
カレーの旬は365日。こんにちは、ナガオヨウコです。
わたくしここ数年、関西のカレー本で京都エリアをガッツリ担当しております。カレー本以外にも、複数の雑誌でカレー店を取材しています。
おおかたカレー店のオーナー=究極のカレーマニアなんですが、雑談になると、だいたい話題になるのが「どこのカレー店がおいしいか」ということ。カレーマニアのオーナーと、カレー事情に詳しいライター・ナガオとの情報交換というわけです。
そこで「あそこだけは別格や」「尊敬している」と、大絶賛しているのが、今回ご紹介するカレー店「太陽カレー」です。
“飲めない”500円カレー

▲太陽カレー(500円)
しかも、なんとプレーンカレーがワンコイン500円! しかも税込!!
<ご飯>
- レギュラー お茶碗1膳半分
- 小盛 お茶碗約1膳分+ミニサラダ
- 大盛 お茶碗約2膳分(+100円)
- 特盛 お茶碗約2膳半分(+200円)
※それ以上もプラス料金で対応可
<辛さ>
標準は旨辛口
辛さ控えめ・旨辛口・ちょい辛口・激辛の4段階から選べます
<トッピング>
生玉子・特製トマト・ガーリックチップ 各50円
温泉玉子・チーズ 各100円

真ん中にハンバーグが鎮座しているように見えますが、ご飯です。
最初からご飯全体にルーがかけてあるカレーって珍しいですよね。普通のご飯だと、中盤くらいから全体がべちゃべちゃになりそうなものですが……。じつは、お米に秘密がありました。

京都の老舗お米屋さん「八代目儀兵衛」から仕入れる、島根産きぬむすめ(極太米)。
八代目儀兵衛は、お米マイスター兄弟が厳選するお米の銀シャリをふるまう有名和食店としても有名。京都・祇園、八坂神社近くと、東京・銀座に店舗があります。
炊く前の状態を見せていただいたら、普通の米粒サイズに見えたのですが……。

むっちり極太米でした。
ごはん大粒すぎ! 食べごたえありすぎ!!
「カレーは飲み物」という表現がありますが、こちら「太陽カレー」のカレーは、もぐもぐかむ系です。飲めないカレーです。
ソムリエが作る日本カレー

▲オーナーの背戸昭広さん
「もともと僕は、アパレル業界出身。大手のアパレル会社を辞め、家業の婦人服店経営を継いで3代目社長になりました。ファッション業界が元気な時代で、婦人服のブティックを2軒経営していました。
でも僕は、会社の目標と自分の目標を同じにできなかった。もともと食べることと飲むことが大好きだったので、ブティックをたたんで創作料理系の居酒屋さんを始めることにしたんですよ。調理もできない上に何の経験もないのに開店しちゃったもんだから、周囲のあらゆる人たちが大反対しましたね。
居酒屋さんのオープン初日、ビールの追加があるたび伝票に『1+1+2……』って書いてたら、アルバイトくんに『店長、正の字で書いたほうが早いですよ』って指摘されるくらい素人でした。
料理は経験者を雇っていたので、僕は接客とお酒担当とマネージメントを担当していました。
そのうちお店が軌道に乗り、ここ西院と祇園の2店舗になりました。現在、西院のお店はありませんが、祗園『ばくばくの花路』は当時の店長にのれん分けして今も元気に営業していますよ」

▲背戸さんの胸にはソムリエバッジ
「ソムリエの資格を取ったのは11年前。20歳の頃からワインが大好きで、とにかくよく飲んでました。約30年前は上質なワインが今の1/3くらいの値段だったので、味の感覚は若いころに養いました。
個人的にフランス・ブルゴーニュ地方にある『シモン・ビーズ』という生産者さんを訪ね、1週間ほど泊まらせていただいたことがあります。そこで分かったのは、作り手の性格や思いがそのままワインの味になるということ。
渡仏するまではワインの専門知識を増やすことに懸命だったのですが、自分の目でぶどう畑を歩き、生産者さんと話し、ワイン作りに一所懸命取り組む姿を見て、ワインに対する思いが変わりました。
ワインは『おいしいな』と楽しむのが一番、という純粋な気持ちになれたんです」

お店の階段脇にあったワインの空ボトルの山は、「お客さんにお出ししたものではなく、僕が個人的に飲んだワイン」とのことです。

▲オーナーの背戸さん夫妻
ご主人が調理やワインのセレクト、奥様が接客を担当されています。

壁に飾られていたアートなパネル。じつはこちら、オーナー背戸さん夫妻の宝物。
「居酒屋時代、ワイン生産者さんたちを招いたランチ&ワイン会のときにみんなで製作したパネルです。このときはフランスでお世話になった『シモン・ビーズ』のほか、6つのワイナリーの方々にお越しいただきました。
彼らのワインを飲みながら、ポトフやカレーなどいろんな料理を楽しみました。ハチマキを巻いてたこ焼きを焼くパフォーマンスはウケましたね。
フランスには日本のようなカレーは存在しないらしいのですが、僕が作ったカレーは『ワインと合う!』と皆がベタ褒めしてくれました。『太陽カレー』はフランス・ワイン生産者さんのお墨付きです」

