イギリス在住May_Roma(めいろま)さんが語る、世界の美食・奇食・珍食・貧食

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Twitterユーザーなら、一度は @May_Roma というアカウントを目にしたことがあるのではないだろうか。やたら英語と海外事情に精通した英国在住の日本人女性。超がつくほどリアリスティックかつ辛辣な語り口で日本社会をぶった切るかと思えば、ヘヴィメタルへの偏愛を語り出す、一児の母── 。

実は『メシ通』で「極限メシ」を連載しているフリーライターの西牟田靖は、10年以上前から、つまりSNSがここまで広まる前から「めいろま」こと谷本真由美氏と親しい友人だった。たまに彼女がイギリスから帰国したときは、杯を傾けつつ近況報告を行う仲である。

そんなわけで、ここでは友人の西牟田が帰国中のメイロマさんに食についてインタビューした内容をお届けしたい。自身の食遍歴から知られざる英国の食事情、さらには日本の特異性まで、実に彼女らしい機知に富んだ内容になった。

 

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▲インタビューを行った後の帰り道にて。彼女と飲むと、話題が豊富すぎてあっという間に2〜3時間が過ぎる

 

話す人:May_Roma(めいろま)さん

May_Roma(メイロマ)さん

ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関情報通信官などを経てロンドン在住。専門分野はITサービス管理、プロセス改善、ITガバナンス、通信業界市場調査。シラキュース大学国際関係論修士および情報管理学修士。趣味はハードロック/ヘヴィメタル鑑賞、漫画、料理。著作に『ノマドと社畜』(朝日出版社)、『日本が世界一貧しい国である件について』(祥伝社)、『日本に殺されずに幸せに生きる方法』(あさ出版)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)など。神奈川県生まれ。プロフィール写真はTwitterアカウント めいろま (@May_Roma) | Twitter より拝借

 

一番おいしかったもの、ギョッとしたもの

── ご無沙汰してます。最近もメタル、聞きまくってるんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:ええ、もちろん。

 

── 今、一押しのメタルバンドはなんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:森の妖精メタルこと「コルピクラーニ」と、ドラゴンフォースです。……ってあれ、これグルメのサイトじゃなかったでしたっけ。

 

 

── はい、じゃあ本題いきましょうか。めいろまさんは世界のいたるところに行ってますよね。なので、それぞれの土地でかなり強烈な食体験をされているかと。そもそも海外へ出るきっかけは?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:高校生の頃にバックパッカーとして台湾に渡航したのがはじまりかな。文通していたメタル好きのペンパルの家に居候していたんですが、そのときの体験が忘れられなくて。なぜか毎日のように食卓に練りわさびが山盛りにでてくるとか、外気温40度超えてるのにコンビニおでんがグツグツ煮えているとか、ドドメ色のランニングを着たおっさんがドロドロの屋台で握った寿司が炎天下で売られているのにめっちゃ繁盛してたりとか。海外にはこんな変わった食生活があるのかと驚きましたね。

 

── 台湾ってそんな国だったっけかな(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:その後はネパールとかカザフスタン、タイ、ロシア、メキシコ、チュニジアとか40カ国ほどを渡航して、アメリカでは学部と修士で留学をしました。で、たまたま縁があってローマの国連専門機関で情報通信関連の仕事に就いた後に、イギリス人と結婚したので現在はロンドンに住んでいます。だから実際に一定期間以上住んだ経験があるのは、北米と欧州ですね。

 

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▲インタビューは新宿のディープな中華料理店で行った。これはそのときの模様。特にこの缶に意味はない……

 

── これまでで一番おいしかったもの、聞いていいですか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:一番おいしかったのは……中国の海南島で食べたウミガメのスープかな。ゼラチン質の部分がプリプリで、肉は鶏肉をより濃くしたような味で、恐ろしいほどの甘みがスープに溶け出してて。ウミガメ漁って世界的には禁止されている国が多いと思うのだけど、中国では特に気にしないで食べているみたいでしたよ。少なくとも数年前までは。

 

── 中国の華族みたいな食事ですよね、ウミガメなんて。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に確か亀のスープが出てくるはずなんだけど、イギリスは中世の頃は亀やイルカを食べていたという記録があるので、かなりあとの時代ではあるにせよ、おそらくキャロルやその周辺の人々というのもウミガメを食べた経験があったのかもしれませんね。推測の域を出ないけど。

 

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▲イギリスの某カフェ。だいたい似たような人種が集まりそのお店のカラーが決定されていく

 

── じゃあ、反対に一番ギョッとした食べ物は?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:一番驚いたのはやっぱりアメリカの一般家庭で食べたあれですね。

 

── アジアとかアフリカじゃなく、アメリカですか!

