うまきそばと酒、そして酒肴に酔う路地のカウンター店「そば 酒 まつもと」【京都】

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おこづかいでそばを手繰っていた小学生!?

こんにちは、メシ通レポーターの泡です。

みなさま、おそば屋さんで飲むのはお好きですか。私は大好きです。

今を遡ること20ン年。うら若き大学生だった頃、初めて年上の友人にソレを教えてもらった時は衝撃的でしたね〜。
「えっ、昼間からお酒飲んでいいの?」
「おそば屋さんでそば以外に料理があるんだ!」
「なにこれ美味しい……。そして楽しいぃぃぃぃ!」
そんなウブな女子大生も、今ではそば味噌なめなめひや酒をすする四十路婆に……。

それはさておき。

粋な酒飲みでいらした作家の故・池波正太郎先生も「のまぬくらいなら、蕎麦やへははいらぬ」(エッセイ『散歩のとき何か食べたくなって』より)とおっしゃっているように、飲兵衛にとっておそば屋さんとお酒は切り離せないもの。

そばを食べる前に肴をつまみつつ1、2杯やることを“蕎麦前”というのですが、主に関東でおなじみだったこの酒文化が近年は関西でも浸透しつつあります。

今回ご紹介する「そば 酒 まつもと」のご店主も、学生時代から“蕎麦前”にハマっていたのだそう。詳しくお聞きする前にまずはお店の場所をご案内しますね。

 

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阪急京都線河原町駅⑤出口を地上に出て、目の前の横断歩道を渡ります。

 

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宝くじ売り場の左側にある路地を北へ進んでください。

 

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奥に見えるコンビニが目印。

 

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角を曲がると、これまた京都が誇るいぶし銀酒場「たつみ」が見えてきます。こちらもいつかご紹介したいなぁ。

 

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「たつみ」を右手に見つつ西へ進むと、大きな柳の木が見えてきます。この路地を奥へとどうぞ〜。ちなみにこの路地は「柳小路」という名がついています。風流!

 

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路地の左側に掲げた真っ白な暖簾がまぶしい。

 

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店内はカウンター7席のみ。ところどころカーブを描く天然木のカウンターにも味わいがあります。


おそば屋さんでカウンターのみというのはけっこう珍しいと思うんです。
そばって客単価もそんなに高くないし、席数を多くして回転させて……という感じになるはずですが、ここは違う。店名の通り、そばと酒を楽しむ前提で造られたお店なんですね。

実際、常にこのカウンターには幸せそうな顔で盃を上げ下げしたり、そばを手繰ったりしている人の姿が途切れません。2人で来ていても各々好きなようにお酒や食べものに向き合っている感じ。

気軽なんだけどちょっと背筋が伸びるような、飲めるおそば屋さん特有の空気感がなんとも心地いいんですよ。

こんなに素敵な空間をつくる店主の方はどういうお人なのでしょう。

 

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店主の松本宏之さん。京都の名店「蕎麦屋 じん六」などで修業を重ね、2013年に独立を果たしました。営業中は黙々と調理に集中しているので「怖い人」と思われがちですが、実際はそんなことありませんよ〜(たぶん)。


──元々そばが好きだったんですか?

 

「生まれも育ちも京都なんですが、小学生の時に関東から転校してきた子の家で初めてざるそばをご馳走になったとき、『これはうまいっ!』って思ったんです。それから、おこづかいを貯めてはおそば屋さんに走り、天ざるを食べるのが楽しみになって(笑)」

 

──なんて渋い小学生なんだ!

 

「大学生の頃にはおそば屋さんで飲むことを覚えて、西陣の『かね井』などに通ってました。当然、周りには同じ趣味の友人はいないし、ちょっと浮いてましたかね」

 

──なんて渋い大学生なんだ!

 

「就職活動もしたんですけど、どうも会社勤めは自分に合わない気がして。それなら僕がやりたい好きなことってなんやと考えたら、そばやな、と。学生時代は飲食店のアルバイトばっかりしていたので、料理を作るのは好きやったんです」

 

かくしてそばの道を歩み始めた松本青年。そば好きが高じて、全国のおそば屋さんを食べ歩いては修業先を探していたそうです。

 

「でもあちこちで『京都の子なら、『じん六』があるでしょ(そこで修業しなさいよ)』って言われて、まず食べに行ってみたら、これがまぁ、ダントツによかったんです。まずそばの香りが。あっ、これがそばの香りなんや! って衝撃を受けましたね。そして砂糖を使わないそばつゆ。単体で味見するとアレ? ってな味なのに、そばに合わせるとそばの風味がグッと生きる。すごいなーと思いました」

「じん六」は手打ちそばが味わえるのはもちろん、自家製粉も手がけるお店なので、松本さんは6年間の修業を経て多くのことを体得したといいます。

「言葉で教わるのではなく『毎日、実を食べなさい』と言われて、自力で見分ける力を身に付けるようにしてくれました。今でも感謝しています」

 

