70年の歴史、100店超がひしめく大阪のグルメダンジョン「新梅田食道街」をスズキナオがハシゴする

大阪駅・梅田エリアにある「新梅田食道街」。70年もの歴史があり、ガード下に100店舗以上がひしめく関西屈指の一大飲み屋街をライターのスズキナオさんが飲み歩きます。呑兵衛はもちろん、大阪でくいだおれてみたい人なら必読!

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※本記事は2019年取材時点の情報になります。メニューや価格など変化している可能性がございます。

友達と大阪駅周辺、梅田エリアで飲むことになった時、実は結構困る。駅前の大型ショッピング施設の飲食店ではちょっと物足りないし、東梅田~北新地あたりは私にとってはちょっと価格帯が高めに思えたり、ちょうどいい場所が見つけられないのだ。

 

東京にお住まいの方であれば「もし東京駅周辺で飲むことになったら……」と考えていただくと、ちょっと悩む気持ちがわかっていただけるかもしれない。もちろん梅田にも東京駅辺りにも探せばいいお店がたくさんあるのはわかるのだが、ふらっと寄って楽しく飲めるという選択肢が自分にはそれほど多くない。

 

だが待てよ。梅田で電車を乗り換える時にいつも通りかかる「新梅田食道街」って、あそこ結構賑やかそうで色んなお店あるよな……。とふと思った。

 

多ジャンルの飲食店が集まるグルメ迷路

「新梅田食道街」は1950年に開業したガード下の飲食店街で、例えばJR大阪駅の御堂筋南口から、

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横断歩道を渡ったら、すぐに入口が見える。

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阪急うめだ本店へと続く高架通路から見下ろすとこんな感じ。赤丸部分が入口です。

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右を向くと阪急うめだ本店、阪神梅田本店もこんな近くに見える。

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阪急電車の乗り口の近くからもこんな風にちょっと懐かしいテイストの看板が見えたりする。この看板のすぐ下から新梅田食道街に入ることができる。

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JR大阪駅、阪急・阪神の梅田駅、大阪メトロにも非常にアクセスのいい場所にある飲食店街なのである。

入り組んだ通路の中には2020年2月時点で102店舗もの飲食店が入っていて、「グルメ迷路」といった様相を呈している。

 

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お店のジャンルも幅広く、喫茶店、ベーカリー、洋食、中華、居酒屋などなど、何から何までという感じである。

 

しかし、そんな「新梅田食道街」と、私はこれまでしっかり向き合ってこなかった。何度かふらっと迷い込むようにして食事をしたことはあったが、その都度、特に長居するでもなくこの場を後にしていた。よく考えたら、梅田エリアの中心地にこんなに掘り下げがいのありそうなガード下の飲食街があるというのに、なぜ私はスルーし続けていたんだろうか……突如自戒の念が沸き起こった。

 

そこで今回は「新梅田食道街」をハシゴ酒しつつ、その魅力を体感することにした。冒頭では「新梅田食道街」の歴史について「新梅田食道街連合会」のみなさんにお話を伺い、その後、「奴」、「とり平」、「三起」という3つの居酒屋を飲み歩いてみた。

 

それぞれのお店でもたっぷりお話を聞いてきたので長くなるかと思いますが、ゆっくり気ままにお付き合いください。

 

創業1950年、中には三代続くお店も

「新梅田食道街」を飲み歩く前に、まずは「新梅田食道街」ってそもそもどういう場所なのか、その歴史も含めて知っておきたい。

 

やってきたのは「新梅田食道街連合会」の母体である株式会社共潤舎の事務所。取締役総務部長の山田雅昭さん、営業部営業課の出口京子さんにお話を伺うことができた。

 

──新梅田食道街は1950年に開業したとホームページで知りました。今年で70周年を迎えるということですね。

 

山田さん:そうですね。ホームページでも紹介させていただいている通り、1950年の12月15日、旧国鉄時代の施設関係のお仕事を退職された方々に対する救済事業として開業しました。

shinume.com

 

