巡った地獄寺は60超!『タイの地獄寺』著者に聞くストイックな調査の日々【別視点ガイド】

 

 

みなさんはタイの地獄寺をご存じだろうか?

ほとんどのかたが見たことも聞いたこともないだろうから、何枚か実物の写真をお見せしよう。

 

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これがタイの地獄寺である。

血みどろで怖いんだけれど、どこかポップで明るいムード。

約3万あると言われるタイの寺院のうち、写真のように立体像で地獄を表現しているのが地獄寺だ。

小さいところで数体、大きいところで数百体以上の像がずらりとならぶ。

 

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2018年10月発売された『タイの地獄寺』は、タイの地獄寺を論考した初の出版物だ。

単なる珍スポット紹介というわけでなく、

地獄寺が生まれた背景とは? 時代とともに変わる地獄表現とは? 地獄にはどんな住人がいるのか?

などを宗教、社会、政治要因を解きほぐしつつ論考する。

 

タイの地獄寺

タイの地獄寺

  • 作者: 椋橋彩香
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2018/10/16
  • メディア: 単行本
 

 

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今回は著者の椋橋彩香(くらはしあやか)さんに話しをうかがった。

「ファッションの勉強がしたくて、フランス文学を専攻するつもりだったけど、フランス語の女子たちはキラキラと輝いてて……。美術史に変えました」

 

SNS上では「地獄さん」の名で活動。早稲田大学大学院文学研究科に在籍し、タイ仏教美術における地獄表現を研究している。

巡り歩いたタイの地獄寺はゆうに60を超える。

 

1日1食! 観光も買い物もせず、ひたすら地獄寺を巡る

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ーー著書に「ある1日の地獄めぐりスケジュール」がありましたが、すごいハードスケジュールでした。朝7時に起きて、バイクタクシーに乗り、バスを乗り継ぎ、乗り継ぎ、夜21時までに3つの地獄寺をまわっていました。

 

椋橋:あれは特にハードな1日ですけど、タイ滞在中はだいたいあんな感じです。いままでタイへは7~8回行ってますが、短くて1週間、長いと1カ月ぐらい滞在して地獄寺を調査します。

 

ーー観光はしないんですか?

 

椋橋:観光はしないし、荷物が増えるので調査中は買い物もしません。地獄寺の調査だけ。純粋な楽しみ方ってもう分からなくって、タイに行くってなると修行ですね。

 

ーーさすがにご飯はしっかり食べますよね?

 

椋橋:基本的に調査終わるまではなにも食べないんですよ。なので、たいてい1日1食。1日の調査が終わって、宿に着いてから食べます。

 

ーーえ~、ストイックすぎる!

 

椋橋:地獄寺って地方に多いんですが、地方は悪路なので乗り物酔いが怖いんです。

でも、体の調子が良ければもち米と干からびた肉のセットを食べますし、カバンにはいつもデカい焼き鳥入れてます。

 

ーーデカい焼き鳥、ですか……。

 

椋橋:調査中は精神的に余裕ないので座って食事はしなくて、デカい焼き鳥とか現場に向かいつつ食べますね。

 

ーータイ料理はお好きなんですか?

 

椋橋:すっごい好きです! タイ料理店で6年間バイトしてたし、もう、まかないがおいしくて無限に食べれました。仕事中なので早食いにもなるし、フードファイターみたいにタイ料理食べてたら3カ月で4kg太りましたね。スタッフもみんなタイ人でゆるくて優しい。いつもタイ語が飛び交ってるから、タイ語の勉強にもなりました。

 

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▲椋橋さんの好物、ネームクルック。生ソーセージと揚げたお米をまぶしたサラダ。おいしいおいしいと食べると「は〜、良かった! ありがとうございます!」と椋橋さん。「勝手にタイ代表みたいな気持ちになっちゃって……。タイ料理褒められると自分を褒められたみたくうれしくなります!」

 

ーー地獄寺研究よりタイ料理店のほうが先ですか?

