あなたは“ホンモノの出汁”を知っているか? プロが教えるチョー初心者向け「かつお節&かつお出汁」入門

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こんにちは。家に冷蔵庫の無いメシ通レポーターの塩月です。最近、和食に欠かせない「出汁(だし)」に注目が集まっていますね。

ひとくちに「出汁」といっても昆布、椎茸、煮干しなど、素材は様々ですが、中でもやはり主流はかつお節。最近はスーパーの棚を見ても「プレミアム」に「本枯(ほんがれ)節」、「何々製法」とうたい文句が増えているように感じます。

とはいえ、恥ずかしながら「かつお出汁」が美味しいものだと、はっきり認識したことがありません。おそらく常温保存がきく食材ですし、ここは一つ、かつお節の専門家に美味しい「かつお出汁」の取り方を聞いてきました!

 

プロ中のプロ、かつお節問屋「タイコウ」

話をうかがったのは、東京都・晴海にあるかつお節の荷受け問屋「タイコウ」の二代目、稲葉泰三さんです。

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稲葉さん、かつお節について教えてください!

 

いいよ。しかし日本人ってのは、かつお節のこと、実は何にも知らねえんだよなあ。(稲葉さん)

 

より多くの人にかつお節の歴史や現状、出汁の取り方について知ってもらいたいと、全国各地で「出汁教室」を行っている稲葉さん。この春からは月に1度、自社でも教室を始めました。

f:id:Meshi2_Writer:20160507120705j:plain写真は2016年3月上旬に行われた「出汁教室」の様子。皆さん、興味深々!

 

料理人から味にうるさい一般の方まで、全国に幅広い顧客を持つ「タイコウ」。

取材に訪れた日は、それぞれのお客さんの好みに合わせたかつお節の選定作業の真っ最中でした。半年から1年ほどかけて、何度も何度も選定を繰り返すそうです。

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出ました、かつお節!! いよっ!

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素人目には違いや良し悪しがまったく分かりません。表目に付いている粉は、役目を終えた「青カビ」だそうです。 かつお節もチーズなどと同じく、代表的な発酵食品なんですね。

 

生がつおが“かつお節”になるまで

せっかくなので、出汁の取り方についてうかがう前に、かつお節の歴史や作り方についても教えてもらいました!

稲葉さんによると、かつお節の起源は古墳時代に遡るそうです。日本最古の文献『古事記』にも「堅魚(かたうお)」という名で、生がつおを加工したと推測されるような記載があるとのこと。

f:id:Meshi2_Writer:20160507131022j:plain写真提供:有限会社タイコウ(以下※すべて同)

旨みのある現在のかつお節は、江戸中期の1700年ごろに製法が確立され、全国各地に薩摩節、紀州節、三陸節といった技や文化が生まれました。「昆布は上方、かつお節は江戸」という言葉が残るように、上物が江戸に集まり、広く庶民にも出汁文化が浸透していったそうです。

かつお節は「松魚節」「鰹夫婦節」「勝男武士」とも書かれ、今でも結納や節句など祝い事に使われています。

 

さて、そのかつお節ですが、かいつまんで説明しますと、下記のような工程で作られます。

まず漁港で水揚げされたかつおは、鰹節工場(いで小屋とも呼ばれる)に運ばれ、職人さんによってさばかれます。

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このとき、かつおの大きさによって、1尾から2枚取れたものを「亀節」、4本取れたものを「本節」と呼びます。

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さばいたかつおは、煮釜で2時間ほど煮て、かつお本来の旨み成分を身に閉じ込めたら、

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いったん冷まして、今度は骨を抜きます。

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さらに品質を見分けるための一部を残して皮をはぎ、数日間から数カ月、間を挟みながら、旨みを凝縮させるため燻して水分を飛ばしていきます。この行程を焙乾(ばいかん)と呼びます。

 

こうして最初の段階の商品である「荒節(あらぶし)」が完成!

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これを削ったものが原材料名「かつおのふし」、商品名「花かつお」や「かつお粉」として市販されます。

 

 

作業はまだまだ続きます!

続いて、小刀や研磨機で表面を削り、

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かつお節の形に整え、日干ししたら、

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重要な工程である「カビ付け」!

カビは、1番カビ、2番カビ、と数回に分けて付けます。

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付けたカビが身に乗ったら天日干し、乾いたらまたカビ付け。その順で作業を繰り返し、原材料名「かつおのかれぶし」(商品名はこれはかなり様々あるようですが枯節、仕上節とも呼ばれる)ものが完成します。

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カビ付けを行わなくても旨みはありますが、カビ付けを行うことで、かつおの脂肪が分解され、必須アミノ酸を含んだたんぱく質に変わり、かれぶし独特のふくよかな香り、旨みが形成されていきます。ただ、こうした昔ながらの製法を続ける生産者は、いまでは数少ないそうです。