出口さん:そういった方たちが第2の職場として働く飲食店街でした。開業当時は18店舗で、それが現在は102店舗になっています。

 

山田さん:これは開業当初の図面です。昭和26年とありますから、1951年のものですね。この時点で28店舗近くに増えています。

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昭和26年の新梅田食道街の図面(共潤舎創立60周年記念誌より)

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貴重な資料を見せていただいた

 

──これもホームページで紹介されていたんですが新梅田食道街の名前、「食堂」じゃなくて「食道」なんですよね。

 

出口さん:梅田食道街の中に今もある「北京」というお店の先代の齊木信孝さんが命名されたもので、色々な飲食店が狭い通路に並んでいるから「道」なんだと、そういう意味でつけたものだと聞いています。なにぶん、昔のことですけどね(笑)。

 

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写真一番左が新梅田食道街の名付け親である「北京」の故・齊木信孝さん(新梅田食道街50周年記念誌より)

──新梅田の「新」は、特にリニューアルして後からついたわけではなく、最初から「新梅田食道街」だったんですか。

 

出口さん:そうなんです。新たに梅田を元気づけるような場所にしたい! とか、色々な願いを込めて「新」とつけたようです。

 

──70年というとすごい歴史ですが、店舗数だけでなく色々と変遷があったんでしょうか。

 

山田さん:現在、新梅田食道街70周年の記念誌を編纂しているんですが、大阪駅周辺の移り変わりと密接に関わっているんです。国鉄時代からの大阪駅の開発、阪急電鉄の開発、駅のホームが移設されることにともなって区画が変わったり、1969年には4カ月に渡って完全休業して建物の改築を行ったりですとか、色々なことがありました。ですから70年史の編纂がものすごく大変なんです(笑)。大阪の変化とともにあったという思いです。

 

出口さん:時代によってお客さんのご利用のされ方も少しずつ変化しています。

 

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昭和48年の新梅田食道街入口(新梅田食道街50周年記念誌より)

 

──ここ最近ではどんな風に利用する方が多いんでしょうか。

 

山田さん:102店舗ありますので、様々な時間帯に様々な用途で利用していただいています。早い時間からお酒を飲まれる方もいますね。立ち飲みの大阪屋」さんは朝7時からお酒を飲めますからね。もちろんお昼ご飯を食べにいらっしゃる方もいますし、やはり夕方以降はお仕事帰りに飲みにくる方が多いですね。

 

出口さん:1軒目で飲んだ後に2軒目を探しに20時頃に来られる方もいますし、好きな用途で使えるのが新梅田食道街の魅力だと思っています。

 

──立地がとにかくいいというか、駅近なので大阪に観光で遊びに来た人なんかもふらっと寄れますよね。

 

山田さん:そうですね。お好み焼きの「きじ」さんはミシュランガイドにも載っているお店で、いつも行列ができています。「お好み焼きSakura」さんも行列ができていますね。たこ焼きの「はなだこ」さんもあるし、大阪らしい“コナモン”をすぐ食べられる場所として観光客の方々にも人気です。最近では海外の方もすごく多くいらしてます。

 

──その一方でご常連さんに愛されている渋いお店も結構ありそうな印象です。

 

出口さん:古いお店もたくさんありますからね。「酒・毎日」さん、「北京」さん、「とり平」さんなんかは昔からのお店ですし、ずっと通われているご常連さんもたくさんいらっしゃいます。お店の方の世代も変わっていて、先代が始められたお店を息子さんが継いで、とか、三代目になっているお店もあります。

 

──ガード下に三代の歴史があるとは驚きです。

 

出口さん:一方で、もちろん新しいお店もありますし、女性のお客さんや若い方が来やすいお店づくりにも取り組んでいけたらと思っています。

 

山田さん:女性の方も利用しやすいようにと2年前にはトイレの大改修をしました。

 

