(※この記事は緊急事態宣言前の2020年12月頃に取材したものです)
回鍋肉には四川風と日本式の2種類がある
四川料理のスゴイ人、日本橋の中華料理店「リバヨンアタック」料理長の人長良次さんに、回鍋肉を作ってもらいました。
四川風と日本式、ふたつの回鍋肉はぜんぜん違ってそれぞれうまい。
そしてこのふたつ、言ってしまえば「同じ料理」なんですよ。
その理由は、読めばわかる。やればできる。
回鍋肉の回
──回鍋肉のホイとはどういう意味なんでしょう。「中華鍋をガンガン振り回して作るぜー!」っつーイメージの字面なんですが。
人長:たしかにホイ(Hui)とは「回る」ということなんですけど。
人長:ひとつの鍋の中で、まずかたまりのお肉を茹でるんですよ。で、それを薄く切って、また鍋で炒めて焼き目をつける。そして鍋から出して、今度は醤(ジャン)と一緒に炒める。
茹でる、焼く、炒める。このように肉が何度も鍋へ出入りする。このサイクルを「回る」と表現したものなんです。それで、回る鍋の肉と書いて「回鍋肉」というんですね。
──「鍋を豪快に振り回す」という意味ではなかったんですね。
今回作っていただく回鍋肉は、四川風の回鍋肉と、日本で馴染み深い回鍋肉のふたつです。
四川風といっても厳密なレシピではなく「人長さんが四川省でいろいろ食べてイメージした最近の味」となります。
なぜなら、回鍋肉はそもそも家庭料理なので決まったレシピは実は存在しないんです。
手もとにある食材でチャチャッと作るものであり、食材や調味料の組み合わせもビシッと定義されているわけではないんですね。
もともとは骨付きスペアリブを使っていたなんて説もあるくらい、地域や時代によって具材も調味料も変化してきた料理なのです。
四川風回鍋肉(2人分)
【材料】
- 皮付き豚バラブロック 250g(500gのブロック肉を茹でて、250g切り出して使う)
- 芽ニンニク 1束[できれば葉ニンニク1本]
- 長ネギ 1本
- ニンニク 2片
- 生姜 20g
- 油 大さじ1
調味料
- 鷹の爪 10g(半分に切って、種子は抜いておく)
- 豆鼓 10g
- 豆板醤 大さじ1/2
- ピーシェン豆板醤(郫県豆板醤) 大さじ1[豆板醤で代用可]
- 甜麺醤 大さじ1[なければ砂糖 小さじ1]
- 紹興酒 大さじ1[料理酒で代用可]
- 酒醸(チューニャン) 大さじ1[みりん、甘酒で代用可]
- 醤油 小さじ1/2
- 自家製ラー油 適量
食材について
人長:まずお肉を茹でるんですよ。そう。これをね。
──わははははは、これまたハードル高いヤツきたなあ。
人長:今回は皮付きで用意しました(笑)。なんでかと言うと、中国では皮付きの豚バラ肉を使った回鍋肉が基本なんですね。逆に皮がついてないものは向こうでは見たことがないほどで、皮のゼラチン質がすごくおいしいんです。
──うへへ、なるほど、うまそう。
人長:そこいらの肉専門スーパーにいくと、500gパッケージとかで皮あり皮なし両方売ってるんで。商店街のお肉屋さんに注文すれば手に入ると思いますよ。なければ、スーパーで売ってる皮なしの豚肉ブロックでも十分です。今回は、本場の四川風ということであえて皮つきを使います。
──うれしい。ありがたい。
人長:かたまり肉じゃなくても、スライス肉を買ってきて茹でてもかまいません。ただ「お肉を食う」という気持ちの場合、こっちのほうが断然おいしいです。
──ひょっとして回鍋肉はお肉を食べる料理なんすか。肉野菜炒めみたいなイメージでしたけども。
人長:肉料理ですねー。僕も日本で食べるものが当たり前だと思ってたんですけど、中国で「これが回鍋肉だよ」って言われて「えー?」って驚いちゃって。お肉がめちゃくちゃおいしいんですよ。脂の部分が甘くて。
日本でも探したけど、なかなかあの肉質は見つからないですね。中国って、豚肉がいちばん高級品なんです。牛肉よりも豚肉のほうが「ありがたいもの」だから、すごくこだわってるのかなって。
──あと難しそうな食材といえば葉ニンニクですが。
人長:葉ニンニクもなかなか手に入らないかもしれません。上野アメ横とかの、中華食材専門のお店だと売ってるんですけど。ホントはこれを使うと本格的でおいしいんですけどね。もちろんスーパーで買える芽ニンニクでも作れますよ。
──レシピにある、ピーシェン豆板醤ってなんですか。
人長:四川省のピーシェン(郫県:現在の成都市郫都区)というところで作られている豆板醤なんですけど、3年くらい熟成されてて、色が赤というよりも褐色、黒くなっているじゃないですか。
▲左がピーシェン豆板醤。右の通常の豆板醤から熟成が進むと年季が入った色になる
人長:若い豆板醤って唐辛子の辛味のほうが強いんです。ピーシェン豆板醤はコクがしっかり出ていて、辛さもマイルドになっています。つまり、おいしくなってます。
1ホイめ:肉を茹でる
人長:まずはいちばん時間かかるものから。この豚肉500gを1時間半茹でます。
──……え?
