「南国白くま」をご存知ですか?
パッケージに描かれた白熊印でおなじみ、練乳やフルーツをトッピングしたかき氷です。スーパーやコンビニで買ったことがある方も多いのでは。
これ、元は鹿児島県の代表的なローカルアイス。
当地ではソウルフード的存在なんです。
その証拠に……
鹿児島発「南国白くま」だけでも、19種類!!!
かごんま民、どんだけ好きなんだよ……
だって夏の鹿児島に来てみてくださいよ。「南国白くま」を扱っていないスーパーやコンビニを見つけるのが難しいくらいなんですから。
だからこそ、この「南国白くま」が全国区になってくれているのが本当に嬉しくて。鹿児島以外のメーカーを含めると、かなりの種類の「氷白熊」※が全国展開しています!!!
そして鹿児島人のソウルアイスである「氷白熊」を初めて工業的に製品化したのが鹿児島のセイカ食品。
今回、そのルーツや展開について伺ってみたところ、地元民ですらあまりよく知らないことばっかりだったので、夏が来る前にアイス大好きな方々に共有したくお伝えしようと思います。
※「白くま」と呼ぶ人が多いかと思いますが、この記事では一般名称を「氷白熊」と致します。ちなみに「南国白くま」は商品名です。
名前のルーツは「練乳の缶が白熊印だったから」
2017年にできたばかりのアイス工場へやって来ました。
鹿児島県日置市にあります。
おお、すでにおなじみのマスコットがお出迎え……。
迎えてくださったのは、乳業本部の眞戸原(まとはら)さん(写真左)と、研究開発室の時任さん(右)。さっそくそのルーツについて聞いてみることに。
──鹿児島ではすっかり夏の定番アイスになっている「氷白熊」ですが、そもそもいつから始まったのでしょう?
眞戸原さん(以下敬称略):諸説あるのですが、昭和7、8年頃、鹿児島市の西田本通りにあった綿屋さんが夏の副業としてかき氷店を営んでおり、そこの新メニューとして登場したのが始まりと捉えています。
ミゾレ5銭、いちご蜜7銭、氷白熊12銭。氷白熊は他のかき氷メニューと比べてとても贅沢なものだったようです。かき氷にパイナップルやバナナ、寒天、豆が載せられた上からたっぷりと練乳がかけられており、夢のようにおいしかったのだとか。
その後、いろんな飲食店で氷白熊が登場するようになり鹿児島の夏を彩る風物詩のような存在になりました。
──氷白熊が誕生したのは戦前だったのですね。名前の由来はどこから来たのでしょう?
眞戸原:綿屋さんで、かき氷にかけた練乳の缶に白熊印のラベルが貼ってあったそうです。それをそのまま名前にもらったと聞いています。
──意外とざっくりというか、南国らしい大らかな決め方でいいですね! 練乳+かき氷で白いから? とか、かき氷だから北極を意識しているのかなとか、勝手に思っていました。
氷白熊をリーズナブルな形で家庭に届けたかった
昭和7、8年ごろ夏の綿屋さんで誕生した氷白熊。セイカ食品が商品化したのは昭和44年頃でした。
眞戸原:当時の氷白熊はデパートの食堂や喫茶店で食べる特別なごちそうだったので、製品化にあたっては「家庭で気軽に食べられるもの」というコンセプトからアプローチし、カップに詰めたタイプで売り出しました。
▲初期の南国白くま。50円という価格が昭和すぎて泣ける……
眞戸原:セイカ食品の主力商品はボンタンアメや兵六餅などの餅菓子だったのですが、夏に売れる商品を作ろうと考えて昭和32年からアイスクリームの製造販売を始めました。そして、鹿児島名物の氷白熊も製品化しようと動いたわけです。
▲そう、セイカ食品はあのボンタンアメを作っている会社なのだ。キオスクで見かけたことのある方も多いのでは?
──販売開始後の売れ行きはどうなったのでしょう?