──トイレがきれいなのは嬉しいです。

 

出口さん:中央スペースにある共有のトイレは、改修でとてもきれいになりました。ちなみにこのトイレに行った後、どこのお店から来たのかわからなくなって迷子になる方が多いんです(笑)。

 

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マップを見て分かるとおり、縦横に細い通路が伸びている

 

──通路が入り組んでますもんね。トイレに行く前に道をしっかり覚えておくことが大事と。最近の梅田は、駅周辺の大型ショッピング施設にも飲食店街的なスペースが増えてきている印象があるのですが、その中で新梅田食道街の自慢の部分はどこですか?

 

出口さん:古さですね。ここは昭和っぽい雰囲気に作られたわけではなくて、本当に古いですからね(笑)。

 

──確かに。70年の歴史が作った雰囲気があると。

 

山田さん:JR、阪急、阪神、大阪メトロと、どこに行くにも便利なのでぜひ気軽に立ち寄ってみていただけたらと思います。今年は70周年なのであちこちでデコレーションをしたり、色々とイベントも企画していく予定です。

 

──ありがとうございます! では飲みに行ってきますー!!

 

まずは1軒目の立ち飲み「奴(やっこ)」へ

そうしてやってきたのが一軒目、「奴(やっこ)」という味わい深い店名の立ち飲みスタイルの居酒屋である。

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「奴」は50年ほど前から新梅田食道街で営業している老舗。当初は「かやく飯」を看板メニューにした食事処だったが、今では立ち飲みメインに。現店主の祖母からその息子である父へ、そして祖母の孫にあたるのご主人へと引き継がれたお店だ。

 

カウンターの上には極上の“酒のアテ”が並び、カウンターの向こうでは店主と奥様が手際よく多くの注文をさばいている。

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特に魚料理には力を入れており、店主が毎日仕入れてきた活きのいい魚介類が太っ腹な価格で提供されている。

 

「お造りおまかせ盛り」が500円。

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「あら煮」が300円。

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「天ぷら盛り」が400円。

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と、もうこれだけでこのお店の姿勢が伝わってくるようだ。生ビール(500円)で一旦のどの渇きを潤した後、あわてて日本酒(500円)を注文する。

 

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「酒は昔からこれ」と店主がいう富山・若鶴酒造の「辛口 玄」のキレのよい後味が脂の乗ったお造りに合う。

 

「ここは味の百貨店なんよ」

店主の森山裕次さんにお話を聞く。

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──ここは、安くて盛り付けも気前がよくて最高ですね。

 

森山さん:うちは2人でやってるから人件費もかからないし、この規模やから、自分で仕入れて自分で売るからロスがないんやな。でもめちゃくちゃに安くはないと思うで。

 

──そうですかねー!

 

森山さん:2人だと、お客さんが15人、20人とか来たらかなり忙しい。例えば600円の料理を半分の量にして1皿300円にしたらもっとたくさん出るかもしれんけど、その分、忙しくなる。そういうところは細かい計算しながら何十年もしてきて、2人でまわるような価格設定にしてる。そのかわり1品ごとの中身は濃くして、絶対に満足してもらえるようなものを出してるね。東京から来たお客さんは「安い!」言うてくれるけど、大阪の人はなかなか厳しいんよ(笑)。ただ安いものはどこにでもあるからな。

 

──確かに、特に大阪では安ければいいっていう感じではないですよね。みんなそれには慣れていて。

 

森山さん:うちも昔は安く早くでやってたんよ。お客さんにしてもアテはそんなにいらん、安くて定番のものがあればいいと。昔はとにかく仕事終わりは意地でも一杯ひっかけて帰るいう人が多かったから。家帰ったら飲んでないフリして夕飯食べなあかんねん(笑)。そういう意味では、今は立ち飲みにくる理由、目的が違うんよ。もっとお酒や料理を味わいに来てる感じやね。

 

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──新梅田食道街はたくさんのお店がありますけど、他のお店に対してライバル意識みたいなものはありますか?

