フリーズドライの傑作「チキンカツの玉子とじ」はいかにして生まれたのか?アマノフーズの担当者に聞いてきた

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こちら、「チキンカツの玉子とじ」というフリーズドライ食品です。お湯を注いだだけで、これができあがっちゃうんですよ(ご飯は別)。ちょっと驚きじゃないですか? フリーズドライといえばたまごスープや味噌汁のイメージが強いですが、気がつけばこんなレベルまで技術が進歩していたんですね。思わず二度見するビジュアルです。

 

でもみなさん。こうしたフリーズドライ食品って果たしてどうやって作られているかご存じでしょうか? フリーズドライと呼ぶくらいだから「冷凍して乾燥する」製法なんでしょうが、具体的な工程まで知っている人は少ないんじゃないかと思います。それに、「チキンカツの玉子とじ」まで登場しているなら、最近はどんなフリーズドライ食品が開発されているのか気になりません?

 

とうわけで、年間200種類ほどのフリーズドライ商品をそろえているアマノフーズの開発担当者の方に、フリーズドライのABCを教えていただきました。

 

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アサヒグループ食品株式会社食品事業本部アマノブランド企画室室長、島村雅人さん。通称、ミスター・フリーズドライです。

 

ミスター・フリーズドライ、よろしくお願いします! そのナイスなノリでいろいろ教えてください!

 

まずは、フリーズドライとは何かという基本から。

 

島村さん:「フリーズドライとは、凍結させた食品を真空下で乾燥させる製法です。もう少し詳しく言うと、マイナス約30度の凍結庫で凍結させたものを真空状態で昇華乾燥させることです。氷が水蒸気になる場合、氷が解けて水になり、その水が蒸発して水蒸気となり乾燥するという流れですよね。フリーズドライでは、”氷が解けて水になる“という液体化の過程がないんです。ドライアイスを思い浮かべるとわかりやすいと思います。ドライアイスが蒸発するときは、個体から液体を経ずに気体になるでしょう。あれと同じです」

 

── なるほど。昇華乾燥は冷凍させた食品を液体を経ずに一気に乾燥させられるんですね。

 

島村さん:「日本の保存食は塩蔵、糖漬け、酢漬け、燻製、乾燥などいろいろあります。乾燥の中でも熱風乾燥や天日乾燥などがありますが、フリーズドライは味や香り、食感の損失が少なく、お湯を注ぐだけでできたてのおいしさを再現することができる最先端の乾燥技術だと思います」

 

── では、お湯を注ぐだけでできあがりという仕組みは?

 

島村さん:「料理に含まれている水分は、凍結することで氷の結晶となります。真空下で乾燥させると氷の結晶のあった部分が空洞となるので食品がスポンジ状になります。ここにお湯が注がれることで、もとの料理が復元されるのです」

 

ちょっと写真で見てみましょうか。

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これがフリーズドライ食品。調理されたにゅうめん(237円)を凍結させてから乾燥させたもの。肉眼ではわからなくても、氷の結晶のあった場所が空洞になっているので、お湯を注ぐと一気に水分を吸収し、元の状態に戻るのです。

 

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お湯を注ぐとこんな感じ。今さくっと書きましたけど、にゅうめんもフリーズドライにできるんですよ! 麺類キター!

 

── このフリーズドライ、どんな特長がありますか?

 

島村さん:「味や香り、食感、栄養価の損失が少ないことと、常温で長期保存が可能なことです」

 

そうなんです。今回いろいろ食べましたが、とにかくおいしい。手軽に食べられる食品ってレトルトや缶詰などありますが、総合的な味も、食材1つひとつの味も、フリーズドライは抜群においしい。味噌汁などにしても具材のうま味がしっかり感じられます。食材本来のうま味を凍結して乾燥させるので、加熱して乾燥させるのと違って風味が飛ばないのです。

 

── では、実際に味噌汁ができる工程を。

 

島村さん:「まず味噌汁に最適な量や大きさを考えながら、野菜などの具材を調理します。次に家庭と同じようにだし汁、具材、味噌を入れて味噌汁を作ります。できあがったものは1食分ずつ型枠に入れ、マイナス約30度の凍結庫で8時間以上凍らせます。その後、乾燥機に入れ真空状態にし、24時間以上かけて水分を抜きます。乾燥させた商品を1つずつ小袋に入れて密封すれば完成です。トータルで約1週間かけて作ります」

 

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この味噌汁、しじみの殻付き(140円)ですよ。殻もフリーズドライできちゃうの?

