皆さんはラーメンクリエイターという職業をご存じだろうか?
知らなくてもムリはない。日本全国、星の数ほどいるラーメン店の人間の中でも、その名を名乗るのはこの男1人しかいないのだから……。
庄野智治、36歳。
東京・市ヶ谷「麺や庄の」を皮切りに、都内に5店舗のラーメン店を経営する株式会社麺庄の代表取締役。同時にラーメンクリエイターとして日夜、創作ラーメンの開発に勤しんでいる。
名刺の肩書きも、むろん「ラーメンクリエイター」だ。
そんな、これからのラーメン界を背負うであろう異端児のインタビューをどうぞ!
独学&弱冠25歳で念願のラーメン店を開業したものの……
── 今年で最初のお店「麺や庄の」(市ヶ谷)をオープンしてちょうど10年目ということですが、何がきっかけでこの世界に?
庄野:もともと小さい頃から料理が好きで、友達の家に遊びに行くと勝手に冷蔵庫の中にある食材を使って料理を作っていました。高校生の時からは、家で趣味としてラーメンを作っていたりもしていて、遊びに来た友達に味噌ラーメンを振る舞ったことがあったんです。その時に味を絶賛されて「俺、才能があるかも?」と自信を持ったのがきっかけです。今思えば「原価高すぎだろ!」などツッコミ所山盛りの味噌ラーメンでしたが(笑)。
── そこからどのようにしてお店を開いたんでしょう。
庄野:高校卒業後、大学は経営学部に進学することにしました。ただ、経営を学んでいく中で早くラーメン自体を作りたくなって……2年半程で中退してしまいました(笑)。
それから、建築関係で働いて開業資金を貯めて、25歳の時に東京・市ヶ谷に『麺や庄の』をオープンしました。建築の仕事の経験から、塗装などをある程度じぶんでやれた分、かなり費用を節約できました。おかげで借金などはせずに済んだんですが、家系は警察なので開業の際は大反対されましたね(笑)。
── ちょっと待ってください! ということは、独学でいきなり開業したのですか?
庄野:「家でよくラーメンを作っていたから」という自信もあり、どこかのお店で修業するといったことは考えませんでした。正直、有名店主さんに対しては憧れというより、ちょっと生意気ですがライバルみたいな感情もありましたし、既存のお店の型にはまってしまうのは嫌だなと思ったので。
── 失礼ですが……この業界そんなにうまくいくものではないですよね。
庄野:最初はまるでうまくいかなかったです(笑)。チラシで大告知したのもあってオープン日にかなりの大行列ができていたのですが……。開業にあたり準備する事がありすぎて、肝心のラーメンが完成できていなかったので、お客さんに謝ってオープン日を延期しちゃったんです!!!
── いきなり試練が訪れた、と。
庄野:そのせいもあり、さらにハードルがあがってしまった割には、なかなか満足していただけるラーメンはできず……。さらに、ラーメンの作り方は分かっていましたが、管理方法が分からなかったんです。その日に自分で美味しいと思ったスープでも、温度管理ができていなくて、次の日になるとマズイものに変わってしまっていたり。それまでラーメン店で働いたこともなかったので、そんなことも知らなかったんです(汗)。
── 独学ゆえの苦労ですね……。
庄野:味だけじゃなく、排気やエアコンの導線がラーメンの湯気を考慮したものじゃなく、店内が熱気に包まれるという最悪の環境だったんです。前の物件がカレー専門店(居抜き)だったんですが「カレーで大丈夫ならラーメンも同じだろ〜」なんて思っちゃって、完全にナメていましたね(笑)。汗だくなお客さんが次々とラーメンを残していき、すぐにリピーターがゼロ状態になっていました。それでまず内装をしっかりした造りに変えて、毎日お客さんが少ない中でも感想を聞きながら味を直して改良を重ねていきました。
そんな日々が1年くらい続きましたが、ようやく店の前に行列が出来ていたのを見た時は嬉しかったですね。最近はメディアなどにもよく取り上げていただき、家族も少しは認めてくれたのかなと感じています。
▲これが改良を重ねて生まれた定番メニュー、特製つけめん(990円)。現在、東京・市ヶ谷「麺や庄の」にて提供中
創作ラーメンを続ける理由は「客を飽きさせないため」
── ところで「ラーメンクリエイター」という肩書きに至るきっかけを教えてください。
庄野:毎月「創作ラーメン」というものを作っていまして、ある時に福井のラーメンイベントに出店した際、それについて語っていたら「クリエイターみたいだね」と言われたのがきっかけです。「クリエイター」ってなんか格好いい響きですし、こういう肩書きって言ったもん勝ちだろう……みたいな思いもあったので(笑)。
── 毎月、創作ラーメンをリリースするお店もなかなか聞いたことない話ですよね。
庄野:少しずつ安定してお客さんも来てくれるようになった頃「たとえ美味しいラーメンでも、毎回同じものばかりだとお客さんに飽きられないかな?」と思ったんです。そこで、月ごとにお客さんを飽きさせないように、今まで食べたことのないようなラーメンを提供しようと考えて創作ラーメンを作りはじめました。
── 毎月どのように創作のアイデアを?