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そう、もちろん虫の入ったチーズや子羊の脳みそ、サメの発酵したものなど珍味的なものも食べてはきていますけどね、実は最も驚いた食べ物というのはアメリカに留学していた頃に出合ったものが多いんですよ。中でも「カッテージチーズのゼリー和え」というよくわからない物体に出くわしたときの衝撃といったら。テキサスのホストファミリーの家でパーティーの料理の一つとして出てきたんだけど、なんというか世にもおぞましい見た目と味で。なんだけど、現地の人は「肌にいいから」って大喜びでどんぶりみたいな皿によそって食べていて。

 

── なんかものすごいメイロマさんぽい答えだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:アメリカ、あくまで私の知る限りだけど、食べ物ホントすごいですよ。昼ご飯はふにゃふにゃのパンにぶどうのジャムとピーナッツバターを塗っただけのもので、それをビニール袋に詰めて学校や会社に持ってきてむしゃむしゃ食べるの。それも毎日毎日、同じメニュー。育ち盛りの子どもや幼児もそんなものを毎日食べてる。いくらなんでもヨーロッパだとさすがにないかな、それは。イタリア人の同僚に話しても誰も信じてくれませんでしたけど。

 

欧州でも特殊なイギリスの食事情

── 現在お住まいのイギリスの食事情ってどんな感じなんでしょう? やはり階級社会だけに食べているものもクラスによってだいぶ違うのかなぁ。上流階級のジェントルマンたちはパブでUKロック聴きながらギネスビール飲んでサッカー見たりは……しないんですかね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:まぁ中には、そういう人もいるかもしれないけど、あまり見かけないですよね。そもそもイギリスの食事情自体がここ20年ほどの間に激変したんです。その理由はまずライフスタイルが大きく変わったこと。40年ほど前まではイギリス人の多くは日曜日には教会に行って家族みんなでサンデーローストという肉料理を食べて、月曜日から金曜日までは日曜日に焼いた肉のあまりをパイやら煮込みにして食べていました。台所には石炭を使ったオーブンやコンロがありそこで煮炊きをしていたんです。当時はセントラルヒーティングもないので、暖房は暖炉にくべた石炭で、そこにお鍋を置いて料理をしたりして。

 

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▲クリスマスシーズン、街中ではこんな肉屋台も見かける。シニカルでとっても英国っぽいのではないかと……

 

── 今から考えればずいぶんつつましげですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そう。人口の大半は労働者階級で、お店といえば小売店舗がほんの少しあるだけで、スーパーマーケットはほとんどなかった。たいていの人は近所の人と一緒に注文を取りまとめて週に一回、生協みたいな業者にさまざまな食料品を注文していました。食材も今よりもずっと限られていて貧しいものでした。

 

── そこへ空前の不景気がやってくると。時代的には70年代後半から80年代前半ですかね。イギリスが揺れまくった時代。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:はい。当時のサッチャー政権が経済の大胆な構造改革を推し進めた結果、重工業はその大半がつぶされ、炭鉱も閉鎖され、イギリスは金融や知識経済を中心とする第三次産業中心の国に生まれ変わりました。結果、腕力が必要ではない仕事も増えたので、女性が共働きで働くようになり、同性愛者や障害のある人も知識産業や金融業界に進出して行きやすくなりました。

 

── なるほど。今のイギリスのイメージに近いですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:女性が共働きになり料理をする時間がなくなったら、今度はスーパーマーケットが登場して冷凍食品や加工食品が爆発的に普及していくわけです。加えて宗教的な束縛もだんだん弱くなってきて、教会に行く人が減っていくにつれ、サンデーローストの習慣も消えていきました。

 

