酸味とにんにくが効いたカレー「ポークビンダルー」を家にありそうな調味料で作る【美窪たえ】

西インドのゴア州で生まれた、お酢による「酸味」とスパイスの「辛味」と豚肉などの「うま味」の融合したポークビンダルーをご紹介します。

こんにちは。料理家の美窪たえです。

本日は、数あるインドカレーの中でも、お酢の酸味が特徴のポークビンダルーをご紹介します。

このポークビンダルーが名物料理として知られる西インドのゴア州は、長い間ポルトガルの植民地であったことから、食文化もその影響を受けて独自に発展してきたそうです。そのため、インドでは珍しい豚肉を使ったカレーが誕生しました。

▲お酢、スパイス、塩麹などの調味料を混ぜ合わせた味のポイントとなる漬け込み液

特徴は何と言っても、お酢による「酸味」とスパイスの「辛味」と豚肉の「うま味」の融合です。

一口目は、あまりなじみのない酸味のあるカレー味に少々驚きますが、食べ進めると徐々にその酸っぱさとスパイス感がクセになり、ハマる方も続出のおいしさです。

意外に手順も材料もシンプルで作りやすく、ルーを使わないカレーに挑戦してみたかった方にもおすすめです。

今回はポークビンダルーを、さらに家で作りやすく、よりおいしくできるようにアレンジしたご家庭向けレシピで、材料から丁寧に解説していきますよ。

それでは早速作っていきましょう。

材料(2〜3人前)

  • 豚肉(肩ロースまたはバラ肉)……500g
  • 玉ねぎ……400g

〈漬け込み時に使用する調味料〉

  • お酢……大さじ3
  • 塩麹……大さじ2
  • おろしにんにく……大さじ1
  • おろししょうが……大さじ1
  • 粒の黒こしょう……大さじ1(5g)

〈煮込み時に使用する調味料〉

  • おろしにんにく……大さじ1
  • おろししょうが……大さじ1
  • トマトジュース……200cc
  • トマトケチャップ……大さじ1
  • カレー粉……大さじ1と1/2
  • オリーブオイル……大さじ1

ポークビンダルーの「ポイントになる材料」

ポークビンダルーは、お酢の酸味がポイントという少し珍しい味わいのカレーです。

しかし、ご家庭で作られているような一般的なポークカレーにお酢を入れるだけでは、おいしいポークビンダルーにはなりません。ただ酸っぱいだけのカレーにならないよう、作りやすさに考慮しながら、ポイントとなる材料と役割をご紹介していきます。

「カレー粉」と「粒の黒こしょう」で本格的な味わいを

まず、カレーといえばスパイスが欠かせません。

スパイスは日本語で香辛料と言う通り、香りや辛さに特徴を持つ調味料。特に、香りの成分は揮発性です。粉末状のスパイス類は、封を開けたら香り高いうちにどんどん使っていくのが理想的ですが、かなり頻繁にスパイス料理を家で作る方でないとなかなか難しいものです。

そこでおすすめなのがカレー粉の活用です。カレー粉は、カレー味を作るために必要なスパイスがバランスよく配合された優秀なミックススパイス無塩でうま味成分や脂肪分を含まないため、固形ルーに比べると使う量も用途もより自由度が高いのが特徴です。

まずはカレー粉を軸にして、そこに自分が使いこなせる範囲で好みのスパイスを少しずつ買い足していけば、適度に在庫も循環して自分好みの味も作っていけるので、スパイス料理の入り口にとてもおすすめです。

そのカレー粉に加えて、本日プラスするスパイスは粒の黒こしょうです。

普段から使っている方も多いスパイスだと思いますが、ぜひ粒の黒こしょうを自分で潰して使ってみてください。

粒の黒こしょうをバット等に入れて、ボウルや鍋の底でゴリゴリと粗く潰していきます。粒の黒こしょうが砕けた瞬間に、重厚でうま味のある香りが一気にはじけるのを感じていただけると思います。砕きたての新鮮な香りと不揃いな黒こしょうが、一味違う印象を料理にもたらしてくれます。

こしょうは世界中の料理で使われているスパイスの王様です。使い方ひとつでたちまち料理にも風格が出てきますので、ぜひ試してみてください。

たっぷりの「おろしにんにく」と「おろししょうが」でインド感を演出

スパイスの次に重要になるのがたっぷりのおろしにんにくとおろししょうがです。この2つのすりおろしを混ぜ合わせた(または、配合したもの)をインド料理界隈では「ガーリック・ジンジャーペースト」、または2つの頭文字をとって「G&G」と呼んでいます。

