女性を傷つける「ブス」という言葉を変容させたい── 。漫画家・安彦麻理絵さんの【ブスメシで自分をラクにする方法】

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刺激的なタイトルである。

漫画家の安彦麻理絵さんは今年2019年の3月、『ブス活、はじめました』(光文社知恵の森文庫)という本を出版した。

ブス活、はじめました。 (光文社知恵の森文庫)

ブス活、はじめました。 (光文社知恵の森文庫)

  • 作者: 安彦麻理絵
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫

ブスという言葉は日本語の中でもかなりネガティブなもの。忌まわしさを感じる人も多いだろう。安彦さんも子供の頃、男子から「ブス!」と言われて傷ついたと著書の中で書いている。

「ブスって、女を傷つけるために使われる言葉。当事者である自分がそれらの言葉をポジティブな文脈で使うことで、女を傷つけるための言葉じゃなくしたいんです」と安彦さんは語る。

「ブス活とは女のガス抜き、毒抜き、息抜き」と定義、その一環として安彦さんが楽しんでいるという「ブスメシ」を軸に、インタビューをお願いした。 

話す人:安彦麻理絵(あびこまりえ)さん

安彦麻理絵

1969年山形県生まれ。漫画誌『ガロ』で20歳にしてデビュー以来、女の本音と生態を描き続ける。『酒とナミダとマリエと赤子』(竹書房)、『ババア★レッスン』(光文社)など著書多数。着物好きとしても知られる。

 

「美人強迫症」はシンドイ

安彦:私、子どもがいるんですけど、二人目を産んだ時だったかなぁ、その時、四人部屋に入院していて、ナナメ向かいのベッドの女性が家族に会うなり開口一番、

「安心して、二重だったよ~」

って言うのを聞いて、すごーく複雑な心境になったんですよ。生まれたときから「値踏み」されてるっていうかね。これが女の子なら、なおさらじゃないですか、二重信仰、二重だととりあえずホッとするみたいな(笑)。こんな風潮、ほんとイヤだって思いましたね。紙オムツのパッケージに出てる赤ん坊みたいな顔じゃないと、今後の人生ヤバいのかよって。

 

──わかります。

 

安彦:ただ、そういう私も、以前は「とにかく目は絶対に大きくないとダメ!」と思い込んでて、ものすごく頑張ってアイメイクしてたんです。同じように「肌がきれいでなくちゃダメ」「やせてなくちゃダメ」という思い込みもあり、「美人じゃないとダメ!」ってものすごく信じてました。

 

──本の中では「美人強迫症」と表現されてますね。

 

安彦:「もっと美人だったら、もっと幸せになれるはず」という思い込み。女だったら誰しも心の中にあると思うんですよ。でも、そういう人生って……キツい。全然楽しくない。「美人じゃないと幸せになれない」というのは単なる幻想って思いたい。とはいえまぁ、美人な方がいいに決まってるんですけど(笑)。でも、そういうのいい加減、もう女は手放したらどうか、って。

 

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──ただ、その思いを手放すことって、なかなか容易ではなさそうですね。安彦さんにとってはどうだったんですか。いまはスッキリ手放せているのでしょうか。

 

安彦:私、2019年の6月で50歳になるんですよ。閉経もしちゃったし。で、現在の心境で言えば、「ブス」とか「美人」って、正直どうでもよくなっちゃってますね。負け惜しみじゃなくって。心境の変化っていうか、「美人」とか「ブス」とかすっ飛び抜けて、個人的には「お茶目」とか、そのへんを目指してます(笑)。なんせ歳とると、顔に生き様が出まくりますからねぇー。今の正直な気持ちは、「私、若い頃は、美人強迫症に縛られ続けて大変だったなぁ〜、鼻ほじ」って感じかもしれませんね。

 

もっとも手軽な「ブス活」、それは料理

──「ブスとは本書の中で容姿や性格を示す言葉として使っていない」とはっきり書かれていますね。

 