── 古き良き習慣が失われていく。まぁ日本も似ているようなものかもなぁ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そして20年ほど前にさらなる大変化が訪れます。グローバル化とEUの理念である「移動と居住の自由の実現」による多国籍化ですね。イギリスは1950年代から60年代に旧植民地の南アジアやカリブ海諸国から、繊維産業や公共交通機関で働く外国人労働者を大量に迎え入れて社会が急激に多国籍化していくんですが、80年代から90年代には特にEUから莫大な数の外国人がイギリスへやってきて働くようになります。今やロンドンの人口の約半分は外国生まれの人々ですからね。

 

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▲ローストチキンやパイはイギリスの伝統的な料理のひとつ

 

── 数年前だったか、「イギリスで生まれる赤ちゃんの名前でもっとも多いのはムハンマド?」みたいなネット記事を見たことがあって驚いた記憶がありますよ。そこまでムスリム(イスラム教徒)が多いのか! って。

www.huffingtonpost.jp

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:ロンドンの街歩いたらそれもまったく不思議じゃなくなるほどですよ。で、外国からの移住者が増えたのでイギリス人の食というのも大きく変化していったんですね。今やピザやパスタにインドカレーは定番メニューですし、タイ、ギリシャ、トルコ、中国といった国の料理も定番になってます。イギリスの伝統的なパブですら、スペインのタパスやタイのグリーンカレーを出すんだから。伝統食がどんどん町から消えていっているんです。その証拠に、2017年にロンドンで最も増えたレストランというのは良い食材を使ったちょっと高めのグルメハンバーガーのお店で、ほとんどはアメリカ風の内装やサービスが売りだったのに対し、もっとも閉店が多かったのは伝統的なパブでした。

 

You Are What You Eat

── イギリスでは、食の面でも外から入ってきた文化がかなり幅をきかせているわけですね。「イギリスのメシはマズイ」とか言われた頃に比べれば、かなりバラエティーに富んでいて、いろいろ選べるイイ時代なのではと思ってしまいますが。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:旅行者はいいかもしれないけど、住んでいる人がグルメになったかというと必ずしもそうでもなくて、食に関してもまだまだ格差を感じますよね。かつて外食ができるのは中流以上の人たちで、お金がある人たちは数少ないレストランでフレンチやイタリアンをワイン片手に楽しんでいました。こういう人たちは、子どもの時は私立の寄宿舎がある学校に通うのですが、学校で各国のさまざまな食事が出てくるのでそこで食に関して学ぶんですね。

 

── 舌が鍛えられるわけですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:一方で、労働者階級の人々というのは公立の学校で貧相なメニューの給食にしか触れる機会がなく、外食はほとんどすることがない。今はこういった階級の格差というのは大分緩和されてきましたが、それでも階級による食文化の違いというのはまだ根強く残っています。

 

── となると、その人が育った家庭環境や職業、収入によって実際に口にするものもだいぶ違いそうですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:まさに。ITとか金融業界の高収入層の場合は、紅茶よりもアーティサンコーヒーと呼ばれるグルメなコーヒーを好み、アボカドやコンブチャ、スムージー、ケールといったハリウッドのセレブが好むような食べ物を好んで食べています。夜はオイスターバーで友達や恋人とワインを片手に生牡蠣を楽しみ、週末はイタリアやフランスまでグルメ旅行に出かける、みたいな。

 

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▲週末ともなれば、おしゃれなカフェは高所得ピーポーで大にぎわい

 

── 勝ち組のキーワードてんこ盛りですね。でもロンドンって牡蠣とか食べるんですか? あんまりイメージないな。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:実は牡蠣ってロンドン周辺で養殖されてて、下町の名物なんですよ。東海岸のコルチェスター海岸で養殖される岩牡蠣はとっても濃厚でおいしいんです。金融街に近いグルメ御用達市場のバラマーケットの屋台店で、その場で開いた生牡蠣4つにワインがついて立ち食いで1,500円ほど。元々英国紳士たちが好んで食べていたアイテムなんです。今でもムール貝の白ワイン蒸しなんて喜んで食べるのは南部の中流以上ですね。ビールよりワインを好み、ソフトチーズやフォアグラを食べる感じの。

 

