“二足のわらじ”で10年。とある「スケーター」兼「ハンバーガー屋」のパラレルキャリア論

ハンバーガーショップ・ルーモァバーガーの店主と、ショートトラックスピードスケートの選手を両立してきた中山翔太さん。そのオンリーワンなキャリアの先で見つけた、独自の仕事論を聞いてみました。

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※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました。

 

「エンジニア」と「ライター」。「デザイナー」と「カレー屋」。「公務員」と「ミュージシャン」(「」の中身はあなたがしっくりくるものに置き換えてみてください)。

 

何か二つを本気で両立するということは、とてつもなく難しい。一つの分野を極めて“仕事”にしようとするだけでも、そこには莫大な時間やエネルギーが必要になる。だからもう片方は、どこかで“趣味”と割り切ってしまっている人も少なくないだろう。

 

今回、話を聞きに行った中山翔太さんは、愛知県一宮市のハンバーガーショップ「ザ・ルーモァバーガー」を営む傍ら、ショートトラックスピードスケート(以下、ショートトラック)の選手として全国大会の出場経験も持つ、“二足のわらじ”で10年近く走り続けてきた強者だ。

 

「“ビジネス”としての仕事と“ライフ”としての仕事、僕にはどちらも必要だったんです」と語る中山さんの熱っぽい言葉に引き離されないよう、ハンバーガーの食レポもそこそこに話を聞いてきた。

 

「そこまで考えないと飲食店は残っていけない」

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▲JR尾張一宮駅/名鉄一宮駅から徒歩約10分。DIY感あふれるミニマルな店舗が“噂(rumor)”のハンバーガー屋

 

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▲ルーモァバーガー店主の中山翔太さん。現在35歳

 

──今日は営業中にありがとうございます。お昼はお忙しかったですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:ぽつぽつ忙しかったですよ。なんか不思議ですけどね、このご時世なのに、今のところ以前と売り上げが変わらないんです(※取材は2020年3月上旬に行った)

 

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▲お店があるのは一宮市の中心部・真清田神社の境内。中山さん曰く、もともとは神事に使う馬の住処だったそう

 

──神社の参拝ついでにいらっしゃるお客さんも多いんですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:老若男女いろんな方がいらっしゃいますけど、グルメな人が多いです。「今日の気分はハンバーガーだから、ルーモァバーガー行こう」みたいな感じで使ってくれますね。

 

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▲No.1メニューのチーズバーガー(520円〈M〉/890円〈L〉※価格はテイクアウトの場合。イートインの場合は+10円)。炙ったシュレッドチーズとクリームチーズ、さらに粉チーズを贅沢に使用

 

──値段もお手頃ですよね。今だと本格的なハンバーガーは大体1,000円前後するのに、ワンコインとちょっとで食べられるのはすごい。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:ハンバーガーってB級グルメだから、消費者の立場で考えたとき1個1,000円で食べたいとは思わない。やっぱり、できる限り安い方が喜んでもらえるじゃないですか。そこは企業努力でなんとかなるだろう、と思っているので。

 

──学生さんも来たりします?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:近所に住んでる子がお昼代を渡されて来ることはありますね。高校生までは、(メニューには載ってませんが)子供たちだけで来ればポテトとドリンクのおまけがちょっと付くんですよ。量や内容で考えればあり得ないくらいの値段で食べられます。

その結果が今出てるかわからないですけど、彼らが将来結婚して家庭を持って、うちに通ってもらえたらいいなと思いますね。そこまで考えないと、飲食店が残っていくのは難しい気がするんですよ。

 

「ショートトラック のこと以外考えられなくなった」

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──中山さんは、ハンバーガーショップを営みながらショートトラックの選手を続けられてきたんですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:はい、そうです。長くショートトラックの世界にいますけど、実業団でもない正社員で、30歳前後まで競技を続けている選手はほぼ見たことがないですし、まして自営業の選手は僕だけでした。そんな中、29歳で大学以来数年ぶりに、全日本の1.500mで8位に入ったことは嬉しかったです。

 

 

──中山さんがショートトラックを始めたのはいつぐらいですか?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:僕はちょっと遅くて小4です。大体みんな小学校低学年からですね。

 

