昭和2年にインド人が提案した新宿中村屋の「純印度式カリー」をカレーおじさん\(^O^)/ に歴史を聞きながら食す

年中無休でカレーを食べ続ける、カレーに愛された男こと「カレーおじさん\(^O^)/」が、新宿中村屋の「純印度式カリー」の歴史と魅力を熱く語りながら、新宿中村屋ビル最上階にある「カジュアルダイニング Granna」でお得なコース料理に舌鼓を打ちます。

エリア新宿

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※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました。

 

年間1000食、年中無休で1年365日カレーを食べ続けている男がいる。

「カレーおじさん\(^O^)/」と呼ばれるカリスマは、いつしかメディアから引っ張りだこの存在に。現在はカレー系イベントやレトルトカレーのプロデュースも積極的に行っている。

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そんな彼が「新宿でカレーといえば、昔からこの店と相場は決まっている」と絶対的な信頼を寄せるのが「新宿中村屋」の「純印度式カリー」だ。新宿中村屋の存在は、レトルトカレーが全国で販売されているので、ご存知の方も多いだろう。

今回、カレーおじさん\(^O^)/と共に訪れたのは新宿中村屋ビル最上階にある「カジュアルダイニング Granna(グランナ)」。

 

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大きな窓に、高い天井と開放的な空間で、純印度式カリーはもちろん、素材にこだわった料理をコース・アラカルトそれぞれで味わえるレストランだ。

 

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今回はカレーおじさん\(^O^)/に同店のディナーメニューで提供されるコース料理「カジュアルセットB」を実食してもらいつつ、新宿中村屋と純印度式カリーの知られざる歴史を解説してもらった。

 

純印度式カリーの歴史はインド独立運動と切り離せない

新宿中村屋がカレーを提供し始めたのは1927年(昭和2年)のこと。

実に90年以上にわたって同じ店のカレーが日本人に愛されていることになる。

日本で初めて本格的なインドカレーを販売したのも新宿中村屋というのが定説になっているが、カレーおじさん\(^O^)/は「インドカレーの説明に入る前に、日本におけるカレーの歴史から説明したほうがいいでしょうね」と語り始めた。

 

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f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainカレーおじさん\(^O^)/(以下、おじさん):日本にカレーが入ってきたのは1870年代、明治時代のことだと言われています。カレーは当初、イギリス経由で入ってきた。インドはイギリスの植民地だったため、両国の関係は深いですからね。つまり当時の日本人はカレーをインド料理ではなく、西洋料理として認識していたんです。実際、味も昔ながらのルウを使ったカレーライスに近かったようですし。給食で出てくるような一般的な家庭風カレーは、ここがベースになっているはずです。

 

イギリス式カレーは、1872年に開業した「精養軒ホテル」から全国へ広がった。洋食文化の台頭の中で生まれたと言われている。

1900年代には、当時のモボやモガと呼ばれるハイカラ好きな人たちの間で、日比谷公園の中で現在も営業している老舗店「松本楼」でカレーとコーヒーを楽しむのが流行していたそうだ。

 

大正時代に入ると、今度はインドネシアのスマトラ式カレーが登場。こちらは「カフェ南国」という店がパイオニアだった。東京駅の近くにあった同店は現存しないものの、その味を受け継いだのが神保町の老舗店「共栄堂」である。

 

イギリス式、インドネシア式とカレー輸入ラッシュが続く中、インド式カレーを日本に紹介したのが新宿中村屋だった。

しかし、この初上陸の裏にはとんでもないドラマが存在したのだ。

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:当時のインドは独立運動の真っ最中。そこに身を投じていたラス・ビハリ・ボースさんという活動家がおりまして、かなりの過激派として知られていた。結局、彼は指名手配されて日本に亡命するんですね。それをかくまったのが新宿中村屋だったんです。つまり純印度式カリーの歴史はインド独立運動と切り離せないんですよ。

 

当時の新宿中村屋は今ほど大規模ではなかった。

個人商店レベルで海外の過激な活動家を守るのは、かなりのリスクを背負ったはずだ。

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:ボースさんは新宿中村屋の創業者の娘さんと結婚します。創業者夫妻の娘婿になったんです。そこで恩返しというわけじゃないけど、母国のカレーの味を新宿中村屋のメニューに提案したんです。

