青物横丁の「そば切り うちば」が良心の塊だった
こんにちは、東京ソバット団のソバット本橋です。
まずはですね、このもりそばの写真を見てくださいよ。
▲もりそば(380円)
どこの高級そば店かと思うでしょ。
東京ソバット団らしくないとこ行ってんじゃないよ、と思うでしょ。
でもこれ、380円なんですよ。しかも手打ちで二八で立ち食いなんですよ!
けっこう太めのそばは噛みごたえのある男らしいタイプで、こいつを濃いめの辛汁にひたしてムギュッと噛むと、そばの香りと甘みがブワッ。
いや、うまい。「そば食ってる」感がすごいんですよ。これはまいりました。
この驚きのそばを出しているのが、青物横丁にある「そば切り うちば」。
今年の2月に開店して、一部のマニアの間では話題になっているんですよ。あまりにいい店すぎて個人的には内緒にしておきたいんですけど、やっぱりみなさんに知らせたい気持ちを抑えられず、ガッツリ取材してきました。
元・役者の店主がお店を始めた理由
さて、この驚きのそばを作っているのが、こちらの中村さん。
実は中村さんはかつて「演劇集団Z団」という劇団に所属していた、役者さんなんです。いったい、なにがどうしてそば店を始めたのか、まずはそのへんのいきさつを聞いてみました。
21歳のときに役者を志して北海道から上京してきた中村さん。しかし、多くの人がそうであるように、役者だけでは食べていけず、アルバイトをしていました。
中村さん:もともとそばが好きなのもあって、富士そばでバイトしていたんですよ。8年ぐらいやっていて、社員にならないかとも言っていただきましたね。
アルバイトをしながら役者を続けていた中村さんですが、お子さんが生まれたことをきっかけに、役者をやめることに。
好きだったそばで身を立てるべく、老舗そば店で修行を始めます。そこでそば打ちの技術を身につけたのですが、それと同時に「安い手打ちそば」をやりたいという気持ちが芽生えてきたのだとか。
中村さん:そこで働きながら、なんでそばってこんなに高いんだろうって思っていたんですよ。ちょっといいところだと、お酒飲んでつまみ食べて、そばで締めると4,000円ぐらいしちゃいますよね。
役者時代は、そんなことはなかなかできなかったし、それなら手打ちのそばを安い値段で出す店を、自分でやってみようと思い始めたんです。
使うそば粉はキタワセ、しょうゆやみりんなど素材を吟味して味を落とさないようにコストダウンを図り、なんとかやっているという中村さん。
それでもちゃんとしたそばを食べてほしいという思いから、手間のかかる手打ちにこだわったのだとか。
それではここで、中村さんの思いがこもった美しい生粉打ち(十割)の田舎そばを見てもらいましょう。ちなみにこちら、国産そば粉使用で、土曜のみの限定10食となります。
限定10食の十割そばも
▲生粉打ち(十割)の田舎そば(700円)
まさに威風堂々。
ノーマルのそばよりさらに太く、噛み締めながら食べる感じ。もうそばの香りと甘みが濃厚すぎて、むせかえるほどです。まさしく「THE そば」!
量が少なく見えるかもしれませんが、けっこう手強いそばなんで、食べ終わるとお腹にズシッときて、満足度はかなり高いです。
700円という値段も、中村さんの意気を感じます。これ、普通だったら1,000円以上してもおかしくないですよ。
さぁさぁ、うまいそば食べてテンションが上がってきたんで、ぶっかけ系もいってみましょうか。またしても食べごたえのありそうな、冷やし肉そばですよ。
▲冷やし肉そば(740円)
3時間ほど煮込むというほろほろの豚バラ肉は、無駄な油が抜けてしつこい感じはなく、肉の甘みをじっくり味わえます。
これに大根おろしを乗せてかぶりつき、太いそばをガシガシ食べる行為は痛快そのもの。いや~、老舗そば店でしっかり修行しただけあって、タネもぬかりないですね~。
変わりメニューはほかにもあって、こちらはお酒のつまみにもぴったりなそばがきコロッケ。
▲そばがきコロッケ(100円)
味を整えて具を加えたそばがきに、パン粉をつけて揚げたもので、これがなかなかのうまさ。水曜日と金曜日は夜営業をやっているので、ぜひお酒にこれを合わせたい。
お店を始めた当初は、そばを茹でる時間がかかりすぎるとクレームを受けることも多かったという中村さん。
最近は安くてもしっかりしたものを出す店、ということが知られてきて常連さんが徐々に増えてきているとか。
中村さん:土曜日が意外と混むんですよ。近くの人というより、わざわざ食べに来てくれるお客様が増えているみたいで。安くてもちゃんと作っているというのが伝わっているようで、うれしいですね。
また、食べ終わった後に「ごちそうさま」と言ってくれるお客さんも多いとか。
なんでもないようで、これってすごく大事なことなんですよね。言葉に出すって、お店の味をしっかりと認めている証拠ですから。
ちゃんとしたそばをお手軽に食べられる、良心の塊のような「そば切り うちば」。
わざわざ食べに行く価値のあるお店ですので、ぜひどうぞ。
お店情報
そば切り うちば
住所:東京都品川区東品川3-27-24
電話番号:03-6712-3388
書いた人:本橋隆司
フリーランスの編集、ライターとしてウェブや雑誌などで仕事中。近著は『東京立ち食いそばジャーニー』『立ち食いそば大図鑑』(ともにスタンダーズプレス)そばであればだいたい好き。
- サイト:立ち食いそば図鑑の中の人のサイト
- Facebook:東京ソバット団
撮った人:安藤青太
カメラマン、書籍制作。グラビア系から食べ物系まで何でも撮るカメラマン。本橋とは『立ち食いそば図鑑 東京編』『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作。その他『檀蜜DVD色情遊戯2』『相撲部屋の幸せな猫たち』『東京の、すごい旅館』など。好きな立ち食いそばはコロッケそば。