──じゃあ、選手生命は長くても15年くらいですか。お店の近くにも市営のスケート場があったりと、スケートを始めやすい環境は整っていたんですね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:僕も通っていたスケート教室がすぐそこにあるんです。その教室でスケート自体の基礎を学んで、卒業するとフィギュアやショートトラックの道を選べるんですよ。

 

──そこでショートトラックがピンときた。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:「これは絶対続くな」って、はっきりわかりましたね。そこからそれ以外考えられなくなった。何やってでもいいから続けてやろう、って。その時は生業なんて考えてないですよね。

 

──それからずっと、中学、高校、大学と続けられてきて。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:そうです。もちろん大学卒業後も競技を続けるつもりでしたから、その方向で就職活動をしました。でも当時はアスリート専用の就職サイトなどなく、一般の人と同じ方法でエントリーするのですが、競技を続けたいことを熱く語れば、選考で落ちてしまうんです。当たり前ですが、会社側もアスリート採用試験をしているわけではないですから(笑)。

そこで、何社か落ちたあと就職活動の方法を変えました。スポーツに理解のある会社を探して、スーツを着て履歴書を持って直接本社へ自分を売り込みに行ったんです。結果、軟式野球部が有名な、地元のガソリンスタンドの会社にたまたま採用されました。ありがたかったですね。

 

 

──何とかショートトラックを続けられる環境を手に入れたんですね。

 

「とても諦められるものではなかったですよ」

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▲大会で滑走中の中山さん。残念ながら撮影時期は不明とのこと(写真提供・中山さん)

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:それで勤め始めて2年目に、ショートトラックの全国大会で優勝したんですよ。全国大会っていっても、一軍が国際大会で抜けていた時ですけど。

でも、優勝って地区大会でも意外と難しいんです。なかなかできないことだな、って。それで勤めてから2年半、25歳の時がちょうどバンクーバーオリンピックの年(2010年)でしたし、「辞めるかな」と。そして競技人生の集大成として、29歳の年(2014年)に開催されるソチオリンピックを目指すことにしました。

 

──ショートトラックに集中しようと。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:半年くらいフリーターでもいいだろうと。人生かけてるわけじゃないですか、こっちは。

勤めていた時は、一日の練習が昼休憩で使える50分だけで終わる日もあったんですよ。そんな中途半端なふざけた態度で競技に取り組むのは、アスリートしてどうなんだろう。人生かけてきたものに対して失礼じゃないかな、って。

だから、優勝できたのは「一歩踏み出してもいい」っていうGOサインかな、と自分の中で思ったんです。

 

──でも、社会人になってからそうした飛躍があるというのは、なかなか珍しいですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:やっぱりくどかったんでしょうね、自分の性格が。(競技のことを)ようやくわかりかけた頃だったので、もったいないなって。その当時は、とても諦められるものではなかったですよ。

 

「お店が失敗すれば練習もできない」

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──そこから一体なぜ、ハンバーガーの道へ?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:父が世界的な料理コンテストでグランプリをとったこともあるフレンチの料理人で、「ラ・レセプション」というお店のオーナーだったんです。子供の頃、父の店でまかないとして食べていたのが、今お店で出しているハンバーガーの原型でした。

 

──お父さんもまさか、まかないのハンバーガーでお店ができるとは思ってなかったでしょうね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:はい、それはあるかもしれません。でも、僕としてはフレンチをルーツにしたハンバーガー屋さんは今まで見たことがなかったので、可能性があると感じていました。

それと、もともと両親共に自営業だったので、社会人=自営業という考えが幼い頃からあったんです。「多分自分も将来自営業になるんだろうなぁ」と、昔から天命のようなものを感じていましたからね。そのために開業のお金も貯めていましたし、会社も辞めていたので「遂にその時期が来たのだな」と。

 

──でもその頃、ショートトラックを本気でやるという思いがあったわけですよね?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:もう伸るか反るかですね(笑)。お店が失敗すれば練習はできないし、成功して従業員を雇えたら自分の練習ができるじゃないですか。“オール・オア・ナッシング”でしたっけ? 人生をかけるのだからそれだけのリスクはあるかなと。

なんでもそうですけど、「迷った時は難しい方へ」というのを自分の人生の哲学にしているんです。迷うことって、シンプルに考えると「やる」か「やらない」のか、二つに分かれるんですよ。

なんだかんだ言っても「やればできる」可能性があると思っていることに対して、人は迷えると思うんです。つまり、「できる」ってわかっていることに対して“進む”か“逃げる”かなんですよ。仮にできなくても胸は張れるし、次につながる。