上の写真は、「タイコウ」が信頼を置く鹿児島県枕崎市の生産者一家のもの。かつおの水揚げから、同社が最上級品と位置付ける仕上節に至るまでの全行程には半年を要するのだとか。
さらに冒頭のように、届いたかつお節を選別し、状態を見ながら商品に育てていく工程も必要になります。
一方で、「ただ単に時間をかければ良いという世界でもない」そうです。
うーん。奥が深い。

詳しいかつお節の製造方法はこちらを参照ください。

 

かつお節の削り方を教わる

さて本題の「かつお節&かつお出汁」に戻ります。

伝統的な製法で作られた本物のかつお節はいかにして、出汁になるのでしょうか? 稲葉さんに実演してもらいました。

 

まず「姿節(すがたぶし)」と呼ばれる1本もののかつお節を入手したら、タワシなどを使って水洗いします。

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こちらが「姿節(すがたぶし)」です。いわゆる、削る前のかつお節ですね

 

あのー。洗っても味は抜けないんでしょうか?

 

大丈夫だよ。こんなことぐらいで抜けないよ。(稲葉さん)

 

表面に粉上に残るカビの残骸を付けたまま削ると、出汁を取る際に灰汁が出るため、きれいに洗い落としたほうが良いそうです。

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つるんとしたかつお節。洗った後は、日陰でよく乾かします。

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そして次はコレ。かつお節削り器の登場です!

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実物を見たことがない人も多いのではないでしょうか。もちろん、今でも問屋街の料理道具店などで売ってます。

気になるお値段ですが、左から順に1万円、1万2千円、2万円、3万円、4万円也。何が違うかって、刃が違ったり、作った職人さんが違ったりするそうです。

ただ、どんなに高級な削り器でも、引き出しの前面部に毎回、力がかかることで、ひびが割れ、買い替えが必要になることも。

 

初めての人は1万円ぐらいのから始めれば十分だと思うよ。(稲葉さん)

 

ではいよいよ削っていきます。いざシュッシュッとやってみましょう!

かつお節の「頭部」にあたる部分の裏側が削り始だそうです。

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削り器を置き、その上に皮目を上にしたかつお節を斜め30度くらいの角度で刃の上に寝かせ、

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手を添えて、、、

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押し出しながらシュッ!

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おお、削れてる! かつお節だ!!

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一見簡単そうに見えるこの作業。実際に筆者と担当編集者が見よう見まねでやってみましたが、これがなかなかうまく削れません。

 

上手に削るコツを聞くと、

 

カンナ刃と引出しを自分の方に向けた状態で床に削り器を置き、正座をして、前のめりにして削るといいよ。(稲葉さん)

 

昔は子どもの朝の手伝いの定番だったのだとか。最近では、無添加志向の流れもあり、経験のひとつとして毎朝子どもにかつお節削りをさせる家庭もあるようです。

 

ちなみに忘れてはいけないのが、道具の手入れ。削り方だけでなく、削り器の刃の具合によっても、削った後のかつお節の形状は変わってくるそうです。

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粉状にしかかつお節が削れない場合、刃がきちんと研げていないか、刃が出すぎている可能性があるとのこと。

 

その場合、削り器の台頭部と台尻部分を叩き木槌で叩きながら刃を微調整していきます。

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市販のお手軽パックと本格削り節。その味の差は……

さて、次はいよいよ出汁の取り方へ。とその前に、ふと疑問が。

伝統的な製法で作った削りたてのかつお節と、スーパーなどで売られている削ったかつお節パック。いったいどれぐらい味が違うのでしょうか。

稲葉さん、実はわたし、市販のかつお節の削りパック1袋分でいつも味噌汁や汁そばの出汁を取ってるんです。

 

なんだと! そんなんじゃ出汁はでねえよ。(稲葉さん)

 

いやいや、でもなんか、出汁らしきものの味はしますよ。

なので、実際に試してみました。用意したのは昆布を一晩つけた水。

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これを沸騰させていわゆる「昆布出汁」を作り、

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その「昆布出汁」に市販のかつお節と、「タイコウ」のかつお節をイン。

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あ、これは正式な出汁を取る方法ではないので、念のため!

 

一番左端が、最寄りのスーパーで最安値のかつお節パック(3グラム数袋入り100円台前半)、それ以外は、「タイコウ」の削りたてのかつお節3種類。

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味の差は歴然。

右の3つが自然な旨みがじんわり伝わってくるのに対し、最安値のかつお節パックの出汁は、魚の生臭い味がしてくる気が。

(昔飼ってた猫にあげていた餌の缶と同じ匂いがするような……)

 

きちんと処理してないと、こうなるんだよ。大量生産だと、それなりの味しかしないってこと。かつおが苦しんで死んだりするだけでも、味に違いが出るくらいなんだから。(稲葉さん)

 

かつお節の旨みになるイノシン酸は、釣り上げ後の死後硬直の過程で生成されることが解明されているそうです。「かつお出汁って酸っぱい」と思っている方は、一度に大量に捕獲するため網の中で暴れて乳酸の多い、巻き網漁のカツオが使われている可能性があるとのこと。

そのため、「タイコウ」では一本釣りのかつおにこだわっているそう。

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巻き網漁の、味が酸っぱくなっちゃってるかつお節は、ごはんの上にかけて食べたらいい。出汁を取るためのかつお節とは違うんだよ。(稲葉さん)

 

なるほどー。たくさん学びました!

