©️カンゼン ©️飯塚めり
全国のチェーン店をめぐるのが趣味な筆者(BUBBLE-B)にとって、気になる本が出版された。
その名も「喫茶チェーン観察帖」(株式会社カンゼン刊)。喫茶店好きによる、喫茶チェーンの魅力を伝えまくる一冊である。
読んでみるととにかく描写が細く、面白い。ページをめくるごとに、著者による丁寧でほんわかとしたイラストとテキストが展開され、喫茶店への無限の愛情を感じさせてくれる。
中でも「店に人格まで感じてしまう」という感性の鋭さ、斬新な切り口。
普段何気なく使っている喫茶チェーン店が、こんなにも表情豊かだったなんて──。全国のチェーン店をめぐっているチェーン店愛好家の自分としても、発見がいっぱい。
著者の飯塚めりさんにインタビューをしてみた。
※取材はリモートにて行いました
個人店に比べチェーン店は匿名性が高い
©️山本雷太
──この本を書くきっかけは?
飯塚めりさん(以下、めりさん):喫茶店の本というのはいろいろあるんですけど、喫茶チェーン店に焦点をあてた本というのがほとんどないんですよ。私がそういう本を読んでみたいと思ったし、チェーン店のイラストもたまってきたので、というのが執筆のきっかけです。
──確かに、喫茶チェーン店だけについて語った本ってあまりない気がします。
めりさん:喫茶チェーン店って日常の中に何気なく溶け込んでるじゃないですか。喫茶店のいいところは日常の中の「余白」を楽しめるところと考えているので、その何気なさって尊いものだと思ってて、チェーン店だっていいんだよということを言いたかったんです。個人経営のお店ではなく、チェーン店だとガッカリする人もいると思うのですが、そのような状況もこの本を書く理由のひとつだったのかなと思ってます。
──おお……分かります! ちなみに、個人経営の喫茶店に行くときと、チェーン店に行くときとでは、ご自身の気持ちに違いはあるんですか?
めりさん:それほどないですね。その時の目的や気分によって通うお店を選ぶので。そういう意味で、個人店もチェーン店も同じ目線です。
──個人店って、店舗によっては少し癖のあるマスターがいたりして、チェーン店に比べると少しハードル高めな印象があります。
めりさん:自分が好んで行くタイプの個人店は、マスターに顔を覚えられていたとしても何事もなかったかのように振る舞ってくれるお店なんです。好きなお店は、もう400回以上行ってると思うんですけど、いつも知らないように振る舞ってくれるので心地よいんです。
──そんなに!(驚) チェーン店はその点、気楽じゃないですか?
めりさん:そうですね、チェーン店でも顔を覚えられることはあると思うんですけど、個人店よりかは匿名性が高いですね。
スタバはバランスの取れたおしゃれさん
▲スタバでドーナツを頬張るのはやっぱり幸せ ©️カンゼン ©️飯塚めり
──本の中で「喫茶チェーン店には人格のようなものがある」と書かれています。そこで代表的な喫茶チェーン店の人格についてお聞きかせください。まずは「スターバックスコーヒー」が人間だったらどんなタイプの方なのでしょう?
