みそ汁、毎日飲んでいますか?
どうしたら、おいしいみそ汁が作れるのでしょうか。
汁物がないとなんとなく食卓が寂しい気がして、一応作ってみるものの、いまいちおいしくなくて、具だけ食べて汁は飲み切れずに残してしまう……。
あらためてきちんとしたみそ汁作りを学ぶために、今回は和食の料理人である五十木剛人さんに、おいしいみそ汁の作り方を教えてもらうことにしました。
せっかく作ったみそ汁が、いつも余ってしまうと悩んでいる方に、ぜひこの記事を読んでいただきたいです。
和食のプロが自宅まで出張して料理しに来てくれる
▲五十木剛人(いそぎ たけと)さん
懐石料理店、割烹などで20年以上、和食の料理人としてのキャリアを積んだ後、現在は経験豊富なハウスキーパーと家事を依頼したい人が出会える家事代行マッチングサービス「タスカジ」にて、「出張料理人」として活躍中のお方。
五十木さんは、ここで利用者のレビュー4.92(2019年3月現在)という驚異の評価を持っています。
──さっそく、みそ汁の作り方を習いたいのですが、今回はいつもと同じ材料で、みそやだしパックは自宅にある近所のスーパーで買ったものを使っていただこうと思います。これでおいしくなりますかね……。
五十木:なりますよ。十分です。ただ、だしを取るうえでの、簡単なコツがふたつあります。
──簡単なコツ! 待ってました。そこが一番知りたいところです。
まずは「基本のだし汁」について知ろう
五十木:ひとつは、市販のだしパックを、標準の1.5倍から2倍の量を使うこと。
──2倍! ちょっとビビる量ですね。いつもついケチってます。
五十木:出張料理で呼ばれて行った先の家庭の人にもよく言われるんですが、おいしいみそ汁のために、そこは勢いよく使ってください。そしてふたつめのコツは、「昆布水」です。
──こ、昆布水とは?
五十木:水に2〜3時間、昆布を浸して作ります。1.5リットルのペットボトルに、乾燥した昆布を1~2枚くらい入れるだけで出来上がります。この昆布水と、だしパックのふたつがあれば、みそ汁がすごくおいしくなりますよ。
【昆布水※・材料】
- 水 1.5ℓ
- 乾燥昆布 1~2枚
※1.5ℓの水に対し、乾燥昆布1~2枚を2~3時間浸け置いておく
──たったこれだけで?
五十木:はい。ではさっそく「基本のだし汁」を作っていきましょう。このだしパックの場合は「1袋につき400mlのお水で」と表示されてますから、400mlの昆布水を入れた鍋に、だしパックを2つ入れてください。
強火で沸かして、沸騰したら弱火にします。煮出す時間は、だしパックに書いてある表示どおりの時間(分数)で大丈夫です。
──少ない量のだしパックで、長い時間煮出せば、同じ濃さのだしになったりとかは……?
五十木:昆布水もそうなんですが、あまり長い時間、漬けっぱなしにするのはよくないんです。えぐみが出てくるので。なので、「量はケチらず、時間は標準」でやってください。
──なるほど。そこは潔く。
五十木:はい。そしてこちらが「基本のだし汁」です。
【基本のだし汁・材料】
- 昆布水 400ml
- だしパック 2つ(製品に表記してある目安量の1.5~2倍)
──澄んだ黄金色が美しい! 湯気の匂いに癒されます。
五十木:この「基本のだし汁」を準備したら、まず1杯目はけんちん汁を作りたいと思います。今日の材料は大根、人参、油揚げ、豆腐、こんにゃくで作りますが、牛蒡(ごぼう)が入ってもおいしいです。これらの材料をすべて1センチ角くらいのさいの目に切ってください。
けんちん汁の作り方
※注:写真のトレーの材料は、実際に今回のみそ汁に使用する分より多めです
【けんちん汁・材料】(2杯分)
- 大根 2センチ程度
- 人参 3センチ程度
- 油揚げ 1/4枚
- 豆腐(絹ごし)1/4丁
- こんにゃく 1/4枚
- みそ 大さじ1~1.5程度
- 基本のだし汁 400ml
──このサイズに切る理由って……?
五十木:食べやすさですね。以前に出張料理で訪れたお宅でも、「野菜が細かいと、子どもが食べてくれる」って言われたんですよ。なのでお子さんが食べることも考えて、今日もこのサイズにしました。
──うちの息子(2歳)はみそ汁の野菜が苦手で、大根もこんにゃくも人参も油揚げも食べてくれないんですよ。これで食べてくれたら、完全に自信喪失します。
五十木:サイズは重要らしいですよ。それと、野菜を細かくするもうひとつの利点としては、小さくすることで火の通りが均一になるので、早く出来上がることですね。
──そうなんですね。いつも豚汁なんかの具沢山のみそ汁を作る時って、全部違う大きさにしていましたが、確かに具材のサイズが揃っているほうが綺麗だしおいしそう。料理って見た目も大事ですよね。
五十木:そうですね、大切です。それと、人参と大根は下茹でしておいてください。材料を水から茹でて、火が通ったら止めればOKです。だいたいこのサイズに切ると、沸騰したタイミングくらいで火が通っています。
──下茹で! みそ汁でしたことないんですが、下茹でをすると、なにかいいことがあるんでしょうか?
