
街を歩いていると、「あ、ここはヤバそうだな」というお店があったりしませんか。
例えばお店の外におびただしい量の貼り紙があって、そこに店主のメッセージがびっしり。メッセージの内容は、社会情勢を憂うものだったり、宇宙の真理に関するものだったり。そういうお店があった時に、大抵の人は足早に通り過ぎるものであろう。
そのメッセージ店の店主も、そうやってみんなが足早に通り過ぎていくからこそ、なおさら言いたいことがあふれてくる。そしてそれがまた外壁を埋めていく。
そういうヤバそうな場所を探し回ってはグイグイ中に入っていく女性ライターがいる。金原みわさんである。金原みわさんは、日本各地、そして時には海外まで足をのばし、ヤバい場所をめぐり、ヤバい人の声に耳を傾け、受け取ったメッセージを私たちに分かりやすい形で伝えてくれる巫女のような珍しい存在だ。
珍スポット、変な人、奇祭、奇食、ストリップ、道祖神……。
金原みわさんをめぐるキーワードを挙げていけばキリがない。世の中からこぼれ落ちそうな価値を分け隔てなく求め、勇猛果敢に取材旅を続けた結果を一冊にまとめた本が、大阪のインディー出版社である「シカク出版」から2016年に発売された単著『さいはて紀行』だ。

この本の中で取り上げられているのは「キリスト教看板を制作している現場」や「女性刑務所内にある美容室」など、対象としてすでに十分特別な場所や人ばかりなのだが、金原みわさんはそれをただ“珍奇なもの”というだけで片付けず、取材先の人々の言葉に真摯(しんし)な姿勢で耳を傾け、時には危ないほどに感情移入しながら、そこで見聞きしたことを文章にしている。
対象への入り込みの尋常でない深さが金原みわさんのオリジナリティーだと思う。よかったらチェックしてみてください!
彼女の著作『さいはて紀行』出版以降、レギュラーのラジオ番組を持ったり、トークイベントにも毎週のように出演して引っ張りだこ状態の多忙な金原みわさんなのだが、今回はお気に入りの居酒屋さんを紹介していただき、そこで飲み食いしながら「食」をテーマにインタビューさせてもらうことができた。
情報量過多な居酒屋「まいど」
やってきたのは大阪市中央区日本橋にある居酒屋「まいど」。

雑居ビルの2階の重厚感のあるドアを思い切って開けると、金原みわさんがすでにお店の中で待ってくれていた。

席がこたつ!

そして壁を埋め尽くさんばかりのメニューの数々!

「ちょっと見た目には、寝ている様に感じるかもしれませんが、実はやる気満々で充電中です。」という貼り紙。
まさに“ヤバいお店”である。情報量多すぎ系居酒屋さん。しかし入ってしまえば謎の居心地の良さが漂うお店でもある。
「味覚は全然普通なんです」
こちらが金原みわさんです。

── よろしくお願いします! 乾杯!
金原「よろしくお願いしますー! 今日は普通に飲んで食べて良いって聞いてるんで楽しみです」
── このお店、私も以前一度だけチラッと来たことがあるんですが、すごいお店ですよね。
金原「コタツがすごいですよね。雰囲気も好きです。大将が良いんですよ。以前、飲みに来た時に大将がマッサージして欲しいって言って床に寝転んで……踏みました」

── 踏みましたかー! 大将がお客さんに踏まれるお店。そんなお店ありませんね。しかしこのメニューの量。大将、これは何種類ぐらいあるんですか?
大将「140種類ぐらいあるかな」

金原「焼きアボカド頼んでいいですか? ここのアボカドおいしくて。あとは子宝ソーセージと、せせりの塩焼きと」
── あと「糸こんにゃくの明太子炒め」も頼みましょう! 金原さんは、普段お酒を飲まれる方ですか?
金原「お酒を飲むのは好きです。弱いんですけどね」
── 金原さんというと、飲食店に行くのでも変わったお店が多いのかなっていうイメージを勝手に持っているんですが、普通のお店で飲んだりもするんですか? 和民とか。
金原「はい、誰かに誘われれば行きますよ。自分の強い意志みたいなものがあまりないんです(笑)」
── ちょっと変わった生き物を食べる「奇食」という活動もされていますよね? これまでにどんなものを食べましたか?
金原「クリオネ、アライグマ、ヌートリア、カピバラ、ゴキブリとか」
── ありがとうございます。いったんその辺でやめておきましょう! とにかく、それはそれとして、普通においしいものも好きなんですよね?
金原「それはもちろん! たまにはおいしいものが食べたいです。味覚はもう、全然普通なんです」
── このお店のこのメニューが好きでよく食べる、とかそういうものもあるんですか?
金原「ありますね。本当に何も面白くなくて申し訳ないんですけど、最近だと……『はなまるうどん』です(笑)。ぶっかけうどんに卵を入れて、天かすを入れて。ははは。普通」
── 安心しました! 普通も普通ですね!
金原「あとここ最近特にハマってるのが、サイゼリヤです(笑)。サイゼリヤの明太子スパゲティですね。安くておいしくないですか?」
── 安くて、そしておいしいです。サイゼリヤ。
旅から戻ると生態系が……
大将「はい。焼きアボカドー」

