料理にはその土地の文化や歴史が隠されている ──。「世界のごちそう博物館」本山尚義さんの話が深すぎた

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以前、友人に案内されて兵庫県神戸市にある魚崎という町の角打ち(酒屋さんの店内でお酒をやおつまみを味わえるスタイルのお店)に飲みにいったところ、そのお店に「世界のごちそう博物館」と名付けられたレトルト食品が並んでいた。

 

パッケージを見るに、どうやら世界のさまざまな地域の料理を手軽に食べられるようにレトルトにしたものらしく、ミャンマーの家庭料理で、鶏肉とじゃがいもを煮込んだ「チェッタ アール ヒン」、ブラジルの国民食だという黒豆を使った「フェイジョアーダ」など、普段なかなか食べ慣れない(というか、私にとっては名前自体聞いたことがないような)ものばかり、いろいろな種類がある。

 

興味を引かれ、シリーズの中からアフリカ南部の料理である「ガンボ」を一つ買って帰って食べてみたところ、これがとてもおいしかった。

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▲カレーともまた違う、スパイシーなスープの「ガンボ」(650円)

 

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湯せんしてご飯にかけるだけで簡単に食べられるのもうれしい。オクラを使って出しているというとろみがカレーやシチューのようで、ライスとの相性抜群。

 

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また、パッケージの裏側ではかわいいイラスト入りでその料理の特徴やその料理が生まれた歴史・文化的な背景について説明していて、販売者の熱い思いが伝わってくるのであった。

 

「世界のごちそう博物館」の公式サイトをチェックし、その主催者である本山尚義さんが世界の国々を旅してきたという経歴の持ち主であることを知った。

また、本山さんが食を通じて世界中で起きている問題について知ろうとし、伝えようとしていることがわかってますます興味を持った。

www.palermo.jp

今回、取材を受けてもらうことになり、その奥底にある思いについてたっぷり知ることができた。食と世の中との関わりをめぐって、すごく大切なことがたくさん含まれているように感じるので、ぜひ読んでいただければと思う。

 

インドでスパイスの洗礼を受ける

まずは、本山さんの経歴を簡単に紹介したい。

1966年、神戸市生まれ。19歳からフランス料理の道を志し、愛知県にあるホテルのシェフに。そんな中、27歳の時に出合ったインド料理に衝撃を受ける。

以来、世界中の料理に深い興味を持ってさまざまな国を旅し、帰国後はその経験をいかして世界中の料理を提供するレストランを経営。現在はレトルト食品シリーズ「世界のごちそう博物館」の製造・販売をメインに、レシピ本を著したり、日本各地で講演を行ったりと多忙な日々を送っている。

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と、簡単に済ませるのがもったいなさ過ぎるエピソードばかりなのだ。

例えば19歳の時にフランス料理の道へと入るきっかけについて、本山さんはこう語る。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:僕は両親が共働きだったこともあって、小さい頃からよく自分で料理をしていたんですね。料理することが好きだったんです。大学生の頃、長野県のペンションに住み込みで働く、いわゆるリゾートバイトをしたんです。ひと通りいろんな仕事をして、ある時に厨房で料理を手伝ったところ、オーナーが僕を見て「なかなか筋が良いやん!」と言うんです。「住み込み期間中に仕込みと仕入れ、メニューの組み方なんかも全部教えるから」と言われまして。そこで2カ月ぐらいしっかりと料理を勉強させてもらったんですが、休みが終わって下宿の友達に振る舞ったら、みんないつもちゃんとした料理を食べてないからめちゃくちゃ喜ぶんですよ(笑)。そのうれしそうな顔を見て、自分はこんなに人を喜ばせることができるんやなと思って、次の日にはアルバイト情報誌でコックを募集しているお店に連絡しました。きっかけになったペンションのオーナーがフレンチ出身の方だったので、それでフランス料理の道を選んだんです。

 

その後、フランス料理の奥深さにのめり込んだ本山さんは、27歳にはホテルの料理長を務めるまでになる。その頃は「作るのも食べるのも好きなのはフランス料理で、フランス料理が一番だと思っていました」という。

