かつては品川駅に6軒!よくぞ残ったホーム駅そばの聖地「常盤軒」へようこそ

“駅そばの聖地”として名高い、品川駅ホームの「常盤軒」。人気トップ3のメニューのことから、駅のホームという特殊な場所で半世紀以上続けられてきたヒミツまで、たっぷり聞いてきました。

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※この記事は2020年2月下旬に取材しました

 

日本の駅の原風景といえば、駅のホームの立ち食いそば(駅そば)。おいしい香りを漂わせながら、とびっきりの存在感で佇むお店で食べたそばは、ふつうの立ち食いそばよりもなんだかおいしく感じてしまいました。

 

最近では急速にその姿を消しつつあるホームの駅そばですが、JR東日本エリア内度乗車人員5位(2019年度)の駅別乗車人員の品川駅には、かつてはホームに最大6店舗を構え、今でも2店舗を残す、“駅そばの聖地”とも呼ばれる常盤軒が存在します。

 

1960年代に始まり、この2020年まで「わざわざ駅のホームで食べるそば」が愛され続ける理由とは。

 

株式会社常盤軒の小塚浩さんにお話をうかがいました。

 

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▲株式会社常盤軒 営業1部 統括部長の小塚浩さん

 

西郷隆盛の上司が作った運営会社

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▲山手線ホームの「そば処 常盤軒」(品川22号店)

 

──憧れの常盤軒さんにインタビューできてうれしいです。まず、いつどのようにお店が生まれたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚さん(以下、敬称略):もともと弊社は、品川に日本初の鉄道を通す礎をつくった小松帯刀の子孫が経営する会社として1922年に品川駅での商売を許可され、1923年に駅弁を売り出したのがはじまりです。

 

──小松帯刀って、西郷隆盛や大久保利通を従えていた人ですよね……庶民のお店なのに、そんなに由緒正しかったとは。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:そして1964年に駅そば「常盤軒」の一号店が生まれました。当時は、現在の山手線ホームのちょうど真ん中あたりにあったそうです。

 

──今は端(大崎寄り)にありますよね。

 

小塚:あれは品川駅では2店舗目で、おそらく1960年代にできたお店ですね。

 

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▲狭い店内だが、混雑時は12人ほど入ることも

 

──1日のお客さんはどれぐらいですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:山手線の店舗だと多くて700人、横須賀線のほうですと500人ぐらいですね。

 

──狭いのに、多い! その中でも混む時間帯はいつですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:朝・昼・夜、サラリーマンの方がお食事をされる時間帯ですね。夜遅い時間には、お酒を飲んできたお客様も多くいらっしゃいます。

 

──お酒を飲んだあとの立ち食いそば、控えめに言って最高ですね。

 

名物「品川丼」誕生の理由

──注文の多いメニューはなんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:かき揚げそばとカレーライス、品川丼が人気トップ3です。品川丼はここ何年、SNSやWebメディアなどで取り上げていただいて注文が増えました。

 

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──まず品川丼、すごいメニューですよね。駅そば特有の丸いかき揚げをそのまんまごはんに載せる。どんなきっかけで生まれたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:先代の社長が、お客様がおなかいっぱいになってもらえるように、と作ったんです。これは品川が漁師町だった頃にあった、シャコなどを使って作る郷土料理の「品川めし」にちなんだそうです。

 

──ド迫力のメニューですが、地元品川の伝統料理からきているんですね。

 

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▲品川丼(490円)

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:かき揚げは一回つゆに浸すことで、全体に旨みが染みわたっておいしくなるんです。

 

──しんなりしているのがまたいいですね。一口噛むと、ほのかな香ばしさが口に広がってなかなかです。イカゲソとかオキアミを使っているのも独特ですね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:ゲソ・タコ・桜エビなど5種の海鮮が入っています。先代の社長の頃に生まれたレシピなので理由はわかりませんが、ずっと変えないようにしてきました。

 

駅そば好き=ネギ好き?

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──続いて、一番人気のかき揚げそばです。ふつうのおそばより蕎麦が黒っぽく見えますね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:なるべくそば感を出すために、皮とか、高級なお店では剥いてしまう部分も使っているので、黒っぽいおそばになっています。

 

──これがまたいいですよね。確かにそばを食べているなって感じで、気持ちが盛り上がりますから。ネギの量もびっくりするほど多くてうれしいなあ。

 

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▲かき揚げそば(460円)

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:「ネギをいっぱい入れてください」って声がものすごく多いんですよ。立ち食いそばがお好きな方は、皆さんネギを食べに来るのかなと思うぐらい、ネギ好きの方が多くて。ずっと前から多めにしています。

 

──本当にそうですね、私も完全にネギ好きですから。

 

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▲ジャンボ海老天そば(530円/1本)

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:さらに品川丼とそばのつゆは、弊社独自のレシピでメーカーさんに作っていただいています。

 

──どんなものですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:そばの方はダシが独特で、かつお節に加えてちょっとだけマグロの身を入れた、ミックスのダシをずっと使い続けています。

 

──思わぬ高級そうな食材が! 汁を飲むときのありがたみが増しますね。

 

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▲カレーライス(520円)

 