 

椋橋:そうです。まだ研究始めてないどころか、タイに行ったことすらありませんでした。タイ料理店で働きはじめて1年後、タイに行って地獄寺に出合い、今に至ります。

 

ーーもしもタイ料理がおいしくなければ、タイの地獄寺も研究してないわけですね。

 

地獄めぐりをすると毎日、人の優しさに触れられる

ーーそれだけストイックに調査を続けられるなんて、ほんとに地獄寺がお好きなんですね。

 

椋橋:う~ん、地獄寺は大好きだけど、義務にもなってます。みんながイメージするような「地獄が大好きで行かずにはいられない地獄ちゃん」とは違いますね。行くのも大変だし、けっこうつらい。でも、やらずにはいられない。そんな感じです。

 

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ーー地獄寺巡りで恐かったエピソードってありますか?

 

椋橋:犬ですね。

 

ー犬?

 

椋橋:地方の村やお寺には犬がたくさんいます。「見知らぬ奴が来た!」って警戒されて、敵意むきだしの犬数匹にうなられながら、ぴったり後をつけられると生きた心地がしませんね。

 

ーーそれは怖い……。

 

椋橋:ド田舎で交通機関もなく、牛しかいないような道を1人で歩いてると「なにやってるんだろ……」って途方に暮れることもあります。地獄めぐり中は我に返っちゃダメです!

 

ーーまさに修行だ。

 

椋橋:宿が汚かったとか移動距離が長いとかは別にいいんです。気になりません。ほんとにつらいのはお寺の住職さんに話しをうかがっても、ぜんぜん通じないときですね。言葉が通じないというより、意識が通じない。

 

ーーというと?

 

椋橋:地獄寺が研究対象になるって意識がまったくないから「なにがしたいわけ?」とまともに取りあってもらえない時があります。「このトゲの木の像はいつ作ったんですか?」と尋ねても「作ったんじゃない! 生えてるんだ!」と言われたり。でも、それじゃあ調査になりません。下手に出つつも食い下がります。人にしつこく接するのが苦手なのでつらいですね。

 

ーー逆に「やったー」とうれしくなるのはどんな時ですか?

 

椋橋:人との絡みが生まれたときですね。地方のおばちゃんが「ご飯食べてきなよ」って声をかけてくれたり。地獄寺巡りしてると毎日のように人の親切に触れられます。それがあるからやめられません。

 

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▲女がなる木。なってる女性を摘むと7日間、自分の妻にできる。地獄というより神話的モチーフだそう

 

5年以内に地獄寺を完全網羅したガイド本を出す

 

 

ーー数年前からTwitterで「本を出版するのが目標」とおっしゃっていましたよね。それがかなった今、次なる目標はあるのでしょうか。

 

椋橋:次は地獄寺100寺を完全網羅したガイド本を出したいですね、5年以内に。

 

ーー地獄寺のガイド本! 読みたい!

 

椋橋:あとはタイでも出版したいです。地獄寺を研究してるタイ人はいないので、現地の人にも魅力を伝えたい。日本でも浮世絵や仏像の魅力を最初に見出したのは外国人だし、私が研究する意味ってあるんじゃないかと。美術の枠組みに入らなくてもいいから、地獄寺の価値が認められたらうれしいです。

 

ーー年末に地獄めぐりバスツアーも実施されますね。

 

椋橋:2018年12月22日「タイ地獄寺3つを巡る極楽ツアー」をおこないます。タイ・バンコクから日帰りで地獄寺3つをバスで巡ります。同じモチーフでもぜんぜん違う作り方してるのを見比べて欲しいですね。バンコクのツアー会社からお声かけいただきまして、すでに20名ほどお申込みいただいてます!

「タイ地獄寺3つを巡る極楽ツアー」の詳細

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」を書いてます。

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