【閉店】【名古屋きしめん漫遊記】一杯で二度オイシイ「き中」と「みそころきし」は、きしめん界の救世主になれるか

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2005年の愛知万博をきっかけに、味噌かつや手羽先、ひつまぶしなど「名古屋めし」の知名度が全国区になった。10年経った今でも話題で、名古屋めしを目当てに東京大阪から訪れる人も多いと聞く。

 

しかし、その評判をよそに、ずっと日の目を見なかった名古屋めしがある。それがきしめんだ。そもそも名古屋市内どころか愛知県内を見渡してもきしめんの専門店が少なく、うどんやそばの店がきしめんも提供しているのが大半だ。

 

だから地元の人に美味しいきしめんの店を聞いても「名古屋駅のホームで食べるきしめんがいちばん旨いがね」と言われる。フードライターである私もそう答えてきた。早い話が駅以外できしめんを食べていないのだ。自分の無知さ加減をごまかすための、苦し紛れのものであったことをここに懺悔したい。

駅のきしめんも旨いことは間違いないが、職人ならではの技術やこだわりが光る名店もあるに違いない。この「きしめん放浪記」はフードライターでありながら、きしめんビギナーである私、永谷が自信を持って勧められるきしめん店を紹介する。

 

きしめんのつゆで食べる中華そばが話題

記念すべき第1回目は、愛知県春日井市にある『長命うどん 大嶌店』。

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『長命うどん 大嶌店(おおしまてん)』は、1913(大正2)年に開店。創業102年の老舗中の老舗だ。立ち食いではないものの、東京の『富士そば』や大阪の『都そば』と同列の大衆店。公式サイトによると、愛知県内に15店舗展開。なかでも、ここ大嶌店のみが店主の名を冠している。

 

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店主の大嶌伸治さん。名古屋市中村区にある本店での修行を経て、2009年に開店させた。

 

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吉本新喜劇に出てきそうな、庶民的な店内。圧倒的に男性客が多く、サラリーマンやガテン系の男たちの胃袋を満たしている。

 

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価格は店によってさまざまだが、大嶌店は麺1玉(並)の「小」が1コインの500円。かき揚げや、やさい(玉ネギ)、さかな、ちくわ、いも、いか、なすの「天ぷら」(各120円)も用意している。

 

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冷たいつゆで食べる「コロ」や湯に入った麺をつけ汁で食べる「湯つき」、ここには書いていないが、つゆがぬるく、麺そのものの味が楽しめる「ぬる」など食べ方もさまざま。まずはノーマルな「かけきしめん」を紹介しよう。

 

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▲きしめん(小)(500円)

 

具材はネギのみとシンプルだが、ムロアジとサバ節でとった野趣溢れるダシとたまり醤油の風味を存分に吸ったピロピロの麺が最高に旨い。ちなみに名古屋のきしめん(うどん)のダシは、カツオや昆布を使わず、ムロアジやサバ節、ソウダガツオでとるのが一般的。そして、味付けに用いるのは、たまり醤油やみりん。この組み合わせが名古屋らしい、やや濃くて甘辛い味わいを生み出すのだ。

「きしめんのほかにうどんやそば、そうめんもあります。きしめんのつゆで食べる中華そばも人気ですよ」と、大嶌さん。ん? 中華そば? それもきしめんのつゆで食べる!? 味の想像がまったくできないが、作ってもらうことに。

 

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▲中華そば(小)(500円)

 

昔ながらの中華そばに見えなくもないが、きしめんと同じつゆを使った、純和風テイスト。ラーメンよりもあっさりしているので、実に食べやすい。コシのある麺も旨い。夢中で食べていると、大嶌さんから「コショウをかけると旨さ倍増です。是非試してみてください」とのアドバイス。

えっ? きしめんのつゆにコショウ!? 一味や七味ならわかるが、コショウをかけるのは、かなり抵抗があったが、実際にやってみると、たまり醤油の味がぐっと引き締ってムチャクチャ旨い! 天ぷらをのせて、その油を麺にまとわせるのもオススメだ。

 

うどん+中華そばの「う中」、うどん+そばの「うそ」

『長命うどん』の魅力はこれだけではない。常連客のみぞ知る裏メニューがあるのだ。それがこれ。

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▲き中(ちゅう)(500円)

 

同じ丼の中に、きしめんと中華そばが半玉ずつの奇跡的コラボ!