人長:はい。1時間半。ポコポコするくらいの火加減で、1時間半。
──固くなったりしないんですか。
人長:ならないんですよ。しっかり厚みがあるので。
──(さすがに時間がかかるので、完成品と差し替えてもらいました)。
人長:この生肉が……。
人長:茹でるとこうなります。
──うわあ、台湾の故宮博物院で見たことある!
人長:それトンポーローね。今日は回鍋肉。
──下味もなにもなく、お湯で茹でるんですもんね。
人長:ただのお湯です。一度沸騰してから、火を弱めてもらって、ポコポコと揺れるくらいの火加減で入れてください。目安は1時間半ですね。
お箸をブスッと刺していただいて、血が出ないようであればオーケーです。ただし、アクは取ったほうがいいですね。
──強すぎない火加減で茹でて、アクは取ると。
人長:このお肉を切ります。ワンホイした肉ですね。
──回鍋肉の「ホイ」1回目でワンホイ。
人長:ワンホイめのお肉なんですけど、お肉にはスジがあります。
人長:お肉の繊維がこんなふうにタテに入っていますので。
人長:その繊維を断ち切る方向に切ります。繊維に沿って切ると食感が固くなってしまうんです。
──い~い断面だな! 1時間半茹でて、まだこの色ですか。
人長:そうなんです、えへへ。あと、茹でて、冷蔵庫に入れちゃうとどうしても固くなっちゃうんです。理想は、冷やさないほうがいいんですけど。常温でゆっくり冷ますと固くならない。
人長:均一な厚さでスライスします。
──2〜3ミリくらいですね。肉を切っていると、刃に脂が回って切れなくなるって話ですけど。
人長:これはのこぎりみたいにキコキコ動かしてるだけで、包丁の重さで下におりてくるんですよ。
──断面キレイだなー。隙あらばそうやってテクを見せてきますよね。
人長:テクというか、料理人なんでこれが当たり前です。お客様にいいものを食べてもらうためにはこれくらいできないと。
人長:切り出したぶん、250gを使います。
切りもの
──切りものは長ネギ、葉ニンニク、ニンニク、生姜ですね。
人長:長ネギから切っていきます。切り方は、中華では「片(ピェン)」と言いますけど、まあスライスです。今回はこうして隠し包丁を入れてから切り落とします。
人長:真ん中入れて、切る。真ん中入れて、切る。
──8ミリ厚の斜めスライスだけど、真ん中に切れ目が入っている。
人長:すると、この厚さでも火が入りやすくなるんです。ネギは生だとやはり辛いので、火は通してあげたい。でもペラペラにしちゃうと、炒めたときにスカスカになっちゃうので、厚さはほしい。火は通ってるけどスカスカにしたくない。そのための隠し包丁と厚みなんです。
──知恵だなー。
人長:今日は葉ニンニクで。上の葉っぱの部分をザクザクと切ります。
──二つ折りになってるところを開いて。
人長:ここに砂が入っていることがあるんで。汚れを取れやすくします。
人長:下の白っぽいところは回し切りにします。
人長:切った断面をこんなふうに上に回してきて、切る。これを繰り返します。そうすると同じ大きさに切れる。根元に近いところは硬いので、縦にふたつに割ってから、だいたい大きさをそろえて切りましょう。
人長:これを水で洗います。
──葉先と根本だと香りが違うんですか。
人長:嗅いでみてください。
──うお、ぜんぜん違う。もう食べたい。
人長:ニンニクと生姜を切ります。
人長:繊維を断ち切るように、スライスです。このときの生姜の皮は捨てないで、豚肉を茹でた汁と合わせて煮てスープを作るとうまいんですよ。
人長:はい、切りものは以上です。
──はやいなー。豚肉が茹で終わってればすごく早くできる料理なんですね。
2ホイめ:肉に焼き目をつける