めりさん:(あくまで個人的な見方なのですが、と前置きした上で)スタバさん※は、明るくてハキハキとしておしゃれな感じでしょうか。それでいてオタク的な理解もあって、誰に対してもまんべんなくウェルカムなのが魅力ですね。
※めりさんいわく、お店に「さん」をつけて呼ぶときはお店に「人格」を見ているとき、とのこと
──すごい。全方位、パーフェクト人間じゃないですか。
めりさん:そうなんです。でも私はあまりハキハキした人間じゃないので、普段であればアッパーな人にはちょっと気後れしたり警戒してしまうんですよね。
▲スタバはケーキ類も充実! ©️カンゼン ©️飯塚めり
──ああそれ、自分もそういうタイプなので分かります。
めりさん:本当ですか!? BUBBLE-Bさんはそう見えません……! でもスタバの店員さんは、ほど良い距離感で分け隔てなくコミュニケーションをしてくれるので、お店の中で気後れするようなことはないですね。そんなところが先にご説明した“明るいけれどオタクにも理解のある人”……という人格を見立てることにつながっています。
▲アイスのスターバックスラテは夏の定番! ©️カンゼン ©️飯塚めり
ドトールは気のおけない友達
▲ドトールのメニューでも密かにファンが多い、チーズトースト ©️カンゼン ©️飯塚めり
──それに対して同じく一大チェーンの「ドトールコーヒーショップ」はどうでしょう? スタバとは結構違いそうですが。
めりさん:違いますね。ドトールさんって、いつも喋ってても飽きない友達のような人ですね。
──おお、それも分かります。
めりさん:そこにいることが当たり前のような人、ですね。
──ドトール特有の、あの身近さってどこから感じるんでしょう?
めりさん:どの業態の店舗(系列であるエクセルシオール カフェや、カフェ コロラドなど)も共通の茶色を基調としていて、私は「ドトールブラウン」と呼んでいますが、どちらかと言えば派手ではなく主張しない内装ですよね。だからこそ、なんかスッと溶け込むことができるんですよね。
©️カンゼン ©️飯塚めり
一途なプロント、サービス精神旺盛なコメダ
──たとえば「プロント」あたりはどうでしょう? 結構個性派のように思えるのですが。
めりさん:プロントさんは昔から謎の人ですね。カフェだと思ってたらパンが売ってたり、夜になったらバーになったり。ちょっと不思議な世界観を持ってるタイプでしょうか。
──プロントはUCCとサントリーの合弁会社で、カフェとお酒の飲めるバーという2つの顔を持ってるんですよね。
めりさん:そうです。バールという言葉が日本に定着するずっと前からああいった業態でやってて、そして現在に至るまで全くスタイルを変えていない。世に出たての若かりし頃から独自の世界観があって、大人になってもその世界で生きている人という感じがします。
──かなり一途というか頑固なタイプですね!
めりさん:時代が移り変わろうと、芯の部分は変えないという意志の強さを感じますね。
──では名古屋出身の「コメダ珈琲店」はどのような人でしょう?
めりさん:コメダさんはサービス精神が過剰でテンションが高めの人という感じですね。
──なんか分かるような……。
めりさん:ソファーはフカフカで、フードはボリューム満点だし、ソーダのジョッキもブーツのような謎めいた形をしてるじゃないですか。何であんな形をしてるんでしょうかね?
──僕も知らないですね(汗)。
めりさん:そういったところも含めて、名古屋カルチャーならではの「全部のせ的な豪快さ」を感じますね。
セガフレードのハードすぎるポイントカード修行
©️山本雷太
──では、最もよく利用する喫茶店チェーンはどこでしょう?
めりさん:純粋に利用回数としてはスタバとドトールだと思うのですが、好きで行くのは「セガフレード・ザネッティ・エスプレッソ」と「コーヒーハウスぽえむ」ですね。
──「セガフレード」ってイタリアから来てるチェーン店ですよね。
めりさん:そうなんです。セガフレードの場合、日本進出が(スタバなどの)シアトル系カフェが流行った時期と重っていて、そういう(シアトル系の仲間のような)喫茶チェーンのひとつです……みたいな感じでやってきたのですが、どう見てもイタリア感バリバリなんですよね。だから、スタバやタリーズとは雰囲気が違っていて、どこかドライっていうか、ラフというか。そこがヨーロッパの街角のカフェの情緒で凄く好きなところです。
──赤と黒のバキっとした内装が、どこかイタリアの伊達男っぽさを感じさせますよね。アルファロメオみたいな。
めりさん:そうなんです。でも、セガフレードさんの魅力はそんなカッコよさと同居するエッジの立ちっぷりです。たとえば、セガフレードのトガっているところのひとつに「クラブミオバールカード」というポイントカードがあって、最初は赤、そして500ポイント貯まれば黒、1,000ポイント貯まれば金色にランクアップするんですよ。
──ポイントはどうやったら貯まるんですか?