── フランス人みたいですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:一方で低収入層の食事というのは、冷凍食品がメインですね。いまイギリスでは「Iceland」という冷凍食品専門店がものすごく勢力を拡大してるのですが、みんなそこでおそろしく巨大なサイズの冷凍ピザやチキン、ケーキ、フライドポテトを買ってオーブンで焼いて食べてますよ。揚げ物や炭水化物中心で野菜をほとんど食べないという人も少なくありません。

www.iceland.co.uk 

── じゃあ牡蠣なんかは口にしない?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:牡蠣どころかムール貝も、ホタテも、いた貝類自体を食べたことがない人もかなり多いですね。「ゴムみたいな味がしてマズイ」とか言って。そもそも知っているもの以外を食べようとしない。和食の寿司やスパイシーなメキシコ料理なんかもってのほか。

 

── ピザや揚げ物中心で、野菜も食わないとなると、さすがに健康面が心配になるなぁ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そのとおりで、イギリスでは低収入層の間では糖尿病や超高度な肥満が大変な社会問題になってて、寿命も高収入層とは10〜20歳ほどの違いがあります。平均寿命というのが、その地域の不動産の物件価格や犯罪発生率と明確にリンクしているというデータもあるほどで。

 

── シーフードは食べないといっても、フィッシュ&チップスも一種の魚介類だし、出来たてはおいしいですけどね。ビネガーをわさっとかけて、ペールエール系とかスタウト系のビールで流し込んで。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:私も好きですよ。ただ、そもそもシーフード自体が欧州全体では高めで、島国のイギリスでさえ高級品なんです。だからフィッシュ&チップスもタラを使ったちゃんとした正統派は高級品になっちゃってる。高いと一食2,000円ぐらいするので。

 

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▲ロンドンでもりもり食べるフィッシュ&チップスのなんとおいしいことか!

 

── そりゃ高い! じゃあ街中で売ってる手頃なフィッシュ&チップスの中身は……

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:得体の知れない白身魚の冷凍品でしょう、きっと(笑)。庶民が食べている魚介類は、フィッシュフィンガーという四角い白身魚フライやスカンピという小エビのフライ。全部冷凍品でオーブンにぶち込んで終わりです。日本なら弁当にちょいと詰めるようなアイテムですね。それにメインディッシュでケチャップをぶっかけてパクパク食べる。付け合せは冷凍のグリンピースをお湯でゆでたものと、冷凍のフライドポテト。庶民の幼児や児童はこれを「ティー」(簡単な夕食)と呼び、夕方4時ぐらいに食べさせられて、6時半には自室に閉じ込められて寝かされます。それが庶民のスタイルかな。

 

── 就寝時間早すぎないですか、それ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:両極端な話をすると、数億円の物件に住む子どもたちは、小さい頃からアボガドのオープンサンドやオーガニック食材だけで作ったサラダ、寿司、鴨のコンフィなどすべて手作りの「ディナー」を食べて、週末は親と一緒にロンドンのテムズ川沿いのオーガニック食材のカフェにいって、マンゴーのスムージーを楽しみ、裏庭で育てた野菜を育てて自作のジャムを作ります。親は自営業や資産家だったり、家で仕事するプログラマや弁護士なので、一緒に料理や畑仕事をする時間があるわけですよ。だって、家の掃除は家政婦がやってくれるし、学校の送り迎えも外注、洗濯はクリーニング業者が配達してくれるので。それどころか「食育」のために、子どもたちは高級肉店のプロの主催する一回3万円の牛の解体教室に通ったり、夏休みは牧場で乳搾りやチーズ作りを体験したりとか。

 

── ギャップがすごすぎて頭が混乱してきました。

 

サービス過剰な日本の飲食店

── 海外に行くとき、食に関しての心構えがあるとすれば?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:結局、食べ物というのは、その土地の歴史や風土を踏まえた上で最適化されたものなんですよね。例えば日本人がイギリスだけではなく欧州北部に来ると食事の塩味が薄くて「マズイ」と感じることが多いんだけど、欧州北部というのは湿度が低く気温も低いですから日本に比べると汗をかくことがないわけ。したがって日本の感覚で塩分をとっていると塩分過多になってしまって血圧が上がってしまう。だから、地元の食事というのは塩分が控えめで味も薄めになっている。気候に合わせて最適化された味付けなんだということが分かっていないとだめ。

 

── 反対にその地方の方々が日本に来たらしょっぱく感じるのかもね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そうでしょうね。お米にしても、日本人は日本の米が世界一欲しいと思っていますがサラサラとしたバスマティ米を食べる地域の人からすると日本の米はもちもちしすぎていて決しておいしいものじゃないし。ジャガイモを大量に消費する国の人にとっては、米は付け合わせでしかなく決して主食にはなりえないし。

