©吉田貴司
『cakes』や『note』で話題になり、さる6月27日にはコミック第1巻(双葉社刊)が発売された漫画『やれかたも委員会』。
今回、『メシ通』でも作者の吉田貴司氏にメールインタビューを行い、作品が生まれた背景や、創作の秘密、食とクリエイターなどなど、あらゆる角度から35の質問をぶつけてみました。
『やれたかも委員会』について
【質問01】『やれたかも委員会』を描こうと思ったきっかけは?
描こうと思ったきっかけは結構いろんなインタビューで答えてしまっているので、重複しちゃいますが、友人とのささいな会話がきっかけです。女の子と2人きりでデートして、なんとなく帰ってきちゃってから、デートのことを思い出して、あれってなんだったんだろとか、もしかしてあのときこうしていたら、もっと深い関係になれたんじゃない? みたいな時ってあるよね。という話を友人としていて、そういうのをそのまま、漫画にしたら面白いんじゃないかと思ったのがきっかけといえばきっかけですね。
【質問02】『やれたかも委員会』のエピソードはどのように調達されているのでしょうか?
インターネットで募集をしています。この間第3回目の募集が終わったところで、たくさんいただいたので、これで2巻分も描けるかなーと思っています。体験談を読んでいて、自分の記憶が刺激されていろいろ思い出す事も描くために必要だったりします。
©吉田貴司
【質問03】『やれたかも委員会』の読者からはどんな反響が多いのでしょうか?
肯定的な意見としては面白かったとかキュンキュンするとか言っていただけますね。あとつらくて読めないとか(笑)。反対に否定的な意見としてはこの間「やれたかも委員会滅しろ」というブログが匿名ではてなブログにアップされて、プチ炎上みたいになっていたんですが、「やれたとかやれないとか男性優位の目線が下品で不快」というご意見もいただきます。結局このブログを書いた方は漫画を読んでいなくて、「やれたかも委員会」という言葉がネットで流行っている事に対しての怒りだったようですが、まあそういう人も絶対に一定数おられると思います。たたかれると傷つきますが、いろんな人に届いている証拠でもあると思うので、頑張りたいところです。
【質問04】登場人物の男女どちらも憎めないキャラクターです。ストーリー作りで気を付けていることは?
キャラクターを決めつけないようにはしている気がします。たとえば純情っぽい子も誘いをかけるし、遊び人っぽい子も一途な行動をとったりはすると思うのでその方がリアルではないかと思います。
【質問05】判定員のキャラはどうやってできあがったのでしょうか? 男性2人、女性1人にした理由は?
最初はすごく適当に決めましたね。でも描き進めるに従って、この3人じゃないといけないんじゃないかという気になってきました。ネーム段階で何回か別のキャラを用意したりもしたんですが、あまりうまくいかないようです。「男2女1」というのはまあ、日本の男性優位な社会を表しているような気がしますね。完全に後付けですけど。
©吉田貴司
【質問06】『やれたかも委員会』をドラマ化するとして、委員会の3名と第1回に登場する主演の男女は、どんな配役が理想ですか?
第1話に登場する男女ですか。男性はものすごい普通なんでじゃあ星野源さんで。女性の方はミステリアスな感じですから満島ひかりさんでお願いします。あんまり役者さんに詳しくないんですよ。すみません。
ヒットの背景について
【質問07】なぜここまで漫画がヒットしているのか、ご自身の分析は?
なんか皆さん「Web漫画発のヒット作」って言ってくださるんですけど、今のところ、特に売り上げ的にヒットしていないんですよ(2017年7月1日現在)。無料ではめちゃくちゃ読まれて知名度は上がりましたけど。僕としてはTwitterとかFacebookを使っている人は面白いものを常に探していて、そういう風な人たちにうまい具合にひっかかっただけと思っています。謙遜ではなく。
【質問08】やらせてくれた「かもしれない」女性の気持ち、どういうものを参考にしたり、あるいは取材で得たりされているのでしょうか?
