「ホット&コールド自販機」を普及させたのはPOKKAだった【アノ顔の歴史も】

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あったか~い缶コーヒーが恋しい季節。

遅くまで残業している後輩や会社の屋上で落ち込んでいる後輩に、「お疲れさん」と手渡すシーンに個人事業主の私としてはとても憧れる。

あったか~い缶コーヒーは身体のみならず、ハートをも温めてくれるのである。

ところで、今や当たり前になっているホット&コールドの自動販売機。要は「冷たいの」と「あったかいの」を1台で両方こなせる自販機のことだ。

これを普及させたのは、「ポッカコーヒー」で有名な株式会社ポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 ※以下、ポッカサッポロ)であることをご存じだろうか?

 

レアな自販機が鎮座する

今回はその自販機を保管・展示しているポッカサッポロの名古屋工場へ行ってきた。

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アテンドしてくださったのは、名古屋戦略部の平岡隆志さん。

本日はよろしくお願いいたします!

 

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これが1973(昭和48)年に誕生した日本初の冷温式自動販売機。

 

まずは、いろいろチェックしてみよう。

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「ポッカコーヒー」のロゴもレトロ。でも、今見ると逆に新しいというか、新鮮味がある。

 

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赤色でホットであることを示している。この自販機は夏場はコールド、冬場はホットの切り替え式。現在は冷と温が混在するホット&コールドは当たり前になっているが、当時は画期的だったのである。

 

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現在の自販機は、缶飲料やペットボトル飲料などラインナップは約30種類。しかし、この当時はわずか4種類。ここに歴史を感じる。

1969(昭和44)年生まれ、ジャスト50歳の私でさえ右から二番目の「ポッカコーヒー」、通称「顔缶」しか知らない。

まぁ、この商品は、現在も販売されているロングセラー商品なので、読者のみなさんもご存じだろう。この「ポッカコーヒー」の開発があったからこそ、冷温式自販機が生まれたのである。

 

サービスエリアで見た光景がヒントに

そもそも「ポッカコーヒー」自体はいかにして生まれたのか。

「缶入りの『ポッカコーヒー』は、旧ポッカコーポレーションの創業者、谷田利景が1969(昭和44)年に車で名神高速道路を大阪へ向かっている途中に考案しました」と、平岡さん。

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以下に平岡さんからうかがった話を再現してみた。

それは寒い日だった。運転手が眠気を訴え、「コーヒーが飲みたい」と言ったので、岐阜県の大垣ICと関ヶ原ICの間にある養老サービスエリア(下り線)に立ち寄った。

当時、温かいコーヒーはサービスエリア内のレストランでしか飲むことができず、店の前には長蛇の列ができていた。結局、一杯のコーヒーを飲むために30分もかかってしまった。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:経営者としては「その時間がもったいない」と思ったのでしょう。休憩しなければ今頃は京都あたりにいたかもしれない、と。

 

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ふと、車外を見ると、寒さに震えながら冷たい瓶入り飲料を飲んでいるトラックドライバーが大勢いた。当時は冷たい瓶入り飲料しかなかったのだ。その光景を見てひらめいた。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:車の中で飲める缶入りコーヒーを作って、夏は冷やして冬は温めて売ろう! と、思ったそうです。これからどんどん車社会になっていくだろうという思いもあったのではないかと。すぐに研究所に指示して開発をはじめました。

 

ホットの最適温度は「55度」

今でこそ、コーヒーはコンビニやサービスエリアなどどこでも楽しめるが、昭和40年代当時、コーヒーは喫茶店でしか飲めなかった。しかも、ほとんどの人はミルクと砂糖を入れていた。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:喫茶店の本格的な味を目指して、砂糖やミルクの量、温度など試行錯誤を繰り返したそうです。当時の喫茶店で出されるコーヒーの量はおよそ120ml。「缶に入れるものとしてはこれより量が多い方が良い」と判断し、190mlの缶を採用しました。缶に入れても品質を維持する技術的な問題もクリアしましたが、いちばん難しかったのは温度ですね。

 

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冷たくして飲む分には何の問題もない。が、たしかにホットの場合は困難である。手で持っても、口をつけても熱すぎず、かつ美味しく飲める温度を算出せねばならないのだ。

方法としては温度を少しずつ変えて実際に飲み比べるしかない。そこではじき出されたのが55度。それは今も変わっていないという。

こうして1972(昭和47)年にポッカコーヒーが発売された。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:それまで缶コーヒー自体はさまざまなメーカーから発売されていましたが、乳固形分の比率が高い“乳飲料”という規格でした。そんな中、ポッカコーヒーは、コーヒー5グラム以上という“コーヒー規格”の缶コーヒーとして日本国内で初めて発売されました。

 

冷温式なら「1年中売れる」

さて、ポッカコーヒーとほぼ同時進行で開発がすすめられた冷温式自販機。谷田氏は自ら電機メーカーを駆け回って開発を頼んだが、ほとんど関心を示されなかった。

そんな中、唯一、谷田氏に共感したのが三共電器(現・サンデン)だった。こうして共同開発することになったのだが……。

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f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:何しろ、既存のモデルがないわけですから、熱源は何にするのか? とか温度のムラをなくすにはどうすればよいか? など課題は山積みでした。それでも当時の技術者の方々が日夜汗だくになりながら取り組んでくれた結果、1973(昭和48)年の夏に冷温式自販機の販売にこぎつけました。

 

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冷たい飲み物と温かい飲み物を同時に販売できるホット&コールド自販機が開発されたのは、それから5年後の1978(昭和53)年のこと。これにより、自販機市場はますます広がり、ポッカコーヒーの売り上げも飛躍的に伸びていった。

「コーヒーは温めても冷やしても飲めるので1年中売れる」という谷田氏の目論見は見事に的中したのである。

 

「顔シリーズ」にモデルはいる?