めりさん:1回の来店で1ポイントなんですよ。黒のカードにランクアップさせるには、セガフレードに500回来店する必要があるんです。ということは、金のカードは1,000回来店が必要ということなんです……!
──えええっ、それハードすぎませんか!
めりさん:むしろ、そういうちょっと不器用なところが萌えるんです! ちなみに私のカードは黒です(ドヤァ)。
──すごい(驚)。 セガフレードに500回行ったんですか?
めりさん:最近は5ポイントデーもあるので正確には500回までいかないと思うんですけど、それでもかなりの回数行ってます。今は金色のカードを目指しています。ある日突然ポイントシステムが廃止されたりしないか、今はそれだけが怖い(笑)。
──苦労して手に入れた黒カードですからね。なんかこの仕組み、「いきなり!ステーキ」の肉マイレージみたいですね。肉を3,000グラム食べたら、金色のカードにステップアップできるっていう。
めりさん:ああ、いいですね!
──「いきなり!ステーキ」は月間の全国ランキングが店内に貼り出されるんですよ。1位の人は月に10キロくらい肉を食べてて。割と下位のランクまで張り出されるので、チャレンジし甲斐があるという。
約100種類から選べる! ぽえむのコーヒーメニュー
▲「ぽえむ」のコーヒーメニューでめりさんのお気に入りは、シナモン入りのカフェオレ ©️カンゼン ©️飯塚めり
──めりさんのセガフレード愛は十分すぎるほどわかったのですが、もう一方の「コーヒーハウスぽえむ」の魅力とはどの辺にあるんでしょう?
めりさん:やはりレトロな空間でしょうね。昔の喫茶店ブームの頃に誕生したお店で、内装もインテリアも懐かしい感じが今でも残ってて。
──昔ながらの個人店みたいですよね。
めりさん:ですね。個人店っぽい雰囲気だと思います。それでいて、ちゃんとチェーン店でもあるという。そんな個人店とチェーン店の「あわい」を感じられるところに強烈に魅かれています。
──コーヒーを1日に何杯もガブガブ飲むような昭和のおじさんたちがこぞって利用している印象、ありますね。
めりさん:メニューにはコーヒーの種類が約100種類あってさりげなくトガっているんですけど、そんなただ穏やかだけじゃないギャップにもトキメキますね。コーヒーが苦手な人や甘さやミルキーさを楽しみたい人でも、迷うことなく自然に選ぶことができて。その辺もぽえむの魅力ですね。
打ち合わせ目的なら宮越屋珈琲
──イラストや文章を生業にされているめりさんの場合、仕事の打ち合わせに喫茶店を利用することも多いと思うんですが、打ち合わせに使いたい喫茶店チェーン店はどこでしょう?
めりさん:完全に自分の好みで選ぶと、「宮越屋珈琲」ですね。
──宮越屋珈琲、札幌のローカル喫茶店チェーンですね。
めりさん:はい。席ごとの空間の仕切りが凄く自然な感じで好みですね。周りの会話が全部聞こえてくるようなお店もワクワクできるので好きですけれど(笑)。
ミラノサンドにおけるABC問題
▲ミラノサンドなくして、ドトールのフードメニューは語れない! ©️カンゼン ©️飯塚めり
──喫茶チェーンといえばスイーツやフードもかなり充実してます。めりさんのお気に入りや印象に残っているメニューはありますか?
めりさん:スイーツだと、「コーヒーハウスぽえむ」のコーヒーゼリーですね。個人店含め、いろいろ食べてきた中でもかなり理想に近いコーヒーゼリーなんです。
──どのへんが良いのでしょう?
めりさん:コーヒーゼリーって食べてる途中でお腹が冷えてきたりして、最後まで美味しいテンションで食べれなかったりすることがよくあるんですが、ぽえむのコーヒーゼリーはクリームとゼリーとアイスのバランスが絶妙なんですよ。シロップの代わりにリキュールをかけることもできて、なんとも大人っぽい、おしゃれな味がするんです。そして、そのうっとりするハーモニーを楽しんでいるうちに食べ終えてしまう。
──美味しそう! フードの方はどうでしょう?