安彦:女って、みんな自分の中に「ブス」を飼っていると思うんですよ。それを表に出すか出さないかの話で。私なんかはもう「日々ブス全開」なんです(笑)。「女は美人でなきゃいけない」と思い込んでいると、自分の中の「ブス」を出さないようにしなきゃしなきゃで、つらくなる。ときどきでもいいから、飼ってる「ブス」を出してガス抜きをしたらどうかと思うんです。たまには自分の中の「ブス」を肯定してあげるというか。

 

──そういったものを肯定することが「ブス活」ということなんですね。

 

安彦:そうですね。たとえば私にとっての「ブス活」って「料理をすること」、そう「ブスクッキング」なんです。楽しいんですよこれが。見映えとかもう全然気にしないんですけど、真っ茶色な煮込み料理を鍋いっぱいに作ったり、カロリー度外視でチーズぶっかけまくりのグラタン作ったり。あ、私、民藝系の皿が好きで、それに盛り付けると料理の見映えが格段によくなるのでオススメです(笑)。普段の料理は面倒くさいことも多々ありますけど、「ブスメシ」づくりのときはもう、目が輝いてると思います。あと私、カレーにゆで玉子ドバドバ入れるのが大好きで。

 

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▲安彦さん特製カレー、投入されているゆで卵の数は18個! これが安彦家のスタンダードだ

 

──ゆで玉子カレー、見た目インパクトありますねえ! おいしそう。

 

安彦:でも、子どもらは別に「へ〜」って、シラ〜ですよ。興奮してるのは私だけ(笑)。スーパーで売ってるゲソ揚げも好きで、これに限っては、台所のシンクで立ったまま、あえて温め直すこともせず、そのままハイボールなんかと食べるのが最高に合いますね。こういうニュアンスを楽しめる「ブス友」だけでやる「ブスパーティ」、これがもう最高なんですよ。女子会にありがちなマウンティングとか一切なし、自分の中の「ブス」をさらけ出し合って楽しむ。自分に「ブス活」を許すことって、自分を許すことだと思っています。ちょっと前に、赤羽に住んでる女友達の家で、5、6人で集まってブスパーティやったんですけど。テーブルの上が、駅前の惣菜屋で買ったコロッケまみれでまっ茶色。壮観でした(笑)。

 

老若男女関係なく、好きなものを心から

──安彦さんの本の中で「(ブスとは)女子力の対極にあるもの」ともあります。世の中には「女子力」を身につけたい、もっと「女子力」を高めたい、と願う人もいますが、どうご覧になっていますか。

 

安彦:「女子力」に躍起になってる方々って、主語が自分じゃないですよね。「女子ならこうすべき」「女子はこうあるべき」ってなっている。「世間はこう」「みんなはこうしてる」じゃなくて、「私は」どうしたいかが大事だと思うわけですよ。こないだテレビで、大学生の女の子達に「女の幸せってなんだと思いますか?」なんて質問をしていたのを見て、「もうそういうの……やめたら?」って思って。「女の」じゃなくて「あなたにとっての幸せとは」って聞いてほしいってつくづく呆れちゃいました……。

 

──本の中では「ブスメシ」に対しての「美人メシ」という言葉も出てきますね。こちらは、どういったイメージでしょうか。

 

安彦:うーん……まぁ、分かりやすい単語を使えば「オーガニック系」とか? あと私、某大手検索サイトのCMが大っ嫌いなんですけど(笑)、あの、女の子達が「気軽に行けるフレンチ♫」とか検索してるやつ、ああいうしゃらくせぇ感じが、自分の中での「美人メシ」になるかもしれませんね。断じて、フレンチを否定してるわけじゃないんですけど。

 

──あのCM台本書いたの、女性なんですかね。男性なのかもしれない。

 

安彦:それにしても、あのCMに出てる子達とは私、友達になれる自信ないなぁ〜、「昼間っから飲める居酒屋」とか検索する女の方が好きなんですよね。まぁ、探す前に『磯丸水産』に直行すると思いますが(笑)。

 

──本当にそれが好きならOKだけど、世間の目やイメージを気にして、無理に食べているとしたらどうなんだろう……という思いが安彦さんにあったのでしょうか。

 

