ミスターワセメシ「三品食堂」は、西門最後の希望かもしれない【青春グルメ 早稲田編】

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誰にだって青春の思い出の味がある ── 。

とりわけ名門校と呼ばれる高校の多くが、生徒に長年愛される名店にことさら恵まれている。学校取材の行き帰りにそんなお店に寄るにつけ、筆者はそうと気づいた。

そして、お店への寄り道をノルマにもしてきた。

その集大成が、筆者が2018に年出版した『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)だ。

名門高校 青春グルメ

名門高校 青春グルメ

  • 作者: 鈴木隆祐
  • 出版社/メーカー: 辰巳出版
  • 発売日: 2018/01/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

しかも、大学附属校となると、下手をすれば小学校から同じキャンパスにあり、付近の名店も幼い頃から関係各位の御用達。もはや第二のおふくろの味だ。

とりわけ私学の雄、早稲田・慶應の2校にはソウルフードだらけ。なくなったお店も多いけれど、まだまだ踏ん張る老舗はOB・OGにとっても、母校訪問に欠かせない宿り木なのだ!

 

「ワセメシ」のともしびが消えつつある?

ほとんどの学部がその中にある、早稲田のキャンパスは広大だ。早稲田出身者でなくとも、早大生並びに附属校・系列校の生徒が学食外で味わう、ワセメシというフレーズはおなじみだろう。

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▲ワセメシの本拠地は言わずとしれた東京メトロ東西線の早稲田駅周辺

 

近年、驚異的な盛りの肉丼が名物の「ライフ」、玉子を炒めてしまうカルボナーラが看板の「エルム」の立て続けの閉店は、一般紙やテレビのニュースでも取り上げられた。現役選手でいえば、「メルシー」のラーメンはおよそ予備校を除き、早稲田と名がつく学校に通った者なら、誰もが一度は食べているはずだ。

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しかし実際、ここ10数年の間になくなった名店を数え出すと、OBでないぼくでもお世話になったお店が多く、わびしさに寒気がしてくる。

食べている途中にソースの追いがけをしてくれるカレーの「藤」、通称スタライ(スタミナライス、実は麻婆豆腐丼)が定番の「キッチンカナリア」、チョコとんなど変わりとんかつで知られた「フクちゃん」、通称ナス(なすと豚肉の味噌炒め)と若鶏の唐揚げ定食の注文しか受け付けてくれない謎の中華「珍味」、豆腐料理がウリだった「昇竜軒」、麦飯をつけてくれるラーメンの「ほづみ」、マトン入りタンメンが看板の「稲穂」、あの神保町いもやの流れをくむ「天婦羅いもや」、味付きもやしが取り放題の「ラーメンジャンボ」……。

ついには、チャイナチャーハンというニラ&ニンニク入り炒飯で知られた「西北亭」が2017年のうちに、イカ天丼が名物だった長岡屋総本店」が2018年の初めに、カツ丼発祥のお店とされる江戸後期創業の「三朝庵」までもが同年夏で閉めてしまった。

 

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▲三朝庵は、カレー南蛮でも有名なお店だった

 

歴史を物語るOB・OGの寄せ書き

かつて早稲田には早大の附属・系列校が2校あった。早稲田実業と早稲田中学高校だ。しかし、早実は2001年、創立100周年を記念し、男女共学化とともに国分寺に移転。今残るのは、大学正門に近い早稲田中高だけだ。

もっとも、前世紀の早実OBたちにとっては、国分寺などピンと来ない町。懐かしの味を求め、なにかと理由をつけては思い出のお店に参集する。その代表格が大学西門の真横の「三品食堂(さんぴんしょくどう)ではなかろうか。

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▲街の定食屋さん然とした外観は、ほぼ昭和のまんま

 

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▲店内は中央に大きなテーブルが置かれたシンプルな作り

 

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▲早稲田の学生たちをを見守り続けて50年の店主、北上昌夫さん。大学が長期休暇の間はお店も休んでしまう徹底ぶりで、冬場は趣味のスキーを楽しんでいるという

 

なにはなくとも見てもらおう、店内に貼り出された寄せ書きを!

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▲50年の歴史の賜物が店内所狭しと貼り出された寄せ書きのパネル。まさに「三品を知らずして、ワセメシを語る事なかれ!」(知人編集者のOB談)の証だ

 

三品の開店は1965年(昭和40年)だから、ぼくよりも一つ年上。

この風習も始まって40年以上になるという。

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▲読んでいるだけでこちらも勝手に胸アツになってくる

 

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▲寄せ書きの中には「西門の最後の希望」の文字も。彼はいったいどんな気持ちで書き記したのだろうか

 

寄せ書きがあまりにたまりすぎて、とても店内に飾りきれないものだから、店主の北上昌夫さんは勢い余って、OB連の求めるままに記念の冊子まで刊行してしまった。

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▲これがその冊子。早大の歴史の一部が詰まった貴重な1冊だ(非売品)

 

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▲絶対に中に知り合いがいるぞ……と思いつつ眺める、卒業生が残した色紙40年分の冊子 。早大応援部の納会にお店を貸し切りで提供するのも、同じくらい古くからの慣習だとか

 

▲SNSでもお店のアカウントから近況を発信中

 

アイテムの組み合わせは30通り以上

「三品食堂」は、店名の通り、牛めしにカレー、カツの三品のみを提供するお店。しかし、店内の表にあるよう、この三品だけで30通り以上の組み合わせが可能だ。

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▲この化学記号表をほうふつとさせる整然としたメニューに注目。自身も早大の理工学部卒である北上さんが「マトリックスの表が見やすい」と思い作成したのだそう。さっすが!

