
いい年をした大人になっても、時々無性に食べたくなるのがスナック菓子のもつ魔力。野球ファンのなかには、2018年で生誕45周年を迎えるおまけ付きお菓子の日本代表、「カルビー プロ野球チップス」を、ついつい買ってしまうという人も多いだろう。
かく言う僕もそのひとり。昼間買い物に行ける兼業主夫であるのをいいことに、スーパーに行くたび、奥さんや子どもにナイショで買って、ひそかにカードを集めているのはここだけの秘密である(子どもには「お菓子は買わない!」なんていつも言ってるのに……)。
そんなわけで今回は、物心ついたときから我々とともにあったおなじみのポテトチップス、通称“プロチ”の秘密を探りに、カルビー本社の担当者を直撃。子どもの頃から抱いてきた素朴な疑問のあれこれから、知られざる苦労話まで、根ほり葉ほり聞いてきた。

▲東京・丸の内にある本社オフィス。さすが一流の大企業。恐縮するぐらい立派だ……

▲打ち合わせスペースには海外版も含めたカルビー商品がズラリ。もちろん“プロチ”も

▲実は「ギャレット ポップコーン」のジャパンフリトレーもグループ企業だったりする
一筋縄ではいかないカード作り

出迎えてくださったのは、マーケティング本部ポテトチップス部の三井剛さん。
前任の担当者から引き継いで以来、所属が変わったいまなお、「プロ野球チップス」にかかわる業務のすべてを取り仕切っているという、カルビーにおける“ミスター・プロチ”的存在だ。
──本日はよろしくお願いします。さっそくいろいろおうかがいしたいんですが……。「プロ野球チップス」って1シーズンに3回発売されるのが通常のパターンだと思うんですけど、そう言えば、なにげに2017年は第3弾が出ていませんよね?
三井:そうなんです。例年であれば、3月、6月、9月と、ラインアップを変えて第3弾まで発売しているのですが、ご存じのように今年は深刻な「ジャガイモ不足」に見舞われてしまいまして……。第2弾の発売が大幅にズレ込んでしまったために、第3弾を出すまえにシーズンが終わってしまったというのが、実際のところでもあるんです。
──ということは、カードのラインアップも本来であれば前半戦で出る予定だった選手たちを、そのままスライド登板させていると? 正直、「なんでこの選手が選ばれているんだろ?」っていうのは、素朴な疑問としてあったんです。
三井:どの選手をカードにするかは、通常、私と制作代理店の担当者とでリストアップしたものを各球団に申請をしたうえで決定するのですが、第2弾の人選については、実は4月中にはすでに終わっていまして……。2017年に関しては、そのタイムラグがより大きくなってしまったぶん、私たちの「見込み」と実際の活躍ぶりに、いつも以上のギャップが生じてしまった部分はありますね。なにしろ、判断材料は開幕直後のデータだけなので。
──開幕前に発売される第1弾では、通常の選手カードとは別に、ルーキーカードなんかも作られたりしていますよね。何ヵ月も前から準備をされるとなると、選手本人の写真を入手するだけでも相当大変そうです。
三井:おっしゃるとおり、新人選手に関してはキャンプインする前の段階ですと、ユニフォーム姿の写真さえ、なかなか入手が難しい。まれに練習着姿のままカードになっていたりするのは、そういったやむにやまれぬ事情もあるんです。ちなみに、制作にあたっては、敬意を表して12球団の露出が均等になるよう心がけて制作に取り組んでいます。
──なるほど。復刻カードなんかを作る場合でも、当然肖像権の問題などはその都度クリアしていく必要がありますもんね。
三井:そうですね。ご本人の許諾はもちろんですが、たとえば現役当時の王貞治さんのカードを復刻したときなんかは、すでに現物のカードが社内になくて、制作代理店がコレクターショップまで買いに行ったりもしています(笑)。あとは、そのシーズン限りで引退を表明されたスター選手を「惜別」の意味も込めてカード化する際も、すでに所属が球団ではなくなっていることが多いですから、個別に許諾を取る必要は出てきます。
──そうやって手順を聞くと、一朝一夕にできる仕事ではないですね。部署を異動された後も三井さんが仕切られているというのも納得です!

