ラーメンとRAMENの決定的な違いとは?生徒7割が外国人のラーメンスクール校長が語る世界的ブームの裏側

大阪を拠点にラーメンスクールを経営し、世界中に教え子を持つラーメンプロデューサー・宮島さん。繁盛するための条件から海外のRAMEN事情、驚きの未来予測まで、気になるお話をたっぷりうかがってきました! 

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ミシュランにも選ばれ、今や寿司や天ぷらに代わって日本食の代名詞となっているラーメン。和食やフレンチ、イタリアン、中華と比べてハードルが低そうなイメージがあるからなのか、ラーメン店の経営を志す人は多いという。

しかし、現実はそんなに甘いものではないことは素人目から見てもわかる。はたしてラーメン店は儲かる仕事なのだろうか。

※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました

 

6日間の講習でラーメン店のノウハウを伝授

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大阪府東大阪市の近畿大学からほど近い商店街の一角に「Miyajima Ramen School」なる施設がある。ここはプロフェッショナルラーメンシェフの養成学校で、日本国内のみならず、世界中からラーメンに魅せられた人々が門戸を叩いている。

ramenschool.jp

 

個別指導で1〜6日間までさまざまなコースを用意しているが、みっちりと6日間のコースを受講すれば、ラーメンの作り方や経営するポイントが理解できるという。

 

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実は代表を務めるラーメンプロデューサーの宮島力彩(みやじま りきさい)さんを、筆者は18年前にも取材している。当時は経営悪化に陥ったラーメン店の再建請負人、それも「ラーメン虎の穴」の代表として活動していた。

読者の中にはご存知ない方もいらっしゃるだろうから、念のために説明しておく。「虎の穴」とは、プロレス漫画の名作『タイガーマスク』に登場する残虐非道な悪役レスラー養成機関のこと。地獄の特訓に耐えて生き残った者のみがレスラー(ただし悪役)としてデビューできることから、40代後半以上の世代は、「まるで虎の穴のような厳しいところだった」と、しばしば例え話にも用いられる。

 

宮島氏:今の人たちに「虎の穴」と言っても意味が通じませんからね。今はシンプルにラーメンスクールにしています。

 

宮島さんは、デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いた後、経営コンサルタントに転職。そこで、あるラーメン店から経営の相談を受けたのがラーメン業界との出会いだった。次第に味についてもアドバイスを求められた。

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宮島氏:もともとラーメンが大好きであちこち食べ歩いていたんですけどね。依頼を受けたラーメン店の経営をほとんど任されるようになり、いっそのこと自分でやってみようと思って、1995年に大阪市中央区でラーメン店をはじめました。長崎ちゃんぽんをヒントに、創作ちゃんぽんを出したところ、大評判となりました。

 

自ら営んでいたラーメン店の成功を機に、宮島氏はラーメン店専門のコンサルタントとして生きていくことを決意。

筆者が出会った頃は、起業してまだまもない頃だった。たしか、当時は味付けを専門に担当するスタッフとして職人もいたと記憶しているが……。

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宮島氏:どうしても職人と師弟のような関係になってしまうので、それは避けたいと考えて廃止しました。繁盛店の経営者となるのにまったく必要ありませんから。ウチに来られるのはあくまで「生徒さん」なので、そのように接しています。生徒さんにはまず美味しいラーメンづくりを教えないと、お店づくりの話まで聞いてくれません。今はそれも私が教えています。

 

「美味しい」は、売れる要素の50%でしかない

20年近くもラーメン業界に身を置く宮島さんは、さまざまなブームを目の当たりにしてきた。

ひと昔前、それこそ昭和、そして平成初期のラーメンは、早い・安い・旨いの三拍子揃ったB級グルメの代表格だった。そこから一つの料理として見直され、評価されるようになったのはいつ頃なのだろうか。

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宮島氏:もう、20年以上前になるでしょうか。食材にこだわって、無添加・無化調のラーメンを世に出した「支那そばや」の佐野実さんの存在は大きいと思います。佐野さんは、それまで一杯500〜600円台で食べられたラーメンの価値を上げようとしたのでしょう。さらにメディアはこだわりの部分をこれでもかと煽りまくった。それで潮目が変わったのだと思います。

 

現在、筆者が暮らす名古屋ではノーマルなラーメンは一杯700円台。おそらく、東京だと平均値はもう少し高いと思うが、それでも900円台だろう。

ところが、これが海外となると日本円で1,500円以上することも珍しくはない。しかも、サイドメニューやお酒などの飲み物もバンバン注文する。そりゃ有名店は海外に進出するわけだ。

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宮島氏:安くて美味しいものがたくさんある大阪の場合は、800円だと「高い!」と言われますね。極端なことを言えば、ラーメンを料理として認識していないムキがあります。だから、大阪でラーメンスクールをやるのはアウェーで試合をするようなものです。実際、生徒さんは大阪以外の方が多いですよ。そもそも、美味しいラーメンをつくれば売れるという考え方が間違っているんですけどね。繁盛店の条件として、ラーメンの味は多く見積もっても50%です。