人長:焼きますよ。手順の確認です。ワンホイしたお肉を、ツーホイします。
──鍋で茹でた肉を切って、鍋で焼くという意味ですね。
人長:ここで焼いて、取り出したら、最後にスリーホイします。
──調味料や野菜と一緒に炒めるという意味ですね。たしかに回ってる感じですね。
人長:フライパンに油を大さじ1。
人長:油はあまり多くしないでください。豚肉からも油が出るので、ギットギトの仕上がりになってしまいます。でもまったく油がないとお肉がくっついちゃうので、安全策です。
人長:で、注意して欲しいんですけど。この皮の近くにあるゼラチン質、焼くとめっちゃ油が跳ねます。フタを用意しておくといいかもしれません。
──含んでる水分が多いのかー。
人長:このようにギャンの盾を用意してもらって。
──これはいいものだ。
人長:片手に盾を構えて焼きます。肉を入れるときは一旦火を止めてください。あぶないので。
──肉は重ならないほうがいいんですね。
人長:重ねません。表面をちゃんと焼いてあげたほうがおいしいです。フライパンの大きさに合わせて、何回かに分けて焼きましょう。火力は全開です。だらだら焼くと油がどんどん出ちゃうんです。
──焼き目をつける。焼き色の目安とかありますか。
人長:キツネさんくらいですね(バチバチバチー!)。
──すごく跳ねますね。(油が跳ねる)あっちー! アッザムリーダーくらい熱い!
人長:はい、ここでギャン盾入ります。フタをかぶせます。
人長:中華鍋だと「煎(ジェン)」といって振りながら焼くんで、跳ねないんです。
──フタの下でポンとかパンとか鳴ってますね。
人長:ポップコーンみたいですよね。
人長:火を止めて、肉と対話します。(ポン、パン)もういいかな。
人長:軽く色がつくくらいでいいです。このあとまた焼くし、焼きすぎると固くなっちゃうんで。
──豚肉だけでなにも入れてないのにスゲーいい香りですね。
人長:肉をひっくり返して、また焼きます。油がはねたらギャン盾をかぶせて防御してください。
人長:両面が焼けました。ワンホイめの肉と比べるとこれくらいになります。
──いい匂い、食べたい。逆にいうと、皮がなければこんなには跳ねないんですね。
人長:皮と脂の間に水が残ってるんですよ。水分が跳ねるんです。中華鍋だと高温で一気に焼くので、たぶん跳ねる前に水分が蒸発してるんじゃないかと思うんですよね。さて豚肉はお皿などに逃しておいて。
──しっかし、フライパンの中の油、すごいですね。
人長:この油はおいしいので、このまま使いまーす。
ジャンを作る
人長:豚肉から出た油を利用しますよ。ここにニンニクを入れて火をつけます。焦げないように弱火です。
──スライスのニンニクです。
人長:香りを移すんです。フライドガーリックってほどじゃないですけど、ちょっとカリッとさせます。葉ニンニクも入りますから、ここでは香りもそんなに強く出さなくてもいいですね。
──わっはっは、このうまそうな匂いよ。
人長:ちょっとキツネ色になってきましたね。そしたら鷹の爪を入れてあげます。10g。半分に切って、種子は抜いておいてください。
人長:鷹の爪の香りが出てきましたね。そしたら次、生姜。
──生姜はニンニクスライスと同じくらいのサイズです。
人長:ずっと弱火です。香辛料というか香味野菜というか、とにかくこれらは焦がしちゃうとおいしくないんで。生姜の香りも上がってきました。
そしたらちょっと火を消しますね。手早くやってもいいですけど、焦がしたら元も子もないので、火を消しながら進めたほうが安心で確実です。
人長:火を消した状態で豆鼓を入れます。10gです。
人長:ピーシェン豆板醤を大さじ1と、普通の豆板醤を大さじ1/2。
