新宿ゴールデン街で生まれた唯一無二のレモンサワー。ブームの一端を担ったお店が語るこだわりの製法とは

近年、ますます注目を集めるレモンサワー。原料や製法にこだわった唯一無二のレモンサワーについて、ブームの一端を担った「OPEN BOOK」のオーナーに話を聞きました。

こんにちは、塩見なゆです。

突然ですが、レモンサワーはお好きですか?

お酒好き、居酒屋好きにとって、レモンサワーはビールや日本酒と並ぶ最もポピュラーなアルコール飲料の一つです。

日本酒やビールがまだ手に入りにくかった戦後、当時の主流は大量生産が可能で値段が安い甲類焼酎でした。焼酎をいかにおいしく飲むか、人々が試行錯誤する中で偶然生まれたのが「レモンサワー」というジャンルです。

もつ焼きなどの酒場料理と相性がよいレモンサワーは、関東の居酒屋を中心に広まり、やがて日本全土の飲食店や小売店の店頭に並ぶようになったのです。

ビールと並ぶ定番アルコール飲料の地位を確立したレモンサワーに、近年新たなニーズが生まれました。それは、原料や製法へのこだわりから生まれる“プレミアム”な味わいの追求です。

そんな“プレミアム”なレモンサワーとは一体どのようなものなのか?

今回は近年盛り上がりを見せる、レモンサワーブームの仕掛け人のひとりである、新宿ゴールデン街の「OPEN BOOK」オーナーの田中開さんにお話を聞きます。

取材場所は、「OPEN BOOK」の系列店でもある「Bar Ao (Another Openbook)(アオ)」(以下、「Bar Ao」)。東京証券取引所を中心に多数の証券会社が立ち並ぶ金融街・兜町にひっそりとたたずむホテルバーです。

ブームの一端を担ったレモンサワー専門店「OPEN BOOK」

塩見なゆ(以下、塩見):本日はよろしくお願いします! まずは、レモンサワー専門店を始めたきっかけを教えてください。

▲田中開さん

田中開さん(以下、田中さん):よろしくお願いします。もともとWEBメディアのライターをしていまして、2014年にレモンサワーに焦点をあてた飲食店紹介記事を書いたことが最初の接点です。

塩見:なんと! ご同業でしたか(笑)。

田中さん:当時レモンサワー専門店なんてものはなく、まだ誰もやっていないからこそビジネスになると思ったんです。そして、どうせ専門店を開くなら、思いっきりこだわったレモンサワーを出して、足を運びたくなる場所にしようと。20〜30パターンの試行錯誤を経て開発したレモンサワーとともに、2015年に新宿ゴールデン街に「OPEN BOOK」を開きました。

塩見:その後、サワー専門店が続々と登場しました。ネオ居酒屋でもこだわりのレモンサワーを差別化アイテムとして使うお店は多いです。まさに「OPEN BOOK」はブームの一端を担っていました。もともと飲食業の経験があったのでしょうか?

田中さん:いえ、週2で飲食店のアルバイトを1年やったくらいです。ただ、昔から飲み歩くのは好きでした。ゴールデン街にもよく行っていたので、それもあってゴールデン街を開業場所に選びました。

塩見:そのお店が今やゴールデン街の新名所となったんですね! 「Bar Ao」は姉妹店的な存在とのことですが、どのような経緯で始められたのでしょうか?

田中さん:もともとは友人からの紹介です。この建物(Hotel K5)は、100年前に第一国立銀行(現在のみずほ銀行)の分館として建てられたんです。創設者がこの部屋を事務室に使っていたという説があります。店名は創設者の雅号「青淵(せいえん)」から、「青淵(あお)」とつけました。

塩見:本格的なカクテルバーといった雰囲気を感じます。バックバーにスピリッツが一通りそろっている中に、焼酎の一升瓶が混ざっているのが面白いです!