眞戸原:はい、おかげさまで宮崎や鹿児島などの南九州を中心に氷白熊は順調に売れました。昭和40年代の当時は冷凍物流が限られていたので、自転車の後ろにドライアイスを詰めた保冷庫を括り付けて、それで配っていました。
▲昔のパンフレット。エアロビクスっぽい格好をしたモデルさんに時代を感じる
冷凍物流を追い風に、氷白熊は北を目指した
──今でこそ、どこでも冷凍食品を買えますが、確かに昔はどう配送するかが難しいですよね。
眞戸原:配送面の大変さもありますが、お店に冷凍ショーケースがないと販売自体が難しいわけです。タイミングがいいことにちょうどその頃、小売店様に冷凍ショーケースが設置され始めるようになったんですね。それとあわせていろんな氷白熊のバージョンができ始めました。
▲冷凍ショーケースが普及し始めたのは約50年前。当たり前だが、これがないとアイスは売れないし買えない
その後、平成になって冷凍物流が発達してからは、県外からさまざまなアイスが入ってくるようになりました。もちろん私たちも配送しやすくなったので、全国展開を意識するようになりました。
▲昭和58年のパンフレット。ちなみに筆者の氷白熊の思い出といえば、おばあちゃんの家。冷凍庫に常備しており、夏休みに遊びに行くと必ず出してくれた
──南国のいちローカルアイスに過ぎなかった氷白熊が、いよいよここで北方へ向かって進撃し始める、と。なるほど!
眞戸原:さらに、1995年の九州自動車道全線開通で鹿児島から青森までが高速道路によって結ばれ、これが全国へ広がる大きな推進力になりました。このように、時代の流れとともに地道に販路を広げて今に至ります。
──「冷凍ショーケース」「冷凍物流」「高速道路」、これら3つを武器に氷白熊は全国制覇を成し遂げたのですね。この頃になると、氷白熊を販売する他のメーカーさんも増えてきていますよね?
眞戸原:県外のメーカー様と競合することで、氷白熊の認知が広がり商品カテゴリーとして確立するところもあるわけで、多くの方に知っていただく機会が増えたかと思います。もちろん、鹿児島発祥のスイーツですので我々も頑張らなくてはという強い思いはありますね。
──確かに、鹿児島発祥ということは意外と知られていないですよね。もっと知られてほしいです!!!
全部で19種類も! 「南国白くま」のシリーズ
──今、「南国白くま」の商品点数はいくつあるんですか?
時任さん(以下敬称略):商品点数は200アイテムくらいあるのですが、全国向けに展開している「南国白くま」のシリーズは現在19種類あります。
▲南国白くまシリーズ。こうして並べるとやっぱり壮観だ
──鹿児島以外の人からしたら、なかなかのラインナップ数だと思いますよ。
時任:はい。弊社では春と秋の年2回、新商品を発表しています。開発チームは私を含む7人のスタッフがいて、毎回1人50案以上のアイデアを出すようにしているんです。だから日常生活で見るもの、食べるものすべて「この味は南国白くまシリーズにどうかな?」「このスパイスは合うかも!」と考えてしまいますね。
▲4/29発売開始予定の「南国白くま練乳ソフト」(180円、税別)をいち早く試食。練乳ソフトの下にフルーツ入りのかき氷がある二層構造で、濃厚→さっぱりと味が変化していくのが嬉しい
時任:開発チーム以外の社員にも声をかけてアイデアを募集しているのですが、「魚の形をした棒アイス」とか、開発担当者ではまず出てこないような自由な発想があって面白いですね。ただし、やはり全国展開する商品なので、ある程度個性を出しつつも「万人に愛される味」を意識して最終決定しています。
コンビニがきっかけで生まれた贅沢バージョン
「南国白くま」シリーズの価格帯さまざま。100円台で買える氷白熊もあれば、一つで300円近くする贅沢バージョンもあります。
時任:贅沢バージョンの開発は、実はコンビニの影響が大きいんです。値段をあまり気にせずに買われるお客様もいらっしゃるので、コンビニでは高付加価値の商品が多く販売されるようになりました。そこで2017年に販売開始したのが、練乳をたっぷり使い濃厚に仕上げた「南国白くま贅沢リッチ」シリーズです。秋冬用の商品だったので、練乳味のかき氷と練乳のホイップクリームを重ねることで、冷たくなりすぎないよう意識して作りました。
▲「南国白くま贅沢リッチ」のイチゴ味(270円、税別)。ほかに抹茶味、みかん&パイン味がある
▲イチゴソースの下には、練乳かき氷と練乳ホイップクリームが
おすすめトッピングは「無糖ヨーグルト」
時任:ここ数年のSNS映えが重視される傾向に合わせ、アイスクリームのカテゴリーでも今まで以上に見栄えを意識した商品が増えました。
▲いちごやみかん、パイナップル、小豆をトッピングしたカップタイプの氷白熊。あんみつ感!