そんなある日、その本山さんにホテルの常連さんが「インド旅行に行かないか」と持ちかける。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:その方は、ヨガをしていて、毎年ヨガの修行でインドに行くんです。仲が良かったので、「今年も行くから一緒にインド行こうよ!」って誘われて、その時はインドに対して全然興味がなかったので、「はい、そのうち……」みたいにお茶を濁してたんですけど、誘い方がすごいというかかなり強引で、僕の分のチケットまで買って「この日に行こう!」と言ってくれて。でも、僕は料理長でしたし、クリスマスが近い時期でもあったんで到底無理だと。ホテルのオーナーの許可がおりるはずがないと思いつつ、「まあ、オーナーに聞いてみます」と言ったら「いや、すでにオーナーには言ってある」と(笑)。

 

常連さんのとんでもない情熱に負け、休みをもらってインドに行くはめになった本山さん。そこで、その後の人生を左右するほどの衝撃を味わうことになる。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:インドに行ってガラッと価値観が変わるとか、そういうことはないやろうなと思ってたんですけど、行ってみるとまず朝昼晩カレーで驚きました。カレーというか、カレー料理ですね。僕がそれまでやっていたフランス料理って、おいしいものにおいしいものを足してグッと煮詰めるというやり方、つまり足し算なんですね。積み上げていく料理というか。それに対して、インドの料理は、煮込んだところにスパイスを入れますよね。そこで一気に全然想像してなかった味になる。足し算じゃない、何か魔法みたいな(笑)。積み上げの料理とは全然違う、変化球なんですよ。それにすっかり衝撃を受けまして。

 

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▲若かりし頃の本山さん(写真提供:世界のごちそう博物館)

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:フランス料理っておいしいものを作るためには何も惜しまないんですね。フォアグラとかキャビアなんか、分かりやすいですよね。おいしさの追求のためにはどんなことでもするという。例えばダシをとったタマネギはそこで捨てちゃったりするんですけど、インドの料理はそういうこともないですし、理にかなっているという気がしました。さらには生活と密着していて、「調子が悪い時にはこのスパイスを使う」とか、健康に結びついている部分もある。自分が知り尽くしたと思っていた料理の世界が氷山の一角だったという、自分の価値観の乏しさにもショックを受けました。

 

本山流「本場の料理を学ぶ方法」とは

インドから戻ってきた本山さんの行動力がすごい。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:日本に帰ってすぐオーナーに「辞めたい」と伝えました。もちろんオーナーも、「ちょっと待てよ!」と(笑)。そんなつもりでインド行きの休みをくれたわけじゃない。でも、僕の料理に対する情熱は分かってくださっていたので、急には難しいから代わりのシェフを探すまではと、4カ月ほどしてから辞めさせてもらって、すぐインド料理屋さんに入りました。

 

国内にあるインド料理店で料理を学びつつ、一方でインド以外の世界中の料理についても興味が湧いてきたという本山さん。

そのお店のオーナーの寛大な計らいで、時折長い休みをもらっては世界各国を放浪しながら、各地の食文化を知るのが何よりの楽しみになったそうだ。旅先ではその土地の料理を体当たり式で教わった。しかし一筋縄にはいかなかったという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:料理を教わるっていうことを、最初はすごく簡単に考えていました。当初のイメージでは、現地で一軒のレストランに行って、食べておいしかったら、それをまず絶賛して(笑)、「厨房を見せて欲しい! 作り方を教えて欲しい!」と伝える。よく、海外に長めに滞在するようなテレビ番組であるじゃないですか? ああいう感じでいけるかなと思って。それが、たまたま最初に成功したんですよ。この調子で行けるかなと思ったんですけど、そんなことを許してくれるケースは10軒まわって1軒ぐらいなんです。その頃、日に5軒ぐらいは食べ歩いていたんですけど、それでも2日に1軒で教えてもらえるかどうかぐらいじゃないですか? たくさん断られるうちに、だんだんとメンタルをやられてきてしまって(笑)。

 

