構想10年の名物メニュー、マーボー豆腐風カレー。中華とカレーをマリアージュさせた「あの調味料」とは

町中華ファンの間では有名な老舗、寳華園(ほうかえん)。50年以上の歴史がある古き良きお店であり、その昭和なたたずまいはまさに王道。このお店の名物、「マーボー豆腐風カレー」を食べてきました。

エリア 蒲田 (東京)

どんな味なのか気になる「マーボー豆腐風カレー」

ども、下関マグロです。

町中華で出しているカレーライスっておいしいですよね。おいしさの理由はラーメンスープが入っているからなんです。

さらに町中華の多くは、お店独自のカレーメニューを提供しています。今回紹介したいのは、ある町中華のマーボー豆腐風カレーというメニューです。

 

このメニューを出しているお店は、東京・蒲田にある寶華園という町中華。

 

蒲田駅東口から歩いて約2分の場所にあります。

迎えてくれたのはこちらのおふたり。

 

二代目店主の清水宏悦(しみず・ひろよし)さんとスタッフのさとみさん。

店主の清水さん、誰かに似ていると思いませんか? そう、某お笑い芸人さんに似ていますよね。

筆者は初めて訪問したときに、ドッキリかなにかの番組でそのお笑い芸人さんが町中華をやっていたらお客さんはどんな反応をするかという企画と思い、思わず隠しカメラを探してしまったほどです。

でもね、調理していらっしゃる姿を見て、ああ、本物の調理人だとわかりました。

何度か通ううちにマーボー豆腐風カレーというメニューが壁に貼り出されているのを発見。さっそく注文してみました。

 

▲マーボー豆腐風カレー(650円)、ライス・中(220円)

 

ちなみにマーボー豆腐風カレー単品でもおいしいのですが、食べているとご飯が欲しくなるわけですよ。

 

見た目からはよくわかりませんが、味はかなりカレー寄りです。ただ、食感は麻婆豆腐というちょっと不思議なかんじなんです。初めて食べる味ですね。クセになる味と言えばいいでしょうか。

作り方はあとで見てもらいますが、まずはこのメニューが誕生するまでの経緯を紹介しましょう。

 

開発まで10年かかった「マーボー豆腐風カレー」。そのカギはケチャップだった!

寶華園は1965(昭和40)年に宏悦さんの父である清水正幸さんによって創業されました。初代の正幸さんは東京ドームホテル直営の後楽園飯店の初代チーフを務めた人で、テレビの料理番組にも出演するような、中華料理の世界では有名な方でした。

しかし、宏悦さんが高校生のとき正幸さんは突然亡くなってしまうのです。お店は母と姉、当時働いていた職人さんたちにまかせ、宏悦さんは高校卒業後、修行に出ます。そして、正幸さんの知り合いのお店で修行をしてからこちらに戻ってきました。

最初、メニューは先代から引き継いだものばかりでしたが、だんだん自分の考案したメニューも出すようになっていきます。

 

清水宏悦さん(以下・宏悦さん):自分の大好きなカレーライスと麻婆豆腐を合体させたら、さぞおいしくなるだろうと思ってやってみました。そしたら、かなりまずかったんです(笑)。

 

──そこから、試行錯誤が始まったんですね。

 

宏悦さん:そうなんです。カレーに豆腐を入れてみたり、麻婆豆腐にカレー粉を入れてみたりしましたが、なかなかおいしくならない。やっと答えが出たのが10年目。もっとも10年ずっと考えていたわけではなくて、思い立ったら作ってみて、また思い立ったら作ってみてと繰り返すうちに10年が経過していました。

 

──なるほど、10年目に麻婆豆腐とカレーを合体させるカギを見つけたのですね

 

宏悦さん:そうなんです。ふとしたきっかけで厨房(ちゅうぼう)にあったケチャップを入れてみたら、麻婆豆腐とカレーがうまく合体してくれたんです。

 

発想のもととなった「麻婆豆腐」と「カレーめし」をいただいてみます

マーボー豆腐風カレーは、現在お店で出している麻婆豆腐とカレーめしというメニューが発想のもとになっています。

それでは、麻婆豆腐をいただいてみましょう。

 

▲麻婆豆腐(600円)

 

一口目からうま味と辛味が押し寄せてきますね。

花椒(ホワジャオ)も入っていて、しびれもあります。いやぁ、これはおいしいですね。

 

宏悦さん:麻婆豆腐はオヤジの頃とほとんど同じレシピで作っています。

 

──ああ、たしかに子供の頃からこんなにおいしい麻婆豆腐を食べていたら、大好物になりますね。ちなみにカレーライスというメニューはこちらにはないですね。

 

宏悦さん:はい、そうですね。オヤジはカレー味の料理も作っていたので、「カレーライスは出さないの?」って聞いたことがあるんです。そしたら、「そんなことしたら、カレー屋になっちまうじゃねぇか」って言われたんです。だから、自分の代でもカレーライスは出していません。

 

──なるほど、そこは中華のシェフのこだわりだったんですね。しかし、こちらのお店、カレーめしというメニューがありますよね。これはどういう経緯で出来上がったのでしょうか?