 

単純に3の3乗でも27パターンあり得るが、さらに小中大と盛りも変わるので、ご覧の通りなのだ。

ところで、カツカレーは昭和40年頃から存在したのだろうか。実はカツカレーは、今もある銀座の洋食店「グリルスイス」で1948年に生まれたというのが定説なので、当時から存在した。意外中の意外は「かつ牛めし」だが、これも最初は常連の学生から、「カツライスに牛をかけてほしい」というオーダーがあって誕生したという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181226164806p:plain北上さん:食堂を始める前は、同じ場所で学生帽を扱う帽子店をやっていたんです。でも、だんだん学生たちも帽子や学ランなんか着ない時代になり、父親は帽子店を廃業して勤めに出るようになった。そこで、空いてしまった店舗をもったいないと感じた母親が最初、牛めしを出すお店を出そうと計画したんです。ただ、牛めしだけではすぐに飽きられちゃうでしょ。そこで、他にカレーとカツライスを提供することにしたんだよね。

 

そう、北上さんは冊子に載せた御母堂の在りし日の写真を眺めつつ、感慨深げに語る。

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▲上が学生帽時代、下は現在の店舗。 右側の風景は変われど、左側の西門のたたずまいは当時とほぼ同じ

 

カツの満足感とカレーの懐かしさに舌鼓

さあて、では看板のカツミックス中盛(900円)を作っていただこう。厨房の内側に入って、ライスに三品がのせられていくさまを見るのは初めてだ。

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▲まずはカツを揚げる。北上さんいわく、カレーと牛のいわゆるあいがけは、「むしろ後発のメニュー」なのだとか

 

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▲揚げたてのカツを白飯に盛り付けて

 

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▲そこへ牛めしの牛をのせていく

 

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▲さらにあいがけ状態でカレーを

 

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▲できあがり。カツミックス中盛(900円)

 

よっしゃ、食べよう……。

 

カレーがね、ウコンそのままに黄色いんですよ。昭和40年代生まれくらいまでには、これが“間違いないヤツ”でしょう、やっぱ。小麦粉とラードでルーを焦がさず作るんだろうな。

牛がけはね、やや甘めで意外とあっさりしてるんだ。カツの上にかかるから、肉の脂っ気は少ない。頼まずともツユダクのシャバシャバ感がたまらない。

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そのカツが薄からず厚からずでね、衣が香ばしくて、カレーにも牛にもドンピシャ。ピンポイントでソースをかければ、別の味わいが加わります。

カレーに牛肉煮が覆い被さり、カツを包んでいる……。こんなぜいたくってあるだろうか。しかも、カレーは理想のお母さんカレーなのだ!

 

卓上には福神漬けとともに、大ぶりにカットされた紅しょうが。寿司のガリに近い代物で、わざわざ塊のまま漬かった製品を買って、北上さんがスライスするんだとか。これも学生のリクエストに応じて生まれた。

ガリガリとこの赤ガリをかんでいると、実にさっぱりする。次第に文字通り、皿の上でミックスとなる、この三色同順メシに不思議な規律を与えてくれる。

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▲もはや薬味を見ているだけで、ミックスが思い返され、食欲もわく。黄色いカレーに赤い福神漬けとガリがよく合うのだ

 

早稲田中高の生徒も大学生に混じって、土曜などはよく食べに来るそう。大学が長期休暇に入ると、ピシャリと休んでしまうお店だが、その間にも部活でしょっちゅう学校に来なくちゃならない中高生の中には、禁断症状に苦しむ者もいそうだ。

 

「早稲田三大油田」とは

有名店が次々姿を消していくワセメシ界にあって、その灯火を守り続けているのは、この「三品食堂」や、先に紹介した「メルシー」だけではない。

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▲西門商店街は新旧の飲食店がひしめきあい、ハングリーな学生たちの胃袋を日々満たしている

 

甘じょっぱいジャンジャン焼きが白米をバクバクと進ませ、プラス50円でライスがメガ盛りに膨れあがる(そのこんもりした形状からUFO盛りとも言われる)早稲田駅すぐそばの「キッチンオトボケ」、衝撃のボリュームの茄子カラ弁がいまだ350円の「わせだの弁当屋」、これらと並んで「早稲田三大油田」と称される「キッチン南海」といった、古参の店々が近所で待ち受けてくれる。

もっとも、同じ洋食を食べるなら、何十年と一律500円で上質の洋定食を提供し続ける「キッチンミキ」が、それこそ昭和40年代以前生まれの読者にはおすすめだろうか。女子学生が多いから? まぁ、そうとも言えるが、先だって久々に試すと、けっこうな量感。懐かしさと引き換えに、胃袋のキャパシティーを試しに行くのもまた一興だ。

 

そこへいくと、三品でもミックス中くらいなら、オッサンも楽勝っす。そして、大人のぜいたくとして、店主・北上さんが会長を務める早稲田大学周辺商店連合会オリジナルのクラフトビール、「早稲田ビール」をたしなむのである。

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ああ、これぞ出世メシ。

天にも昇る気持ちです……。

 

お店情報

三品食堂

住所:東京新宿区西早稲田1-4-25
電話番号:03-3202-6563
営業時間:月曜日・火曜日・木曜日・金曜日11:00〜14:30、水曜日および土曜日11:00〜13:00
定休日:日曜日、早稲田大学の夏期冬期休み中は休業予定

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書いた人:鈴木隆祐(すずき・りゅうすけ)

鈴木隆祐

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト。教育やビジネス分野に造詣が深く、食べ歩きをいつしかライフワークとする。 『名門高校人脈』(光文社新書)、『全国創業者列伝』(双葉新書)、『東京B級グルメ放浪記』(光文社知恵の森文庫)など著書多数。

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