ほかにもうどんと中華そばの「う中」や、うどんとそばの「うそ」などなど組み合わせは自由。しかも、嬉しいことに値段もそのまま。このおトク感、ハンパない!

「それぞれ一杯ずつ注文する常連のお客さんを見て、麺がのびてしまうし、合わせてしまった、と聞いています。味や食感をいろいろ試してみて、自分好みの組み合わせで注文するお客さんも多いです」と、大嶌さん。

 

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「いか天」(120円)をトッピングして、コショウをパパッとかけて、いざ実食! いや、ちょっと待て! きしめんと中華そばは、それぞれ別に食べればいいのだろうか? それとも同時に? ……ええい!同時にいってしまえ!

 

おお! いか天から染み出す油をまとったきしめんのもっちり感と中華そばのしっかりとしたコシが口の中でひとつに! これは今まで体験したことのない食感だ。コショウがきいた名古屋風のダシとの相性も抜群。これはかなり旨いぞ。

注文する際に「き中、ください」と言えばOKだが、私のように小っ恥ずかしく思うヒトは「きしめんと中華、ミックスでお願いします」でも大丈夫。

 

では最後に、大嶌店のみのオリジナルメニューを紹介しよう。大嶌さんが「名古屋らしいメニューを作りたい!」と、研究に研究を、試作に試作を重ねて作った「みそころきしめん(小)」(650円)がそれ。

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前にも書いたが、冷たいつゆで食べるのが「ころ」。しかも、味噌味!? 私の中の名古屋人DNAが騒ぎまくっている。これは是非とも食べなくては!

 

ん? 注文しようとした矢先、目に飛び込んできたのがこの貼り紙。

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特製うま辛ミンチ「台湾ヘッド」(160円)。名古屋人なら絶対にソソられるはず(笑)。

 

名古屋人以外の方のために説明しよう。「台湾ヘッド」とは、ニンニクや唐辛子で味付けしたピリ辛のミンチで、名古屋のご当地ラーメン「台湾ラーメン」には欠かせない具材なのだ!

味噌味で、しかもピリ辛のミンチ。もう、名古屋人DNAが騒ぐどころか暴れ回っている。さらに、大嶌さんオススメの「卵黄」(70円)もトッピングして注文。

 

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▲みそころきし(650円)+台湾ヘッド(160円)+卵黄(70円)

 

名古屋で生まれ、今や東京でも大ブームの「台湾まぜそば」にそっくり。

 

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食べ方に決まったルールはないが、卵黄を潰して全体的にかき混ぜて食べるのがオススメ。つゆは、八丁味噌がベース。味噌のコクと風味、台湾ヘッドの刺激が相まって本当に旨い!台湾まぜそばのように、麺を食べ終わった丼にご飯を投入しても旨いと思う。

 

きしめんが名古屋めしのブームにイマイチ乗れなかったのは、味噌かつや手羽先と比べて味の想像がしやすかったこともある。単なる平たいうどんだと思われているからだろう。しかし、地元以外ではあまり馴染みのない味噌味のつゆであれば、全国に向けて発信力が増すってものだ。第一、濃厚な味噌味のつゆは、幅の広い麺の特性を十二分に活かすことができる。逆になぜ今までなかったのかとさえ思う。この夏、「みそころきし」ブームが到来するかもしれない!?

 

お店情報

長命うどん 大嶌店

住所:愛知県春日井市熊野町1543-5 ※本記事の情報は2015年5月のものです。

※このお店は現在閉店しています。
飲食店の掲載情報について。

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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