【閉店】原宿で40年以上続く手作りカレー店。若者のおなかと心を満たしてきた“お母さんの味”のこだわり

東京・原宿で40年以上続く手作りカレーのお店「ONDEN(オンデン)」の“お母さん”にインタビュー。お店の歴史とこだわり、そして看板メニュー「コロッケカレー」の食リポをお届けします!

エリア表参道(東京)

社会人デビューして間もない頃、勤務地が原宿だった。

当時、一日の楽しみをランチに全振りしていた私は、平日でも行列が絶えない有名店や、絵に描いたようなオシャレなカフェ、次々と誕生する新しい飲食店など、とにかくいろんなお店の“原宿メシ”にお世話になった。

10年以上前の話なので、残念ながら時の経過とともにそれらの味の記憶も薄れつつある。しかし、なぜか今でもその味わいを鮮明に思い出せる場所がある。手作りカレーのお店「ONDEN(オンデン)」だ。

ツタに覆われたレンガ造りのビル、昔ながらの喫茶店のような店内、そして、どこか懐かしさが感じられる手作りカレー。

一般的な原宿のイメージとは一線を画すこのお店は、40年以上前から若者のおなかと心を満たし続けてきた。なぜ、ONDENのカレーは食べる人の心に深く刻まれるのか。そして、原宿という街でどのような歴史を歩んできたのだろうか。

ONDENのカレーのこだわりと、お店が見てきた街と人について、オーナー・中村和美さんに話をお聞きした。

▲「ONDEN」オーナー 中村和美さん

閑静な住宅街が若者の街に激変。実家を改装してお店をオープン

──本日はよろしくお願いいたします。「久々にONDENのカレーが食べたい。そして、お店のことをもっと知りたい」そんな思いを胸にやってきました。

中村和美さん(以下、敬称略):あら、そうなの。うれしいね。

 

──このお店はいつ頃からやっているんですか?

中村:昭和53(1978)年だから、ちょうど45年前だね。ただ、最初はカレー店じゃなくてスナックのような、飲みながら音楽ライブを楽しめるお店を妹がやっていたのよ。

 

──だからピアノやギターなどの楽器が置いてあるんですね。

▲ライブ用の機材や楽器。※現在、夜の営業は休止中

中村:そのあと、1980年代に入ってビルに建て替えてから、私が昼にカレーのお店を始めたの。

 

──どうして原宿で飲食店をやろうと思ったんですか?

中村:もともと、実家がここだったのよ。

 

──あ、そうなんですね。原宿にお住まいだったとは。

中村:2階建ての一軒家でした。今では信じられないかもしれないけれど、昔はこの辺りって閑静な住宅地だったのよ。明治神宮にお参りに行く人がチラホラといるくらいで、飲食店も洋服店も美容室も全然なかった。70年代後半にホコ天(歩行者天国)ができてからだね、街が一気に様変わりしたのは。

 

──若者カルチャーが一気に入ってきたと。

中村:そうそう、ちょうどうちの隣に竹の子族の洋服店ができて、いつも若い子たちが並んでいたわ。そんなふうに街がどんどん活気づいていくにつれて、もともと住んでいた人たちは土地を売ったり貸し出したりして引っ越していったの。やがて私の父と母も別の場所に移り、その跡地に妹がお店を出したのが始まりね。ONDENっていう名前も、ここの地名が穏田(おんでん)だったことに由来しています。けっこうシンプルなのよ(笑)。

 

──そうだったんですね。中村さんはもともと飲食店のご経験があったんですか?

中村:いいえ、素人でした。ちょうど子育てが終わって時間が取れるようになったので、せっかくなら何かやってみようと思って始めたの。

 

──なぜ、数ある料理の中からカレーを選んだのでしょうか?

中村:カレーが一番手っ取り早いし作り慣れていたから(笑)。それに、私はコロッケを作るのも得意だったの。だから、最初はカレーにコロッケをのせるメニューを考案したのよ。そのうち唐揚げやハンバーグなどのトッピングも増やしていったけれど、コロッケカレーは今でもうちの看板メニューだね。

──確かにONDENといえば、ゴロッと大きなコロッケがのったカレーのビジュアルが印象に残っています。そうすると、カレーのレシピも家庭で作っていたものをベースに?

中村:そうね、でも随分と研究しましたよ。当時はいろんなお店に食べに行き、材料や味を調べていました。シェフに「すごくおいしいですね。何が入っているんですか?」とさりげなく聞いてみるの。それはもう、数えきれないほどのカレーを食べましたよ。そこから自分なりに材料を組み合わせて、何度も試作を重ねてレシピを完成させました。

 

──スパイスの種類もけっこう多いんですか?

中村:スパイスはもちろん、生クリームや牛乳など、いろんな材料を組み合わせています。材料を入れる順番や火加減など、作る工程でも仕上がりはけっこう違ってくるのよ。同じように作っても、みんながみんな同じ味にはならない。そこがカレーの面白いところよね。

 

ONDEN名物、コロッケカレーを実食!

