妖怪ストリートで食す!カオスで真面目な妖怪ラーメン「お食事処 いのうえ」【京都】

京都・北野天満宮そばの大将軍商店街、別名「妖怪ストリート」。町おこしで始まった「妖怪ストリート」がかなり本気だった。パン屋の軒先に妖怪、薬局の店内にも妖怪。妖怪はついに「お食事処 いのうえ」のラーメンまでも侵食し「妖怪ラーメン」を……本格派の味に仕上げてしまったのだ。

エリア北野天満宮(京都)

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京都「妖怪ストリート」から実況風にお送りいたします。メシ通レポーターのナガオヨウコです。

京都には「妖怪ストリート」と呼ばれる商店街があります。町おこしからスタートした「妖怪ストリート」、存在は知っていましたが、ここまで本気で頑張っているって知りませんでした。

 

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通称「妖怪ストリート」は、京都市の大将軍(たいしょうぐん)商店街の別名。

場所は、菅原道真公で知られる北野天満宮の南側、一条通りの約400m。

 

商店街の東端から歩いていきましょう。最初に言っておきます。カオスです。

 

商店街は妖怪だらけ

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「妖怪 YOUKAI SOHO」。フランス人とハーバード大学出身のアメリカ人(2人とも本業は建築関係)によるレンタルオフィス&イベントスペース&ゲストハウスの前。

 

これは妖怪ではなく青鬼、そしてこん棒ではなく鈴がついた棒(2本ひとまとめ)を持っている。

 

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茶舗の店先に、妖怪。

 

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茶舗の店先で売られている、妖怪おみやげ。

 

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「とびだし坊や」も妖怪風。

 

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マンション前のベンチに、妖怪。これ、カエルだそう。えっ、どうしてカエルだとわかったかというと……

 

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「妖怪のカエルちゃんす。お願い〜触らないでね」と書かれたプレートが付いていたからです。

 

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閉まったシャッターの前には、一つ目の女の子(ファッションは現代風)。

 

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パン屋さんの前にも妖怪。左側は、頭が食パン。右側は「コロネくん」というらしい。「中身はチョコクリームだから暑いのはダメ!」と書いてあります。

 

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食パンじじぃからのメッセージ!

「少ーし寒くなってきたワイ

風邪に気をつけるのジャー

ワシもちょっと年をとったのおー

(900才ぐらい? )」

 

まだまだいきます。

 

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薬局。店内にも妖怪がおります。こっち見てる。

 

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熱帯魚店の妖怪は、顔が恐竜で着物らしきものを着ていました。何でもアリか。

 

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ふとん店の店先。昭和っぽいフラワープリントに、四角い顔が貼り付けられております。布団にくっついた子ども妖怪? を片手で抱えつつ。両腕はダンボール。

 

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通りを眺めてみると、地方にあるさびれかけの商店街に見えます。しかし、一軒一軒にいちいち妖怪がいる。カオスです。そして、妖怪は自由です。

 

なぜ、こちら「大将軍商店街」が「妖怪ストリート」なのかというと……。詳しくお話を聞くために、大将軍商店街振興組合の理事長がいらっしゃるお店に行ってみることにします。

 

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「お食事処 いのうえ」。はい、こういっちゃなんですが、やはりどこかの町のどこかの商店街にありそうな食堂です。

 

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大将軍商店街振興組合の理事長、井上 明さんです。

 

平安時代、こちらの一条通りは、平安京の最北端にあり、妖怪が出る“異界の通り”でした。ここを通っていた妖怪は、もとは古くなって捨てられたモノたち。鍋や釜、琴など壊れて捨てられたモノたちが付喪神(つくもがみ)という妖怪となり、行列をなして夜の一条通りを練り歩いたと言われていました。「百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。(井上さん)

 

いわば、妖怪たちは「もったいないオバケ」。現代のエコ精神にも通じる妖怪いうわけなんですね!

