家庭の冷蔵庫で熟成を楽しめるグリーンチーズには、チーズ工房の郷土愛が詰まっていた

自宅でチーズを熟成させるのは、常に温度や湿度などを管理する必要があって非常に難しいもの。しかし、家庭の冷蔵庫で簡単に熟成できるチースがあります。このチーズを作っている旭川の牧場に伺い、チーズ作りの想いを聞きました。

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

 

北海道第二の都市・旭川市に、家庭の冷蔵庫で自分好みに熟成することのできるグリーンチーズが売られています。

グリーンチーズとは、熟成前の若いチーズのこと。

と言っても、簡単にチーズを熟成させるなんて本当に可能なのでしょうか。

そのグリーンチーズを製造している「旭川あらかわ牧場」に伺い、その謎に迫りました。

 

チーズを家庭の冷蔵庫で育てる

取材に応じてくれたのは、旭川あらかわ牧場の2代目・荒川求(あらかわ・もとむ)さん。

 

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――旭川あらかわ牧場のグリーンチーズは、チーズとは思えないほどカラフルですね。

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川さん(以下敬称略):グリーンチーズをワックス(食品用のロウ)でコーティングしているんです。

 

――色によって違いはあるんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:表面のワックスの色によってタイプが異なります。赤は熟成させるとコクが出るタイプ。白色は熟成後もミルクの風味が残って、温めて溶かすとよく伸びるタイプ。オレンジは熟成によってチーズらしいまろやかな酸味の出るタイプ。茶色はスモークしたタイプです。

 

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

 

――家庭で熟成させるのを前提で開発したそうですが、このグリーンチーズを熟成させるとどのように風味が変わってくるのですか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:製造から1週間の若いグリーンチーズは、モッツァレラチーズのようにさっぱりと淡白な味です。
1カ月経つとチーズの香りが徐々に強くなってきます。
1年経つとしっかりと熟成したチーズの風味に変わって、食感もしっとりとなります。
2年経つとカットした瞬間にチーズの香りが漂うほど濃厚な香りと味に育ちます。このころになるとチーズの表面や内部には白い粒々があらわれます。これはうま味成分であるアミノ酸が結晶になったもので、食べるとジャリジャリとした食感がありますが、この粒にうま味がギュっと詰まっています。

 

――箱に賞味期限が記載されていますが、これはどういう基準なんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:日付は販売した時点の風味が保てる期限です。賞味期限が過ぎたからといって、品質や味が悪くなるわけではなく、次の熟成段階の味に変わる目安の日付です。
箱には、別に「熟成期限」として製造から2年後の日付が記載されていますので、この熟成期限までは、熟成による味の変化が楽しめます。
現在は、すぐに熟成したチーズが食べたいという人のために、1~3カ月程度熟成させたものも販売しています。さらに、在庫があれば24ヶ月までの範囲で熟成させたチーズを販売しますが、熟成させる前に売切れてしまうので1年以上のものに出会えるのはまれですよ。

 

――熟成前のグリーンチーズを食べさせていただきましたが、ミルクの風味が豊かでチーズ独特のクセがなく、チーズが苦手という人でも食べられる味ですね。

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:カットしてそのまま食べてもおいしいですが、お刺身のように醤油とわさびで食べるのもおすすめです。

 

一般のチーズを家庭で熟成させるのは困難

――自宅の冷蔵庫で熟成させる際に、気をつけるポイントはありますか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:熟成させるときには、購入したときに入っていた箱のまま冷蔵庫で保存してください。箱の中には、緩衝材に包まれた状態でチーズが入っていますが、取り出してしまうと何かの衝撃などを受けたときに、表面のワックスがひび割れてしまって、そこからカビが生える原因になります。

 

――冷蔵庫の温度はどうすればいいのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:旭川あらかわ牧場の熟成庫の温度設定は8~10℃です。なので家庭用の冷蔵庫でも野菜室など、それに近い温度の場所に入れて保存するのがおすすめです。野菜室でも8℃以下の冷蔵庫もありますが、熟成する時間がゆっくりになるだけなので問題ありません。

 

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▲チーズ作りに励む荒川さん

 

――他のメーカーさんのチーズや、違う種類のチーズは自宅で熟成できないんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:チーズを熟成させるには、常に温度や湿度などのチェックが必要で、自宅では非常に難しいです。真空パックするという方法もありますが、真空にする際にチーズの中にある水分が表面に吸い出されてしまい、味や香りが変わってしまいます。

