江戸時代より続く伝統技術から生まれし、究極のオールラウンド麺「淡路島ぬーどる」を知っているか

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日本には、さまざまな麺文化がある。うどん・そば・ラーメン・スパゲッティなどと一概には言えない、その土地土地によって多種多様な麺・麺料理があふれているのには、我々日本人が麺類大好きということも根底にあるのだろう。

 

今回はその中でも、「淡路島ぬーどる」という、新しいながらも長い歴史に裏付けられた麺について、迫ってみたい。

 

圧巻の38cm!!これが「淡路島ぬーどる」の乾麺だ!

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▲写真上から淡路島ぬーどる、中央がそうめん、下がスパゲッティ

 

これが独自で入手した「淡路島ぬーどる」の乾麺だ。

 

「一見パスタかな?」と思える長い麺は全長38cm。一般的なロングパスタが約25cmなので、その約1.5倍の長さにもなる。実物同士で比べると、「淡路島ぬーどる」が相当長い麺であることが確認できた。

ちなみに、一般的なそうめんの長さは19cmであり、「淡路島ぬーどる」はちょうどそうめんの倍の長さとなる。

 

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▲淡路島での手延べそうめんの天日干しの様子(写真提供:有限会社金山製麺)

 

「淡路島ぬーどる」を製造する有限会社金山製麺兵庫県南あわじ市)の監査役・金山浩和氏に話を聞くと、金山製麺の祖先である渡七平という人物が天保年間(1830~1843年)に、そうめん発祥の地と言われる三輪の里(奈良県桜井市)から手延べそうめんの技法を習得し、淡路島へ持ち帰ったのがこの「淡路島ぬーどる」のルーツだという。

 

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▲機械に頼らず、一本一本を地道に、丁寧に麺を小分けする作業も150年以上の伝統のひとつだ(写真提供:有限会社金山製麺)

 

金山製麺は慶応元年(1865年)に創業、金山製麺をはじめとした淡路島の製麺業は明治中期から大正期にかけて、年間約4万箱(1箱18kg)の手延べ麺を製造するまでに発展する。

以降、大正四年(1915年)には「淡路手延べ麺」がサンフランシスコ万博で金賞を受賞するなど、世界にもその名を知らしめ、現在まで150年以上にわたり手延べ麺を作り続け、島内を中心に愛され続けているのだ。

 

kanayamaseimen.com

 

“島外不出”として誕生した「淡路島ぬーどる」

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そして2009年、観光客誘致の一環として、南あわじ市の商工会議所が淡路島の手延べ技法を活かしながら、「つゆにつけて食べる以外にも、和・洋・中のどんなアレンジにも対応できる新しいご当地麺を」と、金山製麺をはじめとした「淡路手延素麺協同組合」によって開発、販売されたのが「淡路島ぬーどる」である。

 

当初、この「淡路島ぬーどる」は、淡路島への観光客を集める目的で、島内の飲食店でしか味わうことのできない“島外不出”の麺であった。それゆえ、筆者を含む麺類好きには「『淡路島ぬーどる』を食べに淡路島へ行く」という旅の動機となり続けていた。

 

しかし、2009年から3年間、島の外には出ることのなかった「淡路島ぬーどる」は、2012年に方向転換を図る。通信販売で入手が可能になるなど、島外への流通を解禁したのだ。 

それまでの「『淡路島ぬーどる』を食べに淡路島へ行く」ことに加え、「島外で『淡路島ぬーどる』の魅力を体験して淡路島へ行ってみる」といった行動をも生み出すきっかけとなった。 

 

希少な「淡路島ぬーどる」専門店が、横浜にあった!

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 ▲横浜市青葉区しらとり台にある「ジョルニカフェ玄」。2015年からは「日本ナポリタン学会」の認定店舗となる

 

そんな「淡路島ぬーどる」が島外解禁となって間もないうちからメニューに取り入れているお店が、横浜にあることをお知らせしておきたい。

 

横浜市青葉区にある「ジョルニカフェ玄」。東急田園都市線の青葉台駅から徒歩7分、"金妻(昭和か)"感溢れる閑静な住宅街の一角にあるお店だ。

 

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▲「ジョルニカフェ玄」の店主・中井浩司氏

 

「ジョルニカフェ玄」は2009年にオープン、今年で創業10年という比較的新しい店舗である。

店主の中井浩司氏は脱サラして開業、当初は一般的なパスタ料理などを提供するカフェであったが、「淡路島ぬーどる」が島外解禁となった2012年から麺料理のメニューは全て「淡路島ぬーどる」を使用したものへとシフトしている。

 

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▲店頭でも「淡路島ぬーどる」推し! なメニューがずらりと並ぶ

 

何を隠そう、中井氏は淡路島の北部にあたる淡路市出身。毎年帰郷の度に「淡路島ぬーどる」の存在は耳にしていた。2012年までは、まだ島外不出だったこともあって静観していたが、島外解禁となるや商工会議所などへ問い合わせ、前出の金山製麺と出会い、供給を受けることになったという。