 

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▲低所得者層向けに英国の国民保健サービス(NHS)で提供される健康食

 

── 海外に長く住んでいると、日本に戻ってくるたび、そのギャップに驚くんじゃないですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:一番驚くのは、日本というのは何でも供給過剰であるということかな。消費者が支払う値段に対して過剰なサービスが提供されてますね。これはお役所や警察だけではなく、病院やレストラン、スーパーマーケットでも同じ。確かに日本の外食費は安いんです。他の先進国の半分から3分の1の値段で十分な質量が得られるじゃないですか。それこそ、感覚的にはチェコやハンガリーの値段に近い。じゃあなぜこんなに安いかっていうと、食材の多くは地元で採れたものではなく安価な輸入品だったり大量生産された冷凍品であることがひとつ。もうひとつは、何より働く人の人件費が恐ろしく安いから。他の先進国の主要都市に比べた場合、東京ですら時給換算でおそらく半分から3分の1ぐらいなんじゃないかな。

 

── 日本では、飲食店を悩ませるモンスタークレーマーの存在がたびたび話題になりますが、海外ではどうなんでしょう。常々めいろまさんは「日本は客としては天国だが、店員としては地獄の社会」と断言してはばからないけども。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:モンスタークレーマーは海外にも存在しますよ。ただ多くの国では飲食店というのはあくまで「人様のおウチ」に過ぎないので、あまりにも振る舞いがひどいお客さんは追い出されたり警察を呼ばれます。特に欧州の場合はサービスは提供してやるものだ、という考えのお店が多いですから、下品なお客さんや失礼なお客さんはその場で出禁にされちゃうんですよ。商売というのはあくまでモノやお金を返した取引にすぎないので、サービスは提供していただくという考え方が浸透している。

 

── あと、日本人はことあるごとにお酒 = 飲みニケーションしようとします。そもそもこれって異常なんでしょうかね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:他の国でもお酒を介してコミュニケーションを取ろうという職場はたくさんありますよ。たとえばイタリアでも職場でランチに行くときは軽く飲むのが珍しくありませんし、仕事の後に夕食前に「アペリティーボ」といって食前酒を飲みながら軽いおつまみをつまんで同僚や友達とおしゃべりすることも普通になってます。ただし日本と違うのはそういった場では仕事の愚痴を言ったりするわけではなく、あくまで軽いおしゃべりを楽しむだけにすぎないことです。またお酒はたくさん飲まず、酔っ払うこともない。

 

── ぶっちゃけ鬱憤(うっぷん)を晴らすために飲む人もいるからなぁ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:普段本音をあまり言わないイギリスやスコットランドの場合は、仕事の後にかなり深酒をしてしまって泥酔する人もいるにはいる。ただしお酒の席で仕事の話をすることはあまりないかな。どちらかと言うとみんなで社交をして楽しむという感じ。あと、中国でも北部に行けば仕事の話を踏まえた華やかな宴会で、強いお酒を何杯も飲むこともあるけど、頻度は日本よりは少ないし、愚痴という感じにはならないですよね。

 

日本の食料自給率は低すぎる

── ちょっと大きな尺度の話していいですか。日本は現在、食料自給率はカロリーベースで38%です(平成30年度、農林水産省「食料需給表」より)。ちなみにアメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%。つまり先進国の中ではずば抜けて低く、最低水準といってもいい。これどう思います? 食料自給率って、やっぱり上げるべきでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:日本の食料自給率は上げておくべきだと考えてますね。ヨーロッパ諸国って食料自給率がおおむね高いんですよ。食材を輸入するにしても遠い東アジアやアフリカから輸入するのではなく、なるべく近隣の欧州諸国から輸入するようにしているんです。

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※ 食料自給率とは:農林水産省より

 

── オランダなんかは温室を利用した野菜栽培ですごく成果を上げていますもんね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:あれは一番の成功事例になっていますね。ではなぜ欧州が自給にこだわっているかというと、やはり第二次世界対戦の記憶が生々しいからなんですよ。自国のほぼ全土が戦場になり、深刻な食糧不足が続いたせいで、70代から80代の人の記憶に重く残っているわけです。イギリスだけではなく他の欧州諸国も配給制が戦後長く続いていましたし。

 

