名古屋が世界に誇るトンデモ喫茶店「マウンテン」、実はホンモノ志向だった【一度は登山してみたい】

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全国から「登山者」が絶えない

カフェブームに沸く日本にあって、豪華なモーニングセットやコメダ珈琲店など独自の喫茶店文化を築いてきた名古屋

そんな喫茶店のメッカ・ナゴヤにあって、その異色さで全国に名をとどろかす魔境がある。それがご存じ「マウンテン」だ。

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▲すがすがしいアルプスの看板に今日も心が癒される

 

巨大でまさにマウンテンのような「かき氷」。

各種メディアを賑わせてきた「甘口スパシリーズ」。

そのほかにも数々の名物メニューが存在する同店のマニアたちからは、その味わいを堪能する行為をいつの間にか「登山」と呼ぶほどになった。

TwitterやInstagramには、そんな登山者の投稿があふれかえっている。

 

 

そんな異界的な重力が強烈な「マウンテン」だが、以前から気になっていることが2つあった。筆者は名古屋在住ということもあり、「マウンテン」は学生時代から何度も客として通っていたが甘口スパなんてオーダーしたことはなかった(つまり、毎回ちゃんと食事できるメニューを食べていた)。

そして仕事としても何度も取材しているが、取材するたび、店主はかねがね「ウチの材料はみんな一級品だでよぉ!」と、名古屋弁丸出しで自慢に自慢を重ねまくっていたことだ。

 

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▲ゆったりくつろげる店内に座っていると心も貴族のように豊かになる

 

「マウンテン」は、みんなが思っているゲテモノ(?)メニューだけではない。

素材にこだわり、地元民が愛するメニューもそろえる、ちゃんとした喫茶店でもあるのだ。しかしそんな一面はまったくといってほどメディアで伝わっていない。

 

そんな「マウンテン」が、2017年1月で50周年を迎えた。個人経営の喫茶店が大々的な「50周年に感謝」と、新聞広告を打ったことも地元ではちょっとしたニュースになった。

 

 

しかし最近、しばしば「オヤジがお店にいない」と言う気掛かりな話を聞くことがあった。

ここは一つ、久しぶりに“登山”をしてみようじゃないか。

以前から気になっていたことも、店主にぶつけてみようじゃないか。ということで、「マウンテン」を久しぶりに訪問したのである。

 

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▲2007年に改装された店舗は山小屋風である

 

創造主は元気に神々しく働いていた

前置きが長くなった。

ということで、2018年3月某日。「マウンテン」を取材に訪れた。

このお店の取材アポイントは実に簡単である。「取材したいんですけど」「いつでもええよ」。以上。実にメディア慣れしている。

そして訪れた「マウンテン」。そこに名古屋喫茶店業界のレジェンド、マウンテン店主・加納幸助氏が元気な姿を見せていた。

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▲彼こそが創造主、加納幸助氏である

 

「おお、来たな。ナニ作る? 甘口抹茶(スパ)にするか?」

 

顔を合わせるなり、いきなり企画をぶち壊すようなことを言うのが幸助氏である。2人で立ったままの攻防が続く。

 

筆者:「いや実は……。今回はですね、マウンテンさんが実はちゃんとした食材を使った、本格的な喫茶店だってことを掘り下げたいんですよ!」

 

「おお〜そうか。うちの材料は、み〜んな上等だでよ。みんな。みんなだて!」

 

筆者:「ですよね」

 

「で、甘口(スパ)を作ってええんか?」

 

この空気感をご理解いただけるだろうか。しかしこれはいつものことだ。相手は神なのだ。実際、このお店に限っては、そのかみ合わなさすらもどこか愛しく感じられてくる。

ただし、このまま加納氏のペースに持ってかれてはいけない。なんとか軌道修正を試みつつ「まずは話を聞きたい」と言うことでテーブルに座っていただいた。

加納氏はマシンガントークの達人である。まずは加納氏は人生哲学をとうとうと語り始めた。

 

「俺はよぉ、自分の信念はずっと押し通して来たんだわ。自分が、こう! と思った仕事を貫かなかん。周りはヨォ……(以下略) 」

 

取材の趣旨から加納氏の言葉をひもとくと、要するに、自分は信念を持ってメニューを作っている。だから、食材にも妥協していない、ということだ(意訳)。

 

筋金入りのホンモノ主義

実際、「マウンテン」の食材はかなりのレベルに達したものばかり。驚かされるのは、その多くは自家製だということだ。代表的なものを解説していただこう。

まず、抹茶スパのスパソースなどに使われる抹茶は、日本有数の抹茶の名産地として知られる愛知県西尾市産である。

 

「やっぱり一番ええな! 安定してる。歴史のあるもんは、変なものとは違うでよ!」

 

西尾市といえば、筆者がファンのモーニング娘。'18、12期メンバー牧野真莉愛ちゃんの出身地である。特技は高速茶摘みだという。しかしまぁ今回の案件には関係ない。

 

 

次に、あんこの小豆は北海道の大納言小豆を使用している。

 

「ウチのあんこは、甘からず、辛からず。超一流のこだわりのあんこ。金賞もんだわ。食うならマウンテンのあんこ。作り方? 秘伝だて!! カカカカ」

 

食べてみるか? と言われ、あんこだけ試食。

うん、確かに絶妙な甘さでこりゃうまい。

しかし、なぜあんこだけ食べなきゃいけないのか……。

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▲これが「金賞もん」という、あんこ。「マウンテン」の味の根幹をなす神食材である

 

なぜ土鍋? 考えるな、感じろ!!