 

味以外の50%も重要ということなんだろうか。このあたり、プロデューサーならではの視点といえよう。

 

プロデューサー直伝のスープの味は……

宮島氏:では、今からラーメンの味についてお話ししましょう。

 

そう言うと、宮島さんはスクールの厨房へ行き、何やら作業をはじめた。

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宮島氏:今日、取材にお越しになるとのことで、スープをつくっておいたんです。鶏でとった動物系と鰹節と昆布の魚介系の2種類。ダブルスープのラーメンをご馳走しますので、しばらくお待ちください。

 

慣れた手つきで麺を茹で上げて、薬味のネギを刻む姿はまさにラーメン店の店主そのもの。あっという間に美味しそうなラーメンが目の前に運ばれた。

 

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▲これが宮島さんがつくった塩ラーメン

 

宮島氏:スープは動物系と魚介系で1対2の割合です。タレはいっさい使わず、塩、それも岩塩や海塩ではなく、普通の塩だけで味付けしています。

 

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▲澄んだスープから立ち上る旨そうな匂いが鼻腔をくすぐる

 

では、いただきます!

うん。スープのバランスがとても良い。スープの旨みを引き出す絶妙な塩加減。こんな旨い塩ラーメンを食べたのは久しぶりである。近所にあったら通い詰めるかもしれない。

 

宮島氏:では、もう一杯つくりますので、この塩ラーメンの味をしっかりと覚えておいてください!

 

そう言い残して、宮島さんは再び厨房で調理をはじめた。

 

美味しさを決定づける「三要素」とは

宮島氏:今度は鶏白湯ラーメンです。どうぞ、お召し上がりください。

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▲白濁したスープから、長時間じっくりと煮込んでいるのがよくわかる

 

先ほどの塩ラーメンもさることながら、これも実に旨そうだ。さすがはラーメンプロデューサー。

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では、実食。

おおっ! 鶏鍋の〆に食べるラーメンのように鶏の旨味が見事なまでに凝縮されているではないか。

しかも、イイ具合に魚介系のダシもきいていて、見た目ほどしつこくはない。むしろ、さっぱりとマイルドな口当たり。これも近所にあったら通うだろう。

そう思いながらラーメンを堪能していると、宮島さんは驚くべきことを口にした。

 

宮島氏:実はさっきの塩ラーメンとこの鶏白湯ラーメン、スープの中身はまったく同じなんです。塩ラーメンのスープを煮込みながらミキサーにかけて乳化させれば鶏白湯ラーメンになるんですよ。

 

ええっ!?

たしかに鶏をじっくりと煮込んだような味がしたぞ。っていうか、さっきの食レポでそう書いてしまった筆者はフードライターとして失格じゃないか(笑)。

 

宮島氏:美味しいと感じる三要素があるんです。昆布や魚介から抽出されるグルタミン酸と鶏や豚のイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸。これらの掛け合わせと、もう一つ重要なのが塩分コントロールなんです。

 

グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の「三要素」プラス塩加減。これらで勝負が決するらしい。

 

宮島氏:またラーメンはスープとタレ、脂、麺の組み合わせですよね。ウチのスクールでは、そのバランスを考えたラーメンを生徒さんと一緒につくり上げます。先ほども申し上げた通り、味は全体の50%でいいんです。では、残りの50%は何をすればよいのか、これからスクールを卒業した生徒さんのお店へ行って話しましょう。

 

ターゲットに合わせた味と付加価値が大事

大阪から車を走らせること約40分。

到着したのは、豊中市にあるラーメン店「蛍家 悠龍(ほたるや ゆうりゅう)」

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ランチタイムはとっくに過ぎていたが、カウンター席の半分は埋まっていた。ラーメンを食べ終わり、お店を出るお客さんを店主の岡田悠人さんはわざわざ外に出て見送っている。

 

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私たちは、こちらの定番「魚介ラーメン」(850円)を注文して食べた。

豚骨ベースなのに、魚介が入ることで口当たりがさっぱりしていて旨い。実に丁寧に作られていることがこの一杯から伝わってくる。仕事がひと段落した岡田さんが話しかけてきた。

 

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▲左が「蛍家 悠龍」店主、岡田さん

 

岡田さん:宮島先生からはターゲットとする客層に合わせたメニューをつくるように指導を受けました。実は、ウチのお店の周辺はファミリー層が多いんですよ。なので、こってりしすぎず、あっさりしすぎず、老若男女問わず食べられる一杯を作ろうと思いました。この魚介ラーメンをベースに、世代に合わせたメニュー開発もしています。

 

岡田さんの話を聞いていた宮島さんが口を開いた。

 

宮島氏:ラーメン店の仕事というのは単純作業の繰り返しなんです。ただ単にそれを「こなす」だけでは繁盛店となるのは無理。単純作業の中でいかにクリエイティブな発想を持つか。そこから新しいメニューや新しいサービスが生まれるんです。さっき、岡田さんは外まで出てお客さんを見送ってましたよね? 生徒さんにはそういった付加価値もラーメン店を経営する上で重要であることを教えています。

