【鉄道メシ】元オリエント急行シェフの並々ならぬ情熱と執念が、レジェンド寝台車「夢空間」を引き寄せた

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東京都心と下町エリアを結ぶ地下鉄東西線。

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首都圏有数の混雑路線ということもあり、他の路線と比べて幅の広いドア(ワイドドア)の車両が、多く投入されています。

その元祖・05系電車がデビューしたのは、昭和63年(1988年)秋のこと。

実はこれと時を同じくして、日本中を駆け巡った列車がありました。

その列車の名は……「オリエント急行」!

 

テレビ局・車両会社・鉄道会社がタッグを組んで行われた、今も思えば夢のような企画でした。

そんな夢の記憶がよみがえる場所があると聞いて、やってきたのは?

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東京・江東区、地下鉄東西線の木場駅。

3番出口から歩いて5分ほどの所に、昭和から平成に移り変わろうとするあの華やかなりし時代、あの時代だからこそできた豪華な車両と、日本中に夢をいっぱい届けた「オリエント急行」の味が楽しめるスポットがあるのです!

 

夢列車YES‘89がここに

首都高の木場出入口を越えたところに現れたのは、懐かしのブルートレイン!

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ただ、連結面こそ普通の客車っぽいですが、そのほかはビミョーにどこか違います。

屋根にはフランス国旗も掲げられています。

実はこの車両があるのは「アタゴール(A ta guele) オリエントエクスプレス」というフレンチのお店。

 

その店頭に置かれたこの客車の正体とは?

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「オロネ25 901」

この車番を見てピンと来た方、いらっしゃいますね。

国鉄時代からの24系25形客車で、「ロネ」となっているからA寝台客車。

900番台が付番されているので「試作車」……てなことじゃなくて!

 

ホラ、思い出してきたでしょう、平成元年(1989年)の横浜博覧会・YES’89を!! 

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日本で「オリエント急行」が走った翌年、JR東日本が寝台列車の新たな可能性を探るべく、横浜・みなとみらいで開かれた「横浜博覧会(YES’89)」で3両の試作車を展示しました。

「夢空間」と銘打たれた3両は、それぞれ3つの車両会社が製造し、内装は3つの百貨店が担当。それまでの寝台車をはるかに上回る豪華な空間は、“日本版オリエント急行”とも呼ばれました。

私自身、この年連結されたばかりの113系2階建グリーン車に静岡から乗って「YES’89」へ行き、その豪華な車内にとてもビックリした記憶がよみがえります。 

 

その後、「夢空間」は臨時の寝台特急「北斗星」などで活躍。

主に本州と北海道を行き来しながら、さまざまな臨時列車に連結されました。

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▲寝台特急「北斗星」(2007年撮影、千歳線・南千歳駅)

 

しかし、平成20年(2008年)に営業運転を終了。

4年後の平成24年(2012年)、「オロネ25 901」は「アタゴール オリエントエクスプレス」の開店に合わせ、この地にやって来たのです。

 

元オリエント急行のシェフが手がけるフレンチ

ではさっそく「アタゴール オリエントエクスプレス」へ入ってみましょう。

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店内へ一歩足を踏み入れれば、大きな窓の外にはブルーの客車の姿が!

 

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実はこちらの「アタゴール」、列車、ホーム、駅舎に見立てた作りとなっているんです。

その意味では、店内はチョットしゃれた“エキナカ”のレストランといった雰囲気かも。

それにしても、たった1両しかなかった「オロネ25 901」を眺めながら、おいしいフレンチをいただくことが出来るとは、何とも眼福。

まさに、この場が「夢空間」なのです!

 

まるで超豪華な食堂車

ランチコースは全部で4種類。

では、この日いただいた「ランチコース・Menu D」(5,900円)を、順を追ってご覧に入れましょう!

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▲アミューズ:日本海天橋立 アマダイのスープドポワソ

 

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▲オードブル:タスマニアサーモンと噴火湾の帆立貝のマリネ 2種のキャビアと2種のソースで

 

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▲ハーブとビーツ、2種類のソースでいただいていきます

 

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▲パンとバター

 

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▲魚料理:北海道のマフグ カダイフ包み焼きと、駿河湾 赤座エビの炙り焼き エゾアワビ セピアの彩り

 

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本格フレンチなのに、日本の食材もたっぷり使用!

