「温泉水&蒸気グルメ」はもっと知られていい【いろんな食材蒸してみた結果】

温泉♨から湧き出るお湯や蒸気を利用したグルメが最高に美味しいらしい……。そんな噂を検証すべく、いろんな食材を蒸してみる大実験を敢行しました。温泉好きならずとも必見!

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「温泉」って入るだけじゃないんですよ!

実は、温泉の泉質によっては、料理にも大きな効果が発揮されるものがあるのです。

 

温泉水で作る湯豆腐やお粥、噴気を活用した蒸し料理あたりは有名ですが、それ以外にもさまざまな温泉グルメがあります。

この奥深い温泉グルメの世界について、温泉を愛し、温泉にまつわるTV出演・講演・記事執筆などを手掛ける六三四(むさし)さんにインタビュー。温泉を活用したグルメについて掘り下げたいと思います。

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▲六三四さん:鹿児島宮崎を隅から隅まで走り回り、訪問した温泉・温浴施設・野湯は鹿児島宮崎だけで1500カ所超。温泉ソムリエ師範。TVの企画出演から温泉記事執筆、温泉講座の講師まで温泉にまつわる仕事を幅広く手掛ける。運営サイト:鹿児島温泉観光課六三四城

 

前半は温泉の噴気を活用した蒸し料理、後半は温泉水そのものを使ったグルメについて紹介していきます。

 

 

温泉の「蒸気」を使った料理がすばらしい

──温泉地の料理って、懐石料理をはじめとする豪華な日本料理のイメージが強いですよね。温泉水そのものを料理に使っているところはさほど多くないように思うのですが、どうしてでしょう?

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六三四さん(以降敬称略):多くはないかもしれませんね。そもそも火山国である日本に多い温泉は「火山性」です。ゆで卵のような匂いのする温泉地は多いですよね。ああいうタイプが火山性の温泉。地中のマグマの力で水が温められて、ガスや岩石の成分などが溶け込んで温泉になっているので、匂いが強かったり味が濃かったりすることが多いんです。だから大昔は料理に使うことに抵抗があったのかもしれません。「毒」とか「骨」とかが名前に入る温泉地があるくらいだし、警戒していた可能性があります。

 

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▲硫化水素の強い温泉は、次の日まで体から匂いがすることも

 

六三四:炭酸泉(二酸化炭素泉。この記事では以下炭酸泉と表記)に関しては、温度の低いものが多い上に、匂いもあまりしないので、水のような感覚で利用しやすいのですが、日本では希少です。欧州には多い泉質で、ドイツのバーデンバーデンにあるポンプ小屋「トリンクハレ」など飲む文化(飲泉)がありますよね。

 

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▲有馬温泉の炭酸泉源

 

──たしかに!

 

六三四:一方で、別府の「地獄蒸し」のように、噴気を活用して調理するのは昔から温泉地で行われていたようです。古い資料を見ると、江戸時代の資料には書いてありますね。『三国名勝図会 ※』には指宿の蒸気を活用した料理について書いてあるし。主に、甘藷(サツマイモ)を蒸していたようです。

※江戸時代に薩摩藩が編纂した領内の地誌や名所を記した書物。

 

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──温泉の噴気で蒸すのは、水道水で蒸すのとどう違うのでしょうか?

 

六三四:食材を蒸すのに使われる温泉の噴気は、温度も高温なうえ、高圧で勢いがあります。そのため、短時間で調理できておいしさを外に逃しません。素材の甘みと旨味をしっかり引き出してくれます。(参考論文:『地獄蒸し調理の食品特性』

 

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▲勢いよく噴気が上がっている様子

 

六三四:また、ラットを使った実験では、別府明礬温泉の蒸気にあてたエサを食べたラットは、蒸気にあてていないエサを食べたラットと比べて血糖値の低下や認知能力の向上などのアンチエイジング効果を得られたというデータもあるんですよ。(参考論文:『別府地獄蒸し食品のアンチエイジング効果に関する研究』

 

──そんな効果もあるんですね!

 

六三四:温泉水や蒸気を活用した調理・健康については、論文やデータはまだまだ少ないのでこれからもっと研究されて欲しいジャンルですね。

 

──ちなみに、温泉の蒸気で蒸すならどんな食材がおすすめですか?

