プルドポークは大人のロマン
大人のロマンってなんでしょうか。
私は断言できます。それは肉をかたまりのまま買うことです。
スーパーで売られているのは、肉を薄くカットしたものがほとんどで、ペラペラとしたそれは調理しやすいのは間違いないのですが、「肉」という実感がないですよね。だからこそ、精肉店などで、ショーケースに並んだ肉塊を見ると、「ああ、私たちは命をいただいているのだ」という感謝の念を抱きます。
肉のかたまりをそのまま調理するのは、現代においてワイルドな所業に映るかもしれません。
それは、どこかで目にした漫画で原始人が骨付き肉をまるごと食べているイメージが鮮烈だったからでしょう。かたまり肉には、ロマンを禁じ得ません。
そんなわけで私はこの前、かたまり肉に特化したレシピ本を編集しました。著者はYouTubeで『COCOCOROチャンネル』というレシピチャンネルを運営する大西哲也さんという料理家です。
最初は違う内容で本を作るはずだったのですが、大西さんは相当ファンキーな方でして、かたまり肉=ロマンという価値観で共鳴してしまったんです。そうして出来上がったのがこちらの本です。
こちらの本は、発売と同時に大きな話題になったのは、さすが大西さんの狙い通りでした。
ということで、今回の記事では、書籍の中でも反響が大きかった、プルドポークのレシピをご紹介したいと思います。まずは肉を買うところから始めましょう。
【材料】2~3人前
- 豚の肩ロース(ブロック) 500g
- 塩 5g程度(肉の約1%)
- ミックススパイス 5g程度(塩と同量) ※市販のバーベキュースパイスがあればそれを使う
- バーベキューソース(市販) 20g(味を見て調整する)
- カレー粉(お好みで) 小さじ1
(サンドイッチにする場合:1人前として)
- 食パン 2枚
- キャベツ(千切り) 適量
- プルドポーク 適量
- バター または マーガリン 適量
(プルドポーク丼にする場合:1人前として)
- ご飯 1杯
- プルドポーク 適量
- 卵(卵黄) 1つ
豪快に豚かたまり肉を購入
最初に用意するのは、豚かたまり肉です。ご存じのように、豚にはロースやバラなどいろんな部位がありますが、今回使うのは豚の肩ロースです。
バラに比べて脂身が少なく、あっさりとした味わいが特徴ですが、脂身と赤身のバランスがよく、豚のうま味と食感を楽しめる部位ともいえます。
調理が難しいわけではないのですが、パサついてしまうことも多いため、プルドポークに用いるのは豚の肩ロース以外の肉は思いつきません。それはこの料理の特徴的な調理法に関係するのですがそれはまた後ほど。
今回、用意した肉は約1.3kgでした。材料欄では豚の肩ロースを500gと記載しておりますが、スーパーでかたまり肉を買う際には厳密な重さまでは測れないでしょう。
なので、ポイントは肉の重量に対しての塩の量です。肉の1%程度の重さの塩を用意しましょう。500gの肉であれば、5〜6gの塩を使うのが目安です。
肉に下味をつけます。「塩豚」だと、この塩分濃度では少し薄めに感じる方もいるかもしれませんが、プルドポークは完成直前にも味付けをするので、あくまで下味ということでご理解ください。
今回は1.3kgの肉ですので、ざっくり測って14gの塩を使います。
塩の計量が終わったら、今度はスパイスを用意します。
本来はバーベキュースパイスを使うのですが、自宅にない方も多いと思いますので(わが家にもありませんでした)、キッチンを見渡して、スパイス感のあるものを適当に集めました。これさえも自宅にないという方は、ブラックペッパーとカレー粉だけでもいいと思います。
それらを適当にブレンドして14g、つまり塩と同量を用意します。そして、先ほどの塩とブレンドしたものがこちらです。いい色! 計28gの調味料が完成しました。
次に肉を用意しましょう。
下味をつけて1日寝かせます
肉をたくさん扱っているスーパーに足を運んで選んだのが、こちらの豚の肩ロースでした。
端のほうには脂身がついていますね。プルドポークを作る際は、こちらを取りのぞいたほうが本当はいいのですが、今回は面倒なのでそのまま調理します。それくらい大雑把で大丈夫です。
まずは、肉に味が染み込みやすくするために、グサグサとフォークで穴を開けていきます。この作業は食材に「おいしくなーれ」と祈りを込めるようにも思えて、ちょっと真顔になってしまいます。豚さん、ありがとう。おいしくいただきますね。グサグサ。
次は、スパイス&塩で作った調味料を手で擦りこみます。