 

「妖怪ストリート」と銘打って、商店街の町おこしを始めたのは2005年のこと。近隣に大型スーパーマーケットができて客足が流れ、商店街の存在意義があやうくなり、しばらく経ったころでした。

 

「妖怪ストリート」としての町おこしは、商店街に加盟する店舗のうち2:20で反対派が圧倒的多数でしたね。

「妖怪なんて怖いじゃないか」「もっと一般受けするものなら賛成するけれど……」という声ばかりでした。

しかし、商店街としては「オンリーワン」としての道を探らないと生き残っていけない。

当時、理事長が若い世代に代わったのをきっかけに、商店街に「妖怪資料館」をオープン。もう、妖怪全振りでいくことに決めました。それぞれの店先の妖怪は、最初は近所のスゴ腕主婦や、京都嵯峨芸術大学の院生だった学生に作ってもらいました。(井上さん)

 

翌年の2006年の春から、新聞やテレビ局の取材が殺到。全国からお客さんがバンバン訪れるように! すると、商店街の店主さんの多くが妖怪賛成派に転じたのだそうです。

 

毎年10月に開催している妖怪仮装パレード「一条百鬼夜行」は、毎年大盛況。初年度は30名ほどが参加していたそうですが、近年は約100名もの妖怪が参加。

 

年に4回行われる、アートフリーマ「モノノケ市」は、妖怪グッズしばりの手作り市(そんなのあるんだ……)。妖怪フィギュアや妖怪アクセサリー、妖怪雑貨など、全国の作家さんが作る妖怪グッズは即売り切れもしばしばで、毎回大盛況なのだそう。

 

現在これらのイベントは、絵師や京都嵯峨芸術大学の学生が運営する妖怪藝術団体「百妖箱(ひゃくようばこ)」と商店街が共同で行なっているそうです。

 

実は本格派・妖怪ラーメン

「お食事処 いのうえ」の創業は43年前。最初の1〜2年は井上さんのお父様がお店を切り盛りされていたそうです。

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井上さんは北海道の大学で酪農を学び、卒業後はさらに酪農を学ぶためにドイツへ。

 

しかし「日本で本格的に酪農を始め、初期投資のお金を回収するには3代かかる」と知り、帰京。そしてお父さまの食堂を継ぐことにしたのだそう。

 

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カウンター席とテーブル席のある、町の食堂風情。

 

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妖怪関連本も並んでいますよ。

 

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妖怪好きの絵描きさんによる、三つ目の井上さん。

 

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妖怪絵師による、妖怪な井上さんの絵がいろいろ。

「妖怪ストリート」は台湾にある妖怪テーマパーク&リゾート「台湾溪頭妖怪村」と姉妹提携を結んでいるため、台湾からのお客さんも多いそうです。

 

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メニューはうどん、ラーメン、定食など和洋中なんでも。

妖怪の絵は、商店街の宝物である「百鬼夜行絵巻」より。布谷さんという男性絵師に描いてもらったそうです。うわ、本格派の絵やん!

 

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昼は日替わりのランチメニューがあります。ラーメンと唐揚げ、ご飯、漬物で780円とか。

 

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しかしこの日は「妖怪ラーメン」一択! 妖怪マニアに10年以上愛されるというラーメンをいただくことにしまーす!

 

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▲妖怪ラーメン(750円)

 

真っ黒なスープに薄紫色の中華麺、てっぺんには目玉のようなピータン、そしてたっぷりの赤いパウダー。おお、妖怪っぽいかも!

 

しかし、「町おこしのために作られたラーメンなんて、ウケ狙いでしょ? 」と、勝手に判断するのは待った!

 

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鶏+豚のスープに醤油ダレ、そして背脂入り。ということはこの「妖怪ラーメン」、背脂醤油系。昔ながらの京都ラーメンじゃないですか!

 

鶏系スープは鶏ガラ、豚のスープは、豚の肩ロースを炊いて作っているのだそう。グッとくるうま味があるのにこってりしすぎず、ちょうどいいバランス感。なお、スープの黒さは竹炭パウダーによるものです。

 

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紫っぽい麺は、赤と青のクチナシ色素で色付けしてあります。麺は、有名ラーメン店御用達、京都の老舗製麺所「棣鄂(ていがく)」にオリジナルで作ってもらっています。

 

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ごちゃっと混ぜて見たところ。妖怪意識の見た目に反して、するする食べられるんですよー。アクセントはニラと赤いパプリカパウダー、そして……

 

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シイタケ!!

