カレーは「しゃば派」か「どろ派」か 〜しゃばしゃばの薬膳カレーを求めて〜

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しゃばしゃばのカレーが好きです。

とにかく水っぽくて、ライスにかけたら汁かけご飯のようにしゃばしゃばになるカレーが好きです。みんな「しゃば派」だと思ってるけど、違う?

 

そんなしゃばしゃばカレーがおいしい「かれんど」ってお店が調布にありまして。立地はですね、京王線調布駅東口を出て、狭い路地を入って奥に進む。路地の入り口がわかりにくいのでご注意。

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「かれんど」のカレーは理想的なしゃばしゃばカレーなのですが、「薬膳カレー」というワードでの評判も高い。要は「身体にいいカレー」として有名なんですね。

単においしいだけでなく薬膳でもある、というお得感にいたく興奮したので、マスターにお話をうかがうことにしました。

それがまさか、6000年を越える人類史の深淵を覗きこむことになろうとは、このときの僕らは気づきもしなかったんだ。

 

独自進化を遂げたしゃばしゃばカレー

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チキンカリー。600円。

ライスと別盛りのしゃばしゃばのカリー。豆腐サラダ付き。付け合わせのザワークラウト風タマネギがおいしいです。

 

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ご覧のとおり、しゃばしゃば。北海道のスープカリーとは出自が異なり、インドカリーを越えることを目的に1985年から独自進化を続けた結果のこのカリー。

スパイシーで甘みがあってご飯にすごく合う。とにかく旨味がすごいんです。良いカレーっておいしさが複雑にできあがってますよね。それ。このシャバさでそれなのよ。

 

マスターの話はタージ・マハルから始まった

かれんどの創業者、鈴木壽彦さん。やわらかい関西イントネーションで情熱的に話してくれます。すごい圧力のはんなりトークです。

いまは息子さんにお店を譲っているので元マスターという立場です。

 

インドでは何千年も前から、ヤカン(薬缶)にショウガの紅茶を入れて飲んでた。薬効があり、殺菌力があり、みんなの病気を自然体で治してくれる「お薬」。お茶とスパイスを一緒にグラグラ煮立てて、そのヤカンから出てくるお薬のことをKARIと言った。どういうわけかカテキンとスパイスを合わせるわけよね。それも、卑弥呼が出てくる何千年も前によ。

 

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三蔵法師はお猿さんと沙悟浄と、なんだっけ、猪八戒を連れてインドに行って、経典と薬草学を持って中国へ帰った。中国では漢方が発展して、それが朝鮮半島から日本に渡ってくるときに、薬缶も一緒に入ってきた。

薬缶は本来は「やっかん」というのよ。薬の入れ物。それをヤカンって言っちゃってね。日本では、せっかく中国からもらってきたスパイスを大事そうにお寺に置いてしまって、ちゃんと料理にできないわけ。ただお湯で煎じて「苦い苦い」って飲んでさ。それをインドでは何千年も前から玉ねぎの煮汁だとか、そこら辺を飛んでる野鳥を捕まえてギャッて裂いて、それを入れてた。でも横にいる牛ちゃんは宗教上食べない。インドは水もあれだし、疫病だとかでお腹こわしたってときに、薬缶からこれを飲んだら治ったなんて話があるらしいと。

 

求めるのは切れ味のいいカレー

30年前に有名な商社を脱サラして「かれんど」を開店。実家は京都大阪で料理旅館をやっていたということで、まずはカレー屋に限らずいろんなお店を考えていたらしいです。

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ナポリタンのお店にしようか、おじさんは関西出身だからめちゃくちゃうまいお好み焼きにしようか。なんでもいい。人間ってそうじゃん。とりあえずお店をやろうと思っても、内容をどうするかは最終決定事項なわけで(笑)。

 

商社の友人などからインドカリーの話を聞いたり、趣味でインドカリーをスパイスから作ってたりしたこともあって、結局はカレー主体のお店になったそう。それから32年も続けているのだから大正解だったことになるのではないでしょうか。前職が商社マンということで、スパイスの調達ができる環境だったのではないかとも想像できます。

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スーパースパイシーなインディアンカレーに興味があったから神田あたりのカレー屋に食べに行ったんだけど、なにか違う。クワーッと来るのがない。カレー屋を始めて2年くらいは試行錯誤の繰り返しだよ。

ホンマモンで、スパイシーで、食べるとキュッとする、切れ味の鋭いものを作ろうと。それがいまだに続いている。むずかしいね。気候風土も違うし。

家の「お母ちゃんカレー」は別として。あれはおいしいものだからね。

「お母ちゃんカレー」はおいしいけど、小麦粉でとろみをつけて、ジャガイモも入れて、でんぷん質も多めで……、

こっちの世界はというと、シャキッとしているでしょ。玉ねぎの煮汁のみで。スパイスと、ちょっとしたコンソメだけで。

カレー屋さん始める2、3年前にこっちのほうがいいと思ったんだよ。

 

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ここのカレーは作るのに8時間かかるらしいです。さらにチキンの他にポークやビーフもあるんだけど、スパイスはぜんぶ調合が違うんです。チキンカリーはオレンジ色だけど、上の写真のビーフカリーは色が濃い。茶色いカリースープです。

 

あんかけさんのおうどんとスパイシーカリー

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求めるところは鋭さ、シャープさ。味噌汁のようにおいしくて、インドのカレーみたいで。それがようやく完成したかなとなれば、派生的にカレーうどんも作れるかなってなってくる。