 

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しじみ、いる。なんだか貝塚を思い出しました。埋もれているのは土ではなく味噌ですが。

 

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お湯を注げば……しじみ!

 

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こんなに入ってました! これがフリーズドライの味噌汁とは、恐るべし、ミスター・フリーズドライ。

 

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しかもね、フリーズドライの山芋とろろ(604円)とか(水を加えて混ぜるだけ)、素揚げしたフリーズドライのなす(453円)とかもあるんですよ。

 

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味噌汁にこのフリーズドライのなすを投入したらこうなりました。素揚げなす、衝撃のうまさ!

 

── フリーズドライ食品の製造機械は、どのメーカーもほぼ同じだそうです。では同じ味噌汁でも味に差が生じるのは、どういう点に違いがあるからなのでしょう?

 

島村さん:「差が出るのは、最初の食品そのものを作る工程ですね。同じ素材でも加工方法はボイル、スチーム、ソテーなどいろいろあります。その中でいかに食材のうま味を最大限生かし、かつアクは残らないといった手段を選択できるかがポイントです。

素材選びでも差が出ます。たとえば当社のコシヒカリを使ったおかゆは、産地によってはお湯を注いでもうまく戻らず、岡山産コシヒカリだとうまくいきました。米に含まれるアミノペプチンという成分の関係で、同じ品種でありながらこのような違いが生じるのですが、そういった違いも把握した上で素材を選ぶことが重要です。あとは良質の素材を使うというところでも差が出ますね。フリーズドライはお湯を注いで料理を復元させるので、もとの食材がよくないとおいしくないんです」

 

── ところで、フリーズドライに向いていない食材もありますか?

 

島村さん:「餅やかまぼこなどの練り製品、でんぷんが多い芋類、マヨネーズなどの油類は凍らないのでフリーズドライに不向きですね。ほか、こんにゃくも乾燥はできますが、お湯で戻すと食感が悪くなるので今ひとつです。ちなみに油と相性が悪いゆえ、フリーズドライ食品はおのずとローカロリー。バリエーション豊かなダイエット食としてもお楽しみいただけますよ」

 

── なるほど、そういう活用方法もありますね。ところで商品にけんちん汁、ありましたよね? こんにゃくとか里芋とか入ってないんですか?

 

島村さん:「こんにゃくは入れていません。里芋はぎりぎりのサイズまでカットしつつ、いかに里芋の存在感を出すかが腕の見せどころです。例えば里芋に(以下自粛)」

 

ミスター・フリーズドライ、陽気なノリで同業他社の耳にはできれば入れたくないことも、気前よく話してくださいます。さすが個性全開の商品を世に送り出しヒットさせてきた豪傑。小さなことにはこだわりません!

 

── お湯を注ぐだけでいつでもどこでも温かい食事ができ、しかも常温保存できるフリーズドライ食品は、防災食としても重宝しそうです。

 

島村さん:「防災食としても賞味期限 3年6カ月という長期保存用の味噌汁もそろえていますが、最近は“食べながら備える”というスタイルも定着してきました。そこで通販ではフリーズドライ食品を日頃からストックし、食べた分を買い足すことで災害時の備蓄用としても使えるローリングストックBOXを取り扱っています。普段から食べ慣れた食品が災害時にも食べられるというのは、心理的にもいいことだと思います」

 

さて、1991年にたまごが沈まないたまごスープを発売し爆発的なヒットとなったアマノフーズは、今もたまご料理のフリーズドライ食品では群を抜いたハイクオリティーを誇っています。その完成形の1つがこちら。

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通販専用商品の「チキンカツの玉子とじ」です。

 

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百聞は一見に如かず。見てください。このフリーズドライ食品に……

 

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120ccお湯を注いで30秒すると……

 

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本当にできた! 「チキンカツの玉子とじ」が! これがフリーズドライ!?