──ピーシェン豆板醤がない場合は、普通の豆板醤を大さじ1にして代用すれば大丈夫です。
人長:そして火をつけます。焦がさないように弱めの火力で。
人長:ここで紹興酒、大さじ1。これは、醤(ジャン)が入ると焦げやすくなるので、焦がさないための水分です。料理酒でもいいんですけど、紹興酒は香りがいいので。
人長:香りが出てきましたら、甜麺醤、大さじ1。もし甜麺醤がなければ砂糖を小さじ1でも大丈夫です。
人長:次に酒醸(チューニャン)。大さじ1。
──酒醸(チューニャン)は甘酒かみりんで代用できます。
人長:できました。これが回鍋肉の醤(ジャン)になります。味見をしてと。
──ここで味見なんですね。
人長:そうです。醤油を入れる前に味見します。なんでかというと、豆板醤の種類によって塩分が違うんで。しょっぱくて、醤油がいらないときがあるんです。塩分がもの足りないと感じたら、ここで醤油を小さじ1/2入れてください。
3ホイめ:醤と炒めて完成まで
人長:いよいよ完成までいきますよ。醤(ジャン)ができたフライパンにスリーホイめの豚肉が入ります。
人長:豚肉と、長ネギ。葉ニンニクですね。
人長:ご家庭で芽ニンニクを使う場合は、先に軽く炒めてあげたほうがいいかもしれないですね。どうしても固いので、先に別途で火を入れたほうがいいかもしれません。
人長:全部入れたら火を全開にします。
──強火なわりに、手付きはそっと混ぜるんですね。
人長:あまりガンガンやると、豚肉がちぎれちゃうんですよ。醤(ジャン)が少ないと思われるかもしれませんが、ちゃんと混ざるとちょうどよくなります。重なってる肉は外してあげて、味がつかないところが無いように。
人長:いったん、ネギで味を見ます。
──これで足りないと感じた場合は、さらに醤油で調整するんですね。
人長:そうですね。醤油をちょい(分量外)。もうよさそうだな。
人長:最後は、特製ラー油で仕上げます(ダバババー)。
──ダバババーと、けっこうイッたな。
人長:は? ふふふ。
──とぼけているな。
──辛い料理は赤い。こういう場合は白いお皿がいいですね。
──見慣れた回鍋肉とはぜんぜん違うものができてきましたぞ。
おなじみの日本式回鍋肉
──陳建民さんが、日本の人の味覚に合わせて作った回鍋肉。日本で手に入る食材と調味料で、日本人の口に合うようにとローカライズしたもので、いま一般に回鍋肉というとこっちになりますね。
人長:陳建民さんは素晴らしい回鍋肉を作ってくれましたよね。辛味よりも、肉や野菜の甘みが日本人の感覚に合うんですね。
日本式回鍋肉(2人分)
【材料】
- 豚バラ肉 250g
- 長ネギ 1/2本
- ピーマン 1個
- パプリカ 分量外
- キャベツ 200g
- 油 大さじ1
調味料
- ニンニク 2片
- 生姜 20g
- 豆鼓 10g
- 豆板醤 大さじ1/2
- 紹興酒 大さじ1
- 甜麺醤 大さじ2[なければ砂糖 小さじ2]
- 酒醸(チューニャン) 大さじ1[みりん、甘酒で代用可]
- 醤油 小さじ1/2
- ごま油 小さじ1/2
人長:ネギの切り方、一緒です。
──早い。二度目は遠慮がない。
人長:ピーマンは真ん中切って、ヘタを取って、こんな感じで掃除します。
人長:これを食べやすい大きさに切る。
──ふむふむ。タテに八分の一にして、それを斜めに切ると。
人長:僕くらいの達人になると、こうですよ。なんとピーマンが切られたことに気づいてない。というのはどうですか。
──すごいっ……、達人だ。はい。みなさんは包丁で切ってください。
人長:パプリカは色味の部品なので、もうぜんぜん分量外です。あってもなくてもいいです。
──ネギ、ピーマン、あればパプリカをこのサイズ、この量で。
