10年ほど前から街角の植物や路上にはみ出た園芸に魅了され、「路上園芸学会」として活動する路上園芸鑑賞家・ライターの村田あやこさん。
『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)などの多数の著作やSNS、Webメディアを通じて、その魅力を発信しています。
「#植物のふりした妖怪」「#はみだせ緑」「#転職鉢」など、独自の角度で街の植物や園芸風景を切り取る村田さんに、路上で実るビワやバナナといった果物の不思議について伺いました。
人間の意図を、元気にはみ出す緑にグッとくる
ーなぜ路上の園芸に魅了されたのでしょうか?
路上の園芸が気になり始めたのは2010年でして。20代中頃で、将来の仕事をどうしようと試行錯誤していた頃です。
植物にまつわる仕事をしたかったので、国家資格の園芸装飾技能士の学校に通いつつ、デパートの屋内庭園や鉢植えを管理するアルバイトをしてました。
そういった仕事で触れる植物は、計画された造園だったり、意図して置かれた園芸です。植物にとっては屋内は特殊な環境なので、枯れたり元気のない植物をけっこう見てたんです。
そんな時、路上の園芸が目にとまりました。
何かを装飾するわけじゃなく、意図したデザインでもない。月日が経つと育てるつもりじゃない植物が生えたり、鉢底から根っこがはみ出たり、計画外の事が起こります。そんな状態でも、その空間にフィットして、元気に育っていました。
キレイだったり、整ってる風景ではないんですけど、自然体の風景でいいなと。そこから魅了されて、気になっていきました。
ーたしかに路上の園芸は、のびのびやってる感じしますね! 村田さんはSNSで「#はみだせ緑」というハッシュタグを運用されてますよね。
2019年、イベントの投稿写真を集めるために作ったハッシュタグです。
街角ではみ出してる園芸や植物を投稿してもらったんですけど、今でも毎日のように、日本中、世界中のはみ出す植物が集まってます!
人間の意図をはみ出して、意図せぬ姿になってる植物にグッときます。
植木鉢で生えてたであろう植物が路上に飛び出して、それぞれの居場所を自由自在に開拓する元気さ、枠にとらわれない自由さがたまりません。
ー元気過ぎて、根っこで舗装を持ち上げちゃってる街路樹もよくありますよね。
街路樹の根上がりって現象ですね。
舗装の下の土が堅くて根が十分に伸ばせない場合、少しでも空気や水、養分を得ようと地面の上などに根を伸ばした結果、舗装を持ち上げちゃう場合があるようです。計画して植えた植物でも、時に意図せぬ状態になっちゃう。
ガードレールや柵を木の幹が飲みこんでることもありますよね。
こすれて傷になった箇所をカバーしようと、周りの部分が太くなって、結果的にガードレールや柵を飲みこんじゃうようです。これも一度柵を飲み込んじゃうとなかなか取り外せないので、大ごとです。
ー元気な植物を、人間が完全にコントロールするのは難しいですね。
紹興酒の樽が、植木鉢に転職する
ー村田さんは「転職鉢」という概念を提唱されてますよね。どういう意味なんでしょうか?
街角の園芸のなかには、既製品の植木鉢じゃない物を鉢として転用してる場合があって、それを「転職鉢」と名付けてます。
ーたとえば、どんな物が転用されてるんですか?
おなべ、発泡スチロールのトロ箱、釜めしの器、炊飯器の釜、漬物のたる、七輪……。台所まわりの物が多いですね。手に入りやすくて、植物育てられるだけの深さがあって、捨てにくそうな物が転職しがちです。
捨てるのが大変そうな大型のタイプだと、ベビーバス、風呂釜、あとは時々タイヤも見かけます。変わり種ですと、洗濯機内の洗濯槽に植物が植えられていて、配水用の穴にシダが根ざして、はみ出てる転職鉢もありました。シダの成長具合に、長い時間の流れを見ました。
ー一番多い転職鉢はなんでしょうか?
一番多いのは発泡スチロールのトロ箱です。どこでも見かけます。
レアな物で、最近びっくりしたのは電気ケトルですね。昨年の冬に電気ケトルに植えられたお花を見かけて、ちょっと前は最先端の家電がいまや廃品になっていることに時代の移り変わりを感じました。
ーなんでも植木鉢にしちゃうんだ……! 住宅以外の、たとえば飲食店の転職鉢には特徴がありますか?