さすがにプロの料理人が簡単に手の内を明かすわけがない。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:そう、よく考えてみれば、自分が日本でシェフをしていて、どこの馬の骨かもわからんやつが急に来て、パッと食べて「作り方、教えてくれ!」と言われてもなかなかね(笑)。きっちりしているお店では、それこそレシピって宝物みたいなものですし。それで考えを改めることにして、たどり着いたのが、その土地の市場に行って、売られているいろいろな食材の名前を全部片っ端からノートに書き留めていくことでした。野菜を扱っているお店だけでも50種類ぐらいはある。それを一つ一つ、「これ何?」とお店のおばちゃんに聞いて書いていく。それをやっていると、「何してんねん!」みたいに人がだんだん集まってくるんですよ。おばちゃんも最初は面倒くさいなと思ってたっぽいんですけど、人が集まるとちょっと自慢気に「こいつ日本から来てんねん、うちの常連やねん!」みたいに言ってきたり。一回しか行ったことないのに(笑)。そういう風にちょっとずつ仲良くなって「明日も来いや」と言ってくれて、隣の肉屋さんにも紹介してくれたりして、そうなってくると、今度は店番を頼まれるんですよ(笑)。

 

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▲滞在先ではさまざまな人々に出会い、料理以外の慣習や文化を学んでいった(写真提供:世界のごちそう博物館)

 

すべては本山さんの「学びたい」「吸収したい」というひたむきさと、持ち前のフレンドリーさがなせるワザかもしれない。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:「娘を迎えにいかなあかんから頼む」みたいに言われてお金のやり取りも任されて、そうすると「今夜うち泊まるか?」と言ってもらえることがあったりして、家の料理を見せてもらえる。また翌日そこで店番してると今度は近くのレストランのシェフがきて「え、お前ここで何してんの!」と聞いてくる。「食材とか料理について勉強したくて店番してんねん」と話すと、「ならうちも来いや」と言ってくれたり。やっぱり、教えて欲しい! と自分の欲求ばかりを主張するんじゃなくて、その土地を本当に理解したいという気持ちをきちんと示して歩み寄るということをして、その態度を見てわかってもらうのが大事なんだと学んだんですよね。

 

世界195カ国の料理をすべて作ってやる!

心も体も投げ出すような形でさまざまな土地の食文化を学んでいった本山さん。33歳の時についに独立。念願であった、世界中の料理を提供するレストランを神戸市にオープンさせる。

その後、同じ神戸市内で場所を移転する形で2004年にオープンさせたのが「パレルモ」だ。イタリアの港町で、世界中の食材が集まってくる土地である「パレルモ」の名を冠したお店で、約30カ国の料理を常時提供した。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:料理には歴史や文化が盛り込まれているんですよね。例えばアメリカのルイジアナ州の郷土料理である「ガンボ」にはオクラが入っています。オクラの原産地はアフリカなんです。それがなんでアメリカ南部の料理に使われているかというと、アフリカから奴隷がアメリカに連れてこられる際に、オクラが一緒に入ってきたからだという説があるんです。それがスペインやポルトガルのスパイスと出合ってこの味になっている。それを知った時に、料理でそれが分かるっていうのがすごいなと。人間の悲しい歴史がこの料理の背景にあって、差別っていうのは本当によくないことなんだよ、って食べてもらいながら伝えることができる。一つの料理が、文化や歴史、世界で起きている問題を知ってもらえるきっかけになるなと思ったんです。ただ、お店に来るお客さんにいつもそういう話を聞かせてたんですけど、あんまり話し過ぎるとちょっと重すぎて引かれてしまうんです、「料理食べに来ただけなんやけど」って(笑)。

 

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その「パレルモ」で本山さんが2010年から展開し始めたプロジェクトが「世界のごちそうアースマラソン」だった。

これは、当時、日本政府が国として承認していた世界195カ国、すべての国の料理を最低1品ずつ作るというお客さん参加型のイベントで、2週間ごとに4カ国のご当地料理を出し、休みの期間なく2年間に渡って続けられた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:何か面白いイベントをしてそのメッセージを伝えられないかと思いまして、ウチのお店で始めたのが「世界のごちそうアースマラソン」だったんです。これが本当に大変で……やるって決めたのは自分なんですけど。まず、僕が行ったことのある国は30カ国で、それが全部で195カ国あるわけじゃないですか。160以上の国の料理のレシピを知らないわけですよ(笑)。

 