 

──じゃあそこからの数年間は、ものすごく濃密だったわけですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:仕事始めてからの3年くらいは、生活を成り立たせるためにアルバイトもしてましたね。その時は完全に本末転倒です(笑) でも、父と作ったハンバーガーを信じていました。

 

──お店の営業時間も、11〜18時と特殊じゃないですか。これってやはり、練習時間を作るために?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:そうです。18時閉店っていうのは練習するのにギリギリなんですよね。練習は高速を使って1時間くらいの大きなスケートリンクに行くんですけど、家に帰ってちゃっと着替えて、ご飯は車の中で食べて、20時ごろにリンクに着いて……練習終わって帰ってくるのが23時半で。

 

──でも、飲食店にとって夜の時間は稼ぎ時じゃないですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:練習できるのがリンクを貸し切れる夜しかないんですよ。一般滑走の時間帯はセーフティーマット(リンクの壁に沿って設置する防護マット)もないので、スピードスケートは禁止になっちゃうことが多いし、自分だけスピードを出すのは危険です。

だから、お店は昼の営業に全てをかけるつもりで働き、夜はトレーニングという感じですね。そうじゃないと両立は難しいです。

 

「半分よこしまな理由で開業したのも事実」

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▲チキンバーガー(610円〈M〉/1,000円〈L〉※テイクアウト価格。イートインの場合は+10円)。バルサミコ酢ソースがかかった焼きリンゴをサンド。チキンバーガーのジャンクなイメージが覆される、リッチな味わい

 

──ハンバーガーについてのお話も聞かせてください。メニューやSNSにも書かれている“フレンチバーガー”ってなんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:フランス料理屋さんのまかないて食べていたから「フレンチバーガー」という名前がキャッチーでよいかなと。

もし定義させてもらうなら、大袈裟ではありますが自分の中では「パンに挟んだフランス料理」かな、と思いますね。チキンバーガーに使っているバルサミコ酢ソースも、綺麗に盛り付ければフランス料理と言っていい内容のものを出しているので。

ハンバーガーとしては変化球を投げた感じですけど、原点はやっぱり父のフレンチのお店だと思うんです。

 

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▲75gの小ぶりなパテに合わせた、自家製バンズ

 

──ハンバーガーの仕込みはいつやられているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:営業前の朝にパンを焼いたり、肉をつないだり。ランチタイムのあとの落ち着いた時間にも、同様の仕込みをします。多くの飲食店がそうだと思いますが、外から見たらお客さまが誰もいないように見えても、何もしていないことなんてほとんどありませんよ。常に動いてます。

 

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▲レギュラーメニューは上記で紹介したチーズバーガーとチキンバーガーのほか、ハンバーガー、テリヤキバーガー、デミグラスバーガー、フィッシュバーガー。さらに月替りの「今月のバーガー」も。取材時の3月はザワークラウトバーガーが提供されていた

 

──ハンバーガーの種類、結構多いですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:全部で7種類あるんですけど、ソースは5種類※作っていてそれぞれ無くなったら作るんです。5種類作っているのは大手以外ないだろうと思いますよ(笑)。

※ケチャップソース、照り焼きソース、特製デミグラスソース、自家製タルタルソース、バルサミコ酢ソース

 

──全くタイプが違うハンバーガーをここまで用意しているお店は、確かにあまり見ないかも。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:それこそ「自分の練習時間も作りたい」という、半分よこしまな理由で開業したのも事実じゃないですか。そういう意味で、僕には“お客さま”という概念が抜けている可能性が十分あったわけで。だからこそ喜んで帰ってもらうためには、メニューを選択する楽しみがあった方がいいし、美味しい方がいいし、ほかより値段も下げた方がいい。

 

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▲ メニューの裏面には、店名の由来からハンバーガーへのこだわり、真清田神社について、中山さんの趣味まで、情報がみっちり書き込まれている

 

──ある種の後ろめたさもあったんですね。今お客さまが途切れないのも、「こういう時だから好きなお店を助けてあげたい」という気持ちもあるんでしょうね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:仕事中ショートトラックの事ばかり考えていてはいられない。お客さまには簡単に見抜かれるでしょうし、今頃絶対潰れていると思うんですよね。競技を出来る喜びの分、仕事場ではお客さまと信用を築けれるようにできる限りの努力をしています。