田中さん:当店はHotel K5のホテルバーとしての役割も持っています。マティーニなどの定番のカクテルも出していますが、「OPEN BOOK」と同じくこだわりのレモンサワーも提供していますよ。

塩見:それでは、実際にレモンサワーをつくっていただきながら、製法へのこだわりなどについて教えていただきたいと思います。

「OPEN BOOK」流 レモンサワーのつくり方

田中さん:オリジナルのレモンサワーを試行錯誤する中で、ベースは黒糖と米麹でつくる鹿児島県奄美地方の黒糖焼酎にたどり着きました。蔵元で黒糖焼酎にレモンの皮を入れて漬け込んだものを使っています。

塩見:レモンサワーといえば連続式蒸留でつくる極めてピュアなアルコールを加水した甲類焼酎や、ウォッカなどをベースにするイメージがありますが、「OPEN BOOK」では本格焼酎を使っているんですね! 黒糖焼酎でつくるというのも、どのような味わいになるのか気になります。漬け込むレモンにもこだわっているんでしょうか?

田中さん:そうなんです。国内有数のレモンの産地として知られる広島尾道市瀬戸田町で収穫されたレモンを、手作業で一つずつ皮をむいて使っています。加工時には、僕やスタッフも現地へ行き、約1週間、地元の皆さんと一緒に作業をしています。レモンの皮は黒糖焼酎へ漬け込み、果肉はジュースにしてレモンサワー用のシロップの原料となります。レモンに関しては、すべて使い切るSDGsです(笑)。

▲ノンアルコールのレモネードシロップ。お酒に少し垂らして炭酸で割れば、即席レモンサワーにも / 2,600円

塩見:原料の産地まで行って自ら作業するのは、確かにすごいこだわりだと思います。そうした漬け込み作業はどのくらいの頻度で行っているのでしょう。

田中さん:春、秋、冬の3回です。秋は濃くて苦味があるなど、季節によってレモンの味が変わります。こうした違いが楽しめるのも、レモンサワーづくりの魅力です。

塩見:大手が出している通年商品のサワーを飲むことが多いので、季節で味が変わるというのは目からウロコです。そう言われてみると、確かに1年を通して味が一定という方が不思議なことに思えてきました。

▲店舗では、黒糖焼酎と特製シロップの混ざったオリジナルリキュールを使用している

田中さん:こうしてレモンの皮を漬け込んだ黒糖焼酎に、レモン果肉でつくった特製シロップを合わせ、炭酸水を注ぎます。最後に、原料と同じ国産レモンの皮の方を液面に近づけて搾り、最後に塩水を少量吹きかけて完成です。

塩見:レモンは皮の方から搾ることで、より香りが引き立つんですね! 細部にこだわりが光っています。それでは、早速いただきます。

▲リアルレモンサワー / 1,100円

塩見:なるほど! 口の中にレモンの香りや風味が広がり、まるでレモンそのものを味わっているような印象を受けます。黒糖焼酎のほのかに甘く芳醇(ほうじゅん)な香りも感じられますが、決して主張しすぎず、絶妙なバランスがお見事です。

田中さん:僕も、うちのレモンサワーは最高においしいと思って提供しています。酒場でグイッと飲むようなレモンサワーもいいですが、本を読みながらなど、自分の時間を過ごしながらゆっくり時間をかけて味わえるようなレモンサワーを開発したかったんですよ。

塩見:原料や味にこれだけこだわり尽くすのは、専門店ならではの魅力だと思います。冒頭でおっしゃっていたように、まさに「足を運びたくなる」レモンサワーですね。

自宅でつくるおいしいレモンサワーのコツ

塩見:最近は家飲みでレモンサワーを楽しむ人も増えていると思いますが、家でできるレモンサワーをおいしくする技って何かありますか?

田中さん:プレミアム系のレモンソーダを樽熟成の米焼酎と合わせると、うちのレモンサワーに近い味になるかもですね。あとは、塩分濃度20%程度の塩水を2ダッシュ(約2ml)入れるだけでも味は変わります。これは、塩気をつけるためではなく、レモンサワーの甘さを立体的に際立たせるためなんです。スイカに塩を振るのと同じ考えです。

▲「家庭用の冷凍庫でつくる製氷器の氷ではなく、透明度の高いロックアイスを使うのも重要」と、スタッフの杉本匠さん

田中さん:神戸発の有名なバーでは、氷を入れないハイボールが名物なのですが、そこではウイスキーを冷凍庫で冷やしています。レモンサワーも同じように、焼酎を冷凍庫に入れて冷やし、氷を使わずにつくるのもおいしいですよ。飲んでいるうちに体温になじんでくる感じがたまりません。

※ウイスキーはアルコール度数が高いため、一般的な冷凍庫でも凍りません。20~25度の焼酎はシャーベット状になります。

塩見:なるほど! それなら家でも手軽にトライできますね。また、フードペアリングはどんなものがおすすめですか?