▲焼きアボカド(350円)
金原「やっぱりおいしい!」
大将「糸こん明太子ー」

▲糸こんにゃくの明太子炒め(350円)
金原「この『糸こんにゃくの明太子炒め』、パスタの替わりに糸こん使っているだけっていう感じだけどすごくおいしいですね。しかもヘルシーだし」
── アボカドと糸こん明太子、オシャレな見た目ですね。ちょっと大人のサイゼリヤみたいな。おいしいなー。

大将「おいしいやろ。隠れバル『まいど』と呼ばれてるからな最近は。まずいもん作ってくれ言われてもできんようになってしまった。ごめんごめん」
── 金原さんは、お家で自分で料理したりするんですか?
金原「家にいたらするんですけどね。いないことが多いのでなかなかできないんですよねー」
── なるほど。去年からお勤めされていた仕事先を辞めて、ライターに専念されているということだったんですが、普段は車を運転して全国各地の珍スポットを巡っているんですよね?
金原「月の半分以上は旅してる感じです。車中泊しながらずっと行ったりしているので。以前は家でチャーシューを作るのが好きだったんですよ。でも今のような生活をし始めて、チャーシューを仕込んだのを忘れたまま旅に出て2週間ぐらいして戻ってきたら生態系ができてました(笑)」
── おそろしい! 確かに旅中心だと、食材を買って料理とか、なかなかできなそうですね。例えば旅先で、その土地のおいしいものとかを食べることはあるんですか?
金原「せっかく来たからには名物も食べたいし、できれば食べます。おいしいですからね(笑)。でも、どうしても取材メインなので、あんまり食事の時間が取れなかったりすると、コンビニでもご当地メニューがないかなって、なんとか意地で探して。名古屋だったらおにぎりコーナーで『天むす』を買うとか」
金原流「奇食論」とは
大将「はい、子宝ソーセージ」
── うおー! さっきさらっと頼んでいて何かなと思っていたんですが。
大将「説明しますと、このソーセージが○○で、ミートボールが××で……(割愛)」

金原「こういう珍メニューがあると、とりあえず頼んでしまうんですよね」
── 造型が結構リアルです。味は、普通に、うまいっす。
大将「はい、せせりー。今度な、このせせりを、この子宝ソーセージにこうして、このようなメニューを作ったらどうかと……(割愛)」

▲手前から、せせり焼き(500円)、子宝ソーセージ(400円)
── えーと、金原さんは、好き嫌いはあるんですか? 虫も召し上がるわけですけど……。
金原「虫、好きじゃないですよ! 苦手です。触れないですし。ただ不思議なのは、虫が、ある瞬間に食材になるポイントがあるんですよ。例えば、パン粉を付けた瞬間、あ、食材だ。みたいな(笑)」
── それは体験したことない瞬間です。
金原「でもそう考えたら、鳥も豚も、ある瞬間までは動物じゃないですか? それがある時点から食材として見慣れたものになる。普段食べているものも変わらないのかもしれないと思えたり。『奇食』をしているといろいろ考えるんですよね」
── 『奇食』体験の中で一番嫌だったのは何でした?
金原「ゴキブリが嫌でした……。自分の中の嫌悪感を乗り越えるのが大変でしたね。食べ物って、匂いや食感や味、見た目、音があって、それぞれがおいしさにつながりますよね。それとは別の第六の要素があると思うんですよ。例えばゴキブリへの嫌悪感とか、それも含めて味わうのが奇食なのかなって思うんですよね」
── いやー。虫は嫌ですが……でも嫌いなものを好きになる過程って不思議ですよね。最初はこんなもん食えるか! みたいに思っていたのに好物になったりして。
金原「奇食仲間の一人が『食べ物は7回食べてからまずいって言え』って言っていて(笑)、そうかもなって思いました。私は子どもの頃からトマトジュースが大嫌いで、なんでこんなものが存在するのかって思ってたんですよ。何回かチャレンジしてもやっぱりダメで。でも、ある時にこれは“ジュース”じゃない、“スープ”なんだって思ったら、あ、冷製スープとしておいしいんだ! って気づいて。それから一気に好きになりました。7回食べてダメだったらそこで初めて本当に嫌いなんだなって」
── 7回って多いな……。でも、もしかしたら虫だって、これは食材なんだ! って思えるようになれば普通に食べられるのかもしれないですね。ちなみに一番好きな食べ物は何ですか?
金原「イクラですね。普通でごめんなさい(笑)。イクラを横に置いて白ご飯を食べるのが好きです。イクラ丼は食べてると悔しい気持ちになる。このイクラの量だと倍の白飯が食べられるのに! という……」
個性的過ぎるトイレ
金原「大将、ビールのお替わりお願いしますー!」
大将「缶ビール店内配送システムができたんよ。待ってなぁ(配送車を模したラジコンでビールが運ばれてくる)」

