こんにちは、酒場案内人の塩見なゆです。
皆さんは、日本の居酒屋メニューとインドのスパイスをかけ合わせた居酒屋をご存じですか?
そんな居酒屋好きの私の心をくすぐるお店は、中野に店舗を構えるスパイス&ハーブ居酒屋やるきです。
インド出身のマスターが50種類以上のスパイスを使って作るおつまみは、他では体験できないような味わいのメニューばかりです。
ポテトサラダ、煮込み、やきとりなどがどのような変化を見せるのか。想像してみると少しワクワクしてきませんか。
今回はマスターであるトニーさんにインタビューを行いました。お店でよく注文されるメニューを中心にご紹介していきます。
日本で本場のスパイスを使用した居酒屋を始めた理由
塩見なゆ(以下、塩見):こんにちは! やるきさんを取材できてうれしいです。まずは、お店を始めた経緯について教えてください。
シャヒン ジャカリヤ トニーさん(以下、トニーさん):よろしくお願いします。やるきを開業するまでは、日本の大手居酒屋チェーンで店長をしていました。やるきという店名も、当時働いていたお店の屋号から付けたんです。
塩見:日本で経験を積んで独立開業したんですね。
トニーさん:はい、やるきという店名を使わせてもらうために、社長に許可をもらいました。社長からは何事もやる気が大事だと教わってきていたので、その考えをしっかり受け継ぎたいという思いも込めています。
前職の頃から、居酒屋メニューにスパイスを入れたいと思っていたのですが、チェーン店なので難しくて……。アイデアはたくさんあったので独立することにしました。
塩見:こうしてインドのスパイスと居酒屋メニューがフュージョンしたんですね。トニーさんのスパイスの使い方には、どのような特徴がありますか?
トニーさん:出身はニューデリーなので、インド北部の味で育ちました。日本に来る前から、インド国内やスリランカ、パキスタンを巡って料理の勉強をしていました。他の人がやっていない料理に挑戦したかったので、デリーの味にこだわらず、各地のスパイスを幅広く取り入れています。
塩見:やるきさんでは、何種類のスパイスを使用しているのですか?
トニーさん:50種類かな、いや、もっとありますね。日本国内では手に入らないものが多くて、ほとんどをインドなどから取り寄せています。5〜10kg単位で輸入しています。
塩見:日本のスパイスで代用しないことには、理由やこだわりがあるんですか?
トニーさん:日本とインドでは、同じ名前のスパイスでも全く味わいや香りなどが異なるんですよね。本場のスパイスを使った料理を食べてほしいので、お金はかかりますがこだわっています。
塩見:家庭でトニーさんの料理を再現しようと思っても、まねできませんね。ちなみにインドでは、日本よりもスパイスをたくさん使用しますか?
トニーさん:インドでは、一般家庭にさまざまなスパイスが常備されています。日本人よりも圧倒的に多くのスパイスを日常的に使っていると思いますよ。
塩見:やはりそうなんですね。ちなみに日本における醤油のような定番スパイスはありますか?
トニーさん:そうですね。ターメリック、チリパウダー、ガラムマサラ、コリアンダー、クミンの5つかな。日本料理のさしすせそ(※)みたいなもんですよ。これだけでおいしいカレーが作れますし、いろんなメニューをアレンジできますよ。
※日本料理のさしすせそ=砂糖、塩、酢、醤油、味噌を指す。
塩見:5つそろえればいろんな味付けができるんですね。勉強になりました!
スパイスと居酒屋メニューの融合を楽しもう!
これが提供されているスパイス×居酒屋メニューの数々です。気になるメニューがいくつもあって、眺めているだけで気持ちが高ぶってきますね。
使用しているスパイスの詳細までは秘密ということなので、実際に食べてみた味わいを中心に皆さんにお届けできればと思います。
今回選んだメニューは、カレーキャベツ、やるき牛もつ煮込み、やるきポテトサラダ、タンドリーチキンやきとり、スパイシービーフです。一体どのような味わいなのでしょうか?