どちらも日本で普段からよく使う薬味ではありますが、これらをたっぷり加えてみると「なるほど、インドっぽくなった!」と感じられる風味に変わります。

びっくりするくらいの量を使うのと、インド感のある味わいを演出する面から、普段チューブを使っている方も、できれば生のものをすりおろして使っていただくのがおすすめです。

「トマトジュース」と「トマトケチャップ」と「塩麹」でうま味をプラス

最後に、味の土台となるうま味を補う素材を3つご紹介します。

まずトマトジュースとトマトケチャップという2つのトマトです。インド風カレーは、出汁やブイヨンを使わずに、素材のうま味を活かして少なめの水で煮込むのが基本です。

しかし一歩間違えると、出汁文化に慣れた我々の味覚には、物足りなさを感じてしまうことも。そこで、煮込む際の水をトマトジュースに置き換え、さらにトマトケチャップで凝縮されたトマト感を補うと、水っぽさのない自然なうま味を加えることができます。

元々、生のトマトはインドカレーの定番材料。そこをあえてトマトジュースとトマトケチャップにすることで、濃厚なうま味が加わります。

ちなみに、トマトの主なうま味成分は昆布出汁と同じグルタミン酸なんですよ。

そして最後に、今回のレシピのカギを握るのが塩麹です。

今や手軽な定番調味料のひとつとなった塩麹。その原料は、米麹と塩と水だけという非常にシンプルなものです。米麹の優しい甘みに、調味料としての塩気、発酵による複雑な香りとうま味を備えた塩麹を隠し味に加えると、ごくごく自然な奥行きが加わるのです。

また味わいの面だけでなく、麹に含まれる酵素には、タンパク質を分解して柔らかくする働きがあります。ごろりと大き目に切った豚肉を煮込む今回のカレーには最適の隠し味なのです。

さて、前置きが長くなりましたが、ポイントになる材料の説明が終わったところで、ポークビンダルーの作り方を紹介していきます。

ポークビンダルーの作り方「漬け込み編」

このレシピの最大のポイントは、豚肉を下味に漬け込み、寝かせる工程にあります。といっても作業時間は10分ほど。その代わりに、寝かせ時間をしっかり確保することが、おいしさに大きく影響します。

ぜひここは一度レシピ通りに試してみてくださいね。

1.漬け込み時に使用する調味料(お酢、塩麹、おろしにんにく、おろししょうが、粒の黒こしょうを潰したもの)をバットで混ぜ合わせて漬け込み液を作っておきます。

お酢は市販の米酢を使っています。お手持ちのものがあれば、穀物酢やワインビネガー、りんご酢などでも代用可能です。

2.豚肉は5cm角を目安にごろりとした大きさに切ります。部位は、適度に脂があってうま味が強い肩ロースが特におすすめです。他にはバラ肉でもおいしく作れます。

酸味のあるスッキリとした味わいのカレーですので、脂がある部位の方がコクが出ておいしくできますよ。

3.1の漬け込み液に豚肉を絡めたら、ラップをして冷蔵庫で一晩寝かせます。

一晩寝かせることで、豚肉にお酢の酸味や黒こしょうの香りがしっかりなじみ、煮込んだ後の一体感に繋がります。また、お酢にはお肉の保水力を高めたり、柔らかくしたりする効果がありますよ。効果を実感するためには最低でも6時間。できれば丸1日漬けておくのが理想的です。

これで下準備は完了です。ここまでやってしまえば、明日には絶品ポークビンダルーが食べられますよ。

ポークビンダルーの作り方「煮込み編」

豚肉にしっかり下味が染み込んだら、いよいよ煮込んでカレーに仕上げていきます。

1.豚肉をキッチンペーパーの上に並べて、軽く水気をとっておきます。(そのまま焼いても構いませんが、かなり油が跳ねますのでご注意ください。)

豚肉を引き上げた後の漬け込み液も使いますので、捨てずに残しておいてください。

2.フライパンにオリーブオイルを入れて中火で熱し、豚肉を並べて表面を焼いていきます。一度並べたらあまりいじらずに、3分ほどかけて焼き目をつけます。

豚肉は色素が少なく焼き色がつきにくい肉質ですが、周りについている塩麹や香味野菜が焦げ始めてメイラード反応を起こし、煮込むとその香ばしさが煮汁に溶けてうま味とコクに変わります。この工程は豚肉に火を通すことが目的ではないので、軽く色づく程度で大丈夫です。