エピソードを送ってくれた人たちに直接メールで詳しく聞く事が多いです。そのときどう思っていましたか? とか、正直してもいいと思っていましたか? とか、もし話しかけるとしたらなんて話しかけますかとか。皆さん結構真摯(しんし)に答えてくださっていて、すごく勉強になります。
©吉田貴司
【質問09】『やれたかも委員会』について、女性の側からすると「やれたかも」ではなく、むしろ「やらせなくてよかった」という意見も多く見受けられます。 そのあたりの男女の感じ方の違いはどのように感じますか?
奇跡的シチュエーションとかお互いの心境とかいろんな偶然が重なって、心と心がすごく近づいたりする時って人生にたまにあるみたいなんですが、その時に何も起きなかった場合、別れた後って男女で感じ方が全然違うんですよね。
男性は結構引きずる傾向にあると思います。「ああ、あのときなんで何もしなかったんだろう」とか。反対に女性は「思い出したくもない」とかそれこそ「やらせなくてよかった」とかそういう風に、「関係を切る方向の考え方」をする傾向が強いのではないかと考えています。まあ一概には言えないですけど。
【質問10】1話分のエピソードを作り始めてから公開されるまで、構想や取材を含めて全部でどれくらいの時間がかかっていますか?
今のところネタを選定して、ネームを描いて、原稿書いてとやってちょうど1カ月くらいです。
【質問11】作品の掲載媒体に『cakes』、『note』を選んだ理由は?
非独占の発表媒体だからです。いろんな出版社にお声掛けいただきましたが、どこの出版社の独占にもなりたくなかったんです。権利も縛られるし、インターネットがあればどこのサイトでやろうが面白ければ同じなんじゃないかと考えました。雑誌媒体の中に入ると埋もれちゃいそうだし。
【質問12】個人的な経験に基づいて描かれたエピソードはあるのでしょうか?
個人的な経験も要所要所に織り交ぜてますね。
【質問13】ご自身の今だから話せる「やれたかも」エピソード、差し支えなければ教えてください。
差し支えありますね(笑)。もう少し時期が来たらお話できるかもしれません。
【質問14】さまざまなエピソードを取材する中で「出会いの場」に時代の変化を感じていますか? あるいは時代に共通する普遍的なものはあるのでしょうか?
『やれたかも委員会』の読者がだいたい30代で、その読者の方がエピソードを送ってくれるので、どうしても彼らが青春期を過ごした2000年前半〜2010年ぐらいのお話が多いです。その頃の出会いって「2ちゃん」であったりmixiとかが流行っていたみたいですね。
そういうのは今はLINEが担っているんでしょうか。塾で一緒のクラスだったとか、インターンで一緒だったとか会社の後輩とかそういうのは普遍的な出会いなんじゃないでしょうか。
【質問15】いままでで一番お気に入りのエピソードは?
一番最近描いて『note』にアップしているバックパッカーの話が面白いと思っています。ちなみに『note』で200円で売っています。宣伝じゃないですよ。
【質問16】全国の「やれかたも」と後悔している男性女性に向けてメッセージを。
まあ思い返しても仕方ないので、なにかありましたらぜひ体験談を私あてにお送りください。よろしくお願いいたします。
©吉田貴司
漫画家という職業について
【質問17】漫画を描くときに一番気をつけているところはどんなところでしょうか?
自分が面白いと思った事以外は描かないということです。逆に面白いと思ったのなら絶対完成させようと思っています。
【質問18】ご自身でマンガ化してみたい作品(映画やアニメ、小説、ラノベなど)はありますか? またその理由は?
なんか最近村上春樹さんの『パン屋再襲撃』をバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)の作家さんがマンガ化したという記事を見かけたんですが、ものすごいワクワクしました。僕も仲間に入れてもらえないでしょうか。無理ですか? 絶対面白く描くので。本当にメール送ってみようかな。
【質問19】現在2人のお子さんがいらっしゃるとのことですが、子育てが創作活動に与えた影響はありますか?
子育てが直接影響を与えたかどうかわからないですが、この間ちょっと思ったのは独身のとき(随分昔のことですけど)は「今の若者文化においていかれてないか」というのを気にしていたような気がします。今は自分の子どもの方が今の女子高生たちよりも若いので、最新の情報を得られているという自信がちょっとあります。
【質問20】尊敬するマンガ家さんは?