まず、注文してすぐに出てきたのはカレーキャベツ(319円)です。
よく居酒屋で出てくるようなざく切りキャベツに、キーマカレーをのせて食べるというもの。お手頃な価格ですが、ひき肉がたっぷり入っていて、本格的なインドカレーの香りがします。
キャベツにカレーをディップして食べてみると、辛いものが苦手な方でもおいしく食べられるように辛さは控えめになっています。
日本の家庭でよく食べるような小麦粉が入ったとろっとしたカレーではなく、ガラムマサラやブラックペッパーの刺激が適度に感じられるサラッとしたキレのあるカレーになっています。
印象に残ったのは、噛むごとにカレーがキャベツの甘さを引き立てていて、素材の味わいとスパイスのバランスが計算されているなということです。
続いては、やるき牛もつ煮込み(649円)です。
居酒屋の定番メニューであるもつ煮込みも、トニーさんの手によってインドテイストに大変身。具材は白もつやハチノス、根菜、こんにゃく、刻み白ネギです。
スープカレーのような見た目ですが、食べてみると、日本人に親しみ深いうま味のきいた和風だしが強く感じられます。辛みというよりは、爽快な香草系のスパイスが感じられる味わいになっています。
また、白もつやハチノスの臭さは一切なく、柔らかく丁寧に下処理されています。親しみがある味わいですが、食べたことのない心地よい爽快感がある煮込みはぜひ一度食べていただきたいです。
やるき牛もつ煮込みの次に出てきたのは、やるきポテトサラダ(363円)。
ターメリックなどで黄色になっているポテトサラダはなんとも珍しいですよね。
見た目こそカレー色に染まっていますが、辛さはあまり強くありません。ゴロっとしたじゃがいもの素材感を活かしながら、少量のマヨネーズとスパイスで味付けされているので、さっぱりとキレのある味わいになっています。
オシャレにお皿を彩る3種類のソースを付けると、それぞれ異なるスパイスの味わいが加わります。赤いソースを付ければ唐辛子系のピリ辛味に。緑のソースを付ければ香草系のフレッシュな辛みに。黄色いソースを付ければガラムマサラ系のインド感のあるスパイシーな辛みに。
一皿でいろんな味わいを楽しめて、あっという間に完食してしまうポテトサラダでした。
▲奥:タンドリーチキンやきとり 手前:スパイシービーフ
続いて出てきたのは、タンドリーチキンやきとり(209円)とスパイシービーフ(319円)です。
日本でもメジャーなタンドリーチキンですが、やるきでは、つぼ窯型オーブン(タンドール)ではなく、居酒屋で見かけるような焼き台で焼いています。その調理光景はやきとりそのもの。しかも、ねぎまの如く、ねぎと鶏もも肉を交互に串打ちしています。
そしてこのサイズ感が伝わりますでしょうか?
1串で鶏もも肉半分は使っているんじゃないかと思うほど、ビッグサイズです。本場のスパイスで味付けをしていて209円はかなりお値打ちなメニューだなと思います。
タンドリーチキンは、ヨーグルト、チリパウダー、ガラムマサラなどが配合されたであろうタレがしっかりと染み込んでいます。これが焼き台でじっくり焼かれることで、香ばしさが加わり、食欲がどんどん湧いてきます。
鶏もも肉は驚くほどジューシーで、その脂がタレと混じり合って優しい辛さと芳醇な風味を生み出しています。鶏もも肉の後にねぎを食べると、口の中がリセットされ、まさにねぎまのような相性の良さを感じます。タンドリーチキン串にねぎを挟むトニーさんのアイデアには脱帽です。
スパイシービーフは、ここまで食べた料理の中で最も強くスパイスを感じました。クミンがガツンと主張するスパイシーな味わいで、牛肉と非常によく合っていました。
タンドリーチキンとスパイシービーフは、しっかりとスパイス感があるものの、決して本場の味わいを押し付けるのではなく、日本人が親しみやすい味わいに調整されている印象でした。ですので、スパイスが苦手な方も気軽に注文してほしいなと思いました。
トニーさんのスパイスへのこだわりが詰まったお店!
今回は、日本の定番居酒屋メニューを本場のスパイスでアレンジした料理をいただきました。
一貫して感じたことは、スパイスの味や香りを主張するのではなく、素材やだしの味わいを活かした日本人向けの味になっていることでした。本格的にスパイスを楽しみたい方向けに、スパイスソースが添えられているなど、多くの方に本場のスパイスを楽しんでもらおうというトニーさんの心遣いも感じました。
また、インドから取り寄せた本場のスパイスをふんだんに使用しているのに、良心的な価格設定になっています。
スパイス好き、居酒屋好きに限らず、トニーさんの料理が気になった方はぜひお店に行ってみてください。それでは。
お店情報
スパイス&ハーブ居酒屋やるき
住所:東京都中野区本町4-36-7
電話番号:050-5350-8706
営業時間:月曜日、祝日、祝日前日17:00~23:00
火曜日~金曜日11:30~14:00、17:00~23:00 土曜日7:00~22:00 (料理L.O. 21:30)
定休日:日曜日
書いた人:塩見なゆ
酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。