感動巨編 〜「日本最大の地鶏」を飼育してみた〜
日本最大の地鶏、その名も……「大王」。
名前からしてラスボス級の雰囲気ですが、 熊本原産のニワトリで、大きいものは体高80センチ、体重で8キロ近くになります。足なんてもう、恐竜なみの存在感です。
昔々、「天草大王」は大きな体ゆえに肉の可食部も多く、味も良いということで水炊きなどで食べられすぎて一度絶滅してしまいます。
「天草大王」、どんだけうまいんだろう……と思いますが、なんと熊本の農業研究センターが、長い期間を経て復元してしまったのだそう。その復元されたオリジナル天草大王は食肉用に交配され、養鶏家によって飼育されています。
現在、我が家では「大王」(交配種)をペットとして飼っています。
しかも、卵から孵化(ふか)させてヒヨコ → ヒナ → 成鶏と育て、初めて産んだ卵でTKG(卵かけご飯)を食べるという貴重な体験をしました。
構想1年、飼育160日、心労少々で実現した卵かけご飯。果たしてそのお味は?
ニワトリを飼うために愛媛に移住を決意
もともと、子どもの頃に実家でニワトリを飼っていたんです。
けっこう懐くし、かわいいんですよね。タオルでくるんで小学校にも連れて行ったりして、いま思えばおおらかな時代でした。
大人になってからも、どこかでニワトリを飼いたいという願望はあったのですが、さすがに東京じゃ無理。いまどき幼稚園の声さえトラブルになる時代です。
そうだ! 移住しよう。
いまならリモートワークとかで仕事もできるし、家賃も東京より安い。食べ物もおいしい。ということで田舎への移住を決意したのです。さらば、トーキョー砂漠。
しかし、実際に物件を探し始めると、意外と難航します。一番問題になったのはオスの鳴き声。早朝から「コケコッコー!」という声で鳴かれても、近所迷惑になるし許可できない、という理由です。
ちなみにメスはそんなに鳴きません。
体の大きさもオス(左)とメス(右)でかなり差があります。
うぅ、これはもうホントに山奥か離島にでも行くしかないのか……と思いながら物件探しを続けること、半年あまり。
ようやくニワトリが飼える物件(愛媛)に巡りあえました。
「ニワトリを飼うために愛媛に移住する」と宣言したら、家族はなかばあきれてましたけどね。
「大王」との出合いはニワトリの品評会で
さて、住む場所が決まれば、あとはどの品種のニワトリを飼うか? です。
ひとくちにニワトリといっても、肉用から採卵用、鑑賞用までものすごいたくさんの品種がいます。子どもの頃に飼っていたのはチャボなので、チャボがいいかな~と思ってネットで検索する日々。こういうときって妙にワクワクしますよね。
そうこうしていると、熊本でニワトリの品評会があるらしいという情報をキャッチします。
熊本県には、肥後五鶏(ひご ごけい)と呼ばれるニワトリたちが存在し、肥後ちゃぼ保存会なる団体がチャボをはじめ家禽(かきん)類の保存や継承に力を入れているとのこと。
なにそれカッコいい。これは行ってみるしかない!
品評会には、それはもう見事なニワトリがずらりと並んでいました。
トサカの大きさだったり、羽の模様だったり、いままで見たことがないような美しさ。
毛並みの素晴らしい久連子鶏(くれこどり)。
トサカが見事な黒達磨チャボ。
そこで「今度、ウチでニワトリを飼おうと思っているんですよ」と伝えると、飼育しているところを見学させてもらうことに。
連れて行ってもらった先にはチャボはもちろん、たくさんのニワトリたちが。
そのなかに、ひときわ大きなニワトリがいました。それがこの「大王」だったのです。
このオスで体重が5キロくらい。
堂々とした雰囲気はまさに王者の風格。しかし、だっこすると意外とおとなしい……。
この瞬間、「大王」を飼うことを決心したのでした。
ただし、大王の有精卵は、ペットショップなどでは売っていません。
愛好家を頼りに、飼育している人を紹介してもらい、譲っていただけることになりました。卵が届くまで、準備しながら待つことにしましょう。
「大王」の卵がやって来た
それからしばらくして、待望の有精卵が届きました!
箱の中でおがくずにしっかり守られています。
おぉ~。大型のニワトリなので卵も大きい!