五十木:水分が抜けることで、味が染み込みやすくなるんです。やったのとやらないのとでは全然違うんですよ。煮物でもそうなので、根菜類はぜひ下茹でをしてみてください。
根菜類は下茹でしておく
▲面倒だと思った下茹でですが、水から茹でて、沸騰したら火が通ってました
──あれ、意外とあっという間に火が通りますね。
五十木:そう、小さく切ってありますからね。
──なるほど。面倒であっても小さく切ることで結果として時短にもなるんですね。
五十木:この下茹でのお湯を捨てる時に、ざるに乗せた油揚げの上からかけると、油抜きが出来て、もう一度お湯を沸かす手間が省けます。
──効率がいい!
五十木:あとは基本のだし汁400mlに、これらの具材をすべて入れて、沸かし直して、みそを溶いてください。これで完成です。
──えっ、早い! こんなに短時間で、野菜に味がいつ染み込むんですか? それに、いつもに比べてみその使用量も凄く少ないです。
五十木:みその量は好みにもよると思うんですが、今回はみそは大さじ1杯ちょっとでしょうか。まぁ、そこの加減は味を見ながら整えてください。家庭ごとの好みがあると思うので。
いつもと全然違うみそ汁の味
──とりあえず実食いたします……お、お、お、おいしい……! いつも使ってるみそとだしなのに、ぜんぜん違う。まろやかで甘い!
五十木:昆布だしのおかげですね。
──こんなに違うなんて衝撃です。野菜類もちゃんと味が染みてるし、それにあんなにちょっとしかみそを使ってないのに、ちゃんとしっかり味が濃い。
五十木:だしが濃いと、みそが少なめでもおいしく飲めるんです。
──減塩にもなって健康にもいい。最高じゃないですか。毎日飲むものだからこそ、健康にも気を配って作りたいですし。
五十木:みそ汁は、だしがいかに重要かっていうことです。次はしじみとじゃがいものみそ汁を作ります。じゃがいもはさっきと同じようにさいの目に切って、下茹でしておきます。しじみは生でもいいですが、いちど冷凍しておくとさらに貝のうまみが出やすくなっておいしく出来上がります。しじみの砂抜きは塩水じゃなくて、水でも大丈夫です。
しじみとじゃがいものみそ汁
【しじみとじゃがいものみそ汁・材料】(2杯分)
- しじみ 150g
- じゃがいも 半分~1個
- みそ 小さじ2
- 塩 ひとつまみ
- 料理酒 大さじ2杯
- 昆布水 150ml(しじみに火を通すため)
- 基本のだし汁 250ml
──しじみは汽水域に生息してるから、水でも砂抜きができるんですね。でも、しじみとじゃがいもの組み合わせって面白いですね。
五十木:実はうちの妻が青森出身で。小川原湖っていうのが、全国有数のしじみの産地なんです。その周辺はジャガイモも多く育てているらしく、そのあたりでは定番の組み合わせらしいんですが、試しに作ってみたらおいしくて。それ以来、定番にしています。しじみの泥臭さとじゃがいもがすごく合う。
──しじみのみそ汁って汁はおいしいけど、具がちょっと寂しい感じなので、じゃがいもを入れるとボリュームが出ていいですね。
五十木:じゃがいもはあんまり煮すぎると煮崩れてしまうので、水から入れて、いちど沸かして下茹で完了。ざるに空けておいてください。次に、鍋に昆布水150mlを入れて、そこにしじみを入れて沸かします。
──なぜ基本のだし汁ではなく、昆布水を使うんですか?
五十木:だし汁は、あまり長い時間、沸騰させているとだしの風味が飛んでしまうんです。なので、まずしじみに火を通すために、だし汁からでなく昆布水150mlを使うんです。
──まずしじみに火を通すんですね。火が通るとしじみが開きますよね。
五十木:そこに料理酒大さじ2杯を加えて、貝の臭みを消します。さらに、貝のうま味をしっかり味わって欲しいので、よりみそを少なめにするために、塩をひとつまみ。
──みそは少なめ、そのかわりに塩を入れるんですね。
五十木:そうです。これに、あらかじめ作っておいた基本のだし汁を250mlを加えて、沸騰直前まで温めたら、みそ(小さじ2)を溶いて完成です。
──しじみの風味を生かすんですね。
五十木:塩を入れることで、みそが少なめでもおいしく飲めます。みそを入れた後も沸騰させちゃダメですよ。風味が飛んでしまうので、温め直す時はあくまでも弱火でお願いします。
──わっ、おいしい! 自分が作ったしじみ汁と違う味がする。しじみの味がめちゃくちゃ引き立ってます。肝臓に染みる……!