── 有事に備えて食べ物を蓄えておくに越したことはないぞ、と。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:間違いないね、それは。今はかろうじて欧州内は平和だけど、一旦秩序が崩れた場合、また戦争が始まらないとは言い切れない。それこそどっちを向いても火種がくすぶっているわけ。EU加盟を希望するトルコは隣国がシリアだし、イタリアとスペイン、フランスは海を越えたらリビアやアルジェリアなどの北アフリカにすぐたどり着く。紛争地域やその可能性が高い地域が目と鼻の先です。緊張感に常にさらされているので食糧自給率を一定水準キープするのは安全保障上大変重要なことなんです。

 

── そこへいくと日本は、まぁ緊張状態はないわけじゃないけど、まさか食べ物が途絶えることはないだろうなーとボンヤリ考えちゃってるところはある。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:日本の場合は北方も日本海も東シナ海も、不安定要因がてんこ盛りにもかかわらず、戦争中の記憶を忘れてしまった人が多いように感じますね。その上、日本って石油や天然ガスがないから輸入に頼っているじゃないですか。いったんそこが値上がっちゃうと、食料を輸入する術がなくなるんですよ。欧州に比べると恐ろしく脆弱(ぜいじゃく)な状況にあるというのに実感していない人が多いのはかなり不思議なことですよね。食料の自給はすなわち生存戦略なので。

 

日本食はSNS向きな反面、こだわりを捨てるのが難しい!?

── 日本の食べ物はいまこれが海外でウケている、というのをビジネス視点で教えてほしいです。とくに、海外に出て外食産業で勝負したいと考えている日本の若者に向けてアドバイスがあれば。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:現在多くの国の中流以上の人々の間では、寿司がブームになっています。ただし寿司といっても日本の純粋な寿司ではなくアメリカ発のカラフルな色合いで、のりを内側に巻いた「裏巻きの寿司」が中心です。

 

── 寿司でも鮨でもなく、SUSHIですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:そう、SUSHI。日本の食べ物というのは見た目が美しく、SNS時代に向いていると思いますよ。そればかりか、有名シェフが抹茶やゆずといった日本の食材を使って高収入層向けの食事を作るので日本のニッチな食材も人気になっています。だから、世界を相手に勝負したい日本の外食産業の若い方々はSNS を使いこなしてプロモーションを頑張ったりすれば大きなチャンスをつかめるんじゃないでしょうか。たとえばアメリカのITエンジニアの間で大人気の寿司のスタイルというのは南アフリカやドバイ、ロシアでもはやるし、他にもラーメンやお好み焼き、たこ焼きにもかなり興味を持っている。

 

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▲ヘルシーなSUSHIはロンドンでも大評判

 

── 中華とかインド料理って世界中にありますけど、彼らはなんであそこまで広まったんでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:中国人とインド人は大変商売上手でやはり海外に行っても地元の食材をうまく使って現地の人の舌に合わせた料理を出すのが大変上手なのよね。しかも彼らは想像以上に実利的な考え方を身につけているので、いったい何をしたら最も得かということを計算して有利な方を選択しているわけです。

 

 

── その点、日本人は伝統や様式美にこだわるケースも多いというか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190116182552p:plainめいろま:私自身もヘヴィメタル信奉者なんで様式美は大好物なんですけど(笑)、日本人の料理人はなかなか現地に最適化できずに苦戦するケースもありますよね。成功している方の中には割り切って日本食の形にはこだわらずローカライズさせている事例がある一方で、こだわりを捨てきれない方も多い。日本人の場合は損得よりも精神性の方が優先することが多いので、ここまで割り切ることは難しいのかも。ただ、若い人はそういう壁は乗り切れるんじゃないかな。食に限らず、技術と志をもった職人さんには頑張ってほしいと思っています。

 

── 海外でもおいしい日本食が増えることを願ってます。めいろまさん、ありがとうございました!

 

海外写真提供:May_Roma(めいろま)さん

 

書いた人:西牟田靖

西牟田靖

1970年大阪生まれ。家族問題から国境、歴史、蔵書問題まで。扱うテーマが雑多なフリーライター。「僕の見た大日本帝国」(角川ソフィア文庫)、「誰も国境を知らない」(朝日文庫)、「わが子に 会えない」など著書多数。2018年には「本で床は抜けるのか」が文庫化された。

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