普通なら「もう無理」とあきらめるところだ。が、そこは出来ない理由より出来る方法を考えるのが本山さんという男だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:最初は100カ国でいいかなとも思ったんですけど、中途半端だなと思い直しました。それでは全世界じゃないわけです。この国の料理はおいしいから、とか、有名だから、とかではなく、どんな国のどんな料理も認め合える世の中にしたくてやっているんだから、そこに無い国があったらおかしいなと。一応、195カ国が日本が国として認めてる数なので、それなら世界の料理と言えるかなと。自分が名前を聞いたことすら無い国もあって、その名前を知るだけでも面白いし、その国の人が食べている料理を通じて一気にその国を知ることができる。

 

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▲「世界のごちそうアースマラソン」開催当時のメニュー。広い世界地図を眺めているような気分にさせられる

 

やっとの思いで見つけたコソボ料理

無謀ともいえるプロジェクト「世界のごちそうアースマラソン」。必死にレシピをかき集めたが、苦労は絶えなかった。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:大抵の国の料理はレシピを用意できたんですけど、それでもやっと100カ国ぐらいでした。でも、現地を知っている人からレシピを教わりたいというこだわりがあったので、大使館にたずねたり「異文化交流センター」に行って海外の方に教えてもらったりとか、信号待ちの時に外国の方がいたら、いきなり話しかけて教えてもらったり(笑) 。それをお店をやりながら同時進行で進めなくてはならない。この2年間は本当に、毎日3時間ぐらいしか寝てないんです。

 

中でも苦労したのが、いわゆる紛争地のレシピだった。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:それでもどうしてもレシピが手に入らない、情報のない国がいくつかあって、その一つがコソボだったんですけど、コソボって紛争があって、その当時は旅行者もほぼ行けなかったんですよ。ブログにも情報がない。コソボの人も自分の国の料理を紹介している場合じゃないし、文献もまったくない。手がかりがなくて、家でずっと「コソボ……コソボ……」とぶつぶつ繰り返して、嫁に「なんなん?」とあきれられたり(笑)。あれこれ手を尽くしたけどなかなかうまくいかなかった末に、ミクシィでコソボに関するコミュニティを探したらそれがあったんですよ、コソボコミュニティが! そのコミュニティの方に連絡をとったら奥さんが日本人で旦那さんがコソボの方だったんですね。イベントの主旨や、コソボのことを料理を通じて知ってもらいたい、コソボで今起きている問題があるなら支援したいということなどを伝えたんですね。そしたら返事が返ってきまして、コソボ料理っていうのは「ベゲータ」っていう野菜から作ったコンソメのような顆粒パウダーがあって、それを入れると全部コソボ料理になるんですよ、と。ハンバーグに「ベゲータ」を入れて味付けをして、ヨーグルトに「ベゲータ」を入れてソースにしたら、もうそれは立派なコソボ料理だという(笑)。すごい悩んだわりにはそれが答えか! って(笑)。

 

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▲あった、コソボ料理!

 

料理の背景には、その土地が抱えてきた苦難の歴史や経済事情が隠されている。コソボ料理も例外ではなかった。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:そしてコソボ人のご主人が、その「ベゲータ」というスパイスとワインを一緒に送ってくださったんですけど、コソボは危ないからっていうことで隣国のマケドニア行ったら、たまたま町で売られていたのを買ってきたものらしくて。ただその時、旦那さんはお金を持っていなかったみたいなんですよ。でも懐かしい味だからどうしても欲しいと思って、その時履いてたジーパンを物々交換で「ベゲータ」にかえたという(笑)。 そうまでして手に入れたものなのよ」っていうのを奥さんから聞いて、本当にありがたかったです。おかげでコソボ料理の味だけじゃなく、そういう社会的な背景も知ることができました。

 

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▲未知の食材に触れると、うれしくてたまらない(写真提供:世界のごちそう博物館)

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:ちなみにその「ベゲータ」なんですが、この前Amazonで売ってたんですよ(笑)。ご家庭でコソボ料理を作ることができる時代になりました。

 