ここで一番人気なのは、あんかけさんのカリーうどんなんだよ。あんかけの、これ以上ないってくらい本出汁の効いたとこにうちのスパイシーカリーを入れて、あんかけさんにしてある。しかも生姜あんかけよ。

 

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言うが早いか、マスターはあんかけカリーうどん(850円)を注文。判断と行動が早いです。

撮影用の箸上げまでしてくれるマスターはあれよあれよという間に大盛りの生姜を手早く溶いていきました。

 

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これがね、つぶつぶになってるでしょ。ジンゲロールがショウガオールに変わった5秒後の姿。どろどろでしょ。インドカレーが入ってるから普通のうどん屋さんのカレー粉とは違うのよ。ターメリックもカルダモンもショウガ科よ。生姜あんかけは近畿大阪に昔からあるのよ。これも薬膳よ。そこにおじさんがさらにインドカレーを入れたのよ。

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すごく熱い、すごくおいしい。

たまたま居合わせた大学院生の山本さんもおいしさに大喜びです。小汗をかきながらも、うどんをすする手が止まりません。

 

土佐のカツオと、利尻の昆布と、瀬戸内の小豆島の近辺を泳いでいるおじゃこさん。おじゃこさん自体も瀬戸内の底の色に擬態してきてね、ちょっと透き通ってるの。関東のおじゃこさんは黒い筋が入るでしょ。関西の人はあまり筋の入らない白っちゃけたおじゃこさんを使う。

このおつゆの中にご飯入れたらめちゃうまだよ。

 

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あっという間にミニライスが追加されました。

マスター、判断早いよー。

あんかけカリーうどんの汁にご飯を入れました。

本当にめちゃうま。本当のめちゃうま。

常連のお客さんの中にはこれが好きで、あえて「うどん抜き、ご飯つき」の注文をする人もいるそうです。

 

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いやマジで、しゃばしゃばカレー好きとしては、このカリーうどんの汁にライスという組み合わせはちょっと中毒性があります。

マスターの実家が関西の料理旅館だったこともあるのか、出汁のうまさがハンパないのです。

 

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スパイシーカレー、出汁の旨味、しゃばしゃば。

かれんどが持つポテンシャルを最も味わえるのが「あんかけカリーうどんの汁+ご飯」かもしれません。

たまたま居合わせた大学院生の山本さんは「うわあ、すごくおいしい」と言ったきり食べっぱなしです。さっきうどんをすすってた彼女が加速するほどですよ。ヤバいですよ。

 

水炊きシメの雑炊っぽい親子丼は出汁がすごい

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かれんどのもうひとつの軸である「出汁」を象徴するのが京風親子丼(700円)です。マスターの実家で評判がよかった鶏水炊きの雑炊に近いものだそうです。つまり水炊きを食べての最後のアレです。あー、そりゃうまいに決まってるわ。

 

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親子丼とはいうものの、ひたひたの汁メシ。これはたまりません。しかも出汁は関西スタイルの、透き通っていながら複雑で濃厚なヤツです。ぷりっとした鶏肉にふんわりの卵。過剰なまでにひたひたの出汁。ずるずるとナンボでも食えるタイプの京美人です。

 

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マスターの奥さんがおもしろいことを言ってくれました。

 

韓国の人が大好きなのよ。

こういう味付けは向こうに無いらしくて。新しい留学生が来ると先輩の韓国人留学生が連れて来て京風親子丼を食べさせるの。後輩に「普通の親子丼じゃなくて、かれんどの京風親子丼」と教えるらしいのね。

 

韓国にはいろんな汁ご飯がありますが、そんな汁メシ文化を持つ国から来た若者さえも虜にするインターナショナルな旨味なんスよ。

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たまたま居合わせた大学院生の山本さんが「これおいしいよ」と言いながらどんどん食べてしまいます。おい待て、残してくれ。

 

お値段変わらず30年

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ここは調布、電気通信大学の近くです。いまどきこれだけの手間とクオリティーのカレーを600円というのも驚きですが、メニューや品書きには年季を感じます。

 

30年変わらない値段でやっているんだ。電通大の下宿生もいるんだから。

ここに来る大学生は、電通大とか明治とか法政とか中央とかいろんな大学あるけど、特に電通大。あそこは大学院行くのが多いから卒業年齢が24、25歳なのよ。30年経つと55歳でそろそろ定年のやつらが全国に散らばってるでしょ。そいつらがいまだに来てくれるのよ。

まじめな話ね、玉ねぎの煮汁のアリシンとスパイスで身体の調子が良くなると思って作ってるだけよ。来た人がそのインディアンスタイルのヘルシーメニューを食べてくれればいいと思ってやってるだけよ。儲かるんだか儲からないんだかわからんけど。こんなちっこい店だけど、インドやバングラデシュのカレーを打ち負かそうと思ってやってるわけよ。

 

実際それがおいしいんだから参っちゃうところです。

しゃばいカレーを求めて行ったら、すごいカレーうどんとしゃばい親子丼にも出会ってしまったという、かなりいい話になってしまいました。

しゃばカレー好きならばぜひ行って食べるといいです。日曜定休。調布駅からすぐ。シャノアールと果物屋の間の角んとこ入る。

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お店情報

かれんど

住所:東京都調布市布田1-43-3104
電話番号:042-488-3157
営業時間:12:00~24:00
定休日:日曜日、年末年始

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。好きな立教OBは中島かずき。

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