到着した卵はふ卵器に入れて、1羽でも多くヒヨコちゃんになりますように……と入魂のスイッチオン。
さあ、誕生は21日後! 果たして何羽のヒヨコが誕生するか!? ふ卵器は、温度37℃、湿度60%、1時間ごとに1回、卵が90度転がるように、転卵機能もセット。
ふ卵器をセットしてからは、ちゃんと動作しているか? 温度や湿度が正常か?
常にチェックが必要です。万が一、故障でもしたら全滅ですからね。
18日くらいして、卵がたまにゆらゆら動いていることに気づきました。人間で言うと胎動ですね。もう中でヒヨコが動いているようです。
ゆらゆらし始めてから、3日くらいたちました。
すると、卵からピヨピヨと鳴き声が!
そしてついに、2つの卵が外に出る準備の嘴打ち(はしうち)が始まったのです。
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ピヨピヨの声が途絶えると心配になります。しかし、見守ることしかできません……。
ちょっとずつ殻が割れてきました。
ん~~~、頑張れ!
ぎゅうぎゅうの態勢で入っています。もうちょいだ!
先に左側が出てきました。卵のカラを蹴散らして、生まれてきたああああ!
左側が出てから待つこと数時間…… うわ! 右側も出た~~!!
だけど、ちょっと元気がないようです。心配……。
「大丈夫! カラがなかなか割れなくてちょっと疲れただけ。元気だよ」という姿にホッとひと安心。しかもこちらを見て、私をお母さんだと認識しているようです。
濡れた羽毛の乾燥と、保温を兼ねて、ふ卵器の中で1日経過。
6個の卵をふ卵器に入れ、2羽がかえりました。
生命の誕生に立ち会い、久しぶりの感涙……。
他の卵は、ふ化しなかったのが3個、もう1個はヒヨコの形にはなっていましたが、卵の中で生き絶えていた状態でした。悲しいけど、これも自然の摂理です。
だけど、出てきてくれた2羽は、ピヨピヨの大合唱。めっちゃ元気です。
どんどん成長するヒヨコたち
手に乗せたら、黄色い落とし物の初ウンコ。
人間の赤ちゃんと同じく、ちゃんとウンコをするのは大事なんですね。
10日目、体重測定をしました。
なんと、お疲れ気味に卵から出てきた子のほうが、2グラム重くなってて歓喜。
この段階ではオスかメスか、まだわかりません。もしかして、つがいだったりして!?
ヒヨコたちの視界から私の姿が消えると、母親を探しているのか、ピーヨピーヨと悲しげな鳴き声に……。
トイレに行くのもままならない時期です。
40日たちました。2羽とも、700グラム前後になってきました。
お気に入りの椅子で寝てるんですが、なんちゅう寝相でしょうか。
2羽の雌雄を鑑定してもらいます
生まれてから50日目、熊本で「肥後ちゃぼ展」があったので初めての遠足です。遠足の目的はワクチン接種。大事なヒヨコたちを病気から守るためにも必須です。
そして「ごらん、ここが天草だよ」と生まれ故郷の景色を見せてあげたかったのです。
ちゃぼ展会場では、2羽の雌雄を鑑定していただいた結果、2羽ともメスでした!
50日目のウチの大王(写真左)と、成鶏のセブライト(写真右)と大きさの比較。
うーん、やはり大きい。
ヒナから段々と大きくなり、60日手前で室内飼いから、いよいよお外です。
「これからは、お外で遊んだり、エサを食べて寝るんだよ」家の敷地内だってのに、とても遠いお別れのように感じ、つらかったです……(゚´Д`゚)゚
と同時に、鳴き方もピヨピヨから、クオーーッコ! と声変わりしました。
自分の声の変化にびっくりするニワトリたち(笑)。
ニワトリは、人間がシャワーを浴びるように砂浴びをして、体の清潔を保ちます。室内では、新聞紙で砂浴びの練習をしてましたが、待ちに待った本番の砂浴び。
新聞紙には無かった地肌まで届く砂の感触を、キャッキャッ言いながら楽しんでます。
100日目、こんな顔して笑わせてくれたり……。
「ニワトリですが何か?」
130日目、ときにはケンカしてみたり……。
「今日はこれぐらいにしといたるわ!」
ニワトリって、飼ってみるとホント面白いんですよ。
初産、そして待望の卵かけご飯
生後160日目のある朝。
コケーーッ! と尋常じゃない鳴き声が続き、これはいよいよ産卵か!? と期待が高まります。
普通ニワトリはちょっと暗めの場所を選んで産卵をするようですが、ヒヨコの時からおてんば娘だったこの子たちは、なんとケージの上で産むことにしたようです。
暗めどころか、まるっきしフルオープンなんですが……(笑)。
3キロ弱の体重が、ずっしりとケージのシートをたるませます。
座り始めて1時間が経過しようとしたとき、ちょっと立ち上がりました。
クウウウウウ〜ッと真っ赤な顔してイキんでます。
真横で見ていて、私もイキんでしまうほど。頑張って~~!