当時は日本でもイギリス式カレーが流行り始めていたタイミング。それに対してボースさんは「インドのカリーはそうじゃないんだ」と提言した。そしてボースさんの提案したものが新宿中村屋で出てくる純印度式カリーの始まりとなっています。

 

当時としては少し高額(当時、町の洋食屋のカレーは10~12銭程度だったが、中村屋のカリーは80銭)だったが、純印度式カリーは熱狂的に受け入れられた。

オリエンタルで異国情緒あふれる風味は、それまで日本人がまったく味わったことがないものだった。

ちなみに新宿中村屋がカレーのことをカリーと呼ぶのは、英語を話せたボースがカレーのことを「CURRY(カリー)と発音していたことから、そのまま商品名にしたためだという。

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:僕が最初に新宿中村屋のカレーを食べたのは大学生のとき。かれこれ25年ほど前になります。大学生の僕には少し高級なお値段だったんですが、それにも納得の美味しさでした!

その頃はネットも今ほど普及していなかったし、カレー情報も行き渡っていなかった。そういった中でも「中村屋のカレーはモノが違う」というのは常識になっていましたから。

カレーの世界にもトレンドというものがあって、25年前と今では人気になる味の傾向が違うんです。それでも今も変わらず美味しいと言われ続けるのは、ブームに流されない本物の美味さがあるということ。ましてや新宿中村屋の場合は昭和2年から支持され続けているわけだから、これは大変なことですよ。

 

日本人が素直に美味しいと感じる味

そんな新宿中村屋の純印度式カリーだが、味の特徴はどこにあるのか?

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:ボースさんはベンガル出身だったんですよね。インドカレーは地域によって味が大きく異なり、東側の特徴は素朴なこと。基本的にインドは出汁を使わない食文化なのですが、東のカレーは魚をよく使うこともあり、出汁がよく出ているんです。だから東側のカレーは日本人の舌に合うんでしょう。新宿中村屋の純印度式カリーの場合は骨付きの鶏肉を使っているから、その旨みが存分に引き出されていますし。

 

もうひとつカレーおじさん\(^O^)/が絶賛するのが「カレーがお米に合っている」というポイントだ。結局、日本人はどこまで行っても米が好きな民族。ごはんを美味しく食べる方法を追求してきたという経緯がある。

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:「純印度式」とは謳っているものの、日本人に合わせている部分はあるんですよ。たとえば米も最初はインドのものを使用していたそうですが、ここGrannaさんでは白目米ですし。インドの人が食べても納得するようなクオリティをキープしたまま、日本人が素直に美味しいと感じる味を作る。新宿中村屋の場合、そのバランス感覚が絶妙なんです。

 

なお、カレーおじさん\(^O^)/は新宿中村屋のレトルトカレーのファンでもあるという。その魅力を熱く語った。

 

f:id:exw_mesi:20200209150119j:plainおじさん:そもそもレトルト食品を採算ベースに乗せるのは非常に困難なんです。全国流通させて、賞味期限や材料コストなども考慮して大量に製造しなくてはいけないわけですから。こうしたことから、大企業が作るレトルト食品が実店舗より味が落ちるのは仕方ないとされてきました。
ところが最近は技術の進歩によって、店に近い味が出せるようになった。またレトルト食品の開発にシェフが携わっている。そして新宿中村屋さんでうれしいのは、カレーのラインナップが充実していること。新しい商品がどんどん増えているし、いつも新たな驚きがありますね。

 

みんなでシェアして食べるカジュアルなコース料理

さて、ここからは実食タイム。

正直、私の中では新宿中村屋といえばカレーや喫茶店のイメージが強く、コース料理が存在することも知らなかった。

なんだか敷居が高そうで緊張してきたが、純印度式カリーも含めた全6品が味わえる「カジュアルセットB」の料金は4,510円ということを聞き、まずは一安心。

しかも驚いたことに飲み放題付きでも6,200円(チャージ料込)。ビール、日本ワイン、焼酎、ウィスキー、ハイボール、梅酒、各種サワー、オリジナルカクテル、ソフトドリンクが飲み放題だという。

……ん? これで6,200円だったら普通に安くないか? コスパ最高ではないか!