洋の東西を結ぶ「オリエント急行」でシェフを務めた方ならではの“ニッポンのフレンチ”です。

いただいているだけでも、だんだん豪華な食堂車に乗っている気分になってきました。

 

メイン〜デザートも夢空間

まだまだ続きますよ。

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▲グラニテ:スイカシャーベット

 

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▲メイン:イベリコ豚 トントロのグリエ~オリエント急行より

 

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香ばしく焼き上げられたイベリコ豚をかみ締めれば、ジュワっとたっぷりの肉汁が。

脳に直接、肉の脂が染み込んでいく感じというのでしょうか。

この食感がたまりません!

添えられた温野菜もたっぷりで、一つ一つがしっかり本来の野菜らしい味わい。

メインにふさわしい充実ぶりです。

 

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▲デザート:“ラッフルズ”スタイル、巨峰とロゼワインのジュレ、バニラアイス添え

 

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以上、いかがでしたか?

 

ひと通りコースをいただいて思ったのは、正直、コレはめちゃめちゃ「お値打ち」!

思えば、「北斗星」のディナーでも「7,800円」+寝台料金(運賃)がかかりました。

加えて「夢空間」であれば、寝台料金だけで5~6万円台の価格設定でした。

それが今は、その10分の1の価格帯の料理をいただくことで、憧れの「夢空間」へ。

庶民でも少し背伸びすればちゃんと手が届く……。

まさに下町最大の「夢空間」なのです。

 

食後の1杯は超豪華寝台個室で

さあ、食後のコーヒーは「オロネ25 901」へ移動。

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お待ちかねのひと時がやってきました!

 

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「食後のコーヒーで、なぜ寝台車?」と思われたかもしれませんが、実はそこが「夢空間」ならではの素晴らしい活用法なのです!

 

実はこの「オロネ25 901」、すべて個室寝台の車両でした。

しかも1両にあった個室は、わずか3部屋!

在来線の車両は基本的には車長が20mあって、私たちが普段使う通勤用車両だと、乗車定員が150人前後で設定されています。

当然、乗車率200%などのラッシュ時はこの2倍、つまり300人近い乗客が1両に乗り込んでいる訳です。都心で毎朝のように見かける風景ですよね。

 

でも、この車両は!!!

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燦然(さんぜん)と輝く、寝台数6という数字!

最大300人近い人を乗せることが出来るスペースをたった6人で使うぜいたくがありました。

「デラックススリーパー」と名付けられたこの車両には、「スーペリアツイン」が2部屋、さらに「エクセレントスイート」に至っては1部屋しかなかったんです。

なんとゆとりのある車両でしょうか。

 

内装にはバブルの痕跡が

さらに、こちらのお店「アタゴール」では、食事を済ませたグループから、逐次これらの個室へ案内され、ゆったりとしたひと時を過ごすことが出来るのです(原則、事前予約グループのみ)

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かつて「スーペリアツイン」だった個室は、ベッドやバスなどの寝台車ならではの設備は撤去されているものの、窓回りなどは、寝台車の雰囲気がしっかり残っています。

この車両、後に生まれた「カシオペア」の先駆けとなったといわれていますが、思えばこの「オロネ25 901」、1989年当時としては画期的な「バスタブ」があった車両なんですよね。

恐らくはこの車両で培われた「列車に湯船を作った際に起こること」に対する、さまざまなノウハウがあったからこそ、2010年代に入って、山形新幹線に「とれいゆつばさ」という足湯新幹線が出来、さらには、今年(2017年)デビューした豪華列車「トランスイート四季島」では、ヒノキ風呂へと進化を遂げることが出来たのではないかと推察します。

その意味では「オロネ25 901」の果たした功績は、実に大きい!