それ、ヒーヒーフー!(ラマーズ法)。
おおおお! 産みました!!
コロンと卵が出てきましたよ。メスの成鶏になった瞬間です。
羽毛が茶色なので、卵も赤玉です。
そして、ぬくもりを感じます。うわわ、当たり前だけど温かい!
産みたての卵を食べてみます
足もとに産み落とされたこの卵を、大事にいただくことにしました。
なんだか、せっかく産んだ卵を取り上げるようで、ちょっと心がギュッとします。
産卵の苦労をねぎらいつつ「いただきますよ」と声をかけてから、回収。
大きさを計測。5.5センチほど。
さあ、いよいよ初めて産んだ卵で待望の天草大王のTKG(卵かけご飯)。
前日にもう1匹が産んだのを合わせて豪勢に2個とものせてしまいます。ダブルTKG!
ご飯も炊きたてを用意しました。愛媛の名産、久万高原の清流米です。
コンコン、割ってみます。
まだ月年齢も若いので卵は小さめですが殻は硬いです(鶏の成長につれて産む卵も大きくなるとこのと)。
小さな茶碗に2個割って落としても、ちょっと余裕がある大きさです。
新鮮な卵の広告のように、おはしで挟んでみます。
小さな卵でもすごい弾力があって、ちょっと力を入れた程度では、黄身はつぶれません。真横から見ると、黄身が盛り上がり、白身は水っぽくなく高さがあるのが一目瞭然です。
新鮮さを確認したところで、待望の実食。
しょう油をちょいとたらして、産みたてをいただきます!
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コクがあって実にうまし。臭みもまったくありません。
スルスルと口の中から胃袋に吸い込まれていきます。
ここまで育てたかいがあった! と、再び泣きが入ります。
涙と鼻水でグズグズになりながら、ニワトリたちに感謝しました。
毎朝、5時半には起こされること(眠い)。
飛ぶことを覚えて、私の頭に飛び乗っては粗相をしたこと(洗うの大変)。
庭の草を食べ尽くしてしまって、近所の緑地で人目もはばからずに草をむしって与えていること(怪しい)。
これまでの細かい気苦労は、この卵かけご飯で吹き飛んでしまった!
ごちそうさまでした。
そして、ありがとう。
うちの娘たちは、今日も元気です
ちなみに、冒頭でも書いたとおり、もともと「大王」は食用でした。
いまでもこの品種は鶏肉料理として提供されており、東京にもお店があります。
さすがにお店で卵かけご飯にはなかなか出合えないかと思いますので、皆さんも機会があれば、ぜひ「大王」を飼育して召し上がってみてください(そこからかい!)
今日もうちの娘たちは、朝には卵を産み、日中は庭で好き放題、自由気ままにストレス無くやってます。
【追記】
なんとタイムリーにも、2018年10月6日(土)と7日(日)に熊本市動植物園の「秋の肥後ちゃぼ展」でヒヨコたちとモフモフ触れ合えるイベントが同時開催されるそうです。
場所は、園内の肥後五鶏鶏舎横のテントにて。
時間は、両日とも9:00から17:00まで。会員になった方には、もれなく会誌『肥後ちゃぼ』のレアな会報誌を進呈とのこと。
ニワトリ好きはぜひ、出かけてみてください。
東京からだとジェットスターが飛んでいるので安く行けますよ。
書いた人:星☆ヒロシ
夫婦で食べ歩きが趣味。夫は食べる専門で、妻は呑む専門。若いころは海外へも足を運んだが、最近は日本の良さを再認識し、旅をしながらその土地ならではのおいしいものを食べ歩く。