 

料理が出てくると、満足感はさらに増した。

 

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Grannaのセットは人数分の料理を1皿に盛って、お客さんがシェアするスタイル。かしこまった雰囲気ではなく、わいわいと取り分けられるのがパーティー感覚で楽しい。

1品目は「オードブル盛合せ」。

ニンジンのサラダの甘酸っぱさと鴨の深い味わいなどが絶妙にマッチ。

多彩な品数が今後の贅を予感させる。

 

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2品目は「栃木県海老原ファームの野菜サラダ」。

シャキシャキした歯ごたえがたまらない。

野菜類は生産農家と密に連絡を取りながら、常にベストなものを直送してもらっているという。

 

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3品目は「福岡県糸島直送の鮮魚のポワレ」。

この日の鮮魚はイトヨリダイ。さっぱりした白身魚に濃厚なソースが絡み合う。私たちの食べる速度を考えながら、テンポよく料理が運ばれてくるのもうれしい限りだ。

 

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4品目はメインディッシュの「中村屋指定飼育鶏のローストチキン」。純印度式カリーでも使用される鶏肉の味わいをたっぷり堪能できる。

鶏肉に添えられた3種類のスパイスは右から「クミン塩」「豆板醤マヨネーズ」、そして新宿中村屋オリジナルで全国のスーパーでも市販されている「食べる麻辣油」。中華風、インド風と、いわゆる「味変」も楽しめるのがポイントだ。

 

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そして、いよいよ純印度式カリーが登場。

ライスと一緒に頬張ると、口の中でスパイスの絶妙なハーモニーが奏でられる。

辛さや刺激はさほど強くなく、むしろ玉ねぎから出る甘味が優しさを演出しているかのよう。

そしてなんと言ってもうれしいのが、ゴロゴロした骨付きチキンの存在だ。その旨みはカレーソースにもふんだんに溶け込んでおり、ライスとマッチすることこの上ない。

旨みやコクなどすべてのバランスが完璧で、隙が一切ない。これこそ王道かつ正統派の味わいと言ってもいいだろう。

 

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初めて口にした大学時代から、すでに数えきれないほど純印度式カリーを食べているカレーおじさん\(^O^)/。しかし食べるたびに新たな発見があり、まったく飽きることはないという。

私も毎日カレーを食べるインド人やカレーおじさん\(^O^)/の気持ちが少し……いや、大いにわかる気がした。

 

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そして最後はお口直しの「本日のシャーベット」。この日のメニューは「フランボワーズのソルベ」。

強めの酸味がフルコースをきっちり、さっぱりと締めてくれる。

 

ボリュームたっぷりのコース料理に舌鼓を打ったうえ、飲み放題ということに気をよくしてビールやワインまでいただいた私(仕事中なのに!)。

すっかり上機嫌になったところで、料理長の石崎氏と、マネージャーでソムリエの中山氏にお話を伺った。

 

鶏肉はカリーの味に合っていることが第一

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まずは同店がコースメニューに力を入れている理由を次のように語る。

 

f:id:exw_mesi:20200209150512j:plain石崎:Grannaが入っているのは新宿中村屋ビルの8階ですが、今の体制になったのは5年前なんです。それ以前は3階がフランス料理、4階がパブレストラン、5階が中国料理メインの個室になっていて、それぞれコース料理を出していました。
新宿中村屋は幅広い世代のお客様がいらっしゃいますが、特に年齢層の高い方々はコース料理を希望される場合が多かったんです。なのでコース料理は置かなくちゃダメという考えがスタッフの中にもあるんですよね。

 

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高い品質を保持するためには、原材料にこだわる必要がある。その過程では数多くの困難も出てくるという。特にカレーで使用する鶏肉に関しては一筋縄ではいかないようだ。