甘辛く炊いたシイタケです。背脂醤油ラーメンにお総菜乗っけちゃうなんて、商店街の食堂くらいしかできない技かも。最初は「そうきたか! 」とつぶやいてしまいましたが、甘辛いシイタケをモグモグかみかみしているうちに「うん、これはアリだ」と思うようになりました。

 

ガツ盛り定食も本気

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「お食事処 いのうえ」は商店街の食堂ですので、ラーメン以外にもメニューはいろいろあります。もう一度メニュー表を見てみましょう。

 

「うどんは、昆布とカツオでおダシをとっています。夜に訪れる学生さんは定食を注文されることが多いね」と、井上さん。

 

ジャンボ定食はチキンカツ、とんかつ、焼肉(豚肉)があります。とんかつは300グラム、豚の焼肉は250グラムくらいだとか。なかなかのジャンボっぷり!

 

よくよく見ると……

・チキンカツ定食 680円

・ジャンボチキンカツ定食 680円

と、チキンカツ定食は普通のとジャンボが同価格じゃないですか。どうして?

 

「ああ、値段のつけ方、間違えちゃったんだよね(笑)。ほんまはジャンボの方を高く設定せなあかんかったんやけど、もうこのままでええわ、ってなって」(井上さん)

 

えええええーー……!!太っ腹すぎる!!!

 

では、ジャンボのほうのチキンカツ定食を拝見するとします。

 

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チキンカツは、注文後に仕込んでいるのだそう。鶏モモ肉に塩コショウをぱらりと振って……。

 

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小麦粉、溶き卵、パン粉をまぶして揚げます。

 

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▲ジャンボチキンカツ定食(680円)

 

ごはん、味噌汁、お漬物付き。チキンカツに隠れて見えませんが、たっぷりキャベツサラダも。これで680円はかなり良心的ですよ!

 

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どおおおーーん!!!

 

食堂のチキンカツって鶏ムネ肉が使われていることが多いのですが、こちらはあえての鶏モモ肉。そしてなんと生肉の状態で約300グラムという大ボリューム! なお、ごはんは270グラムくらいです。で、でかい。

 

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揚げたての鶏モモ肉はしっとりジューシー。洋食屋さんとも家庭とも違う、しっとりとした柔らかさなんですよ。うまいなあ。

そしてボリュームもすごい。こちらの商店街のすぐ近くに警察があるため、ジャンボ定食は若い男性警官が仕事帰りに食しているのだそう。

 

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「そもそも『妖怪ストリート』は、廃れかけた商店街にお客さんを呼ぶためのアイデアから始まりました。もちろん、お金もうけをしたいという気持ちもありましたよ。

しかし現在、『妖怪ストリート』として立ち上がってから12年経ってみると、お金だけじゃない面白さってたくさんあるんだなと気づきました。

 

近隣の高齢者、大学生、警察官、外国人観光客も来るし、荒俣宏さんなど妖怪に詳しい学者さんもしばしば足を運んでくださる。絵師や京都嵯峨芸術大学の学生や先生も、妖怪をテーマにさまざまなイベントを仕掛けてくれる。

 

最初は『妖怪なんて怖い』と言っていた商店街の店主のみんなは、お金もうけに直接結びついていなくても、楽しいと話すようになりましたね」(井上さん)

 

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「妖怪ストリート」こと、大将軍商店街振興組合の事務所。

 

事務所には、妖怪の顔はめパネルや妖怪の人形があります。2階と3階には不思議な妖怪部屋もあります(訪れてからのお楽しみです! )。

 

では、これにてドロン!

 

お店情報

お食事処 いのうえ

住所:京都京都市上京区一条御前西入2丁目大上之町73
電話番号:075-461-7019
営業時間:11:00~14:30、17:30〜21:00
定休日:火曜日
webサイト:(大将軍商店街)http://kyoto-taisyogun.com

 

※この記事は2017年11月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:ナガオヨウコ

ナガオヨウコ

ライター歴22年、京都在住のフリーライター。食、手芸、子育て、京都関連の雑誌や書籍、webに執筆中。10年間続けている自然農業の畑では、20~30種の野菜やハーブ、花を栽培。

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