ここで突然、店主の加納氏に匠(たくみ)のスイッチが入った。

「今年の夏は暑くなる。だから、“しるこの氷”を開発したんだわ。今からとりあえず作ったるわ!」

と、おもむろに厨房に去って行ってしまった。

そして数分後、出てきたかき氷は……。

 

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▲なんで土鍋????

 

え? 

な、なんで土鍋なの???

 

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▲とりあえずお茶目なポーズの加納氏

 

その名も新メニュー「しるこの氷」(仮メニュー名、価格未定)である。

 

「この、土鍋で出すのがイイんだわ! カッカカカ」

 

使い込まれた茶色の土鍋&黒いしるこソースと、どうもフォトジェニックな感じではないが、加納氏はお構いなしである。

勢いに押されて山盛りの氷をほじくると、中から姿を現すのは自慢のあんこと抹茶アイス。

濃厚フレーバーの抹茶とくどくない甘さのあんこが絶妙なハーモニーを奏でる。もちろんキモは、氷にかかるしるこソースである。

うん、確かに食べれば「普通においしい」。ただし見た目のインパクトがそんな感情すら吹き飛ばしてしまうのである。

 

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▲氷を食べ進めると自慢のあんこと抹茶アイスが顔を出す。マウンテン甘口夢の競演である

 

ちなみに、パスタには既にあんこソースを使った「しるこスパ」(900円)がメニューに記載されている。

こちらはインスタ映えするのかしないのか。と気になって後で画像を探してみたら、親切にTwitterで動画を上げてくれていた人を発見。そこに映っていたのは、もはやパスタとは名ばかりのあんこの地獄谷であった。

 

 

こういった「しるこソース」はもちろんのこと、パスタやかき氷のソースはすべて加納氏よる自家製。もはや開発とか創作といったレベルではない。錬金術である。

ちなみに、もっとも開発に苦労したのは見た目真っ黒な「イカスミのかき氷」(800円)のソースだそうで、

 

「まぁ、イカの臭みを取るのに一苦労したて〜、もう、ノーベル賞もんだでよ! カッカカカ」

 

お、おぅ……。

 

 

なぜ辛くした? やっぱり考えるな! 感じろ!!

加納氏のスイッチは入り続ける。突然、

 

「マンゴースペシャルも食え!」

 

と、言ってきた。

聞けば、宮崎県産マンゴーが話題になったときに思いついたかき氷のメニュー(800円)だそうで、これもソース作りに苦労したという。

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▲熱弁を振るう神の勢いに圧倒される。実に神々しい

 

半ば言われるがままに口に運ぶと、うん! 甘いマンゴーの口当たりがおいしい、普通のかき氷だ(サイズは普通じゃないが)。

……と安心して食べていると、舌先がしびれる強烈な辛みが!

か、辛い。予想外の辛さである。

なんだこれ!

 

よおく見ると、黄色いマンゴーソースのあちこちに、身を隠すようにオレンジ色のチリソースがかかっているのだ。

「辛ぇだろ〜が! これも発明だでよ。カッカカカ」

 

なぜマンゴーを辛くしたのかまったく理解できないが、これも好評メニューだという。おそるべし「マウンテン」。マンゴーの身をつぶして作ったソースと、5種類くらいの辛味をブレンドしたチリソース。

 

「複雑な味だから、辛くても食べられるんだて〜!」

 

と、細やかな工夫を披歴する。

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▲中にはアイスが埋め込まれている。ここまで崩さずに食べるので必死だ

 

「マウンテン」のかき氷は、崩さずに食べるのが至難の技だ。

加納氏いわく

「上から氷を崩して溶かしながら食べやぁ。これは俺からの命令だと書いとけよ!」

というが、見事にボロボロと崩してしまった。

 

「なんで甘いものを辛くしたんですか?」と素朴な質問をぶつけると、

「辛いもんがあった方がいいがや。甘いもんばっかだでよ!」

ううむ。やっぱり、深いことは考てはいけない。

Don't Think, Feel!!!!