 

まずは「淡路島ぬーどる」を使ったメニューをいただいてみようじゃないか

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「淡路島ぬーどる」を使用したメニューは、季節限定や時間限定なども含め常時10種ほどラインナップされている。中井氏に、その中でもおすすめの品をいくつかピックアップして作っていただいた。

 

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▲「クルミとゴマのつけ汁ぬーどる」(900円)

 

まずはシンプルに、つけ汁でいただくタイプの「クルミとゴマのつけ汁ぬーどる」を。

 

手延べ麺のツルツルした喉越しやコシを一番楽しむことのできる、冷たい一品。

クルミとゴマを味噌仕立ての濃厚なつけ汁でいただくのは、暑くて食欲がない時などの栄養補給に最適かと思う。もう夏は終わってしまったのだけれども……。

 

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▲「イタリアン味噌煮込みぬーどる」(1,000円)

 

お次は、温かい汁物タイプの「イタリアン味噌煮込みぬーどる」を。

 

トマトと京都の味噌に、赤ワインなどを混ぜ合わせたスープを熱々でいただく。トマトと味噌のうま味に加え、シュレッドチーズがトッピングされれば、うま味三倍である。

「淡路島ぬーどる」は本来茹で時間は9分と推奨されているが、このメニューは煮込みなので、5分半で鍋から揚げることでちょうど良い硬さの麺になるそうだ。若干スープを吸い込んだ麺がとても良い。

 

だが、このメニューで特筆すべきは玉ねぎである。生の玉ねぎがトッピングされているのだ。中井さん曰く、「淡路島産の玉ねぎを使用しています。淡路島産の玉ねぎは生でも甘みがあります。生の食感を残しながら、“煮込みぬーどる”の余熱で甘みが増した部分を楽しんでもらいたい」とのこと。

 

そうだ、淡路島といえば玉ねぎも有名だった。「淡路島ぬーどる」だけでなく、中井氏は玉ねぎについても淡路島産にこだわっているのだ。

 

……ということは、よく炒めた玉ねぎを使ったあのメニューも???

 

「淡路島ぬーどる」を使用した「ナポリタンぬーどる」も!

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▲「ナポリタンぬーどる」(800円)

 

そう、筆者の専門分野であるナポリタン。こちらの「ナポリタンぬーどる」も、もちろん「淡路島ぬーどる」と淡路島産玉ねぎを使用しているのだ。

私は、ナポリタンは「パスタでなければいけない」わけではなく、「炒め」が重要と考えている。「炒め」に耐性のある麺であれば、どんな麺でも美味しく仕上げられるのが、ナポリタンの懐の深さだと思う。

 

「ナポリタンぬーどる」にはピーマンなどの緑色野菜はないが、代わりにパプリカを使用。そして、ふんだんに使用されたウインナーとベーコンが力強く盛り付けられている。

 

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▲パスタよりも1.5倍も長い麺であるが、フォークで巻くのに苦労はしない

 

食べてみると、150年以上の歴史から生まれた伝統的な手延べ麺とは気付かないくらいにうまくまとめられている。

先に食べた「クルミとゴマのつけ汁ぬーどる」や「イタリアン味噌煮込みぬーどる」とは、とても同じ麺だとは思えない。完全にナポリタンである。そして、淡路島産玉ねぎの甘さがケチャップの甘酸っぱさとうまく絡んでいる

 

淡路島へ行っても、もしかしたらこんな「ザ・淡路島」なナポリタンは食べられるかどうかはわからない。むしろ、“ナポリタンの発祥地”と言われるここ横浜で味わうからこそ、淡路島の風を感じられるのかもしれない。

 

何より、こんなに長い「淡路島ぬーどる」は、全国トップの男性平均寿命を誇る(※厚生労働省が2018年に発表)横浜市青葉区で食べるからこそ、意味のあることのような気もする。

 

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▲「通常1.7mm幅なのですが、機械に頼らない手延べ麺であるがゆえに、時々細い麺も紛れていたりします」と笑う中井氏

 

「淡路島ぬーどる」は、150年以上の伝統の流れを汲みながら、冷やしでも、温かい汁でも、またナポリタンのような炒め麺にも、どんなタイプの麺料理にも対応できる新しい「究極のオールラウンド麺」なのだ。

 

お店情報

ジョルニカフェ 玄

住所:神奈川横浜市青葉区しらとり台2-73
電話:045-514-7986
営業時間:11:00~20:00 (料理L.O. 20:00 ドリンクL.O. 20:00)※ランチタイム 11:00~14:00(L.O.14:00)
定休日:日、祝日、第3月曜日

www.hotpepper.jp

書いた人:田中健介

田中健介

横浜発祥と言われるスパゲッティナポリタンを愛し、2009年より「日本ナポリタン学会」会長として、横浜を中心にナポリタンの面白さを発信する。著書に「麺食力-めんくいりょく-」(2010年、ビズ・アップロード)、連載に「はま太郎」(星羊社)の「ナポリタンボウ」(2017年〜)など。

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