鉄道BIG4のホリプロ南田裕介マネージャーに聞いた「仕事と趣味を両立させるには」【公&私の相互乗り入れ】

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新年度のスタート、新しい仕事に就いたり、部署や担当が変わると、慣れるまでがひと苦労ですよね。仕事でいっぱいいっぱいの時、癒してくれるのが、ささやかな「趣味」の時間です。

やっぱり、仕事と趣味は、両方楽しんでナンボのもの。

今回は、大好きな「鉄道」の趣味を見事、仕事にも活かしている鉄道BIG4のひとり、南田裕介さんにインタビュー。株式会社ホリプロのマネージャーというれっきとした会社員でありながら公私を両立させる、究極の「鉄分補給」術をうかがいました。

もちろん、『メシ通』なので食べ物の話も出てきますよ! 

 

話す人:南田裕介(みなみだ ゆうすけ)さん

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奈良県出身。静岡大学卒業後、ホリプロ入社。マネージャーとしてタレントのプロデュースをするかたわら、自らも鉄道BIG4のひとりしてさまざまな番組やイベントに出演している。

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国鉄にシビれた少年時代

── 最初に鉄道の話からうかがいます。そもそも南田さんが最初に出合った鉄道って何ですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain元々は奈良市出身で近くを走っていた近鉄電車を観たのが最初の鉄道との出合いです。本格的に鉄道趣味が花ひらいたのは、同じ奈良県の大和郡山市に引っ越してからですね。国鉄(現JR)関西本線の大和小泉駅に近い所で、学校からも線路が見えていて、放課後、家にランドセル置いたら、駅に行くような生活をしていました。当時の関西本線は、1時間に3本の快速のほか、1日3本くらい貨物列車も運行されていました。

 

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── 関西というと私鉄王国の印象がありますが、ご自身はあくまで「国鉄」に注目していたんですね?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plainやっぱり、国鉄のパワーってすごいんですよ! それを初めて知ったのが、昭和57年(1982年)の台風10号の時です。大和川水系の川が氾濫して関西本線・王寺駅の電留線が水没してしまい、そこにたくさん止めてあった電車が、一気に走れなくなってしまいました。「これはやばいぞ!」となった時に、国鉄は首都圏の武蔵野線などを走っていた101系電車を急きょ、関西本線に引っ張ってきたんです。オレンジや黄色の車両が混じってやって来て、しかも塗装を変えることなく、走っていました。

 

── 確かに、それは(当時の)国鉄じゃなきゃできない。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain関西本線は湊町(現JR難波)まで行くので、同じオレンジの大阪環状線との誤乗防止のため、「関西線」というステッカーを貼っていたのも印象深いですね。

※ちなみに、昭和57(1982)年の台風10号は、筆者にとっても印象深く、私が暮らしていた静岡では、東海道本線・富士川橋梁の下り線が流失する被害が出てしまいました。この時の国鉄も流失を免れた上り線の鉄橋を使って、極めて短期間のうちに単線で運転を再開、今にして思えば、日本の東西を結ぶ物流を止めないよう、必死の努力だったと思われます。(ライター・望月)

 

── 面食いなんて言葉がありますけど、子どもの頃は車両の「顔」も重要だったりしますよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain小学校の終わりくらいにまた引っ越したので、電車通学をするようになりました。これが最高でして、103系と113系電車で通うんです。特に113系電車には非冷房車、冷房車、そして2000番台3つのパターンがありました。この3つから「今日はどれなんだ?」というのが、いつもすごく楽しみで。もちろん、顔も違いがあって、原形ライトの大きな車両と、シールドビーム化されたライトが小さな車両もありましたし、あと2000番台だけ、タイフォン(警笛)に比べてライトの位置が低いので、顔が「タレ目」なんですよ。

 

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▲2017年まで大阪環状線で活躍した103系電車。101系電車はこの前身(写真:ライター望月)

 

── はい、あれがなんとなくチャーミングでした。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain2000番台は、運転席の後ろの横の窓が1枚という特徴もありました。さらにボックスシートの横の手すりが角なんですけど、非冷房の車両などは丸だったり……。やっぱり、当時の113系2000番台はカッコよかったですねぇ(と、しみじみしながら)。

 

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▲113系電車2000番台(東海道本線・由比駅、2006年頃撮影)。ライトが横の警笛より下がっているので「たれ目」。当時の関西本線では朱色の塗色だった(写真:ライター望月)

 

 