 

六三四:基本的に、どんな食材もおいしくなると思います! 卵やサツマイモは定番ですよね。自分もあまり試したことがないので、実際に作って食べてみましょう。

 

温泉の湯気でいろんな食材を蒸す実験

というわけで、鹿児島で蒸気蒸しができる鹿児島県指宿市の鰻温泉近くの「スメ広場」へやってきました!

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この地域では蒸気を活用して食材を蒸すことを「スメ」と呼んでいます。ここで、六三四さんといろんな食材を蒸してみることに。

 

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▲「地獄蒸し」で有名な鉄輪温泉(大分別府市)のような賑わいのあるエリアとは違い、窯が2つ並んでいるだけの素朴な施設。静かな集落の中にあります

 

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▲スメの窯の横にテーブル席があるので、食材を準備したり、作ったものを食べたりしやすいです

 

食材や必要な道具はすべて事前に自分で用意しておきましょう。食材をのせる竹ザルと、蒸気から手を保護する手袋は必須です。参考までに、私が用意したものは下記のとおりです。

 

私が持参したもの

  • 竹ザル
  • 手袋
  • 食材(洗ってカット済み)※鰻温泉のスメでは肉・魚・筍は蒸せないので注意。
  • 調味料(塩、コショウ、バター、シナモン、はちみつなど食材に合わせてチョイス)
  • 紙皿
  • 保存容器
  • はし
  • ビニール袋

竹ザルに用意しておいた食材をセッティング。このスメでは肉・魚を蒸すのは禁止なので、野菜と果物、卵を用意しました。

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▲この日試した食材は、ミニトマト、スナップエンドウ、キャベツ、ニンニク、サツマイモ、ジャガイモ、レンコン、卵、バナナ、リンゴです

 

六三四:果物がどうなるのか気になりますね。今まで試したことはなかったけれど、意外とおいしいかもしれません。

 

いざ蒸し蒸し大実験スタート

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▲利用料金は300円。備え付けの料金箱に投入!

 

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▲窯に食材をのせた竹ザルをセットします。蒸気は高温なので、手袋をして火傷に気を付けて作業します

 

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▲備え付けの麻袋でフタをして、食材が蒸し上がるのを待ちます。蒸し時間は、食材によってそれぞれ

 

では蒸し上がったものからレビューしていきましょう。

 

実験①野菜(ミニトマト、キャベツ、スナップエンドウ、ニンニク)

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最初に蒸し上がったのはミニトマト、キャベツ、スナップエンドウ。5分位でちょうどいい具合に。ニンニクは10分位。

 

六三四:どの野菜も甘みが増していますね! 塩を付けて食べるだけでおいしいです。というか、あれこれ調味料は使わない方が素材のおいしさが味わえますね。ニンニクはホクホクした柔らかさでいい感じ。ごま油と塩を付けて食べたら酒のいいおつまみになりそう。

 

実験②果物(トマト、バナナ)

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リンゴとバナナは15分位蒸しました。

 

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見るからにおいしそう!

 

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とろっと柔らかく蒸し上がっています。シナモンとバターを持参していましたが、このまま食べるのが一番という結論に。

 

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バナナ。どうなるかな……と思っていた食材でしたが、

 

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六三四:バナナチップみたいに香りが凝縮していて、不思議な味。でもこれはアリですね。

 

──果物を蒸してもおいしくなるのは新発見でした! 寒い時期に食べるから、蒸してあったかくなっているのが嬉しいです。蒸しフルーツ、アリですね。

 

実験③根菜類(レンコン、ジャガイモ、サツマイモ)

根菜類は30分近く蒸しました。

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まずはレンコンから。シャキシャキした食感は多少残しつつも、柔らかく蒸し上がっています。

 

六三四:「レンコンってこんなにおいしかったんだ」って驚きますよね! 食感も味もいい。レンコンの甘みも出ている。今回蒸した中でのベスト食材はこれですね。

 

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続いてジャガイモ。持参したバターと塩をのっけてジャガバターに。

 

六三四:これは間違いないですね。ただ、普段のジャガバターとの違いはさほど感じられないかも。合う品種を選んで工夫したらもっとおいしくなるかな。

 

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サツマイモ。紅はるかを使用。

 

六三四:甘いし、しっとりした食感がいい。このまま食べるのもいいけれど、塩を少しだけかけると甘みが引き出されておいしいですね。

 

実験④卵

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卵は7分くらいで黄身が半熟に。

 

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殻をむいてみると、ヒビが入った部分に蒸気が当たって黄色く変化していました。

試しにゆで卵を剥いた状態でさらにあと10分蒸してみることに。

 

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▲卵の殻を剥いてさらに10分蒸したもの(左)と、7分蒸して作った温泉卵

 

白身全体に蒸気が当たって、黄色い「蒸し卵」の完成!