 

f:id:exw_mesi:20200209150512j:plain石崎:とにかく鶏肉はカリーの味に合っていることが第一。そのため鶏に与える餌の種類やタイミングにも細心の注意を払っています。日々の管理によって鶏肉の味は大きく変わってくるものですから。
実際、これまでも先輩たちがいろいろ試してきたんです。昭和30年代はブロイラーを使っていました。けれど身がほぐれやすいという問題が出てきて、日数などを細かく管理する現在の方法に変えています。

 

試行錯誤、トライ&エラーの積み重ねのうえに現在の純印度式カリーがある。現場スタッフは伝統にあぐらをかく気は一切ないのだ。

 

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f:id:exw_mesi:20200209150512j:plain石崎:美味しいカリーを作るためには、野菜も重要になってきます。たとえば玉ねぎは淡路産を使用しています。
通常は5月に新玉ねぎが採れる。年間を通じて同じカリーの味を提供するため、季節に応じた冷蔵保管管理を徹底してもらっています。調理の際も新玉ねぎは水分を多く含んでいるから、炒める時間の工夫が必要ですし。
今は地球の温暖化も叫ばれていますよね。いくらレシピが変わらないといっても、92年前とまったく同じ食材を手に入れることは現実的に不可能なんですよ。そのときのベストは常に変わっていくものだし、そこに対応できるようにすることが大事。だから今後もあくなき研究を怠らないようにしていきたいです。

 

日本ワインにこだわる理由

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ところでGrannaでは日本ワインを強くプッシュしている。ここにもスタッフの真摯な思いがあるようだ。

 

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f:id:exw_mesi:20200209150629j:plain中山:日本ワインをメインにすることは、5年前にお店をオープンする時点から決めていました。でも正直なところ当時はまだ日本ワインの評価は高くなくて、お客様からの注文も伸び悩んでいました。だから社内でも「やめたほうがいいんじゃないか? イタリア産などに切り替えてみては?」という声は大きかったですね。
だけど弊社のソムリエが全国のワイナリーさんのところに足を運んで、実際にセレクトを続けていきました。はっきり言って、日本のワインは確実に美味しくなっています山梨長野新潟北海道……それぞれ世界的にも注目されていますからね。「マスカット・ベーリーA」(日本固有の黒ブドウ品種。赤ワイン用ブドウ品種としては日本国内第1位の生産量)はカリーにもバッチリ合います。

 

現在、コースメニューは2カ月ごとに、季節に合わせた料理を提供している。お客さんのニーズが変化していくのに合わせて、創意工夫を重ねているそうだ。中山氏は客層の広がりを最近になって感じるようになったという。

 

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f:id:exw_mesi:20200209150629j:plain中山:SNS、中でもInstagramの存在が非常に大きいです。そこは意識していますね。これまで新宿中村屋はご年配の方や誕生日をお祝いするご家族、あるいはカップルやサラリーマンの方の接待でご利用いただくことが多かったんです。
ところがここに来て、若いお客様や女性の方が明確に増え始めました。食材に野菜をふんだんに使いヘルシー志向を打ち出しているのも、こういった流れの延長線上にあります。

 

純印度式カリーを食べたくなったら

創業者の教えである「良品廉価」を受け継ぎながら、時代の波に合わせて進化の歩みを止めない新宿中村屋。1世紀弱にわたってインドカレー業界のトップを走り続けるのは、それだけの理由があるということだろう。

新宿の喧騒の中、店内にはゆっくりとした時間が流れていく。近くに寄った際は足を運んでみてはいかがだろうか?

 

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※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました。

撮影:松沢雅彦

 

お店情報

カジュアルダイニング Granna(グランナ)

住所:東京新宿新宿3-26-13 新宿中村屋ビル8階
電話番号:03-3352-6167
営業時間:<平日>11時~16時(L.O.15:00)17時~23時(L.O.22:00)<土曜日>11時~23時(L.O.22:00)<日曜日・祝日>11時~22時(L.O.21:00)
定休日:1月1日

www.nakamuraya.co.jp

www.hotpepper.jp

書いた人:小野田衛

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雑誌やネット媒体で仕事をするフリーのライター/編集者。アイドルやスポーツ、貧困問題に関する記事を作ることが多い。趣味はサウナ。特技はサウナ。オフの日の過ごし方はサウナ。

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