 

宏悦さん:カレーリゾットの作り方をちょっと見る機会があって。まあ、オヤジの方針もあって、カレーライスを出す気はなかったんですが、カレーリゾットならいいかと、思ったわけです。
よくあるカレーリゾットは、バターを使ってご飯はちょっとなんですが、うちはバターを使わず、ご飯を多めにしたんです。中華風にしっかりラーメンスープで炊き上げていきます。ただ、量が多いので途中で飽きちゃうかなって思って、もう少し味に幅をもたせようと真ん中に生卵を入れることを思いついたんです。

 

──なるほど、そういう経緯でカレーめしが誕生したんですね。では、それをさっそくお願いします。

 

▲カレーめし(780円)

 

これはまた独特な味わいですよ。カレーの味がけっこうガツンときますね。しかし、ラーメンスープで炊き上げられているのでコクもあります。ああ、生卵もいい仕事をしていますね。これはおいしい。

 

これが「マーボー豆腐風カレー」の作り方

それでは、マーボー豆腐風カレーを作っていただきましょう。

あ、いま気がつきましたが、メニュー表記は「麻婆豆腐」ではなく「マーボー豆腐」になって「マーボー豆腐風カレー」なんですね。

たしかに、食べてみるとこの表記がぴったりです。

 

まずはひき肉を炒め、そこに生姜、にんにくを入れてさらに火を通します。

 

宏悦さん:うちの麻婆豆腐はにんにくだけで生姜は入らないんですが、マーボー豆腐風カレーには生姜とにんにくを入れます。

 

そこに玉ねぎを加え、よく炒めていきます。

そして、町中華の命とも言えるスープが入ります。

 

ここで、少し煮込みます。

 

よく煮込んだところで、自家製のカレー粉が投入されました。

 

宏悦さん:基本は市販のカレー粉なんですが、いろいろと調合して使っています。

 

ここに、麻婆豆腐とカレーをマリアージュさせる秘伝の調味料、ケチャップが入ります。

 

豆腐はやわらかめの木綿を使っているんだそうです。

 

宏悦さん:試行錯誤の結果、やわらかめの木綿豆腐にたどり着きました。それまでには厚揚げを試したんですけど、それだとうまくいきませんでしたね。

 

──言える範囲でいいんですが、マーボー豆腐風カレーに入っているものを教えてください。

 

宏悦さん:ひき肉、玉ねぎ、生姜、にんにく、木綿豆腐ですかね。調味料は豆板醤、しょうゆ、砂糖、こしょう、うま味調味料、自家製のカレー粉。とろみは、小麦粉と片栗粉をあわせたものを使っています。ああ、あとラーメンスープですね。

 

──なるほど、ラーメンスープ。なかなか家庭ではまねできないのがこのラーメンスープですね。これがうまさの土台になっていると。逆に使っていないものはありますか?

 

宏悦さん:麻婆豆腐には花椒(ホワジャオ)を使いますが、これには使いません。味がケンカしちゃうんですね。

 

はい、出来上がりました。おいしそう!

 

カレーめし(上)+麻婆豆腐(右)=マーボー豆腐風カレー(左)

どれも抜群においしいです。

 

実は、家でもできるんじゃないかと、作ってみたことがあるんですよ。もちろん隠し味にケチャップを入れて……。でも、こういう味にはなりませんでした。

 

宏悦さん:それはたぶん、ラーメンスープじゃないですか(笑)。

 

あー、そうか。家で作ったときにラーメンスープを使ったりはしませんでした。やはり、このお店に来て食べるしかありませんね。

みなさんもぜひ食べてみてください。うまいですよ。

 

撮影:平山訓生

 

お店情報

寶華園

住所:東京都大田区蒲田5-10-1
電話番号:03-3734-4440
営業時間:11:30~15:30、18:00~21:00
定休日:日曜日

www.hotpepper.jp

書いた人:下関マグロ

下関マグロ

1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。

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