 

森山さん:それはないな。ここ(新梅田食道街)の中は一つの百貨店と一緒であって、「味の百貨店」なんよ。競争相手じゃない、取り合いしてもしょうがない。うちはこういう料理をこういう値段で出そう、と。そういう軸がぶれなければあとはお客さんが好きに選んでくれたらええんよ。一口に立ち飲み言うても色々なジャンルがあるしな。サッと飲んで帰るのにちょうどいいお店もあれば、ワインバーもあれば、なぁ。

 

──新梅田食道街は今年で70周年になるそうですね。

 

森山さん:やっぱりこの歴史が大事やね。時代に合わせて変わるところもあるけど、全部が全部新しくもならないし、しようともみんな思ってない。新しいフードコートにも素晴らしいお店はたくさんあるけど、やっぱりここは別物なんやろうと思う。

 

──時間の積み重なりを感じますもんね。

 

森山さん:ここから学校に通ってた子が今お店やってるとか、そういう歴史やからね。「とり平」さんっていうお店があるんやけど、僕のおばあちゃんと「とり平」のおじいちゃん(初代)は新梅田食道街に来る前、別のところで並んで商売してたんよ。それで50年後には孫同士が商売してるわけやからなぁ。

 

──名物の「かやく飯」は今は食べられないんですか?

 

森山さん:10年前までは出してたんやけど、時代の流れでカウンターでご飯を食べるっていうお客さんが減りだした。そのかわり、みんなお酒を飲むようになった。それで「かやく飯」はやめたんよ。まあ僕の息子が「このお店を継ぐ!」って言ったらレシピを教えてもいいんやけど、今のところそういう話はないな(笑)。

 

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常連さんで賑わうこのお店だが、出張帰りに新幹線の時間までパッと飲んでいく一見さんもたくさん来るそうだ。

「若い人でも気軽に入って欲しいな」と店主は語った。

 

店舗情報

住所:大阪大阪市北区角田町9-26 新梅田食道街
電話番号:06-6312-6703
営業時間:12:00~23:00
定休日:日曜日

 

2軒目は焼き鳥店「とり平」へ

さて、お次は「奴」の店主が名前を挙げていた「とり平」という焼き鳥屋さんへ行ってみよう。

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「とり平」は新梅田食道街の中に系列店も含めて4店舗を持つ評判店。創業は1951年で、創業当初から焼き鳥は合鴨がメインだとか。

 

中でも去年オープンしたばかりで最も新しい店舗だという「とり平 中店」にお邪魔した。なるほど店内はピカピカ。カウンターがビシッと奥まで伸びている。

 

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このお店では席につくと大根おろしとからしがセットで出され、付き出しとして合鴨のモモと合鴨の皮のねぎま串が出てくる。

 

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※写真の付き出しは2人前

「お客さんが席について生ビールを頼んで、飲んだところにちょうど付き出しが出てくる、そういうタイミングを心がけています」と語る中村元信さん(写真下)は「とり平」の3代目オーナーだ。

 

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──さっき「奴」で飲んできて、こちらの「とり平」さんも老舗だと伺いました。

 

中村さん:梅田食道街には1967年に入ってきました。もともとは今の新阪急ホテルがある辺りに飲み屋街がありまして、そこで1951年に祖父が始めたんです。新梅田食道街は今年で70周年で、うちは一年後輩ですね。

 

──現在はこの新梅田食道街の中に「とり平」さんが4店舗もあると聞きました。

 

中村さん:それぞれの店舗にお客さんがついてくれていて、好みがあるみたいです。総本店の方にしか行かないご常連さんがいたり、ここは新しいお店なので若い方が来たり、お店じゃなくて相性の合う店員について来てくださったり、お店にご常連さんがつくパターン、人につくパターンとあります。メニューはどのお店も一緒なんですよ。

 