時任:そんなトレンドに合わせて弊社で開発したのが、2016年に販売開始した「たっぷり贅沢南国白くまバー」です。
▲「たっぷり贅沢南国白くまバー」(180円、税別)。このキウイの貼り方はありそうでない
時任:カップタイプの氷白熊は上にフルーツをトッピングすることで見た目が華やかになります。一方、バータイプで “映え”をどう表現するか試行錯誤した結果、キウイフルーツを手作業で横に貼り付けることにしました。
──氷白熊の商品展開は時代を反映しているようで面白いです。
時任:そうですね。氷白熊は練乳かき氷がベースで、いろいろなトッピングと相性が良いので工夫次第でいろいろな楽しみ方ができますよ。ご自宅で食べる時も、フルーツやソースなどトッピングを追加してみたら面白いと思います。
──時任さんおすすめのトッピングありますか?
時任:無糖ヨーグルトを足すとさっぱりしておいしいです。これは私がプライベートでも食べているレシピで、ぜひ夏に試してもらいたいですね。
▲さっそくやってみた! まず、トッピングする前に全体をさっくり混ぜて……
▲無糖ヨーグルトを好みの量ドロップ
▲ヨーグルトのまろやかさとさっぱり感がプラスされておいしい!
──ほかにおいしく食べるコツなどあればぜひ教えてください。
時任:これは氷白熊に限らずアイス全般に当てはまるのですが、マイナス10℃くらいの温度が食べごろなんですよ。スプーンが軽く通るくらい、持った時少し柔らかく感じる程度です。そもそもアイスや氷菓はマイナス18℃以下の保管が義務付けられているので、ショーケースから出したばかりだとまだカチカチなんです。少し常温で置いておくとベストタイミングです。
工場にはリアルな「南国白くま」が
最後に、アイス工場を。実はここ、一般客の見学も受け付けています。
▲見学施設の廊下では、南国白くまがかき氷を持ってお出迎え。見ているだけでワクワクするようなデザインである
▲アイスや氷菓ができるまでの全工程が一目でわかる
▲氷白熊のトッピング、なんと実は手作業! トッピングが沈まないように、アイスを凍らせてから載せていく
▲エントランスホールで出迎え・見送りをしてくれるのは、マスコットキャラクターの南国白くま君たち。現在で3代目を数える
▲初代南国白くま君は超超リアル! かわいさよりもインパクトを意識してデザインされたそう
▲2代目南国白くま君は、とってもキュート。おっとりした子と元気な子のペア
▲3代目でまたリアル路線に……。でもよく見ると目がつぶらでかわいい。初代リアルな南国白くま君の子どもという設定だ
そろそろアイスクリームが食べたくなる季節。
全国のみなさん、鹿児島の「南国白くま」をよろしくお願いします!
工場見学情報
セイカ食品 工場見学
住所:鹿児島県日置市伊集院町下谷口3-10
電話予約受付:099-272-0030
時間:①9:00~ ②10:30~ ③13:30~
所要時間:約1時間
定員:最大120名まで
料金:無料
定休日:土曜、日曜、祝日
※1週間前までに要事前予約。
※時期によっては見学時間や定休日が変更になる場合もあります。詳細はお電話にてお問い合わせください。
セイカ食品:http://www.seikafoods.jp
書いた人:横田ちえ
鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。