
町中華のチキンライスはなぜおいしいのか
まいど、下関マグロっす。
「町中華で出てくるカレーライスがおいしいのはなぜか」という記事を前回書きました。
ですが、実は町中華のチキンライスもおいしいんですよ。
まあ、チャーハンがおいしいので、同じようにご飯を炒めるチキンライスもおいしいだろうとは予想できるわけですが、食べてみると想像以上のおいしさなんですね。
チキンライスって、洋食屋さんや食堂なんかでも提供しているところが多いわけですが、町中華でも老舗のお店で出すところがけっこうあります。
まずは町中華の「チキンライスあるある」を申し上げましょう。
それは、チキンライスというメニュー名ではあるけれど、使っているお肉はポークというお店があったりするんですね。きっと「ケチャップを使った炒めご飯のことをチキンライスと呼ぶ」ということだけで作られているのかもしれませんね。
チキンライスの名店「ぼたん」
さて、今回はちゃんと鶏肉を使ってチキンライスを作っているお店をご紹介しましょう。創業が1948年(昭和23年)の浅草の老舗町中華「ぼたん」さんです。

東武浅草駅の北改札口を出るとすぐに赤いテントが見えます。もともとは食堂としてスタートし、昔は浅草寺へお参りする人たちの荷物も預かっていたそうです。
そんな歴史のある町中華のチキンライスをいただきましょう。

メニューを見ると、ありましたね、チキンライス。
さっそく注文してみましょう。このお店、現在は3代目と4代目で切り盛りされています。
いろいろなメニューを提供する食堂から中華専門のお店にしたのは3代目になってからだそう。ちなみにこのチキンライスは初代のころから出していて、その味付けや分量などはまったく変えていないそうです。

▲チキンライス(750円)
大きめのお皿でスプーンとともに提供されます。中華スープももちろん、サービスです。ケチャップのいい香りが漂ってきますよ。食欲をそそる香りですね。

美しいドーム型! オレンジ色の憎いやつです。

スプーンを入れてみると、お米一粒一粒がよく炒められているのがわかります。
熱々なので気をつけながらひと口いただくと、ケチャップ、玉ねぎ、ピーマンのうま味が口の中に広がってきますね。
クセになる味で、もうスプーンが止まりませんね。最後のひと口までガシガシと食べ進んでしまいました。
よく「昔ながらの味」といいますけれど、こちらのチキンライスはまさに懐かしい昭和の味わいなんです。
では、どの部分に懐かしさを感じるのかというと、筆者は「米と具材の割合」ではないかと思うのです。
チャーハンにしろチキンライスにしろ、主役はやはり米。具材に対して米が多めというのが、懐かしさを醸し出している所以(ゆえん)なのではないかと思うのです。
ちなみにこちらのお店では、炊き上がりが少しパラパラになるお米を近所のお米屋さんから仕入れているのだそうです。
なるほど、こちらのチキンライスはパラパラなお米を油とケチャップでコーティングするように炒めて、こういう一粒一粒が立ったような仕上がりになるんですね。
もちろんそこに調味料や具材のうま味も加わりますから、いっきに完食してしまうわけです。そして、食べたあとは、すぐに満腹感がやってきます。
あっという間に出来上がるチキンライス
初めてこちらのお店でチキンライスをいただいたとき、あまりのおいしさに、なにか作るときのコツがあるのかとお店の方に聞いたのですが、「なにも特別なことはしていない」とのことでした。
このお店、カウンターに座るとキッチンがよく見えるのですが、たしかに中華鍋であっという間に炒めてさっと出来上がるという感じでした。
そこで、今回、チキンライスを作っているところをあらためてくわしく見せていただくことになりました。

お店の方が迎えてくれました。右が3代目の川瀬茂高さん、中央が妻の千明さん、左が息子で4代目の二朗さん。
さっそくチキンライスを作っていただきましょう。今回、料理に取り掛かってくださったのは3代目の茂高さんです。

茂高さん:鶏肉は胸肉の部分を使っています。脂部分はできるだけ取り除いておきます。

茂高さん:玉ねぎは1/6くらいを粗みじん、ピーマンは1/4を細かく切っておきます。
──それに対してご飯はどれくらいでしょうか?
茂高さん:お茶碗に軽く2杯くらい、丼だと軽めの1杯くらいです。
──やはり、ご飯の量はけっこう多いんですね。ケチャップはどのくらいでしょうか?