 

──殻を剥いて蒸気を当てた方は、水分が抜けてぎゅっと旨味が凝縮されていますね。硫黄の香りも強めでどことなく燻製のような風味も。

 

六三四:温泉の成分が卵のたんぱく質に反応し、色が付いたり香味が増す「アミノカルボニル反応(メイラード反応)」というものです。殻を剥かなくても長時間噴気に当てていると白身が褐色になります。大分では「温泉ピータン」の名前で、売り出していますよ。

 

──半熟卵を楽しみたいなら7分前後、燻製のような風味を味わいたかったら長時間蒸すのが良さそうですね。

 

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▲取材中は蒸しては食べるを繰り返していました。大体2時間くらいいたでしょうか。ピクニック気分で楽しかったです!

 

六三四:いろいろな食材を蒸してみるのは楽しかったですね。いろんな食材でチャレンジしたくなります! 基本的に野菜は何でもおいしくなるけれど、レンコンのおいしさは新発見でした。炒めることでは出せないホクホク感だよね。温泉の力で甘みや風味も増しているし。

 

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▲取材中、卵を蒸しに来た地元の方に遭遇。竹ザルをネットに入れたものを持参していました。ネット部分を持ち手にすることで、手を蒸気に近づけずに食材を置けるので便利。火傷のリスクが減ります。普段スメ広場を活用している方の知恵ですね

 

美味! 「温泉水」を使った料理の数々

ここまでは「温泉の蒸気」を利用したグルメをお伝えしました。続いて「温泉水」を使ったグルメについて紹介していきましょう。

「スメ広場」から場所を移して訪れたのは、指宿市の弥次ヶ湯温泉。

 

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明治25年創業の老舗公衆浴場です。

 

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受付の2階に、入浴後にくつろげる休憩室があります。

昔は農閑期に湯治に訪れた人たちが、食べ物を持ち寄って語らった社交の場。この休憩室をお借りして、六三四さんにお話をお伺いしたいと思います! 

 

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と、その前にひとっ風呂!

 

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▲真ん中に浴槽があるだけの、昔ながらのつくりの温泉。床は外側に向かって軽く傾斜しており、湯船から溢れたお湯は自然と端へ流れていく構造です。シンプルながらも機能面でも優秀な美しいつくり。源泉かけ流しの浴槽からは絶えずお湯が流れていきます

 

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▲さっぱりしてご満悦の六三四さん

 

──先ほどは、「温泉の蒸気」を活用したグルメについて話しましたが、続いては「温泉水」グルメについて掘り下げていきたいと思います! 現在の温泉の泉質分類では、大きく分けて10の泉質がありますが、どの泉質の温泉水なら料理に合うとかありますか?

 

六三四:基本的に、飲泉許可の出ている飲用可能な温泉水ならどれも可能性はあります。ただ、同じ泉質でもエリアごとに成分の数値や条件が異なるので、一概に「この泉質はこの料理に適している」というのはいえないです。経験の範囲内でお話しすると、炭酸水素塩泉、アルカリ性の単純温泉、炭酸泉あたりが料理との相性がいいんじゃないかなと思っています。

 

──どうしてこれらの泉質と相性がいいのでしょう?

 

六三四:ざっくりいうと、炭酸泉とは、つまり炭酸水と同じことです。最近、炭酸水を使った料理は素材の味を引き出すと注目されていますよね。炭酸水素塩泉は、その中でも重炭酸土類泉、重曹泉の2つのタイプがあります。特に、重曹泉タイプの炭酸水素塩泉は、炭酸水素ナトリウム、つまり重曹が多く含まれています。重曹って料理にも使いますよね。料理で重曹を使うのと近い効果が期待できます。

 

──ほかにポイントとなる数値はありますか?