──メニューは、「ネオドンドン」、「ネオピンピン」……。

 

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中村さん:あれも初代がつけたメニュー名で、ずっと変わっていません。なんのことか、わからないですよね(笑)。「ネオドンドン」は心臓、ハツですね。

 

──心臓の音の「ドンドン」ってことですか。

 

中村さん:そうです。「ネオピンピン」のピンピンは背肝(せぎも)なんです。背筋のピーンですね。「ネオポンポン」はお尻のポンポンで、ぼんじりですね。

 

──へー! 聞かないと絶対わからない(笑)。

 

中村さん:「ネオネオホルモン」は合鴨の下腹の部分ですね。「ネオゴールドダイヤ」は玉ひもとうずらの玉子です。ゴールドとダイヤのイメージで。こういう変わった名前にしたのは、メニューがわからないから「これは何?」ってお店とお客さんが会話するきっかけにもなると、それもありますし、お店の屋号をたとえ忘れても「ネオドンドン、ピンピンのお店」みたいに記憶に残ると、そこまで考えて初代がつけたようです。

 

──初代の先見の明がすごいですね。

 

中村さん:70年近く前ですからね。「ネオ」っていうのもなかなか今風ですよね(笑)。戦後すぐの頃、焼き鳥っていうとすずめとか鶏ぐらいで、鴨を扱うお店はすごく珍しくて、革新的というような意味でネオとつけたそうです。

 

──そういう意味合いだったんですか。

 

カウンター商売ならではの接客スタイル

──いまいただいている付き出しのねぎま、モモも皮もどちらも美味しい! 脂の旨みが!

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中村さん:ありがとうございます。付き出しをお客さんが食べてはる姿を僕らはカウンターの中で見ていて、そこでお腹が減ってはるのかな、それとも2軒目で美味しいものを少しずつ食べたいんかな、と考えて、お客さんと会話しながら求めていらっしゃるものをお出ししようと思っています。それがカウンター商売の基本いうか、カウンターだからこそできることなんかなと思っています。そうやってやってきたのがうちが長年続いてきた理由ちゃうかなと。

 

下の写真左が「ネオドンドン」で右は雌肝(ともに150円)。コクのあるタレと絡み合ってビールが進む。

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中村さん:タレは注ぎ足しで昔からの味です。つくねのミンチ三色(写真下、1皿600円)は女性のお客様にも人気ですよ。トマト巻き、ピーマン巻き、ねぎまですね。

 

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──コリッとした歯ごたえが残っていて美味しいです! それぞれ味わいが違って。

 

中村さん:生から焼いてるんでパサパサになったりしないんです。トマトの中には少しだけチーズを忍び込ませているんです。いかにもチーズ乗せてますよっていうのがなんか嫌で(笑)うちは直火の強火で焼くんです。直火でさっとあぶり焼きするのでジューシーさが抜けないんです。そのかわり炭も4段ぐらい積んでいて火が近いから焼いてる方は熱いし大変ですよ。

 

──お店の方同士の仲のいい雰囲気もそうですけど、お店が閉じてないというか、常連さんも一見さんも来やすいような感じがしますね。

 

中村さん:梅田食道街の立地的に一見のお客さんはすごく多いんです。半分ぐらいはそうちゃうかな。出張で来てふらっと、とかね。もちろん常連さんも大事ですし、どこのお店もどっちのお客さんも大事にしてると思います。

 

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──中村さんにとって、この新梅田食道街はどういう場所ですか?