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安彦:人にもよりますけど、「オーガニック系の美人メシ」って「すがっちゃう」場合もあるんですよ。オーガニック以外のものが許せなくなったりして。体にいいものを食べるのはもちろん大事ですけど、中にはそればっかりで病んじゃう人もいますしね。配偶者や子供にオーガニック強要して「マクロビ離婚」とか「別居」に至るとか、なんか本末転倒ですよね。だからときに「ブスメシ」を楽しむのも、心の栄養だなーと思うんです。「毒」っていうか「スパイス」を自分に取り入れるのも大事だというか。「毒」との折り合いを上手につけられる「毒上手」な女性って、魅力的な気がしますしね。

 

──拝読していて、女性だけの話じゃないなとも感じました。私は男ですが、男なら男で「男メシを好むもの」的な思い込みもあると思います。「男のくせに小食ねえ」なんて言われたこともあるし。また男のスイーツ好きもかなり市民権を得てきましたけど、「ひとりで甘いものを食べに行くのはちょっと気恥ずかしい」という人もまだまだいるかもしれない。老若男女関係なく、自分が好きなものを誰からも干渉されることなく楽しめたら理想だし、そうありたいですね。

 

安彦:「男の甘味問題」って、昭和の男尊女卑的な名残が何かあるんでしょうかね。でも、今は時代が変わったと思います。今時は、昭和のオッサンが一人でパフェを食べていたって誰も文句を言わないと思うし、むしろ微笑ましいって思われるようないい時代になってると思いますよー、オッサン側は恥ずかしいかもしれませんが。私、東海林さだお先生のエッセイが好きなんですけど、その中で、東海林先生が恥かしそうにショートケーキを食べる文章があって。それが本当にチャーミングなんですよね。

 

──周囲は気にもしてないのに、自分で自分を規制しちゃうことありますね。そうやって無理をしていると、自分の中に「ブス」を飼うようになってしまう……ああ、なんとなくわかってきました!

 

オススメは激辛カップメン

ここらへんで、安彦さんの「ブスメシ」ライフを、より具体的に紹介してください。 

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安彦:いろいろあるんですけど、真っ先に今回紹介したいと思ったのが、寿がきやさんの『辛辛魚』(からからうお)、大好きなんですよこれ。辛党の人に是非おすすめです!

 

──インパクトありますねえ。ネーミングがすばらしい。

 

安彦:最初は全然期待しないで食べたんですけど、とにかく本当にちゃんと辛い! 食べながらもう、涙とか鼻水や汗が出まくりで、んで、食べた後に思いっきりお腹くだして(笑)。もの凄いデトックスぶりでたまげました。限定商品らしいので、一年中食べられるわけではないのがすごく残念。 

 

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安彦:最近はネギ、レンチンしたもやし、ゴマ、そしてとろけるチーズをもうどっさり入れて食べるのが好きで。背徳感を感じながら食べるのは最高です! 

 

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▲ビールを飲みつつ豪快にラーメンを味わう安彦さん。とろけるチーズは2つかみを躊躇なく投入した

 

──たしかにこれ、うまいっすねー! 辛さとうま味がすごくいいバランス。とろけるチーズがまた合うもんですね。

 

安彦:チーズのとけたドロッドロの汁も、残さず飲み干しますよ、鼻水たらしながら!

 

──安彦さんの中の「ブス」がまさにいま解放されているのが分かります。

 

安彦:ところで、ペヤングのブスカスタムもイケますよ。「辛辛魚」がアッパー系ブスメシだとすれば、こっちはダウナー系ですかね。育児が今よりもずいぶんとキツかった頃に、夜中に一人で食べてましたからねぇ。普通に作ったペヤングの上に、さらにオイスターソースを適当にかけて、その上にマヨネーズをビャ〜っと。うまくないわけがないんですよ(笑)。当時はストレスまみれだったからそんなふうに食べてたけど、今だったら、さらにそこに、青のりや紅ショウガものっけて、愉快な気分で食べたいですね。

 

見た目がリアル・ジャイアンシチュー

──そのほかのフェイヴァリット・ブスメシというと?