おいしくなーれ。おいしくなーれ。衛生面を考慮して手袋をしています。なでなでしたいのですが、あまり触っていると肉の温度が上がってしまうので、ほどほどにしましょう。
全面にまんべんなく塗ったらOK。いい色味になりましたね。すでにおいしそうな予感がします。「スター誕生」という言葉が頭をよぎりました。
これを冷蔵庫で1日寝かせます。味をしっかりとつけるためです。
いよいよ火入れです
翌朝、冷蔵庫から取り出した肉に火を入れます。
この料理の最初の山場ともいえる作業です。が、その前に、軽くカレー粉を振ってみます。スパイスが効いているほうが、料理としてパンチがあるように思えたからです。もちろん、これは余計な一手間なので、なくて大丈夫です。
この料理は、かなりラフな感じで作っても問題ないので、味付けもある程度アバウトでいいと思います。おおらかなアメリカ料理という感じがしていいですよね。ということで気楽にいきましょう。
カレー粉を薄くまぶした肉をオーブンに入れます。
焼くと肉から水分が出てくるので、高床式にします。低温で長時間火を入れると、脂が抜けて、それでいてやわらかくしっとりジューシーに仕上がる予定です。
火入れの温度は120℃です。ところで都内に120℃のサウナがあるそうなのですが、すごい高温サウナですよね。一度体験してみたいものです。
ともあれ、豚さんにたくさん汗をかいてもらいましょう。
オーブンに入れたら120℃で6時間火を入れます。6時間! そう、6時間。本当は8時間ほど入れたほうがいいようですが、電気代ももったいないので、これくらいでいいのかなと。わが家のオーブンは1時間半までしか設定できないので、これを4セット繰り返します。気の遠くなるような作業です。
6時間たったら、今度は設定温度をお好みで少し上げて、庫内の温度をちょっとだけ高くします。
この段階でさらに肉をアルミホイルに包んで、1時間程度しっかりと火を入れます。そうすると、しっとりやわらかく仕上がります。
仕上げに燻製の工程も
そして仕上げに燻製します。この段階で、スモークの香りをつけるのですが、ここで火を入れすぎてしまうと、せっかくしっとり作った肉が台無しになってしまうので、まとわせるくらいで。
私は家庭用のコンパクトスモーカーを使います。
まずチップを加熱して煙が出ていることを確認したら、火を止めて、その中に肉を閉じ込めふたをします。しばらくするとチップからは煙が出なくなりますが、スモーカー内は煙で充満しているので簡易燻製ができます。
中の温度を上げすぎることなく、煙をまとわせる狙いがあります。
10分ほどすると煙も出なくなるので、肉を取り出し、再度コンパクトスモーカーを加熱して、もういちど同じことを繰り返します。
いよいよ実食
3度ほど繰り返して完成したのがこちらです。フォークを刺すと、サクッと入っていきます。肉にしっかりと火が入っていて、やわらかくなっている証拠ですね。
肉の外が真っ黒に焦げているように見えるのですが、これは肉の焦げというよりも、スパイスと塩が肉の脂と一緒になって黒くなっている結果なので、うまさが凝縮した部分と考えていいでしょう。
これがプルドポークのうまさの源であると私は断言できます。
フォークを2本用意して刺していくと、面白いように肉が裂けていきます。
これが「プルド(引き裂く)ポーク」という料理名の由来です。しかし、本当に簡単に裂けていくんです。例えはどうかと思いますが、カニカマみたい。スーッと裂けていく。これは楽しいかも。
数分で肉のかたまりがあっという間にバラバラになってしまいました。
この段階で、味見をしましょう。うん。肉のうま味と香ばしさを感じます。これだけ時間と手間をかけてやわらかくしたのですから、「まずいことはないだろう」という自信はあったのですが、なんというか、表面のスパイスと、さっぱりとした豚の肩ロース肉のバランスがとんでもなくいいですね。
うま味が凝縮されたツナのような、とても淡泊な味わいです。実はプルドポークはこれで完成ではありません。
プルドポークはやわらかく引き裂いた肉に、さらにバーベキューソースなどをあえていただくのが一般的なのです。素材の味を確認したら、市販のバーベキューソースをあえましょう。これで完成です。
サンドイッチにしてみよう
さて、食べ方ですが、本場ではパンに挟むのが一般的なようです。ということで、自宅にあった食パンにバター(マーガリンだったかも)を塗ります。
次にキャベツを敷いて、その上に、バーベキューソースをあえたプルドポークをのせます。この時点でおいしそう!