ほんのり赤い染みは、なんとワイン! ティッシュに赤ワインを含ませてぽんぽんと押し付けたのだそう。
このランチ&ワイン会の後、フランスで滞在したワイナリー「シモン・ビーズ」のご主人が逝去されたそうです。そんなこともあり、こちらのパネルは背戸さん夫妻にとって思い出の大切な品となりました。
ルーもご飯もワイン入り

▲ワインはグラス400円〜
「ワインとカレーのマリアージュ」を提案しているだけに、ワインのセレクトも本気。
400円〜のワインはチリのシャルドネとカベルネソーヴィニヨン。注目したいのは、ソムリエである背戸さんがセレクトするスペシャルワイン。高級ワインバーならグラス1杯 1,000〜1,500円で提供されているようなブルゴーニュワインが、なんと800円〜!ちなみに、酒屋さんからの仕入れ値はボトル1本 3,000〜5,000円で、1本で6杯ほど提供しているそうです。
ということで、ワイン片手にカレーを食べるお客さんが、かなり多いのだとか。平日昼間でもなんと2〜3割もいるというから驚きですよね。
なお、ルーには赤ワインのカベルネ・ソーヴィニヨンをたっぷり使用。そしてなんと、ご飯を炊くときに白ワインのシャルドネをどばどば入れているそうです。甘みとツヤを出すためなのだとか。
でも、ルーからもご飯からもワインの味をストレートに感じることはありません。ワインの底力、すごいなあ。

「フランスに行くと、ランチタイムにみんなワインやビールを飲んでるんですよ。そういうのっていいなあ、でも日本でやるなら日本人が毎日食べたくなる料理とのマリアージュにしたい。そうだ、大好きなカレーはどうかな、と思ったのが、カレー研究の始まりです」
そこで今から8年前、西院の居酒屋さんでランチ時に毎日カレーを出し始めました。
「カレーは、よく言えば日替わり。ランチでカレーを出す目的は、自分がカレーづくりを研究することだった。ですから毎日味が違いました(笑)」

「カレー作りで目指したのは『毎日食べても飽きない』『ワインに合う』という2点でした。いろいろ試すうち、カレーとワインのもつそれぞれの苦み・甘み・酸味など味のバランスが同じであれば、相性がいいという結論に至ったんです。
試行錯誤の日々が2年くらい続き、ようやく理想のカレーが出来上がりました。そこで西院の居酒屋さんを閉めて、『カレーとワイン』という自分が好きなものだけのお店にしようと決めました。これが『太陽カレー』オープンのいきさつです。
居酒屋さんの歴代店長は4人全員を独立させることができました。居酒屋さんの閉店は、私にとってもスタッフにとっても、新たな出発に向けて必要だったと思っています」

ルーのベーススープは鶏と昆布。鶏肉やガラなどを弱火で煮込んで作る澄んだスープに昆布と野菜を入れるのだそう。
そこに、炒めた玉ネギやスパイス、バター、小麦粉、赤ワインなどを合わせています。塩分のある調味料を使っていないので、あと口がさっぱりしているのも特徴。食べ終わった後に喉が乾くことがないんですよ。
小さなこだわりは、季節に応じてルーの風味を変えていること。夏はワインやトマトを多めにしてさっぱりと、冬は酸味控えめで甘めにしているそうです。
ワンコインの理由

何度も言いますが、プレーンカレーは500円です。
わたくし、てっきり「このビルが自社物件で家賃がかからないから、価格を抑えられている」という理由かと思ってました。でも違いました。
「いやいや、自社ビルじゃなくても、プレーンカレーは500円にしていたと思います。
ワンコインにしたのは、毎日食べてほしいから。あと、ワンコインっていう言葉の響きがなんかイイですよね。税込にしているのは、単に計算が面倒くさいからです(笑)」
西院エリアには、牛丼290円など激安店がいくつかあります。ですから「毎日食べに来てほしい」を目指すとなると、確かにカレー800円だと難しいかも。
とはいえ、500円のプレーンカレーを注文する人はかなり少ないとのこと。
では、誰がプレーンカレーを食べるかというと、同業者、つまりカレー店関係者、カレー店を開きたいと思っている人、カレー道を極めようとしている研究者。
カレー関係者がプレーンを食べる理由は、カレーのルーをストレートに味わい、何が入ってるか推測するため。
しかし<鶏&昆布ダシ>に<炒め玉ネギやスパイス>を合わせる「太陽カレー」の手法は、カレー探求者からすると「ありえないアプローチ」なのだとか。
そうですよね、一般的なカレーの作り方って、玉ネギを炒めてからスパイスを加え、水を足してその他の要素を合わせますもんね。
【ナガオより、飲食業界のみなさまへメッセージ】
① カレーを食べるとき
- 目線が斜め上
- うなずく
- メモ帳持参
なら、カレー関係者と認定されます。
② 月、水曜の昼からワイン
なら、飲食店関係者と認定されるようです。
(ならば、理美容関係者とか車のディーラーの方とかも入るんかな)
③ ルーの作り方は、「公表できる限り、詳しく教えて」とお願いし、聞いておきましたよ!
とりあえず食べてみて、ご自身の舌でその味を実感してほしいです。
野菜もカツもキャラ立ち

