リアル鉄火場から憩いの昼酒スポットへ
こんにちは、メシ通レポーターの泡です。
初めての酒場に入って短冊メニューが並んでいると、それだけで「ここ、好き!」とコーフンしてしまうたちです。飲兵衛ならきっとみんなそうですよね?
ちなみに、スズキナオさんが紹介されていた大阪の「種よし」も大好きな短冊酒場です。あの細い短冊に萌えます。
さて、今回は京都が誇る短冊酒場「たつみ」をご紹介させてください。 お店は、私がこのところ連続で推している京都は裏寺町・通称「裏寺」エリアにあります。
阪急河原町駅④または⑤出口から四条通を北へ渡り、河原町通の1本西の筋を入ってください。突きあたりを左折したところにすぐ見える、わかりやすい立地です。
入口はショーケースの右側に2箇所。そのうちの左側がメインとして使われ、もう一方は主に立ち飲みコーナー用となっています。
お店に入ると右手に口の字カウンターがあり、ここは立ち飲みと椅子席が半々。椅子席は常連さんが座っておられることが多いです。
私がここに初めて来たのは20年近く前のこと。その頃はこの入口側の席はザ・常連! といった紳士たちがびっしりで入り込める隙もなく、立ち飲みをしてみたくとも「はい、おねーさん奥どうぞー」と問答無用で奥へ案内されていました。3年目くらいでドキドキしながら初めて立ち飲みできたときはうれしかったなぁ。
奥はテーブル席と小上がり。
この小上がりもちょっと秘密基地っぽくて居心地いいですよ。
そして「たつみ」といえばの、この短冊メニュー!
冷蔵庫にもびっしり。そこに隙間がある限り、貼らずにはいられないのか短冊。たとえ中が見えなくなっても。
奥のスペースをパノラマで撮ってみたらこんな感じ。歪んでいてすみません。 ちなみに撮影日は定休日前でいつもよりもメニュー(短冊)が少なめでした。いつもならあと一段は多く並ぶくらいです。
短冊は、赤枠が定番で黄色は季節モノ
常時100種類は下らないほどの品数を誇るため、初めての人は大いに戸惑います。どこをどう見ていいのやら、ですよね。その時はまず、この色分けでチェック。黄色短冊はその日によって貼り替えられます。
1年分の季節メニュー短冊保管庫。四季や料理のジャンルごとに分けて保存されています。
その下には予約用の札もみっちり。奥のテーブル席と小上がりは予約ができるのです。 これだけの料理を作っているのはどんな方なのでしょうか。
料理は家族だけで作っている
二代目にして現当主の谷口達男さん。
達男さんと奥様の知恵子さん、2人の娘さんの4人ですべての料理を作っているのだそうです。それぞれに分担があり、仕込みから営業時の調理までを回しているのだとか。家族ならではの阿吽の呼吸あってこそ、こなせる仕事量なのかもしれませんね。
長女みどりさん(中央)のご主人・貴史さんはホールを担当。スピーディかつハートフルな接客ぶりがお見事です。右は妹の由紀さん。
開店当初の店名は「万長」!その名残が今も店内に
お店の成り立ちを長女のみどりさんにお聞きしたところ、 「うーん、確実に50年はやっているんですけど、詳しいことはわからなくて」
初代はみどりさんのおじいさんで、達男さん夫妻がそれを支えたのち跡を継いでいるとのこと。
「元々は『万長』という酒蔵のお酒を扱ういわば銘酒酒場やったみたいです。せやし、店名もそのまんま『万長』。テーブル席の奥に、よく見ると万長の名が残っていますよ」
ほんとだ、あった!
「その酒蔵がなくなったときに、祖父がここに来る前伏見で営んでいたお店の名前を再度つけたのが今の『たつみ』ですね。縁起のいい巽の方位という意味もあるみたいです」
その昔、この裏寺界隈はキャバレーや飲み屋さんが連なる“ちょっと怖いエリア”だった、とみどりさん。
「今はコンビニになっているうちの向かい側に大きなキャバレーがあって、そことセットで通ってくれる人も多かったみたい。私が小学生だった30年前はお客さんはそれこそ男の人ばっかりで、夜はどっちかというと怖そうなお客さんも多くて、よく父が暴れるおっちゃんの首根っこをつかまえて外に出していましたよ」
今の「たつみ」では考えられない光景だー。昭和の酒場って感じですね。
「最近は昼酒や立ち飲みが一般的になってきたのか、お客さんの層がだいぶ変わりましたね。学生さんや女性同士、週末はお子さん連れのファミリーも来られますし」
よかった、この時代で。安心してこれからも一人酒しようっと。
定番から新味まで、どれもハズレなしの料理
今からは想像が難しいですが、昔はお酒のほかは串カツとどて焼きしかなかったのだそうです。それが「こんなんもしたらどうやろ」と増えも増えたりで、100種類以上の料理が並ぶ結果に。
観光客の姿も目立つような昨今、京都らしいメニューというのは意識されているのでしょうか。
「特に京都らしくと考えるわけじゃないけど、京野菜を扱っている八百屋さんから仕入れているので自然と京都ならではの味になりますよね。『大根がやらかくなってきたし粕汁始めよか、おでんもしよか』という感じに、作るべき料理を旬の野菜に教えてもらっている感じですね」
▲季節のおひたし280円
野菜は基本的に京都産を使用。この日はほうれん草と菊花、えのきでした。野菜のみずみずしいことよ! 私めはいつもファーストオーダーでこれを頼み、「身体にいいもの食べてるからね」と己と肝臓に言い聞かせつつ飲んでおります。
フグ料理がお値打ち
冬場はなんとあの天下の高級魚・フグまで味わえるんです。
「毎年、この時季だけ来はるお客さんもいるくらい。フグが終わったらぜーんぜん来はらへんようになるんです(笑)」「うちのてっさ(フグ刺し)は分厚いんですよ」とすすめられて頼んでみたら……。
ほんまや! てっさ1,800円。破格!