 

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安彦:時々どうしても食べたくなるのが、この「ホイップあんパン」。ただのあんパンには全く心を揺さぶられないんですが、あんことホイップのマリアージュが本当に大好きで……。高校時代とか、一度に3個とか平気で食べてましたね。今回、この取材を受けるにあたって、ものすごい久しぶりに食べてみたんですけど、やっぱりうまい。脳みそにクラクラくる衝撃がありましたね。

 

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安彦:あとはこのドロッドロの茶色い煮込み料理。これ、イランの料理で「フェゼンジャーン」っていう、ざくろとくるみと鶏肉の煮込みなんです。私、味の想像がつかない料理にチャレンジするのが好きで。作りながら思ったんですけど、見た目がまんま「リアル・ジャイアンシチュー」(笑)。文字通り、『ドラえもん』の漫画に出てくるあの「ドロ〜リ」って擬音がピッタリだなぁってウケましたね。夫は「なんの説明もなしでこの料理を出されたら、絶対食べる気がしない」って言ってました。そのくらい見た目が閲覧注意な料理なんですけど、食べてビックリ。くるみのコクとざくろの甘酸っぱさがいい仕事してて、すごくおいしかったですよ〜!

 

大事なのは「ハレとケ」のバランス 

安彦:あとは台湾名物の「臭豆腐」、子ども達がヒカキンのYouTubeが好きで、それを観て知ったんです。ヒカキンが「ウンコの味がする!!」って悶絶しながら食べる動画があって。で、それとは別に偶然、女友達が「臭豆腐って食べてみたいんだけど」って言い出して、それであれよあれよという間に「臭豆腐を食べる会」が結成されまして。タイミングよく、台湾を訪れた別の女友達が現地で買ってきてくれて、うちで臭豆腐パーティが開催されたんです。

 

──で、肝心のお味は………?

 

安彦:確かにヒカキンが言ってた通りで(笑)。「食べたことないけど、なんか、墓場に供えられっぱなしの枯れた仏花みたいな味」とか、「50代男性の便ってこんな感じなんじゃないの?」とかムチャクチャな食レポも飛び出して、ほんとに愉快なブスパーティになりましたね!

 

──「枯れた仏花」、食べたことあるんですかそのひと(笑)。ただ安彦さん、ブスメシをはじめとした「ブス活」で自分を許しつつも、著書内では「バランス感覚は大事」と書かれています。

 

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安彦:もうすぐ50歳の私のメシバランスは、普段は「玄米・味噌汁・漬物とか納豆」なんかの地味メシなんですよ。だって、そういうご飯を食べてないと、この歳でブスメシばっかじゃ、太るし、体壊しかねないし(笑)。ハレとケをはっきりさせた方がいいというか。でも別に、我慢して玄米を食べてるわけじゃなくて、好きでうまいから食ってます。どっちも好きなんです。

 

──ハレとケ。つまり、特別なときと日常をちゃんと分ける。

 

安彦:そうですね。今まで圧力鍋で玄米炊いてましたが、昨年から「クックニュー圧力名人」っていう、玄米をおいしく炊ける炊飯器買ったら、ものすごく楽にうまい玄米を食べられるようになりました。この炊飯器はオススメですよ。「今日の夜はブスメシ堪能するぞ!」って日は、日中、僧侶みたいなメシを食べるのも、メリハリがあって愉快で。

 

──「ブス活」とは開き直ることではない、とも書かれていたのはそういうことなんですね。

 

安彦:私にとっては、辛辛魚やペヤング、素敵フレンチ、玄米はみんな同一ラインなんですよね(笑)。

 

──きょうは本当に、ありがとうございました!

 

企画・文・撮影:白央篤司

白央篤司

郷土料理がメインテーマのフードライター。雑誌『栄養と料理』『ホットペッパー』農水省広報誌などで執筆。著書に「にっぽんのおにぎり」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)など。

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