▲野菜+三元豚ロースカツ入カレー(900円)
お客さんの6〜7割が注文するのはカツカレー。
でも、以前食べた野菜カレーも捨てがたい……ということで、カツも野菜も両方のってるカレーを食べることにしました!

野菜がてんこ盛り!
野菜は基本的に、京都の郊外・大原の農家さんから仕入れる有機栽培のものが中心。日替わりでおよそ9種類の野菜が、生のまま、マリネ、素揚げなどさまざまな調理法でのっかっております。なかなか手間がかかっております。
この日は、赤カブの自家製ピクルス/紅苔菜(コウタイサイ)の炒め/プチヴェールの素揚げ/ナスの素揚げ/自家製トマトソース/黄ニンジンのグラッセ/福神漬のピュレ/水菜/フライドエシャロット、の9種類でした。

紅苔菜。
菜の花部分を食べる、ほんのり苦味がある野菜です。
オリーブオイルと少量のガラムマサラで炒めてあり、たおやかな力強さがあります。
むっちゃくちゃウマイ!!!

プチヴェールの素揚げ。
プチヴェールは、芽キャベツと青汁の原料であるケールを掛け合わせた野菜です。
こんなにプチサイズなのに、爽やかな苦味が口いっぱいに広がります。

福神漬のピュレ。
大根の福神漬をお酢やオイルでマリネしてからすりつぶしてあります。
バリボリ食感の福神漬が、ふんわり優しい味わいに変身。

もちろんルーも最高過ぎ。
全部に手間がかかってるのに、派手さとかうんちくとか、オレのカレー最高でしょ? 的なゴリ押しを感じさせない。まさに京都らしいカレーだと思います。
ウマあああイ!!!(何度も叫びます!)

トンカツは米国産・三元豚のロース。ほろりと柔らかいのは冷凍ではなくチルド真空のため。
……あれっ、ルーだけで食べたらピリリと辛かったのに、カツ周辺のルーは甘い。むむっ!?
どうやら、甘みを感じた理由は「豚肉の脂から出る甘さ」なのでした。 でも、ルーにまみれてるカツを飲み込んだあとは、喉の奥に辛さを感じます。これが奥深さというやつか!

野菜を端っこによけて食べ進めます。
ルーも、トンカツも、野菜もそれぞれがキャラ立ちしまくってる。ということに気づいたわたくし。ルーがニュートラルなので、全部を混ぜ混ぜして食べるのもいいかもしれませんが、私はそれぞれの味を楽しみたい。
なので「丼ものはタテに食べる法則」にしたがい、カレーもタテに食べ進めました。(一部野菜は避難させた)

素揚げのナスに、トマトソース。イタリアのトマト缶にオリーブオイル、昆布と鶏のおダシを合わせたまろやか仕立て。
もうね、ひと口ひと口にスキがなさすぎてパラダイス。食べ終わった瞬間から「今度はどれを食べようかな」と思っちゃう中毒性。
普通っぽいのにちゃんとしてる。スタンダードって、こういうことだと思う。
京都・西院駅すぐ

場所は、阪急西院駅から東へ徒歩1分。西院は街中ど真ん中からは少し離れているのですが、チェーン店や個性的な飲食店が点在しているエリアです。

西大路四条交差点の南東側、四条通り沿い。

嵐電・西院駅からもすぐ。

あっ、紫色の嵐電が駅に到着!(電車のタイプは他にもあります)

「太陽カレー」はビルの2階にあります。営業は昼のみです。
土曜は開店の15分くらい前、つまり10時45分くらいから行列ができます。
早い日は13時30分には売り切れ御免となりますので、早めの時間に到着しておきたいところ。

柔らかな日が差し込む店内。カウンター席もあるので、お一人様もゆっくりくつろげますよ。
せっかくなら、ワインとともにカレーをゆっくり楽しめるよう、時間に余裕をもって訪れたいですね。
ああ、次はいつ行こうかな! わたくし早くも禁断症状!!
お店情報
太陽カレー
住所:京都府京都市中京区壬生西土居ノ内町19 ボイスビル2F
電話番号:075-311-0011
営業時間:11:00〜14:00(LO)※売切れ次第終了
定休日:日曜日・祝日、月3〜4日不定休
Twitter:https://twitter.com/seto8989
※小学生未満の同伴はご遠慮いただいています
※記事初出時、表記に誤りがありましたので修正しました(2018/6/22)