 

六三四:あと、泉質分析書には記載されていない数値ですが、どの泉質においても「硬度」は大きく影響しています。基本的に料理に使う温泉水は硬度が低いものがいいです。これは温泉水だけでなく水でも同じ。浸透圧の力なのか、ぐんと素材の味を引き出してくれます。特に、出汁を取ると、その効果が実感できますよ。

 

──こうして聞くと、お湯(温泉水)が及ぼす料理への効果って大きいですね。

 

六三四:温泉水を調理に使うには、検査をして許可が下りていることが大前提ですが、せっかく湧いている温泉の恵み。料理に適した温泉水が湧いている土地では、ぜひ温泉を料理に活用して欲しいですね。土地ならではのものですし。

 

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▲湯けむりたちこめる温泉街

 

温泉水グルメ①出汁が決め手のラーメン&鍋

──では、具体的に温泉水を使った料理例を教えてください!

 

六三四:先ほど「硬度の低い温泉水は、出汁を取ると効果が実感できる」とお伝えしました。だからスープが決め手になるような料理のラーメンや鍋は、しっかり出汁のコクが感じられる印象です。

 

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鹿児島県霧島市で温泉水を使ったラーメンを提供している「ラーメン専門店凜 」。近くにある千石温泉の源泉を使用しています。泉質は炭酸水素塩泉。ここのオーナーさんは料理にぴったりの温泉水があることを調査した上で、ここにお店を開くことを決めました

 

六三四:同じ原理で、コーヒーやお茶の味も引き出してくれますね。あと硬度が低い=軟水なので口当たりがまろやかですね。そのまま飲んでも柔らかくておいしいです。だから焼酎の割り水に使うお店もありますよ。

 

温泉水グルメ②ごはん・おかゆ

六三四:温泉で炊いたごはんもおいしいです。硬度が低い温泉で米を炊くと、水が米に浸透しやすいからか、ふっくらもちもちしたごはんになります。お粥なら柔らかい感じ。炭酸水素イオン、ナトリウムイオンの数値が高いところの温泉水は、ごはんとの相性がいいように思います。

 

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▲六三四さんが太鼓判を押す、湯之元温(宮崎県西諸県郡高原町)のおにぎり。色が不思議と緑がかっているのが特徴。「ここの温泉は、炭酸水素イオン、ナトリウムイオンの数値も高く、さらに炭酸の含有量も多い貴重な温泉です」(六三四さん)

 

六三四:炭酸泉は飲用の適応症で、胃腸機能低下に良いとされています。ちなみに、炭酸水素塩泉は胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風)が適応症。このような適用があるとされる炭酸泉、炭酸水素塩泉を使ったお粥は、湯治場などでゆっくり静養するのにふさわしい料理ですよね。大分の竹田温泉で食べた炭酸泉で作ったお粥は、湯治場にぴったりな体に優しい味がしました。(参考WEBサイト:適応症と禁忌症 | 日本温泉協会

 

温泉水グルメ③炭酸せんべい

六三四:他に炭酸泉を使ったグルメといえば、兵庫県の有馬温泉の炭酸せんべいが有名です。炭酸水で小麦粉、砂糖などを練り上げて独自の製法で焼き上げたせんべいで、炭酸泉の働きでパリッとした軽い食感のせんべいに仕上がっています。

 

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▲有馬温泉は土産物屋が立ち並び、炭酸せんべいを売っている店がたくさん。焼き上がってすぐはふにゃっとした食感ですが、時間が経つほどに水分が飛んでパリッとします。

 

温泉水グルメ④湯豆腐

六三四:あとなんといっても湯豆腐! これは外せない。その土地で食べるのが一番おいしいと思います。冬にゆっくりつつくのがいいですよね。

 

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▲『メシ通』でもご紹介した嬉野温泉(佐賀県)の湯豆腐。とろっとろな食感がたまらない

 

www.hotpepper.jp

 

──温泉水によって、とろとろになるのとならないのがありますよね。

 

