謎のライブハウス「大久保水族館」は元寿司屋だった

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ライブハウスなのに「水族館」?

JR新大久保駅から徒歩3分。

雑居ビルの地下一階に、「大久保水族館」というお店があります。

薄暗い店内には壁一面に水槽が広がり、アロワナや熱帯魚が悠々と泳いでいます。

 

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でもここ、水族館ではないんです。

水槽に囲まれて演奏と食事、お酒を楽しめる「ライブハウス」なのです。

しかも、お客さんやミュージシャンたちによると、「ライブハウスなのに、マスターの料理が絶品」で評判とのこと。

 

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いったいどんなお店なのか気になりますね。

マスターの山下真二氏に話を聞いてみることにしましょう。

 

前職は「ロケ弁屋さん」だった

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──お客さんにも出演するミュージシャンたちにも大人気のお店ですよね。お料理が絶品だとあちこちから聞きますよ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:ありがとうございます。やっとここまで来たかという感じです。先代から引き継いで3年、がんばりました。まずはこれどうぞー。

 

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▲1品目「からあげ」(600円)

 

──これ、下ごしらえに手がかかっていそうで、ひと味違いますね。味がしみてて、コクがあっておいしい。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:そうなんです。3日かけてオリジナルのタレをしみ込ませるので、ここまでコクが出る。かといって、味が濃いわけでもないでしょ。レシピの秘密は生卵。あとはナイショ。

 

──マスターもバンドマンなんですよね。この店の先代の山下マスターとはどこで知り合ったんですか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:同じ名字なので、兄弟? とかよく聞かれるんだけど、まったくの他人なんです(笑)。店はもともと違う場所にあって、移転してきたんだよね。同じ新大久保で、本格的なお寿司屋さんだった。だからこのカウンターは、寿司屋の名残りなんだよ。

 

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▲ドリンクはだいたい500円(税込み)

 

20年の歴史は魚たちとともに

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:板前さんがいて、カウンターにはネタが並んでた。こう、常連さんがずらっと座ってて。当時は月2回くらいライブの日があったの。オレも出演してて、先代の山下さんと仲良くなった。そのうち毎日ライブが入るようになって、みんなお酒を飲むようになって、寿司を注文するお客さんが減ってきた。
だんだんライブバー寄りになってきたんだよね。前マスターも勉強して寿司が握れるようになってたんだけど、なにしろ注文が入らないから。寿司をやめて、ライブに力を入れることにして移転したんだ。でも、残念なことに、山下さんは音楽があんまり好きじゃなかった(笑)。

 

──先代マスターって元証券マンでしたよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:そう。慶応出身の。爆音が苦手なのにライブバーをやるという(笑)。音響とかも興味ないから、PAはミュージシャンまかせ。極めつけは、トイレの前にステージを作っちゃった。だからステージを通らないと用を足せない。演奏中でも通っていくしかない。

 

──それ! 初めてライブを見に来たとき、私もステージを横切ってトイレに行きました(笑)。今でもあの気まずさを覚えてます。

 

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▲2品目「真二焼き」(500円)

 

──真二ってマスターの名前ですよね。肉豆腐みたいな感じでしょうか。いただきます。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:どうぞー。ニヤニヤ。

 

──……! なんですかこれ。初めましての味です。ピリ辛でいて、コクとうまみが後から後からやってきます。和食でもない、中華でもない。不思議なおいしさですね。キュウリがいい仕事してくれてます。びっくりしました。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:でしょ。これは大人気のメニューです。オレのオリジナル。

 

──レアな味ですね。お酒が進みます。これは教えたくないなー。よくある具なのにこんな味に仕上げちゃうって高度すぎますね。さて、2代目オーナーになって3年ということですが、以前は有名ロケ弁屋さんでシェフをされてたんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:そう。調理だけでなく、メニュー開発から仕入れから経営までひと通りやっていました。チエちゃん(※筆者)の書籍の撮影現場にも、ロケ弁の配達でお邪魔したことがあったよね。

 

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──はい。当時はお世話になりました。お弁当もスタッフに大好評で。あれ、誰か来ましたよ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:あ、もえちゃん。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828184937p:plainもえ:水族館スタッフの網戸もえです。はじめまして。

 

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f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:手伝ってもらってるもえちゃん。ミュージシャンなんだけど、寿司も握れるんだよ。

 

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▲お寿司も握れるもえちゃん

 

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▲3品目「おまかせ寿司」(500円)生ハム・カニカマ・シーチキン・ねぎとろ・玉子

 

──もえちゃんのお寿司、美しい。ミュージシャンって料理上手な人多いですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828184937p:plainもえ:以前はお寿司屋さんで働いてたんですよ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:和食の素地ががっつりとあるので、安心して任せられます。