師匠の佐藤秀峰さんなどお世話になった方はもうたくさんいます。でも尊敬となるとなんか違うような気がします。まあ尊敬していますけど、それだけじゃないというか。
【質問21】マンガを描いていて、一番楽しいとき、一番苦しいとき、はそれぞれどんなときでしょう?
描きながら思わず笑っちゃったりしたとき楽しいなあと思いますね。苦しいのは描いても描いても終わらないと思うとき。
【質問22】マンガを描くうえでのモチベーションはなんですか?
死ぬまでに全集みたいなのを作りたいですね。それぐらい作品数を残すことがモチベーションです。
【質問23】webメディア全盛の時代、漫画家が生計を立てるのに大事なことは?
コンテンツの権利をやすやすと預けたりしてしまわないことじゃないでしょうか。一番最初の漫画がないとはじまらないコンテンツビジネスがいっぱいあります。漫画最強説を信じましょう。
©吉田貴司
食生活について
【質問24】ご自身のパワーめし(力が出る、やる気が出てくる)は?
ものすごいタイミング悪くて申し訳ないんですが、いま糖質制限ダイエットをしているんですよ。1日糖質40gに絞っています。なのであんまりご飯のこと考えたくないですね。好きな料理は焼肉ですかね。
【質問25】お気に入りの飲食店などあれば教えてください。
そういう隠れ家とか全然知らないんですよ。アーバンライフ詳しくないんです。(チェーン居酒屋店の)「土風炉」です。好きなのは。
【質問26】ご自分で料理はされますか? 得意料理やこだわりのレシピがあれば教えてください。
チャーハンが得意です。漫画界で一番だと思います。
【質問27】ご自身にとって「思い出の食事」は?
ざっくりした質問ですね。思い出の食事? 何の思い出なんだろ。幼少期の思い出は、サッポロ一番醤油ラーメンですね。そういうことじゃない?
【質問28】これまで締め切り間際に食べてきた食事でも、とびきりの「修羅場メシ」を教えてください。
鶏肉とほうれん草を炒めてその上にチーズの入った卵をかぶせるオムレツみたいなのを最近よく食べます。糖質がなくていいんですよ。
©吉田貴司
漫画の中の食について
【質問29】『やれかたも委員会』をはじめ、作品中ではお酒の場面が出てきますが、異性と近づくにはお酒はやはり大きいのでしょうか?
お酒好きなので、お酒を飲む女性は好きですね。まあ飲まない人も好きですけど。
【質問30】食やお酒のシーンを描くときに心がけていることはなんでしょうか?
食べ方とかグラスの持ち方って女性っぽさが出たりしますね。ラーメンを食べるときに髪をかきあげたり、ストローでくるくる氷を回したり。そういうのをセクシーに描けたら楽しいですね。
【質問31】作品に登場した人物たちが女性を連れて行ったお店、食事メニューを振り返って印象的なシーンは?
第3話の焼きそら豆のシーンは担当編集者(男性)の人が気に入ってくれてましたね。「焼きそら豆食わねーわ。たしかに」って言ってました。
©吉田貴司
【質問32】「食」をテーマにした漫画を描くとしたら、どんなアイディアがありますか?
次回作は旅のルポをちょっと描きたいと思ってるので、食も関わってくると思います。ちょっと変わった切り口を思いついたので、『note』で公開したら読んでください。
【質問33】ズバリ、漫画家という職業にとって「食」とは?
いつまでも元気に漫画を描き続けられたらそれでいいので、おいしいご飯を食べられるように頑張ります。
今後について
【質問34】今後の単行本などの発売予定を教えてください。
『やれたかも委員会』のコミック第2巻を年末までに出したいと思っています。第1巻のセールスがふるわなければ、出ない可能性もありますが、電子書籍では必ず出します。よろしくお願いいたします。
【質問35】次回作の構想やイメージなどがありましたらお教えください!
次は旅のルポ漫画を描いて、そのあとはまたファンタジーっぽいものを描こうと思っています。でもいまは『やれたかも委員会』をとりあえず描き切ることだけに集中ですね。
ありがとうございました。
吉田先生、ご協力ありがとうございました!
※この記事は2017年7月の情報です。