打ち合わせを貨物列車の時刻にそろえる

── 鉄分をたっぷり含んで育った南田さんですが、今も純粋に趣味で列車に乗ることはあるんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain主に仕事までの時間を、趣味にあてるようにしています。例えば、横浜の放送局で仕事ですと、東京横浜間はいろんなルートがありますよね。その「行き方(ルートの選び方)」を趣味的に楽しむようにしているんです。小移動自体を楽しむほか、打ち合わせの時間設定を鉄道のダイヤに合わせて組むこともありますね。

 

── 具体的にはどんなノリなんでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain例えば、埼玉大宮で打ち合わせする際は、なるべく「11時15分から」に時間を設定することがあります。実は11時過ぎに、大宮を配給の貨物列車が通過するんです。それがまた放送局にたいてい1人は鉄道が好きな方がいらっしゃるんですよね。その方を「チョット線路を見に行きません?」と誘ってみるという。そんな感じで、使われなくなった車両を輸送する「廃車回送」を見に行ったこともあります。

※配給の貨物列車のこと。鉄道会社が社内で必要なものを運ぶために運行される列車。部品を運んだり、新型車両、廃車される車両など、運行目的は多岐にわたる。

 

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▲EF65形電気機関車がけん引する甲種輸送列車。貨物ファンにはおなじみの存在だ。東海道本線・根府川~早川間(写真:ライター望月)

 

── さ、さすがです。仕事のスケジュールと運行の時刻表を常にすり合わせているんですね。となると今注目しているのは、やっぱり貨物列車だったり?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain実は今、貨物列車が面白いですよ。貨物は、結構「毒」とか「燃」と表記された「危険物」を運んでいるんです。しかも、その危険物を「安全に」運んでいるのがすごい! あと、食料品も面白いですよ。この間なんか「練乳専用」と書かれたコンテナ列車を見ましたし、ウィスキー専用の貨物もあるんです。普段、一般のお客さんは利用しないのでよく分からないと思いますが、貨物列車は暮らしにとても密着しているんです。

 

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▲「毒然」と書かれた文字が。貨物の世界は奥深い(写真:南田裕介氏)

 

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▲こちらは練乳専用の貨物。普段何気なく目にしているものでも、見方を変えると俄然世界が広がる(写真:南田裕介氏)

 

 

イチオシ鉄道メシは「駅パン」

── さきほど「食べ物」が出てきましたが、『メシ通』的にはやはり南田さんおススメの鉄道グルメが気になります。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain個人的にイチオシは「駅パン」ですね! 駅で販売するパンには2種類あって、1つは都市部の駅に多い、ベーカリーの焼きたてパンを売っているお店。こういうお店の中には、ご当地パンを売っているお店もあって、見つけると楽しいんですよ。JR常磐線の勝田駅で見かけた「勝田あんぱん」なんかがそうです。

 

── パンとは、ちょっと意外でした。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain駅パンのもう1つは、ご当地ならではのメーカーが出しているパンです。

その最たるものが、青森の「工藤パン」が出している「イギリストースト」ですよ。鳥取にある亀井堂のマイフライなんかがそうですね。こういうのが、駅の売店で販売していたりします。あと、ぜひ訪れておきたいのが、駅前にあるスーパー。スーパーをのぞくと「えっ、こんな名物があるのか」「こんな魚がいるんだ」という驚くことがよくあります。

 

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青森のご当地パン「イギリストースト」。バックに映るのは青函トンネル(写真:ライター望月)

 

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▲ 「イギリストースト」を作る「工藤パン」の発祥は、昭和7年(1932年)、青森県むつ市のJR大湊線・赤川駅前にできた小さなパン屋さん。戦後になって青森市内に進出、「イギリストースト」が超ロングセラーとなった。マーガリンとグラニュー糖の絶妙なハーモニーが評判で、ジャリっとした食感が特徴。最近では、このジャリジャリ感にこだわったスペシャルバージョン「もっとジャリ増し」も登場。もちろん、新青森駅構内のコンビニにも置いてあるので、新幹線を下りたらまずはチェック!

 

 

趣味が仕事の幅を広げてくれた

── 鉄道BIG4のひとりで知られる南田さんですが、あくまで本業はマネージャーですよね。鉄道ファンとしての南田さんしか知らない一般の人たちは「この人普段本当にちゃんと仕事してるのかなぁ」って思っていたりするのでは……。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plainはい。今の仕事の話をしますと、私の部署では58人のアナウンサーをマネージャー4人で分担しながら担当しています。で、ホリプロのアナウンサーというのは「個性派」メンバーぞろいなんですね。というのも、アナウンサーの事務所としては後発組なので、それぞれのアナの個性を活かしていくやり方でセールスしています。そんな中で、趣味の業界って、思いのほか仕事につながりやすいということに気が付いたんですね。鉄道はもちろんですが、私の好きな野球や釣りといったジャンルの番組に、それぞれ得意なアナウンサーを売り込んだりしています。