 

中村さん:生まれ育った場所ですね。子どもの頃から親に連れてきてもらって、来たら必ず「北京」の先代にご挨拶して、父のお店で焼き鳥食べさせてもらって、「エーワンベーカリー」でバケット買ってもらうっていうのがいつもやったんですよ。だからもう刷り込まれてますね。僕はお店に入ったんが24歳の時やったんですけど、「奴」の森山さんも環境が似ていて、助け合いながらやってきましたし。兄弟じゃないんやけど、みんな親戚みたいな。

 

──私にとっては活気のある飲食店街ですけど、ここが生まれ育った場所なんですもんね。

 

中村さん:ここには大阪のギュッとしたもんがあるんちゃうかな。これだけの横丁でこれだけ個性的なお店が並んでいる場所ってあまりないんちゃうかと思います。フードコートとか新しいところもたくさんできてるから、これから余計に際立ってくると思いますね。隅々まで作られたフードコートよりも冒険した方が楽しかったりしますから。

 

──確かに。私はこういうところで冒険するのがまさに大好きです。

 

中村さん:最近は若いお客さんも女性の方も増えてきてます。昔は「とり平レディース」っていうお店があったんですよ。40年前ぐらいやと女性がなかなか焼き鳥には入りづらかったりしたんで、そこに配慮したお店を別に作ってやってたんですが、それがここ20年位でいらなくなってきたんですね。女性の方がむしろ本店の古い雰囲気のお店に入りたいと。昼から飲む人も増えてますし、ようやく時代に合ってきたんかなと思いますね。

 

店舗情報

とり平 中店

住所:大阪大阪市北区角田町9-26 新梅田食道街
電話番号:06-6312-6200
営業時間:月~金曜15:30~22:30、土曜12:00~22:00 祝日12:00~21:00
定休日:日曜日

 

 

ここでちょこっとひと休み

さて、「とり平」さんを出て少し新梅田食道街の中を散策してみよう。改修されてきれいになったトイレがこちら。

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朝から開いている大阪屋」

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その近くには新梅田食道街の歴史を物語るプレートが掲げられている。

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梅田食道街には2階フロアもあり、こちらも夜は飲み客で賑わうそうだ。

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ラスト3軒目は「三起(みつおき)」

さて、最後にもう一軒「三起(みつおき)」というお店に寄ってみよう。

シックな雰囲気の店内、各テーブルの上には野菜や果物が置かれ、オーナー曰く「お花替わりに置いています」とのこと。

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店内にはカウンター席の他にテーブル席もあり、これまでめぐってきた「奴」、「とり平」とは違ってグループで食事しているお客さんの姿もある。

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「季節に応じて、その日その日の美味しいものをご用意しています」というメニューはこんな風。

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注文させていただきつつ、オーナーの松上則彦さん(写真下)のお話を伺った。

 

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──旬のものが並ぶメニューですね。

 

松上さん:今日かつおだったのが明日はさわらのお造りになったり、入荷状況によって毎日メニューは変わっていきます。ですから、うちのお店は割烹でも居酒屋でもなく「季節料理」とつけさせてもらっています。もともとは新地で料理屋をやっていまして、お店自体は今年で64年になります。新地の方が最初で、途中から新梅田食道街にもお店を出させてもらいまして、平行してやっていたんですが、今はこちら一本です。

 

──新地の料理屋さんというと高級なイメージですが……。

 

松上さん:そうですね。ですから、食道街の中では一番お値段はいただいているとよく言われるんですけど(笑)、うちとしましては、あくまでカジュアルな価格でいい料理を召し上がっていただきたい。品物には自信があります。

 

──「奴」さん、「とり平」さん、と飲み歩いてきたんですが雰囲気がまた全然ちがいますね。

 

松上さん:それぞれのお店に個性がありますね。お客さんの取り合いになるような営業内容ではなくて、とにかく「街」に入ってきていただければ、あとは好きなお店に来ていただく。うちは、新地の料理屋のように、と言いますか、ここで大事な方の接待をされるお客さんも多いんです。ここに連れてくれば間違いない。恥をかくことはないと。新地の料理屋よりはザワザワしていて、電車の音も聞こえますけども(笑)。

 

──新地の料理屋さんがガード下にあるような感じなんですね。

 

松上さん:まさにそうですね。そういう風に使ってもらえたら嬉しいです。僕自身、新地のお店にいた料理長のもとでずっと修行させてもらっていて、いい素材をどう調理するのが一番かというのを学んできましたので。

 

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若い人にいかに入ってきてもらうか

──ところで「三起」でみつおきと読むこの屋号には由来があるんですか?