 

今回は1室だけの「エクセレントスイート」に通していただきました。

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個室内は2部屋あって、奥のかつて寝室だった所に設けられたテーブル席でつくろぎます。

 

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コチラはかつてベッドの枕元にあったんでしょうね。

食堂車などに通じていたと思われる電話機のサイズが大きいのが、バブル感を漂わせます。

思わず、受話器を取って「しもしも~!」とかしゃべりたくなっちゃったり!?

 

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ただ「夢空間」が実際の列車として走ったことは少なく、「デラックススリーパー」の3室自体もかなりのプレミアチケットだったはず。

幸運にも「夢空間」に乗車出来た人たちも、ダイニングカーで食事をいただき、ラウンジカーでのんびりとリラックスした後、自室に戻ってさらにゆったりとしたひと時を過ごしたことでしょう。

その意味では引退した今も、同じような役割を果たしている「オロネ25 901」は、とても“幸せな車両”と言えるかもしれません。

 

JRを口説き抜いて得た伝説の一両

「アタゴール オリエントエクスプレス」のオーナーシェフ・曽村譲司(そむら・じょうじ)さんにも話をうかがいました。

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曽村さんは、ホテルオークラや在ベルギー日本大使館などで料理人を務めた後、日本人で唯一「オリエント急行」のシェフを務めた人物です。

そんな曽村シェフに、「アタゴール オリエントエクスプレス」に懸けた思いとは?

 

──  お店が出来てどのくらいですか?

 

曽村シェフ:平成24年(2012)年ですので、もう5年くらいになるでしょうか。それまで恵比寿でお店を開いていたのですが、木場へ移転するにあたって、この車両と共にやってきました。

 

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──  「夢空間」をお店に置きたいということも発案されたそうですね?

 

曽村シェフ:新たにお店を作るにあたって東京の真ん中で「ありえない」ものを作ろうと思いました。それでいて、フレンチであっても、家族連れでみんなが気に入ってくれて、長くお客さまに愛されるお店にしたいと考えていました。

そんな時、「日本版オリエント急行」とうたわれた車両が、廃車を迎えるという話を聞きました。これは“ご縁”だと思い立って、日本人で唯一「オリエント急行」のシェフを務めた経験がある私のお店に置くことは出来ないかと思い、ダメ元でJR東日本の本社へ企画書を持って行ったんです。

もちろん、スグに通ることはありませんでした。でも、何度も何度も企画書を書き直して、ひとりで新宿にある先方のオフィスへ通い続けました。その中でJRさんもたった1両しかない車両ということもあり、博物館等に置くより有効活用してもらえるのではないかと考えていただけるようになり、木場にやって来ることになったんです。

 

──  お店のこだわりは?

 

曽村シェフ:やはり、「自分らしい料理」で勝負したいと思っています。たとえ失敗しても、納得するまでやりたい。もうココで死ねたら本望ぐらいの気持ちで作っています。そうして出来た料理を通じて、フレンチのすそ野を広げていきたいと思っています。

私自身、東京の下町である柴又出身なので、別に肩肘張ったコース料理じゃなくてもいいと思うんです。好きな時にこの車両を目印に来て、自分が食べたいものをアラカルトで頼んで、気軽にフレンチを楽しんでいただけるお店でありたいと思います。

 

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日本で唯一オリエント急行のシェフを務めた曽村さんのお店「アタゴール」の移転と、日本版オリエント急行こと「夢空間」の引退の時期が重なったことで生まれた奇跡。

この奇跡を呼び込むために、曽村シェフの並々ならぬ情熱がありました。

ココは、私たちにとっては手軽に豪華列車気分が味わえる「夢空間」であり、曽村シェフにとっても自らの夢をかなえる空間。

懐かしの豪華列車「夢空間」は、今なお、東京・木場の街角で“夢空間”であり続けているのです。

 

お店情報

アタゴール

住所:東京都江東区木場3-19-8
電話番号:03-5809-9799
営業時間:11:30~13:30、17:30~21:30
定休日:火曜日
ウェブサイト:http://www.atagueule.com/

www.hotpepper.jp

※この記事は2017年10月の情報です。
※金額はすべて税込みです。

 

書いた人:望月崇史

望月崇史

1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

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