 

── 南田さんが言うと、妙に納得してくるから不思議です。その意味では「趣味ビジネス」みたいなジャンルを開拓してきたという自負もあるのでは。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plainいや、私が切り開いた感覚はないんですが、ホリプロにはプロレスが好きなマネージャーもいて、その人はアイドルにプロレスをさせたりしていました。そういった先例もあっての、今の“社風”なのかなと思っています。

 

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── ご自身の職場では、どんなタレントさんを担当されたのでしょうか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain私自身は以前、豊岡真澄というタレントを担当しました。彼女には元々ガンダムが好きだったり、そういった(オタクの)素養みたいなところはあったので、私が鉄道に関する仕事を、全部彼女に振ったのがそもそものきっかけです。その中で、カレンダー発売記念イベントを開くにあたって、上司から何か企画を考えろと言われまして。悩みに悩んでいろんな企画案を出したんですが、その中で「都電荒川線(現・東京さくらトラム)の中でサイン会を開く」という企画を考案したらそれが見事に通ったんですよ。そこから、私自身も楽しんで(鉄道ネタの)企画書を書けるようになりました。

 

 

趣味は「公言したモン勝ち」

── 世の中には、仕事と趣味の境界線で悩む人は意外に多いと思うんですよ。どっちを大事にすべきかとか、どこで区切りをつけるかとか。南田さんの場合は……。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain「仕事と趣味の違い」って「淡水と海水の違い」みたいなもんですよ。やっぱり、この仕事であれば「汽水域」(淡水と海水が混在した状態)で生きていかないと。フツーのことやっても、注目されませんからね。

 

── 「汽水域」、うまい例えです!

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plainある年の8月、寝台特急「北斗星」が最終運行する日がありました。実はこの日、ホリプロでは社員全員参加のイベントが入っていたんです。でも、この時ばかりは「最終列車(のチケットが)取れたなら、それはそれで財産になるので、行ったらええやん」と上司が言ってくれたんです! そういう意味でも境界線を作らず、淡水魚であり、海水魚でもいられるような環境づくりになっているのは、ありがたいなぁと思います。

 

── 鉄という趣味をやってて良かったなぁと思うことは?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain趣味が合うことで、取引先の方と身近になれること。身近になり過ぎて、時々セールスを忘れちゃったりすることもありますが、おかげさまでネットワークは広がりましたね。芸能系じゃない、普通のお仕事をされている方でも、例えばゴルフ好きな方だったら、休みの日に(取引先の方などと)一緒にコースを回ったりするじゃないですか。あれと一緒です。私の場合、1次会はお店、2次会は駅のホームで電車を見て……とかやったこともありますよ。

 

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── 趣味を人付き合いの軸にするのは見上げたものですよ。ところで南田さん的に「これだけはしないと決めていること」ってあります?

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plainはい。

  1. 鉄道模型の改造はしない(不器用なので)
  2. 全線制覇はしない(老後の楽しみにしたいので)
  3. 無企画乗車はしない

無企画乗車、つまりフラっと乗るようなことはしないで、計画や目的、テーマを決めて乗るんです。これは1年目に当時の上司からの影響も大きいですね。「われわれはエンターテインメント業界の仕事なので、企画性のないことはやるな」的なことをずっと言われていたので。

 

── なるほど。では最後に仕事と趣味を両立させる秘訣(ひけつ)を教えてください。

 

f:id:Meshi2_IB:20180403184745p:plain堂々と趣味をやることだと思います。TOEICとかマラソンなどと同じで、自分の趣味を周囲にハッキリ公言することでしょうかね。それによって自分が豊かになり、その人の魅力にもなります。魅力があれば輝きますから、社内外で「アイツと一緒に仕事したい」と思われるようになるはずです。今はオタクであることが、重宝される時代ですからね。周りは分からなくても「楽しそうじゃん」と思ってくれますから。「バカだねぇ~」って言われてナンボですしね。

 

── なるほど。公言したモン勝ちということですね。愉快なお話、どうもありがとうございました!

 

国鉄がJRになった30年あまり前、「鉄道が趣味」ということが周囲に知られると、どちらかというと、肩身の狭い思いをしたものです。

しかし今、それぞれのスタンスで、自由に「鉄道が好き!」と言える世の中となりました。南田さんは、そんな空気感の醸成を担ってきた1人ではないかと思います。しかも、そんな「好き」を仕事にも活かしているのは周知のとおり。

というわけで全国の趣味人の皆さん、ぜひともご参考に!

 

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書いた人:望月崇史

望月崇史

1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

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