3.豚肉を焼いている間に、玉ねぎをカットしていきます。

写真のように1/4に切った玉ねぎの繊維に対して、直角に薄切りにします。繊維を断ち切るようにカットすることで、火の通りが良くなり早く柔らかくなります。

4.焼き色がついた豚肉を煮込み用の鍋に移し、トマトジュースと水200cc(分量外)を加えて中火で煮込みます。

バットに残してあった漬け込み液も、残さず全部鍋に加えます。仕上がりのとろみに影響しますので、ここで加える水の量は200ccを超えないように気をつけてください。

軽く混ぜ合わせてから蓋をして、沸いてきたら弱火にしてコトコトと煮込んでいきます。食材から出る成分は、すべて煮汁に溶かし込んでうま味として使用していくため、アクは一切気にしなくて大丈夫です。

5.豚肉を焼いたフライパンに玉ねぎを投入し、塩ひとつまみ(分量外)を入れ、中火で炒めます。焼いた豚肉の脂にはうま味がありますので、フライパンは洗わずにそのまま使ってくださいね。

フライパンについていた焦げを玉ねぎの水分で溶かしながら混ぜ込み、しっとりキツネ色になるまで、12〜13分ほど炒めていきます。ずっと混ぜている必要はなく、玉ねぎを鍋肌の熱にしっかり触れさせながら、時折混ぜる程度で炒めるのがコツです。

6.玉ねぎのカサがぐっと減って甘い香りがしてきたら、トマトケチャップ、カレー粉、おろしにんにく、おろししょうがを加えて炒め合わせます。

香味野菜とトマトケチャップの水分を飛ばしながら、加熱による香ばしさを加えるために、さらに3分ほど炒めます。

7.香ばしさが出てきたら先に豚肉を煮込んでいた鍋に加えます。フライパンについたうま味も全て残さず、ゴムベラ等でこそぎ落として加えてください。

よく混ぜて玉ねぎを溶かし込んだら、蓋を少しずらしてのせ、水分を逃しながら弱火でコトコトと30分ほど煮込んでいきます。

8.鍋底からよく混ぜ合わせて、全体に軽くとろみがついていれば頃合いです。

塩麹は製品によって塩気がまちまちなので、必ず味見をして、お好みで追い塩麹やお酢(それぞれ分量外、大さじ1目安)を加えて味を調えたら完成です。

煮込んですぐ食べるよりも、火を止めてから30分ほど置くと、味がなじんでより一層おいしく食べられますよ。

ポークビンダルーの魅力を倍増させる「炊き込みにんにくライス」

ポークビンダルーは白いごはんに合わせてももちろんおいしいですが、酸っぱいカレーとの相性が抜群で、ちょっとした工夫で作ることができる炊き込みにんにくライスもご紹介していきます。

材料(2〜3人前)

  • お米……2合
  • にんにく……2かけ
  • 塩……1〜2つまみ
  • オリーブオイル……小さじ1

1.お米を洗ったら鍋に入れ、薄切りにしたにんにく、塩、オリーブオイル、水400ml(分量外)を加えたら、蓋をして中火にかけます。蓋の隙間から蒸気が漏れてきたら、ごく弱火にしてそのまま9分ほどでちょうど良い炊き上がりになりますよ。

※炊飯器で炊き上げることも可能です。水の量のみ炊飯器の規定に合わせて調整ください。

2.炊き上がったら、ホクホクになったにんにくを崩しながらごはんに混ぜ込んで出来上がりです。

最後に炊き込みにんにくライスをお皿に盛りつけて、カレーを注ぎ入れればポークビンダルーの完成です。コリアンダー(分量外)や紫玉ねぎ(分量外)を散らすと、よりおしゃれな印象になりますよ。

ポークビンダルーの楽しみ方

ごろりと煮込んだ存在感のある豚肉は、ほぐれる柔らかさというよりも、お酢の効果でブリンと独特の弾力に。

食べ応えがあって、それでいて噛むと柔らかく、これは新しい食感です。しっかり染みた酸味の奥にたっぷりの香味野菜と黒こしょうの香り、塩麹のうま味が感じられて、非常に美味です!

酸味と辛味、うま味が溶け合うポークビンダルーに、どこから食べてもにんにく風味のライスのバランスもたまりません。自宅で作るカレーの選択肢を広げたい方や、本格的なカレーを作りたい方には特におすすめです。

まとめ

少し珍しい、インド風の酸っぱい豚肉カレー「ポークビンダルー」はいかがでしたか?

本格的な味わいを作りやすく工夫したご家庭向けレシピになっていますので、ぜひ一度お試しください。お酢の種類や追加するスパイスで自分流にアレンジしていくと、どんどん楽しみが広がりますよ。

書いた人:美窪たえ

料理する人、食べる人。J.S.A.認定ソムリエ、SAKE DIPLOMA。OLからバーテンダー⇒日本料理人⇒フレンチコック⇒アメリカンデリという、異色の経歴を持つ料理家。料理のおいしさと酒への思いを発信するユニット[おとな料理制作室]としても活動。著書『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)が好評発売中。

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