ところで、ポッカコーヒーといえば誰もが缶に描かれた顔(写真下)をイメージするだろう。

あのイラスト男性はいったい誰なのか?

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:実は、モデルはいません。1972(昭和47)年に販売された初代はゴーゴークラブ、今でいうクラブで踊る若者をイメージしたもので、顔は描かれていません。

 

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f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:その翌年、冷温式自販機での販売をきっかけに、顔缶(かおかん)……あっ、弊社内ではポッカコーヒーをそう呼んでいるのですが……顔が描かれるようにました。

 

時代とともに変化する「顔」

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では、その変遷を見てみよう。左から、1972(昭和47)年、1973(昭和48)年、1978(昭和53)年、1982(昭和57)年。

見ての通り、顔自体はほとんど変わっていない。右端の1982(昭和57)年にポッカのロゴマークが新しくなり、「コーヒー」の大きな文字も「Coffee」へと変更。現在に至るデザインの原型が確立された。

 

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こちらは左から、1987(昭和62)年、1992(平成4)年、1994(平成6)年、1999(平成11)年。

1999年から商品名を「ポッカコーヒー オリジナル」に変更した。

 

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顔に革命的な変化があったのは、写真上の1987(昭和62)年から。

当時、世はバブル経済まっただ中。女性のファッションはワンレン&ボディコン。一方、男性はモミアゲを鋭角に剃り整えたテクノカット。そんな時代を反映させたのか、モミアゲが短くなっている。

 

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さらに、1994(平成6)年になると、モミアゲはさらに短くなり、タラコ唇からすっきりとした口元に。アゴのラインもスマートになっている。

当時の言葉で言うと、濃厚な“ソース顔”からあっさりとした“醤油顔”に変わったのである。

 

小顔&アイコン化した2000年代

2000年代はどうだろうか。

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左から、2001(平成13)年、2004(平成16)年、2006(平成18)年、2009(平成21)年、2019(令和元)年。

 

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2000年代に入ると、缶の真ん中あたりにあった「コーヒー」の文字が小さくなって下部分に移り、ロゴも一新された。上の2006(平成18)年には缶のデザインも一新。

それまで缶全体に描かれていた顔が小さくなり、アイコン化されていった。

 

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そして2019年、再び90年代の顔をもとに現代風にアップデート。

 

味わいも時代とともに変化していく

ポッカコーヒーが時代とともに変貌を遂げたのは何もデザインだけではない。味も大きく進化しているのだ。

2000年頃、ブラック無糖の缶コーヒーのブームが起こった。その後、微糖へと味が細分化されていく。ポッカコーヒーは甘さ控えめになり、コーヒーそのものの味わいが楽しめるように改良されていった。

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f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:大きく変わったのは顔が小さくなった2006(平成18)年ですね。それまでコーヒー豆は浅煎りでしたが、中煎りのブレンドにしてコーヒー感を強めました。さらに、今年はコーヒー豆の配合量を10%アップして、コクとキレ、香りがアップしました。

 

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創業地ゆえの「名古屋愛」

ところで、いつも名古屋グルメばかりレポートしている私がなぜ全国区のポッカサッポロを紹介したのか。

それには深~いワケがある。実は旧ポッカコーポレーションは名古屋で創業し、ポッカサッポロとなった今も名古屋に本社があるのだ(東京恵比寿にも東京本社がある)。全国区になった途端に名古屋出身であることを黒歴史として葬るヤカラが多いのに、名古屋愛がハンパないのである。

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例えば、上の商品を見てほしい。「アロマックス東海限定ブレンド」(左)と「アロマックス東海限定BLACK」(右)。その名の通り、東海エリア限定販売なのである。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:「アロマックス東海限定」の第一号は、2011(平成23)年11月に発売されました。缶コーヒーの焙煎工場(2016年に閉鎖)が愛知豊田市にありまして、焙煎後24時間以内にここ、北名古屋市の名古屋工場で詰めることができたらフレッシュな味と香りが楽しめると思ったんです。で、味のサンプルを取るために、名古屋の喫茶店で出されているコーヒーをリサーチして再現してみました。

 

アロマックス東海限定、名古屋人である私はヘビーユーザー。缶コーヒーならこれ! と決めている。酸味が少なく、ボディがしっかりとした味わいは名古屋人が好むど真ん中の味なのである。よくもまぁ、ここまで忠実に再現できたものだと飲むたびに感心している。

 

それと、2014(平成26)年には、地元の名古屋鉄道創業120周年記念にちなんで歴代の名鉄電車をデザインした「ポッカコーヒー名鉄創業120周年記念名車シリーズ」(写真下)も発売された。※ただし左から2本目のみ群馬伊勢崎市「田島弥平旧宅」の特別缶

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しかし、当時はエリア限定で発売したこともあり、一部マニアにしか情報が届かなかったという。

 

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しかし、いくら時代が変わったとはいえ、ポッカコーヒーのユーザーは今も昔も男性が中心であることは変わらない。とくに建設現場で働く人や、タクシー・トラックのドライバーなどから圧倒的に支持されているという。

 

f:id:Meshi2_IB:20191204142814p:plain平岡さん:デスクワークをする方も同じだと思いますが、缶コーヒーは疲れたときの糖分補給として飲まれることもあります。実際、缶コーヒーがよく売れる自販機の設置場所は工事現場なんです。朝出勤してからと昼食後、そして休憩時間と1日3回飲んでいる方もいらっしゃると思います。

 

なんだか無性に缶コーヒーが飲みたくなってきた。自分自身に「お疲れさん」と言いつつ、飲み干したい。

 

取材協力:ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社

www.pokkasapporo-fb.jp

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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