人長:キャベツは芯を落としていただいて、一口サイズに切る。
人長:芯のところはポーンと包丁の平たい部分で軽く叩いて割ってやると、火の通りが良くなるので。
──あー、オレがんばってそぎ切りしてたわ。叩くだけでよかったのね。
人長:まとめてバッサーって切ってもいいんですけど、大きさがバラバラになるのがイヤで。細かいカスみたいなのが出てくるじゃないですか。
──一枚ずつ剥いで、芯を叩くのがきれいに仕上がりそう。
人長:今回はさっき四川風で茹でた豚肉の残りを使いますけども。おいしいし。
──日本式は皮付きのブロック肉を使う前提ではないので、パック入りのスライス肉でも大丈夫です。豚バラ肉250gをいいサイズに切ってください。
人長:日本式は四川風とはニンニクと生姜の切り方が違います。量はさっきと同じです。ニンニク2片は、包丁でペチンと叩いてから、みじん切り。
人長:生姜20gは皮をむいて、みじん切り。
人長:みじん切り、中国では「末(ムォ)」と言います。
──これで切りものは終了っすね。
人長:で、具材はお店では油通しをするんですけど、ご家庭では先にフライパンに油をひいて炒めておくという方法でいきましょう。
──キャベツ、ピーマン、パプリカを先に軽く炒めておきましょう。
人長:ネギはまだ入れませんよ。野菜がクタッとするまで炒めて。
人長:キャベツやピーマンがいい感じにピカピカしてきたら、ネギを入れます。
人長:そしたら、これは置いといて。
──ネギを入れたらサッと炒めて、火からおろしておくんですね。
人長:次に豚肉を焼きます。ツーホイです。跳ねるのでギャン盾で防御してください。
人長:両面きれいに焼けました。このお肉もどけておきます。
人長:肉をどけて空いたフライパンに、ニンニク、生姜、入れます。豚の油を利用して醤(ジャン)を炒めますね。
人長:みじん切りにしてるからすぐに香りが立ちますね。焦げちゃうんで、火を止めて。
人長:豆鼓を10g。豆板醤、大さじ1/2。はい火をつけて。
人長:ここに紹興酒。大さじ1。豆鼓と豆板醤も炒めて、香りと辛味を出してあげましょう。
人長:香りが上がってきたらまた火を止めて。甜麺醤、大さじ2。チューニャン、大さじ1。
──これで醤(ジャン)完成ですな。
人長:軽く火を通しておいたピーマン、パプリカ、キャベツ、ネギを、醤(ジャン)が入ってるフライパンに移して。
人長:肉も入れますよ。
人長:ちゃんとお味噌が絡むように炒めていきます。
──味が絡むように、かつ豚肉が切れないように。しっかり、やさしくですね。
人長:醤油を小さじ1/2、入れます。
──肉が重なってるところは、どうしても醤ミソがつかないですね。
人長:そうなんです。すると味がのらないんで、ちゃんとはがしてあげましょう。全体がしっかり混ざったら、一度味を確認します。もし薄かったら、甜麺醤を足してください。
人長:仕上げにごま油を小さじ1/2入れますよ。
人長:いやー、赤い色が入ると映えますよね。
人長:豚肉を茹でた汁を使ってスープも作りましょう。
人長:豚肉の煮汁、塩、コショウ、醤油、かきたま、ごま油、青ネギをチャチャっとやって完成です。生姜の皮を煮出しておくと風味がいいですよ。
食べましょう
人長:いただきます。
人長:まずは四川風回鍋肉。
人長:……うむ。
──ひたすら満足そうですが。
人長:うーまい! 辛さに関して僕は基準にならないかもしれませんが、そんなに辛くないです。葉ニンニク。香りがめっちゃいいわー。いい仕事するわー。
人長:実はここの生姜、めちゃうまいです。鷹の爪は、どうしても固いので……。
──食べちゃうのかよ。
人長:僕は食べる。まあ、辛いですけどね。