2年間続けられたお客さん参加型の企画「世界のごちそうアースマラソン」にはのべ3000人のお客さんが参加。その中の33人が195カ国すべての料理を制覇したという。

「僕も大変だけどお客さんも大変だったと思います」と本山さんは当時を振り返る。苦労はあったが、本山さんにとって大きな学びの機会となったようだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:世界にはいろいろな国があっていろいろな人がいていろいろな料理があります。おいしいとかまずいとかじゃなくて、この土地だからこの料理になっているとか、さまざまな背景があります。例えば、支配されていた歴史がある国で、もともとあった料理じゃない国のものが食べられるようになっていったとか、そういうことを知って、お互いを思いやれたら少しずつ平和な世の中になるんじゃないかということを、これをやることで伝えたかったんですね。実際、195カ国の料理をその国の方々とコミュニケーションをとりながら作っていって、僕の中でも世界中の人がお互いを理解しあって平和に世の中になっていったらなという思いが自分の中でどんどん強くなっていきました。

さまざまな国の料理を知るうちに、貧困や飢餓、戦争など、大きな問題にも触れることになっていった本山さんは、料理を通じて世界に働きかけていきたいという思いを強めていくことになる。

2016年には、世界中のプレゼンターが世の中を良くするアイデアを発表し合う「TEDx」にプレゼンターとして参加するなど、活動の幅を広げていく。

tedxkobe.com

 

世界中の珍しい味をレトルトに

そんな中、ずっと続けてきたお店「パレルモ」を閉めるという決断を下した本山さん。神戸市にあったお店に来られない遠方の方にも世界中の料理を届けようと2014年頃から製造し始めていたレトルト食品シリーズの製造・販売に専念することになる。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:レトルト食品に絞ったのにはいくつかの理由がありまして、まず、それまではとにかく毎日が大変だったんです(笑)。当初はお店と並行してやっていたんですが、毎朝3時に作業所に行って材料を僕が調理して、それを冷やしているとだいたい朝8時ぐらいになって、作業所で詰めの作業をしてもらいます。僕はそこからお店に戻って仕込みを始めてっていう日々を送っていたんですけど、これはずっとはできないなと。自分には3人の子どもがいるんですが、一緒にいてあげられる時間をもっと作りたいと思いました。飲食店だと、お昼と夜の決まった時間に毎日開ける必要がある。でもレトルトだと融通がきくんですよ。夜ご飯を一緒に食べることもできるし、運動会がある日は外すとか段取りが組めますから。また、レトルトならいろんな人に食べてもらうことができるし、自分が料理を通じて知ってもらいたいこともパッケージなどから伝えやすい。さらに、食品のロスを少なくすることができる。そういうさまざまな理由から現在の形になりました。最初は4種類だけだったんですが、徐々に種類を増やしていっています。

 

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▲ご覧のとおり、日本人には未知の味がズラリ。本山さんのレトルトはまさに世界を知る窓といってもいい

 

本山さんのレトルト食品シリーズを食べてその活動を知った人も数多く、それがきっかけで各地に講演に招かれたりするなど、反響も大きいのだという。

オンラインショップでの購入が可能なほか、最近では東急ハンズやロフトなどの一部店舗でも期間限定で販売されているとのこと。ラインアップの中で特に好評なものについて聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:トップ3があるんですけど、まずは鶏肉とじゃがいもを使ったタイ南部の「マッサマンカレー」、ニンニクの効いたスペインの「アホスープ」、珍らしい食材を使った「パキスタン風羊の脳みそカレー」。通年、これらが好評ですね。実はこういう食材のものって女性の方が関心を持ってくださることが多いんですよ。「羊の脳みそ……気持ち悪っ!」って通り過ぎて行くんですけど、なぜかしばらくして戻ってくる方が多い(笑)。「やっぱり気になるので買います」って。チャレンジ精神が旺盛なのかもしれないですね。

 

珍しい食材を使ったシリーズでは、「アメリカ南部風 赤耳亀のケイジャンカレー」、「ブラジル風ピラルクのココナッツ煮込み」なども好評だとか。

「アメリカ南部風 赤耳亀のケイジャンカレー」は、現在、国内での増加問題を耳にすることが多い外来種の「アカミミガメ」について、「どうにかできないか」と行政から依頼を受けて制作したものだという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:これまでスッポンぐらいしかカメをさばいたことがなくて、アカミミガメの甲羅はすごく丈夫なので、調理がものすごく大変なんですよ。最初は30人前を作るのに丸3日かかりました。すごい効率が悪い(笑)。アカミミガメがアメリカ原産のものなので、生まれ故郷のアメリカ南部風の味付けに仕上げたんですが、これをきっかけに外来種の問題にも関心を持ってもらえたらと思って頑張りました。インパクトが大きかったのか、メディアにも取り上げてもらって好評でしたね。それを知った別の業者の方が「アカミミガメがいけるならピラルクも興味ありますよね?」と声をかけてきて、それで作ったのがピラルクの煮込みです。