めりさん:やっぱり「ドトールコーヒーショップ」のミラノサンドはテッパンですね。
──おお、大ネタ来た! ミラノサンドってA、B、Cとあって、季節ごとに新メニューに変わっていくと思うんですが、どれ派ですか?
めりさん:私が好きなのは「Aサンド」ですね。ドトールのミラノサンドって、A=ビーフパストラミ&生ハム、B=シーフード、C=チキン※なんですけど、たまに内容が変わるBやCとは違ってAはほぼ変わっていない。だから定番の味としてときどき恋しくなる。
※2020年7月22日時点で、ミラノサンドB=海老とアボカド・サーモン〜タルタル仕立て〜、ミラノサンド C=スモークチキンと半熟たまご ~味噌ジンジャーソース~
──生ハムのさっぱりした味ですね!
めりさん:はい。マヨもおいしくて……。ヨーロッパのバゲットサンドを日本ナイズしたみたいなドトール魂を感じます。でもCのガッツリ系も個人的にときどき大ヒットがあります。BUBBLE-Bさんが好きなのはどれですか?
──僕は一貫してB派ですね。エビとアボカドの組み合わせが自分の中では最高で。
めりさん:チェーン店トラベラーさんなのに、意外にもヘルシーなものがお好きなんですね(笑)。
サザコーヒーの本拠地に大興奮
──著書の中で、「サザコーヒー」の本店に大興奮したとあったのですが……。
めりさん:JR品川駅のエキュート内にサザコーヒーのスタンドがあるんですが、そのカフェラテがとてもおいしくて。旅行に出向く際などに何度か利用しているうち、一度本店に行ってみたいと思って、足を運んだんです。
──サザコーヒーの本店って、茨城にあるんですよね。
めりさん:そう、茨城県ひたちなか市の何でもない街中に突然あるのがまた、リアル「本店感」があってまず興奮しました。メニューも、品川駅のお店が「お試し読み版」とすれば、これが本編か! という感じで充実しているし。
──自分も行ったことありますが、あの空間に度肝を抜かれました。広くて重厚なフロアには壁に飾られたアフリカの仮面などの調度品があったりして。インパクト満点だし、情報量も凄い。本店・オブ・ザ・本店というか、風格が違う。
めりさん:東京に進出しているローカルチェーン店の、本場でのありようを見届けに行くのは楽しいので、他のチェーン店でもやっていきたいですね。
──最後に、著書に掲載されているファミレスでは唯一「デニーズ」が取り上げられてますが、そのポイントはどの辺でしょう?
めりさん:これは個人的な思い入れなんですけど、学生の時によく利用していたファミレスがデニーズだったんですよ。店員さんが良い感じの目配りをされていて、ちょっとホテルみたいな落ち着いた雰囲気もあって。それが良かったんですよね。
──確かにデニーズってなんか落ち着きますよね。本日はありがとうございました!
とめどない喫茶店愛をイラストや文章で表現する飯塚めりさん。
「チェーン店でも個人店と変わらず接する」という本人の言葉通り、何ら変わらない愛情が著書はもちろん、インタビュー中も感じ取れた。
何気なく入店して、何気なくコーヒーを飲んでいただけの空間に、これほど愛らしい要素が詰まっていたなんて。いろんなお店でいろんな人格を感じてみたい、と感じたのは筆者だけではないはず。
そして、やっぱり……
「ぽえむ」のコーヒーゼリー、食べてみたい!
書いた人:BUBBLE-B
飲食チェーン店トラベラー。日本中の飲食チェーン店の本店や1号店を探訪し、創業者の熱い想いに共感しながら味わうと3割増で美味しくなるグルメ概念「本店道」を提唱する。
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- ブログ:飲食チェーン店めぐりブログ「本店の旅」