上からもう1枚、食パンをのせて、少しだけ手で押します。ぐぐ。そうすると、サンドイッチらしくなってきました。
サンドイッチってこれまで(いい意味で)適当にこしらえていたのですが、作った後に、軽く上から押さえて、さらにその後、数時間ほど冷蔵庫で休ませると、形が安定するんです。
寄せ集めのメンバーたちが、冷蔵庫の中でサンドイッチとしての自覚を持った瞬間をご覧ください。
(繰り返しますが)これまでの人生で、サンドイッチを適当に作ってきたので、耳を落としたこともありませんでした。
耳がないほうがきれいに見えるのではと気づき、包丁でカットを試みたのですが、やはり慣れないことはするものではないですね。
上の写真のような惨状に……。耳どころか、内臓まで切り落としてしまったかのような、不穏な感じになりました。
でもね、苦労のかいがあって、ようやく完成しました。うん。おいしい。カレー粉をまぶしたことでプルドポークにちょっとスパイシーな風味がプラスされ、肉のうま味をさらに引き立てます。もちろん、甘いパン生地との相性はばっちりです。
キャベツがしなっとしていて、肉と食パンのいいツナギになっています。
キャベツがなくても、それはそれで肉肉しくていいだろうなと思いました。先ほどスパイシーと書きましたが、プルドポークがまとうバーベキューソースは甘さがベースにあるので、これはお子さんもきっと好きな味ではないかと。大人だったらビールと合わせたらいいなと思います。
ご飯にのっけてプルドポーク丼に
次はご飯にのせてみようと思います。これはかなりイレギュラーな食べ方に思えるかもしれません。でも、甘く味付けをした肉をご飯にのせたそぼろ丼の変化球だとしたら、「ああ、それはおいしそうだ」と思っていただけるのではないでしょうか。
真ん中に卵黄を落とすと、見た目も美しいですね。これが昼ご飯に出てきたら、ちょっとしたごちそう感と、特別感を得られるはず。素敵な一品です。
卵黄をちょっとスプーンで崩してから食べましょう。近所の焼き鳥屋で、締めに出てくるそぼろ丼を思い出しました。
ご飯と一緒に口に運びます。最初に卵黄のまろやかさを感じるのですが、すぐにプルドポークの持つ香ばしさ、野趣に満ちた肉のうまさを感じます。
甘めのバーベキューソースが、肉の個性をいい感じでマイルドにしてくれているおかげで、口の中で違和感なくご飯とマッチします。バーベキューソースと、ご飯がこんなに合うなんて! という驚きを感じた瞬間、気がつけばあなたの箸(スプーン)は止まらなくなってしまうことでしょう。
一言いわせてください。これはうまい!
まだまだ残ってます。
最後に、ちょっと真面目な話を。プルドポークは大きめのかたまりで作るのですが、おそらく作りすぎてしまうので、食べ切るのが大変です。
ということで、例えば、お客さんが来る時などに用意すると喜ばれるのかなと思いました。ある程度仕上げておいて、お客さんの目の前で引き裂く。まさにエンターテインメントです。
下準備をしっかりした上でバーベキューに持っていっても楽しいかも。
プルドポークを作ってこそ肉好きだと胸を張れる、そう思った昼下がりでした。さあ、夜も食べるぞ!
書いた人:キンマサタカ
編集者・ライター。パンダ舎という会社で本を作っています。 『週刊実話』で「売れっ子芸人の下積みメシ」という連載もやっています。好きな女性のタイプは人見知り。好きな酒はレモンサワー。パンダとカレーが大好き。近刊『だってぼくには嵐がいるから』(カンゼン)