカで感動したことはありますか?」

──お客様からの声で印象に残っているものはありますか?

佐藤:ご高齢の方やご病気の方が「最期にスイカを食べたい」と望むケースがけっこうあって、ご家族から感謝の言葉をいただいたことがあります。

実は、僕が生まれる前に亡くなった祖母も、最期にスイカを食べたいと言ったらしくて。当時はECサイトがなかったので、父が頑張ってスイカを探してきて、祖母はとても喜んでいたそうです。

──生まれる前からスイカのエピソードがあるんですね……!

佐藤:あと、うちでスイカを買ったお客様がすごく感動して、農家さんにお手紙を送ってくれたこともあります。農家さんも、とても喜んでいました。

──それは佐藤さんとしても嬉しいですね!

佐藤:はい。農家さんからは、「今まではただスイカを育てるだけだったのが、メッセージのやりとりをしていく中でお客さんの顔が浮かぶようになった」「直接リアクションをもらえるからやりがいにつながる」などと言ってもらえて……。この仕事を始めてよかったなぁと思いますね。

──今後、「あまいスイカ」でやっていきたいことはありますか?

佐藤:ジュースなどの加工品にもチャレンジしたいです。僕自身もそうだったんですが、「おいしいスイカジュースに出会ったことがない」と言う人が多いんですね。だけど、たくさん試作しておいしいスイカジュースができてきたところなので、どんどん国内外に広げていきたいです。

──読者の皆さんに、スイカの魅力を伝えるとしたら?

佐藤:僕はスイカに感動して人生が変わった人間なので、皆さんにも「スイカで感動したことはありますか?」とお聞きしたいです。スイカで感動したことがない方は、まだ好みのスイカに出会っていないだけかもしれない。

一人一人、好みのスイカって絶対にあると思うんですよ。だから、いろんなスイカを食べてみてほしいですね。自分にぴったりのスイカが見つかったら、きっと人生が変わると思います!

「あまいスイカ」でスイカを買ってみた!

実際に「あまいスイカ」でブランドスイカを購入してみました。

サイト内には「スイカマニアランキング」なるページがありました。皆さん、こんなにたくさんのスイカを食べているんですね……!

ふだんあまりスイカを買わないのでどれがいいか悩みましたが、佐藤さんに相談に乗ってもらい、山形県尾花沢市の菅野喜広さんが作る「山平すいか」をチョイス。「夏ごのみ」という品種だそうです。

家に届いたときから、あまりの大きさに驚きました。重い……。確かに、これを何百玉も運ぶ農家さんは重労働だなと思いました。

食べてみると、今まで食べたスイカの中で一番あまい! 種の周りが緩みはじめていて、スプーンの先でつつくと種がポロポロ落ちるくらい完熟です。あまいけれどさっぱりしているので喉が渇くこともなく、身体のすみずみまでスイカが染みわたっていきます。

食べきるのに5日ほどかかりましたが、びっくりするほど味が落ちませんでした。個人的には、冷蔵庫でしっかり冷やして塩をかけて食べると、味がよりくっきりして好みです。冷蔵庫にスイカがあった5日間は、休憩時間のスイカを楽しみに仕事に励むことができました。

スイカは身近なフルーツですが、こうやってスイカとしっかり向き合って食べるのは初めてかもしれません。みんな同じに見えていたけど、こんなに違うのか……とスイカに対するイメージが大きく変わりました。この記事を執筆したのは9月ですが、秋冬はまた違った産地・品種のスイカが出回るそうなので、食べ比べてみると、また違った世界が見えてくるかもしれません。

佐藤さんによると、秋や冬にしか食べられない品種があるほか、夏に比べて温度が低いため、夏のスイカとは違う育て方をするそうで、夏スイカと同じ品種でも味が変わるそうですよ。

ごちそうさまでした!

書いた人:吉玉サキ

ライター・エッセイスト。北アルプスの山小屋で10年間働いた後、2018年からライターに。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』『方向音痴って、なおるんですか?(交通新聞社)』がある。手が大きいので巨大なおにぎりを作れる。

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