金原「わぁー!」

大将「全部この車もな、自分で作ってな」

ちなみに、「まいど」のトイレは変わっていて、中に入ると「侘寂(わびさび)スイッチ」というボタンがぶら下がっている。

それを押すと、トイレの壁際に置かれた「ミニ石庭」のししおどしに水が流れ、コーンと倒れる仕組み。
── 大将、夏っぽいお酒が飲みたくなってきたので「ブルーハワイチューハイ」下さい!
大将「はいよ」

うわ、青いなー!!
壁には常連ランキングが

金原「ご飯ものも食べたいですね。台湾フードもたくさんありますよ。豚肉の汁めし……?」
大将「魯肉飯(ルーローハン)やね。まかしときー」
── 台湾料理が充実しているのはなぜなんですか?
大将「昔、台湾よう行っててな。100回は行ってる。タイが30回ぐらいかな。30年前ぐらいに旅行会社に勤めてたんよ。添乗員はお客さんより遊べる場所とか、おいしいお店とか、ようけ知らんといかんからな。普段から旅行客が行かないような場所にどんどん行って勉強してたんやな。中国も行ったし、ベトナムも行ったし、ミャンマーも行ったな(大将の世界各国の夜の町の話が続くが割愛)」

── 旅行会社で働かれていて、このお店をやるに至ったのはどんないきさつで?
大将「旅行会社は、格安ツアーが一気に出てきて、競争になって辞めたんよ。それから美容関連の輸入卸とかいろいろやってたんやけど、ある時に友達がこの場所で居酒屋さん始めて、それを手伝っとってな。そしたらそいつが急に辞めたいって言い出して、それで『鍵貸せ! 俺がやったるわ』ゆうて始めたのがこのお店や。まあ、昔と今では儲けてる額がちゃうわな。ここは全然儲からへんけど、とんとんやったらええわと。とにかく食ってはいけるやん? このお店ほとんど休みなしで朝までやってるし、そもそも金使う暇あらへんねん(笑)。はい、ルーローハン」

▲魯肉飯(500円)
金原「めっちゃおいしい!最高です」
大将「おいしいやろー! 台湾の屋台料理や」
── さっきから気になってたんですけど、あっちの壁の表はなんですか?

大将「これか。常連さんが1カ月に来店した回数と使った金額をランキングにして貼ってんねん(笑)。例えばこの○○さんは、ひと月に26回来てるわ(笑)」
金原「常連さんに愛されてるお店なんですねぇ」
大将「常連さん集めて年に3回バスツアーやってるから、今度よかったら来てや」
金原みわさんと大将との心地よい会話を楽しみながら飲み食いしていたら、いつしか4時間も経っていた。不思議と時間を忘れさせるお店である。
特に大将のお話はここに書けないようなことばかりで最高だった。

── 今日は金原さん食べ物観みたいなものを知ることができて楽しかったです。月並みですが、最後に金原さんの今後の展望を聞いてもいいでしょうか!
金原「本にしたいことや、ドローン撮影、物珍しいイベントの企画などいろいろ構想していますので、お付き合いいただけたら幸いです。楽しんで生きるぞーっ、ていう感じです!」
── ありがとうございました!
心斎橋や日本橋で飲んでいて終電を逃した方は、朝までやっている「まいど」のグルーヴをぜひ感じに行ってみて欲しい。
また、今回インタビューに応じてくれた金原みわさんは、近々新しい著書の発売も予定しているとか。関連情報については、ご本人の公式サイト「金原みわの珍スポット旅行社 TiN.」、あるいは公式Twitterアカウントをチェックされたし。
取材協力:金原みわ
お店情報
居酒屋まいど
住所:大阪府大阪市中央区千日前1-6-1 山喜登ビル2F
電話番号:050-5257-1253
営業時間: 19:30~翌7:00
定休日:無休
※この記事は2017年4月の情報です。
※金額はすべて税込みです。