 

松上さん:「七転び八起き」からとっています。七回転んで八回起きるという言葉ですけど、うちは八回も起きてられへんと。三回ぐらいでいいやろという。先々代が新地でお店を始める時にそのようにつけました。

 

──なんだか粋なお名前ですね。松上さんにとっては新梅田食道街はどういう場所ですか?

 

松上さん:大阪、キタで最後に残る一等地ですね。ここに102軒も飲食店が入ってることに、どのお店もみんなありがたさを感じていると思います。雨が降っても風が吹いても傘がいりませんし、JR、阪急、阪神に地下鉄がすぐ近くです。とにかく職場からここまでたどり着きさえすればやれやれで、あとは自家用電車が待ってますんでね(笑)。美味しいものを食べて帰るだけですから。

 

──新梅田食道街は今年で70周年とのことですが。これからの三起さんの目指されるところはありますか?

 

松上さん:お客さんの生活スタイルが変わってきているのが感じられます。僕ぐらいから上の、いわゆる団塊の世代の方たちはとにかくお酒を飲むのが一番目っていう方が多かったですけど、今の方はもっと自分の生活のスタイルを一番大事にされている。飲むことや食事することも、生活の中に色々ある楽しみの一つになった。そういう時代で、若い人にいかに食道街に足を向けていただけるか、そのためにはどうしたらいいか、「街」全体で考えていかないかんと。全体もそうですし、もちろん個々もがんばっていかんなと思っています。

 

──新梅田食道街はやはり松上さんにとって「街」なんですね。

 

松上さん:そうですそうです。街とか村みたいな感じですね。昔ながらの長屋みたいなところもありますし。新梅田食道街は結束が固いんです。会長がいて僕がいて、「奴」の森山君が若者をまとめてくれていて、その右腕が「とり平」の中村君で。

 

──すごい! がっちりした組織ですね(笑)。確かにそういう付き合いは大きな商業施設ではないことかもしれないですね。

 

松上さんが毎日仕入れに出向いているというお魚の中から、おすすめだという「目板(めいた)かれい姿造り」(1,980円)をいただいた。

 

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賀茂鶴(800円)を常温でいただき、そこに合わせる。

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もうだいぶ酔ってきました。

目板かれいのぷりっとした歯ごたえと味わい、どう表現したらいいのかわかりません! とにかく美味しい。

 

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お魚料理に並んで評判だという「空芯菜炒め」(880円)は、イメージしがちなニンニクの効いたものではなくいたって淡麗、さっぱりした味わい。

 

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「このお店の空芯菜炒めは和の味付けなんです。女性にも人気です」と松上さん。

他にも、ボリュームたっぷりの「造り盛り合わせ」、油っこくなくライトな食感だという「串かつ」、評判メニュー「明石たこスタミナ焼き」などなど、自慢の品がたくさんあるという。

ご飯ものもたくさんあるので、締めにも最適とのこと。これはまた改めて訪れてみるしかないな。

 

店舗情報

三起

住所:大阪大阪市北区角田町9-26 新梅田食道街
電話番号:06-6315-9441
営業時間:15:00〜23:20
定休日:無休

www.hotpepper.jp

 

すっかり酔ってお店を出ると、当然だが自分は新梅田食道街の中におり、まだ宵の口というのにすぐそばには駅周辺を行き交う人々の姿──。

こんな雑踏の中に、ガード下の飲食店街が迷路のように広がっているということが改めて不思議に思われた。

 

長屋であり、百貨店であり、子どもたちが大きくなった村でも街でもあるこの空間。今回紹介した以外にも面白そうなお店がひしめいていたので、私はこれからも探索を続けます! みなさんもぜひ!

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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