お店の前に置かれた転職鉢は、業務用で使わなくなった物が多いですね。
たとえば、紹興酒の甕とか寸胴鍋。大きな物だと業務用の冷蔵庫を植木鉢にしてたお店もありました。
捨てるにはもったいない、なんかまだ使える気がする。そんな物を植木鉢にしているようです。
路上に生えてる果物、圧倒的1位はビワ
ー時折、「なんでこんな所に!?」というひょんな場所で、果物が立派に実ってることありますよね。どうしてあんなに育っちゃうんですか?
最近だと、福岡県久留米市で中央分離帯にバナナの木が育ってて話題になりましたね。
ぱっと見、計画的な植物か勝手に育った植物か分からないので、何食わぬ顔で共存して成長しちゃうことがありますね。
他にも最近、大阪・御堂筋の中央分離帯でスイカが勝手に育って、市が掘り起こしてニュースになってました。そのスイカ、植物園で展示されてるそうです。
そういう場所に生えた植物って「ド根性なんちゃら」って名づけられがちですけど、意外とライバルになる植物もいないし、光や水分も独り占めできるし、根付きさえすれば天国って場合もあるんですよね。
ー路上で生えてる果物は、何が多いんでしょうか?
圧倒的にビワです。
街の変な所で、ちょくちょくビワが生えてます。場所によっては街路樹のイチョウなどと同じぐらい大きいサイズに育ってます。
原因を調べると、どうやら動物が種を運んできて、それから育ってるみたいなんです。カラスやタイワンリス、ハクビシンなどが運んでいるようです。
ータイワンリスなんて街にいますか!?
逗子とか湘南エリアはけっこういますよ!
昔このあたりの植物園や別荘で飼われていたタイワンリスが逃げ出して、野生化したようです。
我が家もそのあたりなんですが、庭のビワをよくリスが食べてます。
ーなんでビワが生えがちなんでしょう?
ほかの植物に比べて発芽率が高いんです。
ビワは6月頃に実をつけてるんですが、種の状態で越冬しなくていい事も発芽率を高めているようです。
ー街中で、ぶどうも時折見かけます。
ぶどうはけっこう見かけますね。主に、ぶどうの収穫を楽しみに、住民がご自宅で育ててます。
キウイもたまに見かけるんですけど、ツルがすごく成長するので家全体を包みこんでることもありますよ。
実用性って観点ですと、アロエを育ててる方も多いですね。薬用になる植物として、昔から重宝されているので。
ー確かに……! 植え込みにアロエが生えてる光景、よく見かけます。
アロエは日本の環境だと基本的に人が介在して、株分けしてるはずです。アロエの影に園芸家の影あり、です。
つつじが植わってるような植え込みに生えてますよね。
ー園芸家はなんでアロエを株分けしたり、鉢植えを置いたりするんでしょう?
その場所が殺風景で緑を足したくてという動機だったり、さまざまですね。
ゴミの不法投棄がよくされる場所に鉢植えを置いて防いでるケースもあります。
東京・佃三丁目の大きな堤防沿いに園芸スペースが200mぐらい続いてるんですが、そのあたり元々は不法投棄がすごく多くて。バイクとか壊れた車とか大きな物が捨てられちゃう場所だったそうで、人が侵入できないよう道を塞いでたらしいんです。
近くの住民たちが不法投棄を防止しようって園芸を置き始めたのがきっかけで、今では区の登録制の園芸スペースになってますよ。
ー公式化するパターンもあるんだ! 路上の園芸にもいろんな動機があるんですね。
村田さんのお話しを伺うことで、路上にはみ出す緑や園芸には、人間・野生動物・植物、3者それぞれの生態、生活がかかっていることが分かりました。
街角に実るビワを見て、都会で生きる動物の存在を感じ、植え込みに育つアロエを見て、園芸家の生活を感じる。もはや路上の植物を、たんなる緑の塊とは見ることは出来そうにないです。
書いた人:松澤茂信
珍スポットマニア。日本全国1,000ヵ所以上のちょっと変わった観光地や飲食店を巡り歩いています。
- Twitter:松澤茂信