 

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ご飯の上にのせたら美しいフォルムが崩れてしまいましたが、チキンカツらしさは十分伝わりますよね。チキンカツの存在感も、たまごのふわとろ感も、伝わりますよね!

 

同シリーズの「とんかつの玉子とじ」は平成28年度日本食糧新聞の食品技術賞を受賞しています。それだけ食品業界にも衝撃を与えた商品でした。

自称「当社製品のお笑い・驚き担当」であるミスター・フリーズドライが挑んだこの「チキンカツの玉子とじ」。フリーズドライに適した鶏肉探しからスタートし、油が苦手なフリーズドライと衣にどう折り合いをつけるかで試行錯誤を重ね、鶏肉と衣がはがれないような工夫をこらし、開発に1年をかけて完成させました。

 

かつおとこんぶの出汁も、ふわとろたまごも、島村さんが30年以上フリーズドライ食品の開発に関わってきたという土壌があって生まれたもの。こういう名作は一朝一夕にできるものではないのですね。噂によれば、同業他社が類似品を作ろうとしたものの白旗を上げたとか上げなかったとか……。

 

この「チキンカツの玉子とじ」は通販専用・数量限定商品につき、2018年1月現在は販売されていません。涙。しかし前回の発売時にこれだけインパクトのあった商品だけに再販を望む声は多く、そしてその声をミスター・フリーズドライが(正確にはアマノフーズが)無視するとは思えません。販売時はオンラインショップに掲載されるそうなので、まめにチェックです!

※2018年2月1日(木)追記:数量限定で販売再開されました!

 

独創的な商品開発にまい進するミスター・フリーズドライですが、行き詰まることはないのでしょうか?

 

島村さん:「なかなかうまくいかず悶々とすることもありますよ。ただ、そんなときは時々夢の中で“こうしてみろ”というお告げがあります。それで翌日、実際その通りに作るとうまくいったりするんです」

 

まじですか。

夢に見るほどフリーズドライ食品のことを考えているということでしょうが、ミスター・フリーズドライの場合、神までも味方につけているような気もしてきました。

 

ところで、東京横浜福山広島県)にはアンテナショップがあり、アマノフーズのフリーズドライ食品が約100種類置かれています。スーパーで買える商品のみならず、通販でしか取り扱っていないものやアンテナショップ限定商品も置かれているのがうれしいですね。しかもたまに発売前の商品も販売し、お客さんの反応を見ることもあるとか。そんなレアものに遭遇できたらラッキー。

横浜店はイートインスペースもあるので、買った商品をその場で食べられます。

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今回お邪魔したのは東京駅そばの商業施設「KITTE」内にあるアンテナショップです。棚一面にフリーズドライ食品がずらり。

 

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ギフト用商品は海外へのおみやげとしてよく購入されているのだそう。これ、外国人も喜ぶだろうけど、海外在住の日本人にとっては感涙ものなのでは。海外遠征に行くアスリートにも持参してほしい。

 

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味噌汁と具の組み合わせを自由に選べるコーナーも。筆者は「トマトバジル味噌汁」(100円)と「とろける揚げなす」(100円)の組み合わせにしてみました。味噌とバジル、合うっ!

 

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店舗の一角にはサービスの給湯口が。ただし横浜店以外はイートインスペースはありません。

 

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アンテナショップ限定品発見! 蟹の剥き身がごろっと入っているゴージャス味噌汁です。

 

こちらがフリーズドライ食品売れ筋ランキング!