 

「オレがやるから、安心して任せてくださいな」

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▲4品目「おまかせ助六」(500円)サラダ巻・五目いなり

 

──おいしい。演奏を聴きながらの助六寿司って新しい感じ。では、店を受け継いだ経緯を教えてください。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:もともとは出演する側だったのは話したよね。俺の奥さん(ミュージシャン)も毎月この店に出ていて。先代の山下さんとは夫婦そろって長い付き合いだった。あるとき、店で山下さんが倒れて救急車で運ばれたんだ。しばらく入院することになって、そのあいだ代理で店を任されて。

 

──そんな経緯があったんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:で、退院してお店には復帰したんだけど、再び体調を崩してしまって。先代がお店を休んでいる間はオレが店を守って……そんなことが何度も続いたんだよね。結局、山下さんは店を引退して静養することになった。自分が育ててきた店をやめるなんて、辛かったと思う。だから言ったんだ。「オレがやるから、安心して任せてくださいな」って。

 

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▲現役ロックバンドのボーカルさん。似合いそうなのでジュリーっぽいポーズを取ってもらいました

 

──お店を継ぐことについて奥さんには相談したんですか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:うん、もちろん。話したら、さらっと「いいんじゃない?」って。拍子抜けだったね(笑)。

 

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──奥さんすごすぎますね。お店もリニューアルしてるから、かなりお金もかかってますよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:うん。まず、厨房がぐちゃぐちゃだったから、そこは料理人として許せなくてリフォームした。冷蔵庫から新しくして。あと、ミュージシャンとしては音響も許せなくて(笑)、PAのシステムを一新したよ。

 

初心者バンドから有名ミュージシャンまで出演するハコ

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▲カウンターの水槽には亀が。名前は小吉。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:あと、問題のトイレへの導線はカーテンで仕切って、ステージと区切りを付けた。工事に1ヵ月かかった。お金もそれなりにかかってるよ。おかげでいい箱になった。だから、奥さんには頭が上がりません(笑)。

 

──以前はあんなに愛すべきダメダメなライブハウス(失礼!)のイメージだったのに、今では音響もサイコーで料理サイコーの店になったんですね。こんなに変わるとは驚きです。

 

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▲会場の爆音とともに育っている魚たちも元気

 

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▲5品目「カツカレー」(500円)

 

── 一見普通のカツカレーなのに、やっぱり深い味わい。しかも、しっかり辛いです。おいしい。

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:フフフ。これもオリジナルの秘密レシピです。ほかでは食べられない味でしょ。

 

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▲愛用の雪平鍋とともに

 

f:id:Meshi2_IB:20190828182227p:plain山下:この店のいいところは、初心者が出演しやすいようにチャージ料金を自由に決められるところ。無名の初心者バンドでもドアをたたきやすいようにしています。一方で、超有名なベテランミュージシャンも定期的に出演してくれている。幅広い出演者が自慢です。
来てくれれば、お気に入りのミュージシャンがきっと見つかると思います。おかげさまでほぼ毎日、ライブをやってるよ。日本一愛されているライブハウスなんで、日本一おいしいものを出さなきゃって思うんです(笑)。これからも料理に音楽に全力を注いでいきますよ!

 

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▲6品目「カシスミルク」(600円)冷凍イチゴが浮かんだかわいらしい外見と味

 

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▲7品目「アセロラinアセロラハイ」(600円)

 

アセロラハイは甘酸っぱいヘルシーなお味。

この日出演していた人とマスターに、おっさんずラブな感じで飲んでもらいました。

 

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▲山下マスターと奥様。いつもラブラブです

 

すっかりお腹も大満足。

ライブハウスでこんなにおいしいものが食べられるとは思ってなかったので、驚きでした。先代もご自宅で静養しつつ喜んでいらっしゃることでしょう。

 

 

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真面目で研究熱心な山下マスターは、閉店後、何時間もかけて料理の仕込みをしているらしいのです。奥様のためにも、無理せずに。

健康で夫婦末永く「大久保水族館」を盛り上げていってほしいと思います。

また「真二焼き」食べに行きます!

本日はご馳走様でした。

 

お店情報 

大久保水族館

住所:東京新宿区百人町1-10-7 B1
電話番号:03-3362-3777
営業時間:18:00~24:00
定休日:不
ワンドリンク付き1,500円より(ライブにより異なります)

twitter.com

 

書いた人:逸見チエコ

逸見チエコ

ライター、イラストレーター、まんが家、猫カメラマン、ボサノヴァシンガー。主な著書に『猫カフェめぐり~あの猫に会いにでかけよう~』(エンターブレイン)『まちの看板ねこ』(宝島社)などがある。横幅の広い顔の猫が好き。

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