庄野:基本的には季節の食材ありきで考えます。開業当初から「その季節ごとの旬の食材の美味さをラーメンで表現したい」という考えもあったので、産地などにも実際に足を運んでその時に美味しい食材を探していますね。稀にイベントやお客さんからのリクエストに合わせて作ったりもしています。
見かけも味も斬新!オリジナリティ満点の創作ラーメン
では、ラーメンクリエイター・庄野氏がこれまでに手がけた、オリジナリティあふれる斬新な創作ラーメン作品の数々をどうぞ。
▲生姜薫る‼︎海老クラムチャウダーつけ麺(東京・市ヶ谷、麺や庄のにて2014年冬提供。現在は終了)
▲ブラウンマッシュルームつけ麺(東京・市ヶ谷、麺や庄のにて2014年春提供。現在は終了)
▲チョコつけ麺(東京・市ヶ谷、麺や庄のにて毎年バレンタインシーズンに提供。現在は終了)
▲フォアグラ鶏白湯(東京・新宿御苑前、麺や庄のgotsuboにて2015年1月に提供。現在は終了)
▲冷やし麺 羊とトマト(東京・後楽園、MENSHO TOKYOにて2015年夏に提供。現在は終了)
▲冷やっと辛い!油そば(曙橋、油そば専門店GACHIにて2015年夏に提供。現在は終了)
▲鰹の冷汁つけめん(東京・市ヶ谷、麺や庄のにて2015年夏提供。現在は終了)
▲燻しヒツジ(東京・後楽園、MENSHO TOKYOにて2015年秋に提供。現在は終了)
▲紅芋つけめん(東京・新宿、二丁目つけめんGACHIにて2015年秋に提供。現在は終了)
店舗奥に設けたラボで日夜研究に没頭中
── ところで創作ラーメンの開発はどこでやっているんですか。
庄野:この部屋です。お店の厨房でやっていると営業時間帯とぶつかってしまい、ちゃんとした研究の場所が欲しかったので、今日お越しくださっているMENSHO TOKYO(東京・後楽園)を出店した際、店内の奥にラボというラーメン研究室をつくりました。店内からまる見えなので、たまにお客さんから不思議な目で見られたりもしますが(笑)。
たとえば秋から冬にかけては牡蠣が旬なので、牡蠣を使った創作ラーメンを考えています。夢中になると、つい夜遅くまでラボにこもってしまうこともあります。
▲こちらが取材で伺ったMENSHO TOKYO(東京・後楽園)
▲創作ラーメンの研究を行うラボは、MENSHO TOKYO店内の奥に設けられている
というわけで、開店からラーメンクリエイター誕生までの秘話や創作ラーメンについて伺ってきたが、ちょうど研究中の新作があるということで、開発の様子もちょこっとだけ取材させていただくことに。
▲まず、スープのベースとなるダシの研究
▲研究中のスープのベースはアジと煮干しが軸。そこへ昆布や椎茸を加える
▲野菜を炒めて生まれたコクに、みりんや醤油を入れ、そこに塩を入れる。外国産の塩も産地によってまったく味が異なるので、一番食材の味を引き立てる調合を日夜試行錯誤している
▲具材となる牡蠣を、ラーメンに合うよう調理
▲「油を制する者はラーメンを制する」が庄野氏のポリシーのひとつ
ジャーン!そうやって生まれたこちらが、新作の創作ラーメン牡蠣の塩つけ麺である。取材時時点ではまだあくまで試作品とのことだったが、ここはジッと完成の日を待ちたいと思う。
※このメニューは2015年12月、東京・市ヶ谷「麺や庄の」にて提供され、現在は提供終了しています
ラーメンクリエイター・庄野智治。この男のつくるラーメンから目が離せない!
お店情報
麺や 庄の
住所:東京都新宿区市谷田町1-3 1F
電話番号:03-3267-2955
営業時間:月~金曜11:00~15:00/17:00~23:00、土曜11:00~23:00、日曜・祝日11:00~17:00
定休日:火曜日