──コクと食べごたえのあるカレーライスも評判ですよね。私もファンです。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:品川丼と同様、このカレーも私の入社前からありまして、ずっと変えておりません。

 

──山手線ホームのお店にはカレーライス以外に「カレー丼」もあるんですが、味付けは変えていますか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:同じです。カレー丼は「どんぶりの方が食べやすい」って方も多かったので、そのご要望にお応えしました。ちなみに漬物とスープが付くので、カレー丼のほうが若干おトクです。

 

──地味にうれしい裏ワザだ。ただカレーライスのほうも、あの銀の器で食べられるからこその魅力がありますからね。

 

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▲横須賀線ホームの店舗だと、カレーライスに揚げ玉とネギのかかったそば汁が付いてくる

 

伝説の「お好みそば」の最後

──閉店してしまいましたが、カレーだけで6種類あるお店ですとか、店舗ごとに特色があって楽しかったです。

 

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▲今はなき品川24号店

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:カレーのお店は京浜東北線のホームの店舗ですよね。そこでは手作りのカレーを出していました。同じホームに2店舗あったので、片方の店舗を改装し、店内でカレーを1から仕込んでいたんです。

 

──いいなぁ……牛丼やビールもありましたもんね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:あと、手ごろな値段で好きな具材を好きなだけトッピングできる「お好みそば」のお店もありました。なぜそんなサービスになったのかというと、店舗がホームの端にあったので、それでも来てくれるぐらいのメニューを出なさいといけなかったんですね。

 

──とんでもないサービスですね……なぜなくなっちゃったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:駅のリニューアルで電車が来るホームがズレたり、ホームに電車が来なくなることもあって、閉鎖になりました。

 

──ホームの事情でなくなる、駅そばのツラさ……。

 

f:id:pegaman:20200225031810j:plain※2020年2月に撮影

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:でも最終営業日には、たくさんのお客様が閉店を惜しんで来てくれたんです。その日はお店はじまって以来の、お客様の整列を行いました。

 

──へぇ!

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:よくデパートが閉まるときに、外でお客様が並んでいることがあるじゃないですか。あれに近いイメージで、いっぱいお客様に集まっていただいて。泣きながらおそばを食べている方もいらっしゃいました。

 

──すごい……!

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:最後は社長も立ち会って、デパートみたいに礼をして終わりました。シャッターを閉めたときには、拍手が巻き起こりましたよ。

 

──名物店の最後に、そんなエンディングがあったとは。お好みそば、私も存在を知っていれば食べてみたかった。

 

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「お気を付けて」はパートさん発

──あと、お店を出るときに「お気を付けて」って言ってくれるお店もありますね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:横須賀線ホームのパートの女性従業員が言ってくれますね。駅にいらっしゃるみなさんに対して「お気を付けて」と。

 

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──その方独自のお言葉だったんですね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:あちらの店舗は常連さんが多いのですが、彼女も10年も働いていますので、それぞれのお客様が何を注文するか熟知していますから。そうした流れがあって、このお声がけになっているんだと思います。

 

──背中を押してもらえる感じですね。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:プラスアルファのひと言から、彼女の人柄が垣間見えますよね。

 

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▲ジャンボ海老天はたっぷりの衣がウマい!

 

声はかけないけれど、見守っている

──最近の常盤軒さんは、立ち食いそば店の聖地としても語られますが。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:SNSをチェックすると、そういう書き方をされていますね。光栄だなと思っています。

 

──そう言ってもらえてファンとしてもうれしいですね、心置きなく常盤軒を推せます。そんな常盤軒のメニューで、ひとつ最後の晩餐にできるなら何を選びますか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:かき揚げそばですね。入社当時は現場でそばを振る舞っていましたが、まかないでずっと食べていましたので。いまでも週に1~2回は必ず食べています。

 

──思い出のメニューでもあり、自慢のメニューでもあるんですね。最後に小塚さんにとって、この常盤軒というお店はどんな存在ですか?

 

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f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:「つながりの場」ですね。私も現場に立っていた時期があったのですが、いつも来ていただけるお客様とつながっている場所という感覚があります。たまに来なくなる方がいると心配になっていました。

 

──お客様の顔は覚えているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:はい、ホントに同じ時間に必ず来ていただける方もいらっしゃいますので。

 

──あくまで声はかけずに見守っている。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:そうですね。

 

──いい距離感ですね、店員さんはちゃんと見ているんだ。

 

f:id:exw_mesi:20200225162736p:plain小塚:ええ。私どもはずっとこの味をキープして皆さまをお待ちしております。ネットで応援してくださるのも大変ありがたいと思っていますので、ご無沙汰している方も、若い方もぜひいらしてください。

 

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 ※この記事は2020年2月下旬に取材しました

 

お店情報

そば処 常盤軒

住所:東京都港区高輪3-26-26 品川駅構内 山手線ホーム(大崎寄り)
電話:03-3442-2998
営業時間:6:00~23:30(月~金)、6:00~23:00(土)、6:00~22:30(日・祝)
定休日:無休

※新型コロナウィルス感染症の影響により、営業時間や定休日に変動の可能性があります。

書いた人:辰井裕紀

辰井裕紀

卓球と競馬とサッポロ一番みそラーメンが好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当しておりローカルネタが得意。

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