▲左上はV9時代の73年に発売された初代のパッケージ。中身はまだサッポロポテトだった

▲記憶に新しい00年以降のパッケージ。「12球団を均等に」の配慮もうかがえる
パッケージに隠された「売る」工夫

──ところで、近頃では「野球離れ」なんてことも叫ばれていますし、こと「プロ野球チップス」も、我々のような「懐かし世代」がメイン購買層なのかな? とも思ったりします。実際のところはどうなんでしょう?
三井:実はまったくそんなことはなくて、ラッキーカードの返送率はいまも4割ぐらいが小学生。なので、私たちとしても発売以来、一貫して守ってきた「小学生向け」という部分を変えるつもりはないんです。弊社のオンラインショップやAmazonさんなどでは、いわゆる“大人買い”をされる方向けの限定パッケージなども取り扱ってはいますけど。
──実際問題、大人買いすればラッキーカード(※)には巡りあえるものなんでしょうか?
三井:ラッキーカードがどういった割合で入るようになっているかについてはお答えできないのです。また同じ種類のカードは、できるだけ各選手が同じ枚数になるよう印刷しています。何ケースも購入すると、「同じカードがダブる」ことがあるかもしれませんが、そのあたりはご容赦願えればと思っています。
※ラッキーカードが出ると、専用のカードホルダーや、好きな選手の箔押しサインカードがもらえる
──ちなみに、各球団の本拠地など土地柄によっても売れゆきは違うものですか?
三井:そうですね。球場の近くとかにはかなり売ってくださるお店がありますね。東京ドーム、神宮球場、メットライフドームのそばのコンビニエンスストアは実際に見て「すごいなぁ」と感心しました。また甲子園球場、ナゴヤドームそばの総合スーパーはケタ違いに弊社の商品を並べてくださっていますね。
──では最後に、これを読んだ人だけが「へぇー!!」と思えるような豆知識などがありましたら、ぜひこっそり教えていただければ、と。
三井:実は2016年から、商品パッケージの表裏を逆── つまり、本来であれば「原材料」などの表示が書かれている裏の部分が表に来るよう、パッケージの仕様をあえて変更しています。裏側が表になれば、必然的に付録のカードがついているほうを表に向けて陳列してもらえるようになる。そうなれば、「おまけがついているよ」ということをより端的にアピールできるんじゃないか、と思ったんですね。「そんなことで」と思われるかもしれませんが、実際、パッケージを変えて以降は、売上も目に見えて上がってきていますから、狙いは大成功だったと自負していますよ(笑)。

▲2017年発売の第2弾パッケージ。真ん中にある継ぎ目はまさしく裏面のそれ!(オープン価格)

▲シーズンオフの現在は、2017年11月から発売中の「侍ジャパンチップス」もオススメだ!(コンビニエンスストア以外の店舗は2017年12月11月より発売中、オープン価格)
カードの入った袋を開ける瞬間のドキドキ感は、いくつになっても楽しいもの。
なにかと宴席の続くこの季節だからこそ、我々を童心に立ちかえらせてくれる永久不滅の素敵なお菓子「プロ野球チップス」を肴に、野球談義に華を咲かせてみるのも一興だ。
とりあえず、酔狂なロッテファンでもある僕としては、来年の第1弾に入ってくるであろうドラ1ルーキー、安田尚憲選手あたりのカードはぜひゲットしたいところ。
ぶっちぎりの最下位に低迷した17年シーズンで「もっとも活躍した」と言っても過言ではない新マスコット「謎の魚」のようなトリッキーなラインアップにも、ひそかに期待してみたい。

▲筆者が『メシ通』でも取材した東京・神田の「ベースボール居酒屋リリーズ 神田スタジアム」では、お通しがプロチ。同店での年間消費量は1万パック以上にも及ぶというから驚きだ!
※この記事は2017年11月時点の情報です。