その積み重ねなのか、今世界的に大変な時代に「自営業は大変じゃない? 売上げ立てにきたよ」って来てくれる人がいたりして、すごく光栄だなと思います。

 

──いいお客さんを持ちましたね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:うちのお店のこと、自分で“食べるパワースポット”って言ってるんですよ。せっかくお金を払うなら、ハンバーガーを通じて喜んで帰ってもらって、元気に頑張ろうって思ってもらいたい。多分、僕はパワーに溢れている人間なので、溢れすぎてこぼれるくらいなら誰かにあげた方がいいかな、って。

このご時世、皆少なからず悩みを抱えています。特に神社という場所柄、涙を流しながら心境を語られるお客さまもいるんですよ。何かアドバイスが出来る程ではありませんが、話を聞いてあげるうちにスッキリしたり、モヤモヤが晴れていったというのを何度か経験しています。聞き手になってあげる人も必要なのだなと。

 

「本当に諦めが悪いですよね」

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──ショートトラックのお話の続きを聞かせてください。お店との両立を始めてからも、大会には出続けたんですよね。今でも現役で滑られているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:一応引退はしてないんですけど、もう大会には出ないかなと思います。

その代わり、体が動く間にまだ実践した事のない滑り方を実験したり、後世に残せるものを発見したい。今滑る目的や役割はそれしかないですね。

 

──後世に残せるものということは、指導者として?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:そうですね。時期が来たら自ずとそうなると思います。特に身体の動かし方ですとか、限られた時間の中で成長する方法を教えていきたいです。

 

 

──ひとまずは、お店との両立をやり切ったんですね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:残念ながら自営業でオリンピック出場、という目標はなりませんでしたが、アスリートととしての人生は全うしたかなと、満足しています。悔しい部分もあるけれど、「星を持っている人が勝つ」と分かるところまで競技できたので幸せ者ですよ。

……難しい話なんですけど、僕は身体のバランスが悪いんです。バレーやバスケットのような背の高い人が活躍しやすい競技もあれば、体操や競馬騎手のように小柄な選手が活躍しやすいスポーツがあるように、そういう骨格の差で自分は「持っていない」と感じました。

 

 

──こればかりはどうしようもない。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:何か必殺技があればいいんですけど、骨格は変えようがないんで。

代わりに道具を工夫しましたね。29を過ぎたキャリアで言えば下り坂の頃ですけど、工業系の会社の金星工業さんにお願いして、世界に一つだけのシューズを作ってもらって。本当に諦めが悪いですよね(笑)。

 

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▲取材のために持ってきていただいたスケートシューズ。靴と刃を繋ぐパーツを前に長くすることで、重心のバランスを整えている

 

──この靴で滑ってみて、何か変わりましたか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:使い始めのの全くセッティングできていない状態ですら、ものすごく摩擦抵抗が少ないことは氷に乗ってすぐに分かりました。多分、この力を使わずに進む感覚が、身体のバランスがいい人のそれなんだろうなと。

だけど、そんなもの作れるって概念がそれまでなかったのは、もったいなかったですね。お店が引き寄せてくれたんかな

 

「売り上げの概念が取れたらすげえなって」

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──お店は今何年目ですか?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:2010年の7月にオープンしたので、もうすぐ10年経ちますね。

 

──ずっと中山さんお一人で?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:ほぼ一人ですね。週に1回の買い物と、日曜のランチだけ父親に手伝ってもらっているんですけど、やっぱ自分のお店だから自分がまずやらないと。

僕は誰かと組んだら多分逃避のほうに走るだろうな、って思ったんですよ。他人に手伝ってもらい過ぎることで、本来経験するべきものや苦しむべきものがなくなってしまうのはもったいないし、人間伸びんだろうなって。

父親ももう歳ですし、ひょっとして他のスタッフが必要になる日が来るかもしれない。その時までにしっかりとした経験や資本を貯めていかなくてはいけないですから。

 

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▲昨年夏に増築された奥のスペース(テーブル4席、カウンター2席)。隣のお店が閉店する際に譲り受けたという

 

──お店を大きくしたいという思いもあります?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:多少はあります。「従業員にスケーターを雇って、将来後輩とオリンピックに出るぞ」とか考えますもん。それで金メダルを取れれば最高じゃないですか。せっかく創業者になったんなら、そういうとこを目指したいですね。