茂高さん:レンゲに4杯くらいですかね。最初に3杯入れて、あとから炒めながらもう1杯入れるので、合計4杯になります。
それでは調理していただきましょうか。

まずは、中華鍋を強火にかけて温めていますね。そこに油を入れて、まずは具材(鶏肉、玉ねぎ、ピーマン)を炒めていきます。

サッサッと具材を炒め、すぐにご飯を投入します。

お玉で押さえつけたら、中華鍋をあおっています。
あおり運転はいけませんが、中華鍋はどんどんあおってほしいものです。ここで、塩コショウを少々入れます。さらに鍋をあおったら、ケチャップを投入します。

レンゲで3杯ほどケチャップを入れて、さらに炒めていきます。

ケチャップがほどよく混ざったら、火を弱め、再びよく炒めていきます。
茂高さん:焦げないように火力に気をつけながら炒めていきます。

といいいながら、このタイミングでさらにケチャップをレンゲ1杯追加されました。
全体がオレンジ色に染まっていきます。
これで出来上がりです。

お玉にうまくチキンライスを入れ、皿に押し付けるようにします。
これこれ、うまそーじゃないですか。

作り方のコツをうかがってみました。
茂高さん:チキンライスだけにキチンと作らないとね……。
えっ、オヤジギャグですか……とほほ。
見ていると、かなりの量のケチャップを使います。
そんなに使って味は濃くならないのかと思うわけですが、食べてみるとさほど濃さは感じません。
中華鍋でよく炒められているので、ケチャップの酸味が飛んで、甘みが出ているからなんですね。一般家庭で作る場合は、火力が弱いので、そのぶん長めの時間炒めれば酸味が飛んで甘みが出るはずです。
さらに定番メニューの「オムライス」を作っていただきました
チキンライスを卵で巻いたオムライスもこちらの定番メニューです。そちらも作っていただきましょう。
チキンライスはまったく同じ工程で作られます。
──卵はいくつ使います?

茂高さん:2個ですね。

茂高さん:よく卵をかき混ぜます。

茂高さん:それから、中華鍋で卵を焼いていくのですが、ここはけっこう気を使う工程です。焦がしちゃうとやり直しになっちゃいますからね。

茂高さん:卵が固まったら、先ほど作ったチキンライスをのせます。

茂高さん:これをお皿に移します。うまくお皿にのせたら、最後の工程になります。

次の瞬間、同行したカメラマンの平山さんが「えーっ」と驚きの声を上げました。
これ、意外な光景なのかもしれませんね。

ふきんをのせてその上から全体の形を整えるんです。
実はこれ、町中華でオムライスを作る際に、わりとよく見る工程なんですね。
筆者も初めて見たときは驚きましたが、こうしてオムライスは美しい形に仕上げられるのです。

最後にレンゲ1杯のケチャップをかければ出来上がりです。
ケチャップの量は調理にレンゲ4杯、仕上げにレンゲ1杯の合計5杯。
かなり使いますね。

▲オムライス(900円)
チキンライスに卵を巻きつけると、見た目もなんだか高級感が出ますね。
いただいてみると、卵は固焼きです。やっぱりオムライスの卵は昔ながらの固焼きでないとねぇ。
ふわとろもいいけど、やっぱりオムライスといえばこういう固焼きが一番だと筆者などは思うわけですよ。もちろんスープはマストでついてきます。
さて、ケチャップ部分をスプーンで全体に引き伸ばします。
そしておもむろにスプーンを入れてみます。

これこれ、まさに卵焼きとチキンライスのマリアージュですよ。
仕上げにのせたケチャップは炒めていないものなので、その酸味が卵焼きのうま味を引き立て、チキンライスの味わいと混然一体となっています。
オムライスはチキンライスとはまた別のメニューだといえます。
筆者はストレートにケチャップ味がいただけるチキンライスが好きですね。価格もオムライスよりはお安いので。
あなたはチキンライス派? それともオムライス派?
撮影:平山訓生
お店情報
ぼたん
住所:東京都台東区花川戸1-8-1
電話番号:03-3841-5040
営業時間:11:00~21:30
定休日:金曜日
書いた人:下関マグロ

1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。