六三四:重曹(炭酸水素ナトリウム)成分の多い温泉水で湯豆腐を作ると、重曹の働きからか豆腐が温泉に溶けだしとろとろの湯豆腐が味わえます。嬉野温泉の湯豆腐が有名ですが、温泉分析書の炭酸水素イオンやナトリウムイオンが主成分の温泉は同じようなとろける効果が期待できるかもしれません。調理用の重曹を水に加えることでも再現できますよ。

 

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▲温泉の話をする六三四さんはずっと楽しそう

 

温泉水グルメ⑤パン

六三四:温泉水を使ったパンもありますね。これも炭酸泉や重曹タイプの炭酸水素塩泉との相性が良さそうです。

 

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画像提供:鹿児島県観光連盟

鹿児島県霧島市にある「ブランジェリ ノエル 」では温泉食パンを販売しています。ふわふわもちもちの食感が人気。重曹泉タイプの炭酸水素塩泉である清姫温泉の源泉を使っています

 

温泉水グルメ⑥温泉水のパワーで渋抜きした「あおし柿」

──料理に直接使うだけでなく、温泉水に食材を浸しておくことで効果が得られるものもありますよね。鹿児島の紫尾温泉では、温泉水を使って柿の渋を抜く「あおし柿」が知られています。

 

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画像提供:鹿児島県観光連盟

鹿児島県さつま町の紫尾温泉。渋柿が温泉水に浸かっている様子は、秋の訪れを感じさせる地域の風物詩です

 

六三四:要は、柿を窒息状態にすることで渋みを飛ばしているので、紫尾温泉以外でも渋みは抜けます。試しに他の温泉でやってみたらできました。ドライアイスやアルコールで渋抜きする方法もあります。でも、紫尾温泉のいいところは、温泉に含まれる硫化水素の力なのか甘みが増すんですよね。香りもほんのりついて、よりおいしくなっています。

 

温泉水グルメ⑦もやしの育成

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画像提供:大鰐町役場

▲大鰐温泉もやしを栽培する様子

 

六三四:青森県大鰐町では温泉熱と温泉水のみを使った栽培方法でもやしを育てています。約400年前から伝わる栽培方法で、11~4月に収穫する冬野菜です。

 

──もやしって通年のイメージでした!


六三四:土室の下に温泉を引いて温かい状態にして育てているようです。土耕栽培なのでほのかな土の香りとシャキシャキした歯ざわりが特徴的です。江戸時代から変わらぬ伝統的な栽培方法であり、生産者も6軒と少なく大量生産できないため、すぐ売り切れてしまうみたいです。

 

温泉水グルメ⑦塩

六三四:塩化物泉を使った塩づくりをしているところもあります。辛さの中にまろやかさのあるおいしい塩が多いですよ。海水を使った塩づくりとは少し違った味わいがあるようです。

 

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鹿児島県指宿市にあるペンション菜の花館では、自家源泉の温泉水を使った塩づくりをしています

 

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▲温泉を温泉で湯煎するというユニークな作業工程。70℃の源泉温度を生かして時間をかけて結晶化しています。作れる量は一日にわずか500g程度

 

飲用許可のある温泉水はもっと活用されるべき

──今日はたくさんお話をありがとうございました! こうしてみると、食材としての温泉水の可能性ってすごく高いですね。

 

六三四:温泉を地熱活用した果物・野菜のハウス栽培などもありますし、最近では魚の養殖に温泉を活用しているところもあります。温泉の可能性って、入浴以外にもいろいろあるんですよね。

 

──なるほど。

 

六三四:温泉水は、きちんと飲用許可のあることが大前提ですが、せっかく湧いている温泉なので飲んでいい温泉ならぜひどんどん料理に活用して欲しいなと思います。その土地ならではの名物温泉料理が全国各地で味わえると温泉に行く楽しみが増えますよね。もちろん楽しみ方は人それぞれですが、今回の話を踏まえて皆さんにさらなる温泉の面白さを見つけてもらえたらうれしいです。

 

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──六三四さん、ありがとうございました!!

 

参考文献:論文『地獄蒸し調理の食品特性』、論文『別府地獄蒸し食品のアンチエイジング効果に関する研究』、『温泉ソムリエテキスト』、『温泉手帳』WEBサイト適応症と禁忌症 | 日本温泉協会

 

書いた人:横田ちえ

横田ちえ

鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。

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