 

――なぜ、旭川あらかわ牧場さんのグリーンチーズは家庭の冷蔵庫でもおいしく熟成させることが可能なのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:細かいところは企業秘密ですが、一番は表面をワックスコーティングしているからです。

 

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

旭川あらかわ牧場のグリーンチーズのコンセプトは、「特別な日に食べるいつものチーズ」。自宅の冷蔵庫で熟成させて、結婚記念日や誕生日など特別な日に「いつもこのチーズを食べてるよね」と語り合えるチーズを作りたいという荒川さんの想いがこめられています。

 

北海道地チーズ博 2020」でグランプリを受賞

旭川あらかわ牧場があるのは、旭川市の北の端に位置する江丹別町(えたんべつちょう)という地域。人口わずか300人弱の江丹別町には、広大なそば畑と牧草地が広がります。

 

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

 

大自然に囲まれた牧場で、健康的に育てられた牛が出す新鮮な生乳を使って手作りされているのが、旭川あらかわ牧場のチーズです。

そんな、旭川あらかわ牧場が快挙を成し遂げました。

2020年2月に東京・表参道で開催されたイベント「北海道地チーズ博 2020」で、45種類のチーズの中から、旭川あらかわ牧場の「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」がグランプリに選ばれたのです。

 

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

 

北海道地チーズ博 2020」は、ホクレン農業協同組合連合会が主催する北海道産ナチュラルチーズ(地チーズ)をPRするイベントで、昨年に続き今回が2回目の開催です。

会場には、北海道の地チーズが約320種類揃い、「北海道地チーズセレクション 2020」という企画では、その中からエントリーされた45品目の中から来場者の投票によって、グランプリが決められます。

旭川あらかわ牧場の「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」は、2019年はグランプリに続くゴールド賞でしたが、味に改良を加えて2020年見事グランプリに輝きました。

 

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(写真提供:旭川あらかわ牧場)

 

「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」は、あらかわ牧場のミルクから作ったグリーンチーズを、地元・旭川の老舗醤油メーカー「キッコーニホン」の北海道産昆布だしに漬け込んだもの。

2013年、旭川あらかわ牧場内にチーズ工房を設立した荒川さんは、当初から日本酒や焼酎に合うチーズを作りたいという構想を持っていて、数年がかりで完成させたのが、この「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」なのです。

 

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旭川あらかわ牧場のチーズ工房

 

――「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」のように、市販のチーズを昆布だしに漬けたらおいしくなりますか?

 

f:id:exw_mesi:20200826081539j:plain荒川:「和乾酪(わのチーズ)昆布だし」は、塩水に漬け込んでいないチーズを、昆布だしで味付けしています。通常のチーズは雑菌の繁殖を抑えるため、表面に塩をすり込むか、塩水に漬けて作られます。そのため、市販のチーズを昆布だしに漬けると、塩分濃度が高くなってしょっぱくなり過ぎると思います。

 

インターネット通販をしない理由は郷土愛

旭川あらかわ牧場のチーズは、JR旭川駅構内にあるお土産屋「AMO・BASE(アモベース)」や、同じく旭川駅構内にある「旭川観光物産情報センター」などで購入できます。

 

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インターネット通販などでお取り寄せをすることはできません。

また、旭川以外のお店への卸売もしていません。

その理由は「チーズを買うために旭川や江丹別に来てほしいから」。

 

ただ、直接お客様と対面してチーズの話をしたい、旭川あらかわ牧場がある江丹別を知ってほしいという荒川さんの想いから、全国各地で開催される北海道物産展には、積極的に出店しています。

今年は、新型コロナウイルス感染症の流行によって、3月以降予定されていた物産展がすべて中止になったそう。チーズの在庫が、余って困っているのではないかと聞いてみたら、「農産物直売所など旭川市内数カ所での販売が好調で在庫が足りない状況」とのことでした。

お取り寄せはできませんが、旭川市のふるさと納税の返礼品にも選ばれていますので、興味のある方はチェックしてみてください。

書いた人:都良

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生まれも育ちも北海道で、半世紀以上生きてます。「北海道フードマイスター」「北海道観光マスター」の資格を持ち、「自称」北海道の食と観光の専門家。暇な時には農家さんの手伝いもしていて、農業も大好きです。本業はフリーのWEBライター。ライフワークは障がい者スポーツ。北海道ボッチャ協会の審判員・普及員で、週末には各地で「ボッチャ」の体験会をしています。

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