とはいっても、私いきなり丸々1本の姿節も、かつお節削り器も買えません。

 

なら、削り節があるよ。一般のお客さんでも楽しめるように、ウチでも最近パック詰めの商品を扱っているからね。(稲葉さん)

 

そうです。飲食店などプロの業者さんが主な取引先である「タイコウ」にも、便利な削り節のパッケージ商品があるのです。

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これはぜひ試してみたい!

 

かつお節ってのはさあ、イノシン酸だから、健康にいいからとか、能書きとか本当はどうでもいいんだよ。旨いから使うっていうシンプルなもんでさ。まだ「かつお出汁」を取ったことがないっていう人には、まず、まともな「かつお出汁」を使ってみてほしいんだよね。作り方はパッケージの裏に書いてあるから、それどおりにやってみな。別に難しく考えることはないんだから。(稲葉さん)

 

「タイコウ」さん、ありがとうございます。出汁作り、やってみます!

 

自宅で「かつお出汁」を取ってみる

数日後、「タイコウ」で購入したホンモノのかつお節で、ホンモノの出汁を作ってみることに。

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今回試したのは、一番値段が手ごろな「タイコウ 花かつお だしはこれ」(写真左側、80グラム入り594円)。カビを付けていない荒節です。

 

肝心の作り方はパッケージの裏側に書かれています。今回試すのは、右下部分に書かれてある「かつお節だけを使った方法」!

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材料はかつお節と水だけあればOKなんですが、「タイコウ」から言われた大原則はこれ。

きちんと量を測って使う。

 

パッケージに書かれた分量は、水1リットルに対し15~20グラム。

おかわりを見越して2杯分のみそ汁500ミリリットルに対して、最低量の8グラムを、容器にふぁさ~。

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続いて沸騰したお湯に、

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8グラムのかつお節を、ふぁさ~と投入。

(あ、今までって、そもそも入れていたかつお節の量がもっと少なかった……)

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手順書通り、2~5分、ゆっくり中火から弱火で煮出します。

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みるみるうちに黄金色のかつお出汁が。

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2〜5分で火を止め、こし器にかつお節を集めてギュッギュとエキスを絞って、「かつお出汁」が完成。

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具の豆腐を入れた段階で、いったん味見。あ、なんかいつもより味がある……。

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味噌をといて、と。

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ホンモノの「かつお出汁」を使ったお味噌汁の完成!

(ちょっとこれ、小学校の家庭科レベルで恥ずかしいけど、うれしい!)

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椀と箸を取り、いただきます。

 

う、うまいっ!!

まず味噌の味がして、さらにその後から、いわゆる出汁の滋味とやらが追って来るような。

 

ああ美味しい。幸せ。一番手ごろな値段のかつお節でこんなに幸福感を感じるのだから、より高級なものはいかほどか。それでもいい。もう戻れない。

 

後日、「タイコウ」の稲葉さんにお礼の電話を。

いやー、もう最高でした!

 

そういや塩月さん、「自宅に冷蔵庫ない」って言ってたけど、パッケージの封を開けたら冷蔵庫に入れとかないとだめだよ。乾燥してどんどん茶色になっていくから。(稲葉さん)

 

ガーン!

 

姿節なら毎回削るから、常温でもいいだろうけど。だからね、味も値段も長い目で見ると、姿節のほうが得なんだ。(稲葉さん)

 

ちなみに、今回自宅で試したのは「かつお出汁」でしたが、「タイコウ」のおすすめは、「昆布との合わせ出汁」

 

かつお節は熱湯から、昆布は水から出汁を取るのが鉄則だよ!

 

合わせ出汁の作り方は、パッケージ裏に書かれてあるとおり、「一晩、昆布を水につけ、その昆布出汁を熱して、かつお節を投入」がオーソドックスな方法。

ただし、「かつお出汁」を取った後で、冷ましながら昆布を投入する、という手もあるそうです。 

 

出汁を取った後のかつお節は、炒ってふりかけにしてもいいですし、稲葉さんは週に1度、かつお節の出汁殻を入れた賄いカレーを作るそう(ひゃー美味しそ)。稲葉さん、次はかつお節入り賄いカレーの取材をお願いします!

 

撮影:守屋貴章   取材協力:有限会社タイコウ

 

書いた人:塩月由香

塩月由香

1977年生まれ。宮崎県出身。自称、日本で一番諦めの悪い一人社会部ライター。学生時代を阪神淡路大震災後の神戸で過ごす。卒業旅行は日本縦断。13年連続新聞社受験落ちの偉業あり。それでもパソコンメーカー勤務などを経て新聞社、週刊誌、月刊誌で計8年の記者経験を積みフリーランスに。コスパが高くて美味しいものに出会うと店の心意気に感動して人に伝えたくなる。好物は魚。

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