創業以来、愛され続けてきたコロッケカレーをいただきます。

▲コロッケカレー(800円) 手作りドレッシングのサラダ付き

見てください、このビジュアル。もったりとした粘度の高いカレーソースがお皿を埋め尽くしています。具材は牛肉、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。子どもの頃におうちで食べていたカレーの記憶がよみがえります。

カレーの上に鎮座する、お母さん自慢の手作りコロッケ。まあるく、かわいらしいフォルムに、カリカリの衣がカレーソースをまとい、黄金色に光り輝いています。 これは間違いなく、“映え”ですね。個人的に。

家庭の味っぽい見た目ですが、一口食べるとその本格的なスパイシーさに驚きます。いくつもの調味料や材料を使っていることが感じられる、複雑で濃厚な味わい。そこに野菜や牛肉のうま味が絡み合い、しっかり濃いめの味に仕上がっているカレーソースに食欲がどんどん刺激されます。

一つ一つの具材が大きめなところもうれしいポイントです。特に牛肉が硬すぎず、柔らかすぎずの絶妙な食感で、かめばかむほど甘みとうま味が広がります。

コロッケは厚めで歯ごたえのある衣の中に、ホクホクの具がぎっしり。ほんのり甘く、素朴な味わいだからこそ、ドロッとした濃い味のカレーソースとの相性がたまりません。衣をカレーソースにたっぷり浸してごはんと一緒に食べると、それだけでもう幸せです。

中村さんの優しさが、「お母さんの味」の調味料に

──とってもおいしくて心がほっこりするカレー、ごちそうさまでした! 子どもの頃に親が作ってくれたカレーの味に似ているけれど、お店で食べるカレーならではの重厚なスパイス感のある、絶妙な味わいですよね。

中村:よかった。みんな「お母さんの味」って言ってくれるの。

 

──カレーの味わいはもちろん、中村さんの優しいお人柄からも「お母さんの味」を感じます。

中村:実家を出てきて都会で暮らしている若者も多いですから、私みたいなおばちゃんに親しみを感じるのかもしれないですね。「おばちゃん、おいしかったよ」、「また来るね」って声をかけてくれたり、「ちょっと聞いてよ」って仕事やプライベートの悩みを相談してくれたりね。

 

──そうなんですね。原宿は若者が多いだけでなく、個性的なファッションの方も多いじゃないですか。最初は抵抗感とかありませんでしたか?

中村:そんなこともなかったね。それこそオープン当時は竹の子族の子たちがたくさんお店に来たけれど、みんないい子だったよ。今も奇抜な髪形やファッションをしている子、タトゥーをしている子がいっぱい来るけれど、みんなすごく優しいの。お店を始めてから嫌な思いをしたことは一度もないよ。

 

──その中村さんの心の広さが、「お母さんの味」の調味料となって、みんなを穏やかな気持ちにさせてくれるのかもしれませんね。長くお店を続けていく上で大切にしていることはありますか?

中村:お客さんを大切にすること、シンプルだけどそれに尽きます。うちはリピーターがほとんど。食べに来てくれるお客さんがいるから、年を取っても長く続けられるの。

 

──お客さんを大切にするために、具体的にはどのようなことを心がけていますか?

中村:お客さんに嫌な思いをさせないことだね。例えば、奇抜なファッションをしている子やタトゥーを入れている子だって、「なんでそんな格好をするの?」とか「親が悲しむよ」って言われたら傷つくんです。相手が嫌な気持ちになる言葉は絶対に言いません。「奇麗だね」とか「それ、すてきだね」っていうポジティブな言葉はどんどんかけるけどね。

 

──そうやって個性を受け入れてくれるところも、ONDENというお店がみんなのオアシスになっている理由である気がします。

中村:あなたみたいに、何年かたってまた来てくれる人も多いのよ。「久しぶりに原宿に来たから寄ってみたよ」とか。この前も大阪に行った子が数十年ぶりに来て「おばちゃん、覚えている?」って声をかけてくれたの。今テレビで活躍している子たちがたまに来て、昔と変わらずにおしゃべりを楽しむこともあるよ。そうやって、みんながお店のことを思い出してくれるのはすごくうれしい。お店を続けてよかったなって思います。

 

──一回食べると、また食べたくなる。そして、中村さんに会いたくなる。そうやってみんなから愛され続けているお店なんですね。

中村:あなたもまた、いつでも食べに来なよ。

 

──絶対に来ます! 心が温かくなるすてきなエピソード、ありがとうございました。

店舗情報

【閉店】ONDEN ※2023年12月28日をもって閉店しました

住所:東京渋谷区神宮前4-29-9
電話番号:03-3401-8417
営業時間:月、火、金 11:30~15:00
定休日:水、木、土、日曜日

 

※このお店は現在閉店しています。
飲食店の掲載情報について。

書いた人:松山響

沖縄生まれ東京育ち。

編プロ→ブランディングカンパニー→フリー編集者/ライター。

女性誌のグルメ特集で“カフェ巡り”の真髄に触れ、食品宅配サービスのPR媒体で自炊にハマり、日本全国の酒蔵ストーリーをつくる企画に挑戦して太るなど、食と酒には公私ともにお世話になっている。

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