高級店では皿の模様が透けるほど薄切りにされるフグ。あの繊細な味わいも捨てがたいですが、気軽に、気負わず食べるなら断然こっち!
真ん中にもりっと盛られているのは身の湯引き。
お母さんに「いいんですか、湯引きもこんなにのせて?」と聞いたら「ほほっ、ほんのツマ代わりですやん」ですって。これだけで祇園なら2,000円くらいはとられそうなのに豪気だー。泣ける。
ほ〜れほれ、まとめ食いじゃ〜。
厚みがあるので、くにくにっとした食感を楽しむうちに奥の方からじんわりと甘みがでてくるのを感じられます。典雅にして優美。ああ、冬のごちそう。 自家製ポン酢のまろやかな風味も素敵よ。こりゃ日本酒いっとかないと!
「今なら日本酒のヌーボーがありますよ〜」とのことでそちらをいただきました。
黄桜ヌーヴォー 490円。ナイスもっきり!
新しめのメニューはお母さんが考案している
調理と同様、メニュー開発も分担があるそうで、みどりさん曰く「父が始めたメニューは同年代のお客さんにヒットしますね。最近だと白身魚のフライとか。私らにしたら、えっ、それがウケるん? って感じなんですけど」
「反対に母はニュータイプの料理をもってきます。トマトやアボカドの天ぷらなんかがそう」
▲トマト天ぷら 380円
これが意外なほどアリ! な味で正直驚きました。 あまり熟していないトマトを薄衣で揚げてあるのですが、ぴゅっと出てくるトマト汁がいい塩梅に濃厚で。天つゆや天然塩とかじゃない、昔ながらの塩コショーを添えてあるのもイイ。これが合う!
天ぷらといえばこちらもおすすめ。 ねぎま天ぷら 380円。
焼き鳥でおなじみのねぎまを天ぷらに……という、あるようでなかなかない一品。
辛子醤油をどっぷりつけて味わうべし! ツーン、じゅわ〜、ウマー!
そして〆に、この時季はずせないこちら。かす汁 380円。
酒屋さんから仕入れる上質な酒粕を惜しみなく使ったクリーミーな粕汁。 しみっじみ……おいしい。
「これには絶対一味唐辛子が合います」とみどりさん。
ほわほわ温まって〆ようかと思ったけれど、まだ去りがたく立ち飲みカウンターへ移動してしまったわたくし(撮影のため、奥のテーブル席を1人で占拠していたので)。 いつもは1人で黙々と飲むのですが、この日は隣の椅子席にいた常連さんがあまりにゴキゲンそうに飲んでらっしゃるので声をかけてしまいました。
常連さんは意外に気さく
昔からよく来られてるんですか?
「そう! 昔はこの椅子も酒樽やったんやで。お父さん(初代)がいた頃な」 に始まり、ご自身の来し方などについていろいろとお話ししてくれました。 が、この頃にはすっかり酔っぱらっていた私。ほとんど覚えてなくてサーセン。
なんしか、若い頃にすりこまれた「カウンターの常連さんは怖い」のイメージがあったので、初めてくらいに絡めてうれしかったです。ありがとうございました。
ハイリキ・レモン 380円でリフレッシュ!
さらに追加でこれも食べちゃった。
白身フライ(タラ)490円。 ほっくりした身に香ばしい衣がうまい。
ハイリキとめっちゃ合う! お父さんメニュー、ヒットするのわかりますよっ。 というわけで、「たつみ」の真実を7つばかりお伝えしましたが、本当はもっともっともっと素敵な真実が潜んでいるはず。
これからも隙あらば通って解明していく所存であります。
押忍!
お店情報
たつみ
住所:京都府京都市中京区裏寺町通四条上ル中之町572
電話番号:075-256-4821
営業時間:12:00〜22:00(テーブル、小上がりは〜21:00。LOはフード各45分前、ドリンク30分前)
定休日:木曜日
※本記事は2016年12月の情報です。
※金額はすべて消費税込です。