 

そう、熱帯魚好きにつとに有名な世界最大級の淡水魚のことだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:アカミミガメが食材になったのは世界初だと思うんですけど、ピラルクはブラジルでは普通に食材に使われていて、おいしいんですよ。

 

評判のレトルト商品を実食してみた

本山さんのおすすめの中からいくつかを購入し、後日、自宅で食べてみた。

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お話にも上がった「アメリカ南部風 赤耳亀のケイジャンカレー(手前、750円)」と「アホスープ(奥、650円)」。

 

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おそるおそる食べたアカミミガメの肉にはクセがまったくなく、鶏肉と言われても分からない感じ。

 

スパイス感が強めで香ばしく、アカミミガメ入りだということを一切忘れてズンズン食べ進んだ。

 

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一方、アホスープは、がっつりとニンニクの風味が効いたオニオングラタンスープといった印象。スペインでは昔から古くて硬くなったパンを入れて食べていたため、「貧者のスープ」とも呼ばれるそうだ。ふにゃふにゃになったパンがお麩のようでおいしい。

 

それにしても、まさか家の見慣れたテーブルの上でアカミミガメの肉を食べ、アホスープをすする日が来るとは思わなかった。

 

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「マッサマンカレー(650円)」のまろやかな甘みも素晴らしかった。ジャガイモも鶏肉もゴロゴロ入っていてうれしい。

 

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こんな味が家庭で楽しめてしまうというのは改めてすごいことなんじゃないだろうか。

 

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「ブラジル風ピラルクのココナッツ煮込み」もおいしかった。世界最大級の淡水魚ともいわれるピラルク、味にはクセがなく、タラの味わいをもう少しギュッと濃縮したような感じだ。何の違和感もなく味わえる。

 

珍しい食材や遠い国の料理をこんなにも手軽に、かつおいしく食べさせてくれる「世界のごちそう博物館」。食べた人はきっと他の種類もいろいろと食べてみたくなるはずだ。

 

食を通じて世界の多様性を知ってほしい

今後、「世界のごちそう博物館」シリーズはどのように展開していくのか聞いてみたところ、「これからも様々な国の料理を増やしていきながら、東京オリンピックもあるので、海外の方に日本の食文化を知ってもらえるようなセットなども用意していこうと思っています」という。

 

また、本山さんは昨年末に『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』(ライツ社)という書籍を出している。

文字通り、世界中の料理のレシピが載っている本なのだが、画期的なのは国内のスーパーなどで普通に手に入る食材や調味料を使ったレシピ集だという点だ。つまり、家にいながらにして自分で行ったことのない国の料理を作って食べることができるというわけだ。

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f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:この本を作るのも相当大変でした。とにかく数が多いので、写真を撮るだけでも3カ月ぐらいかかったし(笑)。また、家庭で簡単に調理してもらえるように、レシピをできるだけ簡略化するのもなかなか大変でしたね。それを作るだけで時間がかかりますし……。でも苦労した分、良い本になっていると思います。

全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ

全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ

  • 作者: 本山尚義
  • 出版社/メーカー: ライツ社
  • 発売日: 2017/12/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

取材から数日後、なんとこの本が「料理レシピ本大賞 in Japan」が主催する「料理レシピ本大賞」の特別選考委員賞を受賞したという知らせが。本山さんの活動が、ますます脚光を浴びそうでうれしい。

 

最後に、本山さんに、食を通じて伝えたいことについて聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003172902p:plain本山さん:世界の多様性に興味を持ってもらって、お互いがお互いを認め合うために自分ができることって何だろうと考えてもらえること。食を入口にして、そういったことに興味を持ってもらえたらと思っています。

 

今日も世界中の人々がさまざまな場所で何らかの料理を食べて生きている。そしてそれは、自分たちが当たり前だと感じているものとはまったく違った魅力にあふれた何かかもしれない。たまにはそんなことをじっくりと想像しながら食事してみるのはどうだろうか。

 

サイト情報

www.palermo.jp

shop.palermo.jp

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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