修業時代は日本酒にも目覚め、「自分でお店をするならそばと酒を出そう」と決意。
1人でやることになるだろうからカウンターだけで、などと決めていくうちに現在のスタイルができあがったのだそうです。

 

飲兵衛心をくすぐる肴と、清涼感あふれる十割そば


前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ肝心のアレを見ていただきましょうか。

酒肴は季節ごと、日ごとにラインナップが異なり、昼と夜でも一部内容が変わります。
(酒肴の注文はお酒を飲む方限定)

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煮穴子(日替わりの一品)650円、「秋鹿 生酛火入れ」1合 850円

 

かむまでもなく、ふわっととろける食感の穴子に悶絶。おそば屋さんならではの上質な本ワサビが味を引き締めます。酒や酒ー!
松本さんが心酔する大阪の銘酒「秋鹿」は燗酒がおすすめ。「穏やかでみずみずしく、まるみのあるお酒なんです」と愛おしそうに語る松本さん。

 

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鴨出汁おでん 注文は、2品 500円〜

 

冬場限定のメニュー、おでん。鴨を使ったダシはそれだけでもアテになるほど滋味深い味わい。写真は鴨つくね、大根、糸コン。鴨のうま味がギュッと凝縮された上にダシがしゅんでいるのだからもうたまりません。照りってりの大根も言わずもがな。熱々をいただきながら、日本酒のチェイサーに生ビールをイクってのも個人的におすすめですわ。

このほかにも、ジャガイモではなく長芋を使ったアテ仕様のポテトサラダや、ものすごくシルキーな口当たりに驚く蒸し鶏の山椒風味、ひと切れで一杯飲めそうな鴨ささみの一夜干しなどなどなど、魅惑の品々が揃っています。迷うこと請け合いなので、その場合は「肴おまかせ3種」950円からはじめるのがいいと思われます。ぜひに。

 

いよいよ真打ち、そばの登場です。

 

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▲もりそば 850円

 

埼玉産の夏そばを使った十割そば。なめらかで、この細さなのに軽くもちっとした歯応えもあるのが小気味よい。修業先に倣って砂糖不使用のそばつゆは、キリッとした輪郭のある味わいながらそばの風味を優先するバランスのよさ。

 

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「最終的にそばの香りが残ることに重きを置いているんです」と松本さん。

「それなら塩でもいいのでは? というのは違うんですよね。あくまで、麺をつゆにつけて食べるというそばのスタイル、文化を守りたいんです」

 

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なんば 1,450円

 

鴨のうま味が移った温かいダシのご馳走感たるや!
厚みのしっかりある鴨肉をどのタイミングで食べるかが重要課題。

 

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ネギは食感よく斜め切りにしているのが特徴的。麺との絡みがよく、食べやすいのがイイ! 焼いたぶつ切りも悪くないけど、個人的にはこちらのが好みです。

あー、ほんとに何を食べてもうまいなぁ。という感想しか出ません。


好きなものだけを集めた空間

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料理もさることながら、器も素敵だと思いませんか。ここにも松本さんの思い入れがありました。

「お店を始める前に、先輩方から『開店のときに急に集められるもんじゃないから、少しずつでも買っとき』と言われて、酒器や皿を買い集めていました。だからどれもホンマに好きなものばっかりなんです」

 

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手前は清朝時代のアンティーク、左奥は作家・村田森さん作。お銚子はなんと昔の「大関」!

 

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左は長野在住の作家・小嶋亜創さん、右は京都の井内素さんの作。


ちなみに、もりそばと一緒にちらりと写っていた箸置きは京都のお酒好きなご夫婦が営む陶房「今宵堂」さんのもの。表は“素面”なれどその裏は……? ぜひお店で確かめてみてください。

 

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お酒は、「秋鹿」「日置桜」「群馬泉」「生酛のどぶ」「辯天娘」「喜久酔」「長珍」「宝剣」など約約40種類が揃います。


「開店前に予想したよりも、いい意味で飲んだくれなお客さんが多くてうれしいです。ご常連の最年長はなんと91歳の女性。めっちゃ食べて、お酒も2、3杯召し上がります。カッコいいですよね」

そんな達人から初めておそば屋さんで飲む若い子まで、「このお店を楽しみたい」と思うお客さんを松本さんは広く歓迎。

ぜひ、その一員となってゴキゲンなそば飲みを堪能してみてください。

楽しむあまり赤ら顔で松本さんにゲストークで絡む筆者を見かけても、どうかそっとしてやってくださいましね……。

 

お店紹介

そば 酒 まつもと

住所:京都京都市中京区中之町577
電話番号:075-256-5053
営業時間:12:00〜13:30(LO) 16:00〜23:00(売り切れ次第終了)
定休日:火曜日、ほか不定休あり

※予約はタイミングが合った場合のみ、昼1組、夜2組受付。
※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:泡☆盛子

泡☆盛子

ライター。沖縄出身、京都在住。京都の水というか食がカラダに合い、40kg肥えたのが自慢。立ち呑みと、おかずケース食堂での昼酒が好き。

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