人長:これが、茹で汁でササッと作ったスープ。
人長:ブタちゃんのエキスが入っており、今日は卵を流してかきたま汁みたいにしました。やさしいわー。出汁がちゃんと出てるんでめちゃうまい。そして辛さが中和されます。辛いの食べたときって、冷たいものより温かいもののほうが、舌についたカプサイシンが流れるんですよ。熱いスープを飲むと、辛さがスッと引いて、心地よいです。
──たしかに、冷たい水よりもよさそうですね。
人長:日本式の回鍋肉、いきましょう。
人長:これはこれで、ホントにおいしいんですよ。
人長:陳建民さんが、日本の人の味覚に合わせて作ってくださった回鍋肉です。もし30年前に、さっきのような辛い回鍋肉が町の中華屋で売ってても、中華料理はいまみたいに市民権を得られてなかったと思います。陳建民さんがいたからこそ、中華料理はみんなから愛される料理になっているんですよね。本当に素晴らしい回鍋肉なんです。辛味よりも、肉や野菜の甘みが日本人の感覚に合うんですね。
──ご飯に合うんですよね。
人長:キャベツやピーマンがすごくおいしい。
──四川風が「肉を食う」というのに対して、日本式はご飯とハーモニーが出るという。
人長:「おかず」って感じですよね。
──すーげー満足そうじゃないですか。
人長:おいしかったー! 自分で作ったけど。
四川風回鍋肉の味
とにかくまあ辛いです。「肉食ってるなー」っていう気持ちになるんだけど、そこで、皮目のトロミみが未体験のおいしさを生み出すのです。
そして葉ニンニクの香りと、豆鼓、ピーシェン豆板醤の風味が新鮮。豚バラのムダな脂がうまいんですよ。
あ、鷹の爪を食べるとやはり辛い、もう刺すように辛いです。
日本式回鍋肉の味
食べ比べて理解できたんですが、陳建民さんのアレンジがすげえんです。
よくもこの解を導き出したものだと感動します。ローカライズの鉄人。
そしてご飯がすすむオカズ性。これはね、ツーホイのときの油が野菜をおいしくするんですよ。
蛇足ですが、豚肉煮汁のスープは笑うくらいうまいです。
豚のうまみが強くて、これが副産物としてできるってのがうれしいですね。
回鍋肉には「解」がない
両方同じ「回鍋肉」なのに、ぜんぜん違う、でもどっちもおいしい。
違う方向なんだけど「そもそも家庭料理で厳密なレシピがない」のが回鍋肉だとすると、四川風も日本式もどっちも正しく「回鍋肉」ではあるんです。
筆者も「肉と野菜の味噌炒めでしょ」くらいに思ってたくらいなので、四川風回鍋肉を食べると、回鍋肉をナメてた人ほどびっくりするはず。
ピーシェン豆板醤の香りが驚きなので、興味があれば探し出して使って欲しいです。
人長さんの作るプロの回鍋肉が食べたくなったら
ものすごくおいしそうな回鍋肉だけど、作るのはちょっとめんどくさい……という人は、日本橋にある人長さんのお店「リバヨンアタック」に行くといいですよ。
素材の扱いから調理法まで、細部にこだわったプロの回鍋肉を堪能できます。
撮影:平山訓生
お店情報
リバヨンアタック
住所:東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビルB1F
電話番号:03-3548-0840
営業時間:ランチ/月曜日〜土曜日11:30~15:00(14:30 LO)、祝日11:30~14:30(14:00 LO)
ディナー/平日17:30~翌0:30※金曜日のみ翌1:00まで(23:00 FLO/24:00 DLO)、土曜日17:30〜翌0:00(23:00 FLO/23:30 DLO)、祝日17:30〜22:00(21:00 FLO/21:30 DLO)
定休日:日曜日(20名様以上のご予約の場合は、営業させて頂きます)