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1位はスイーツのおしるこ(118円)でした。外国人にたくさん購入されているそうで、購入した外国人がSNSで拡散することで、それを目にした外国人が買いに来るのだとか。確かに外国人にとって、和のスイーツがフリーズドライ、しかもリーズナブルで軽量だからおみやげにもぴったりといいことづくめ。真夏でも売れるそうです。

 

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こうやって棚を見ると圧巻ですね。大人買いしたくなります。実際、買い物かごを手にバラ買いしているお客さんは、じっくり商品選びをしている人が多かったです。選ぶ楽しさ、迷う楽しさがここにはあります。

 

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アマノフリーズドライステーションのサブマネージャー、河濟(かわすみ)奈未さん。最近の売れ筋を尋ねると、「The うまみ」シリーズ(各108円)を筆頭としたスープ類とのこと。東京駅界隈で働くみなさんがランチタイムによく買っているそうです。確かにお弁当を持参したり買ったりパンをランチにする人は、温かい飲み物があるとそれだけでランチがステージアップ。ちなみに河濟さんの好きなフリーズドライ食品は「三ツ星キッチン 枝豆とサーモンのクリームパスタ(216円)です♡」とのこと。

 

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これが素材のうまみを楽しめる「The うまみ」シリーズ。近々種類が増える予定とか。

 

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「The うまみ たまごスープ」はこれまでのたまごスープの2倍のたまごのボリュームと、全卵に卵黄を加えることで黄身濃厚な味わいに仕上げているそう。たまごの量がはんぱない! フリーズドライのたまごスープで、かつてここまでたっぷりたまごが入っているスープがあったでしょうか。しかもふわっふわ。アマノフーズのたまごの実力、半端ないです。

 

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「三ツ星キッチンパスタ」シリーズ、こちらは「焼なすとトマトのクリームパスタ」(216円)。ソースたっぷりなので、パスタですがパンも用意していいかも。最後、皿に残ったソースを一滴残らずきれいに拭きたいもの!

 

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こちらは「畑のカレー たっぷり野菜と鶏肉のカレー」(280円)。具材が沈んでしまったのでそうは見えないかもしれませんが、本当に野菜ががんがん入っています。「ちょっと、あんたたちさっきまでフリーズドライで小さな四角形にちんまり収まっていたのに、どこから湧いて出てきた!」と思うほど具だくさんです。いやはや。

 

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こちらは4食入りのお茶碗どんぶり! 左から親子丼、牛すき丼、麻婆なす丼(各486円)。お茶碗1杯分食べたいときは1コ、しっかり丼サイズで食べたいときは2コと、食べたい量で作れます。ちびっこからシニアまで食べられるよう、麻婆なすは辛さ控えめ。筆者のようなからいもの好きは、親子丼と牛すき丼には一味を、麻婆なす丼にはラー油を投入するとご飯が止まらない!

 

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3種類のうち代表して親子丼。やっぱりたまごはふわっふわ。ミスター・フリーズドライ、いい仕事しなさる……!

 

こうして商品開発担当者の島村さんにお話を聞き、アンテナショップでその豊富なラインアップを目の当たりにすると、日本のフリーズドライ食品は世界に誇れるジャパニーズフードだと改めて感じました。これ、外国人が買うおみやげとして確実に定着するはず。爆買いする外国人観光客も出てくるかも。

日本人にしても、毎日出汁をひくのが面倒で味噌汁作りがイヤとか、一人分の味噌汁を作るのは億劫といった人に、これほど便利なアイテムはありません。しかも栄養価が損なわれにくくおいしいときているのだから、利用しない手はないですよね。

島村さんの目標は「一度の食事すべてがフリーズドライ食品で成立すること」。主食と一汁三菜すべてがフリーズドライ食品ということです。すでに液体の枠を超えておかずや主食のフリーズドライ食品も世に送り出しているのですから、ミスター・フリーズドライの野望は半ば実現しています。

 

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豚汁(140円)。具だくさんがうれしい。1食分の豚汁って、よく考えるとぜいたくです。

 

防災食として、ダイエット食として、小腹が空いたときの軽食として、そして日常の食卓に。フリーズドライはさまざまなシーンで活躍してくれる、豊かな食生活の心強いサポーター。どんどん活用したいものです。

 

お店情報

アマノフーズ公式オンラインショップ

www.amanofd.jp

 

アマノフリーズドライステーション

http://www.amanofoods.co.jp/antennashop/

 

書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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