 

パスタの油炒めは名古屋人としてのこだわり(だという)

「マウンテン」の代名詞と言える「甘口スパ」のソースも、当然自家製である。ちなみにパスタは、業者が委託製造した特注麺。モチモチ感が強く、(食べたことがない人のために解説すると)食感はスパゲティとうどんの中間くらい。

意外と知られていないその特徴は、甘口スパでもゆで上げをそのまま使うのではなく、必ず油で炒めていることだ。

 

「ゆで上げはヨォ、すぐ冷めるんだわ。それに名古屋人は、何でも炒めんと納得せんのだわ! カッカカカ」

 

確かにゆで上げ麺そのままなら、パスタも白玉っぽい感じで食べられたかもしれない。しかし油で炒めてこそが、加納氏の哲学だ。「マウンテンのマウンテンたる理由」なのだ。筆者も名古屋人だが、「名古屋人は油で炒めないと納得しない」という話は聞いたことがない。しかしここは神の領域だ。つべこべ言ってはいけない。

私たちはゲテと高級デザートの結界をさまよう民に過ぎないのだから。

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▲女性に大好評(だと思われる)「甘口バナナスパ」(900円)。当然パスタは油で炒めている

 

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▲冬・春限定の「甘口イチゴスパ」(1,000円)。そりゃ写真撮るよね。そりゃインスタにあげるよね

 

あえてコーヒーとカレーライスをオーダーしてみた

一から十までこんな感じの「マウンテン」である。だからこそ、普通の喫茶店では当たり前のメニューを、あえて「マウンテン」でも注目してみた。

シンプルな「コーヒー」(400円)と日本人の国民食「カレーライス」(750円)である。

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▲ぼってりとした厚めのカップ。かすれた文字が歴史を感じる

 

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▲登山の疲れた喉を潤してくれるアイスコーヒー

 

「コーヒー? コーヒー豆も、上等だでよ。グアテマラ産の豆をベースに使っとる! カッカカカ」

 

ホットもアイスも飲ませてもらったが、名古屋風のちょい濃厚で酸味を感じる味わいである。ちなみに、つまみがたっぷり付くのもうれしい。これぞ名古屋の喫茶店のセオリーである。

 

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名古屋では当たり前のコーヒーのつまみも登山のお供に必携である

 

そして、カレーライスである。ここで加納氏が驚きのこだわりを見せてくれた。

加納氏のコメントにも熱が入る。

 

「カレーはよぉ、仕込みに1週間かかるんだわ。スープから取るでよ。最近は猫もしゃくしもカレーだけど、ホンモノは少ないわ。カレーは大衆化しとるけど、これはこだわりの味。レストランの味だわ、ちょい辛めでよ!」

 

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▲実は自慢のカレーライス

 

残念ながら細かな作り方は教えてくれなかったが、山盛り気味のボリュームという以外は、いたってスタンダードなルックス。そして味だけれど、これが直球でうまいのだ。

1週間かけて仕込んだというだけある、深いコク。そして徐々に押し寄せてくる辛さで、うっすらと汗が吹き出る。

 

「こういうのは、あまり出るのはイヤだよな。いっぱい仕込まないかんで。もう100年くらい作っとるしな。フッフフフ、普通の喫茶店じゃ食えん味だて。フランス料理だて!!」

 

と、不敵な笑みを浮かべる加納氏なのだった。

ちなみにこのカレーをベースにした、「スパイス合衆国」というリゾット風のメニューもあるそうだ。

 

神はハイテクを使いこなしていた!!

カレーと格闘していると、テーブルの向かいに座る加納氏は、いつの間にかスマホを取り出していじっているではないか!!!!

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▲軽々とスマホを操る万能の神

 

思わず「え! スマホ使うのか!!」と思った顔色を察知したのか、

 

「年だから(スマホが)できんなんて思っとったら大間違いだで。うちにはパソコン5台並んどるでよ!」

 

おそらくこの記事もしっかりチェックされるんだろう。

嗚呼。

 

「マウンテン」の味は未来永劫(えいごう)継承される

そんな加納氏だが、少し前に腕をケガしてしまい、現在は息子の隆久さんにお店の経営を任せつつあるそうだ。

隆久さん開発のメニューも増え、着実にマウンテンスピリッツは継承されつつある。

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▲左が2代目の隆久さん。魔境の継承者である

 

それでも加納氏は朝5時にはお店に出て仕込み作業にかかるなど、まだまだ意気軒高。お店には夕方まではいるようにしているそうだ。

 

「人が作ったものを売るのは商売じゃにゃあ(じゃない)。自分が生産したもんを売ってナンボのもんだわ!」

 

そんな金言を最後に残してくれた加納氏。「年齢非公表」だが、おおよそのお年は推して知るべし。加納氏が元気な今のうちに、氏の哲学を五感で味わおうではないか!

名古屋が世界に誇る名山は、今日も全国からの登山者を待っている。

 

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▲厨房で今日もいろいろなメニューを創造する神

 

お店情報

マウンテン

住所:愛知名古屋市昭和区滝川町47-86
電話番号:052-832-0897
営業時間:9:00〜21:30
定休日:月曜日、年末年始

www.hotpepper.jp

 

書いた人:イシグロアキヒロ

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名古屋を拠点に活動するフリーライター。カリブ海音楽と台湾ラーメンとキンキンに冷えたビールと朝ドラ「カーネーション」とハロプロをこよなく愛する。

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