田中さん:レモンサワーにはコクやうま味の強いものが合うと思います。「OPEN BOOK」や「Bar Ao」のレモンサワーは黒糖焼酎を使っていますから、キビ糖と合わせたナッツなんかは間違いなく合いますね。また、奄美の郷土料理「塩豚」とかもおすすめです。

▲茶ナッツ / 550円

田中さん:甘酸っぱいお酒には苦味やほのかな酸味があるものを合わせるのもおすすめです。意外かもしれませんが、山菜料理やオイルサーディンなどは、レモンサワーをだらっと飲みながらつまむには最高です。

塩見:ありがとうございます。家でレモンサワーを飲むときの楽しみが増えました! インタビューは以上になりますが、ほかにもおいしそうなカクテルがあるようなので、いただいてもいいですか。カクテルも大好きでして……(笑)。

田中さん:もちろんです! 新宿の「OPEN BOOK」にはない、「Bar Ao」ならではの黒糖焼酎ベースのサワーカクテルを用意しています。少し珍しい組み合わせでいうと、黒糖茗荷サワーなんてどうですか?

▲目の前でカクテルをシェイクする姿が見られるのも醍醐味(だいごみ)の一つ(画像はスタッフのJJさん)

▲黒糖茗荷サワー / 1,320円

塩見:ありがとうございます。鮮やかな朱色ですね! みょうがの苦味と酸味、それを引き立たせる黒糖の甘さもちょうどよく、フルーティーでさわやかな味わいです。

田中さん:黒糖焼酎、みょうがシュラブ(ビネガーにみょうがを漬け込んでつくったシロップ)、レモンジュース、卵白をシェイクしてつくるオリジナルカクテルです!

塩見:レモンサワーだけでなく、カクテルも細部までこだわられていることがわかりました。本日は、唯一無二のレモンサワーについてお話が聞けてよかったです。ありがとうございました。

田中さん:こちらこそ、ありがとうございます。今度は新宿ゴールデン街の「OPEN BOOK」にも飲みに来てください!

まとめ

2015年、新宿ゴールデン街に誕生し、プレミアムなレモンサワーブームをけん引したレモンサワー専門店「OPEN BOOK」のオーナー、田中さんにお話を伺いました。

お店のこだわりに加え、家でもレモンサワーをおいしく楽しむためのヒントを教えてもらったので、早速試してみたいと思います。特に、お店でも実践されている塩水をごく少量加えるテクニックは、簡単なのにしっかりおいしくなるのでおすすめです。

今回訪ねた姉妹店の「Bar Ao」は、まさに都心の隠れ家。ハイセンスで程よくパブリックな空間で飲むカクテルは、非日常を感じさせてくれました。

「いつもと違うレモンサワーを飲んでみたい」という方は「OPEN BOOK」や「Bar Ao」を訪ねてみてはいかがでしょうか。

お店情報

Bar Ao(Another Openbook)(アオ)

住所:東京都中央区日本橋兜町3-5 K5 1F
営業時間:月〜木 17:00~24:00 金土・祝前日17:00~翌1:00

OPEN BOOK(オープンブック)

住所:東京新宿区歌舞伎町1丁目1−6 ゴールデン街5番街
営業時間:毎日20:00~24:00
定休日:不定休

OPEN BOOK 破(オープンブック ハ)

住所:東京新宿新宿1-5-12明和ビル1階
営業時間:木金 15:00~21:00L.O. 土:12:00~21:00L.O. 日:12:00~19:00L.0
定休日:月・火・水

書いた人:塩見なゆ

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酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。

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