五十木:だしのおかげですよ。
──だし、偉大すぎる!!!
五十木:料理は愛情っていうけど、やっぱり手をかければかけるほど、おいしくなるんですよね。
──五十木さんに出張料理で来ていただくと、こんなにおいしい料理を作っていただけるんですね……ちなみにおいくらで呼べるのでしょうか。また、みそ汁以外だと、どんなお料理を作っていだだけるんですか?
五十木:僕の場合は、1回のスポット利用で7,800円とプラス交通費で、3時間で、10品ほど作ります。料理はリクエストいただいてもいいですし、事前に献立を提案も出来ますし、家にあるもので作ってくれ、というパターンもあります。
その場合、例えばだしパックとか、そういった最低限必要なものは、事前に用意してもらうことになりますが。材料費はメニューによりますが、だいたい7〜8,000円くらいですね。
▲左上からアレッタとベーコンの炒め物、若鶏の塩ダレ焼き温野菜添え、2列め左からほうれん草と人参の胡麻和え、壬生菜の浅漬け、ブロッコリーのペペロンチーノ、カレイの煮付け、3列め左から大根と豚肉の照り焼き、大阪しろ菜のナムル、ほうれん草の胡麻和え、小松菜と油揚げの煮浸し
──合計15,000円から20,000円くらいで、お願いできるんですね。どういう方のご利用が多いんですか?
五十木:子どもがまだ小さくて、外食ができない夫婦の方が多いですね。
──なるほど! 小さい子連れで外食って、店選びからしてすごい大変ですし、かといって、いつもファミレスばかりではなく、たまにはちゃんとおいしいものが食べたい。そういう時に、プロの料理人の作ったものが自宅で食べられるのは、ありがたいです。
誕生日とかに、夫がタスカジさんの出張料理をプレゼントしてくれたら、妻は大喜びじゃないでしょうか。当日においしいディナーが食べられるだけじゃなくて、しばらくご飯作りから解放されるわけですから。
五十木:一人暮らしの男性のお客様とかもいらっしゃいますけどね。それこそ、1週間分の昼と夜の分を作って、保存容器に分けておいてくれ、とか。
──毎回自分で作るよりもずっとコスパが良さそうですね。ところで、出張料理でいつも作る定番料理ってなんですか?
五十木:だし巻き玉子は評判がよくて、よくやりますね。自分の卵焼き器を持っていってやります。あとは肉豆腐とか。基本的には作り置きで、日持ちする和食。あとは冷凍OKなものですね。鶏の照り焼きとか。牛肉のしぐれ煮とかね。煮物系が好きですね。煮魚とか。
──煮魚はおいしいですよね。自分で作ると難しいですけど。
五十木:それは自分で作るのと、まったく違うって言われますね。お店の味だって。いちど呼んでいただくと、ありがたいことにリピートしてくださる方も多いです。
──プロの味が家で食べられる、っていうのは本当に魅力的だと思います。
五十木:では、最後のみそ汁に行きましょう。3杯目はあおさのみそ汁です。これはもう、すごく簡単です。基本のだし汁に葱を入れて、ひと煮立ち。みそを溶いたら、あおさを投入で。
あおさのみそ汁
【あおさのみそ汁・材料】 (2杯分)
- あおさ 適量
- 長ネギ 4センチ
- みそ 大さじ1~1.5
- 基本のだし汁 400ml
──めっちゃ簡単! ですが、おいしい……これもおいしい! 同じだしとみそを使っているのに、まったく味が違う……。みそ汁の味に、こんなにバリエーションがあるんだって、すごい驚きです!
五十木:和食はだしが大切なんです。ぜひ、だしをケチらずに作ってみてください。
みそ汁ひとつとっても、プロの手にかかるとここまでおいしくなる、というのも衝撃でしたが、なんと、翌日、息子に五十木さんに作っていただいたけんちん汁を飲ませたところ、まさかの完食。
みそ汁に入った野菜が食べられないのではなく、わたしが作ったみそ汁の野菜が食べられないだけだったとは……。
- だしパックを標準の1.5倍から2倍の量を使う
- 昆布水を使う
皆さまも騙されたと思って、いちどこの「ふたつのコツ」を試してみてください。
塩分控えめなのに、うま味たっぷりの、最後まで飲み干せるみそ汁が作れちゃいますよ。
書いた人:タケダキョウコ
タケダキョウコ。東京生まれ。webや雑誌などを中心に執筆するフリーライター。夫と息子と犬と一緒に都内に住んでます。辛いものも甘いものも家メシも外食も大好き。趣味は塊肉を捌くこと。