 

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筆者もグルメ記事の仕事で、これまで数多くの飲食店を食べ歩いてきた。その中で感じたのは、味が旨いのは当たり前。それ以外の、サービスや雰囲気など、その場にいて心地よいお店がイイお店であるという結論に至った。ラーメン店はなぜか味ばかりが重要視されるが、同じ飲食店ゆえに例外ではないのだ。

 

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▲手書きのメモに、サービスのアイデアを書き綴っている

 

岡田さんはこう続けた。

 

岡田さん:私がお客さんに与えられる付加価値とは何だろうと考えたとき、人情や笑顔というフレーズが思い浮かびました。それもお客さんが想像を絶するサービスができないかと。こちらから積極的に話しかけたり、ときにはマジックを披露したりもしています。お客さんに喜んでいただけて、また足を運んでくだされば全然苦ではないですし、むしろ楽しんでやっています。

 

お店情報

蛍家 悠龍

住所:大阪府豊中市蛍池北町2-1-5 アーバンライフ105
電話番号:080-8526-5628
営業時間:11:30〜14:00(L.O13:30)、18:30〜23:00(L.O22:30)
定休日:不定休(木曜日)

hotaruya-yuryu.com

 

海外でRAMENがバカウケしている理由

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ラーメンスクール、と聞くとどうしても「旨いラーメンをつくる職人になること」をイメージしてしまう。

しかし、同時に味以外にもお客さんを満足させる、いわばエンターテイナー的な要素も必要になってくるということか。宮島さんによると、その点、外国人の生徒は最初からビジネスとして成功したいがためにスクールを訪ねてくるという。 

 

宮島氏:東日本大震災(2011年)以降、外国人の生徒さんが急増しました。その頃からラーメンが「RAMEN」となり、寿司やアニメを押しのけて日本の代名詞になっていったのではないでしょうか。彼らがラーメン店の経営を志す動機は、「日本で美味しいラーメンを食べて衝撃を受けたから」というケースが多いようです。それは日本人も同じですが、彼らは「自分の国でこれを食べさせたら儲かる」と確信した上でスクールにやって来ます。だから、とても早く理解してくれる。今は全体の7割以上が外国人の生徒さんですね。

 

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▲宮島氏を囲む外国人生徒たち

 

また、外国人入学者が後を絶たないのは、自分のお店をPRする上で、ラーメンの本場である日本で技術を学んだという、いわば「箔」を必要としているからだ。

ひと昔前、イタリア料理がイタメシと呼ばれていた頃、日本人も同じようなことをしていた。中には、イタリアでお金を払って働かせてもらい、帰国後は「本場イタリアで修行!」と大々的に宣伝していた例もあったほど。

 

宮島氏:外国人は日本に対して「仕事の丁寧さや細やかなサービス」というイメージを抱いています。まだ、日本は一つのブランドとして成り立っているわけです。だから、本当に儲けたければ国内よりも海外でビジネス展開した方がイイんです。今、中国人がつくる「日式ラーメン」のクオリティがどんどん上がっていますから、いつ追い抜かれるかわかりませんよ!

 

日本のラーメンが1杯2,000円になる日

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▲教え子は中華圏にも星の数ほどいる

 

ラーメンの価格に話を戻すが、海外なら一杯1,000円以上、しかもサイドメニューやお酒も注文するので客単価は3,000円近くになることも珍しくはない。

かたや日本の場合は、ラーメン一杯だけ注文して終わることも少なくない。ラーメンの原価が価格の3割としたら、一杯700円として原価は210円。人件費やテナント料、水道光熱費もあるので、上がり(利益)は本当に低い。

今後、ラーメンが日本のブランドとして生き残っていくには、それこそ海外のラーメン店のように一杯1,500円とか2,000円のラーメンを出したりして、価値を上げることが重要に思えてきた。

 

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最後に、宮島さんは日本におけるラーメンの今後についてこう語った。

 

宮島氏:このまま海外でラーメンブームが高まれば、味もサービスも本場を凌ぐような海外店舗の日本国内への進出も十分あり得るでしょう。それを日本のラーメン店がさらにアレンジできるかがカギを握ると思いますし、できるお店をスクールから生み出していきたいと思っています。それが一杯2,000円のラーメンが誕生する時期ではないでしょうか。

 

よく考えてみれば、寿司や天ぷら、蕎麦も本を正せば屋台がルーツのファストフード。しかし、時代とともにどんどん高級志向へと変貌を遂げた。

ラーメンもまた、グローバル社会においてRAMENとして勝負するとき、高級店が登場しても何らおかしくはない。もしかしたらそんなRAMEN革命ともいえる兆候がすでに現れている可能性だってある。

寿司がリーズナブルな回転寿司と高級な江戸前寿司に二極化したように、ラーメンも同じ運命を辿るような気がしてきた。フードライターとして、筆者はその行先を見届けたいと思っている。

 

※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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