ただ、よそより大きくしたいとか、沢山の儲けを出そうという考えは、社会全体の中で少なくなっているように感じます。その会社やお店が存続する意味というか、メインの事業以外の活動がこれからは求められる時代ではないかと思います。その中にショートトラックというのを取り入れられるくらいになりたい。今はとても夢物語ですけど。

 

──存続させる意味。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:ショートトラックを長く続けれられた一つの理由に、“喜んでくれる人がいる”という意識があるんですよ。33歳まで大会に出ましたけど、途中からずいぶん変わりましたね。勝ち負けだけじゃないな、って。

最終的によくわかったのは、自分以外の応援してくれる人や興味ない人にどれだけ主観を向けられるかだなって思うんです。

“一流”と“超一流”の差を分けるのも、観る側のことが一番かどうか。観てる側を興奮させたり、感動させたり、期待に応えたり、そのためにやっているんだという人が超一流なんですよ。それができていればアスリートや料理人でなくても、草野球の選手だって、子供のために料理を作る母親だって超一流です。

 

──素敵な考え方ですね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:日本人は苦手な言葉かもしれませんが、言うならば「愛」と「平和」ってことなんだと思います。……これ言うのはなかなか勇気が要りますよ(笑)。

 

──ハンバーガー屋さんとしても、そこにたどり着きたいですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:やっぱ超一流になりたいじゃないですか。せっかくショートトラックでその思考になれたので。

……でも正直、毎日売り上げのことがめちゃくちゃ気になっちゃうんですよ。数字の概念が取れたらほんとにすげえなって。消費者の立場で考えたら、数字なんかどうでもいいので。

 

──人件費で見れば赤字でも、何十年とお店に立ち続けている高齢の店主さんとかすごいですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:消費者ナンバーワンですもんね。でもそのうち、そこらへんの域にはいけると思っているんです。

お客さまをどんだけ喜ばせられるかを考えに考えていったら、ショートトラックと同じように「愛」と「平和」に辿り着くんかなと。やっぱり、一つの世界で答えを知っていることは強いじゃないですか。

 

「二足が揃ってようやく前に進める」

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──改めて、ハンバーガー屋さんは中山さんにとって「仕事」ですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:そうですね、完全に仕事ですね。

 

──でも、お好きではあるんですよね?

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:ハンバーガーを食べるのも作るのも接客するのも好きですね。明らかに性分にあってるなと。

自分はたまたまハンバーガーに縁があってハンバーガー屋さんをやってますけど、これはとても幸運なことだなと思います。製造も接客も事務も、何か一つの業務をひたすら続けるってめちゃくちゃ大変じゃないですか。全部できるっていうのはなかなかないことだから、ここに来ることは全然疲れないですね。「さあ、今日もなんとかしてお店を回してやるぞ」って。

だから趣味ではないです。

 

──では、ショートトラックとは、中山さんにとってなんですか。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:人生ですね。

 

──「趣味」とは絶対言えないですよね。

 

f:id:exw_mesi:20200325024146p:plain中山さん:飛行家で作家のリチャード・バックの本に、「手に入るもので生活を築き、出ていくもので人生を築く」みたいな名言が書かれていて。

僕の場合は、ハンバーガー屋さんは生活を築くためにお金を稼ぐ仕事。一方、ショートトラックは天命というか、人生を築くための生まれ持った仕事。“ビジネス”っていう仕事と“ライフ”っていう仕事、どっちも必要なんです。

リオオリンピックの女子走高跳の金メダリスト、スペインのルート・ベイティア選手は、当時現役の議員だったんですよ。ほかにも医者や弁護士の選手がいたり、視野を広げると世の中“二足のわらじ”の人ばかり。それも超ド級な人ばっかで、自分なんて恥ずかしいくらいです。だから挑戦しなくてはと心を打たれます。

僕にとっての「ハンバーガー屋」と「ショートトラック」も、二足が揃ってようやく前に進めるものだと思いますね。

 

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※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月に取材を行いました。 

 

お店情報

ザ・ルーモァバーガー

住所:愛知県一宮市真清田1-2-1
電話:070-5333-0574
営業時間:11:00~18:00
定休日:不定休

 

www.facebook.com

 

書いた人:メシ通編集部

メシ通編集部

メシ通編集部です。

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